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第9話

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「そうだったのね……」

クロエはノアと話をして一区切りを付けたところで、視線を落としぽつりとつぶやいた。そのクロエの態度を見たノアは、その心情を察することができたのだろうか?同情する顔でいたたまれない気持ちになって話しはじめる。

「やっぱり兄さんは浮気してるの?」
「いきなり露骨に聞くのですね?」
「そこまで聞いたら誰だってわかるよ」
「そうですね……」

あからさまな好奇心旺盛おうせいな瞳で聞いてくると、クロエは少し苦笑いしたまま言葉を返す。ノアは賢い人で学問が好きな人ですが、恋人がいる事は聞いたことはありません。でもいくら恋愛にうとい自分でもわかると言うとクロエは軽く頷きます。

部屋の中はクロエとノアだけになっていた。ノアがちらっと事務仕事をしている秘書たちに視線を向けただけで、彼らは頭を下げて静かに退出していく。信頼している人たちでも身内のトラブルを聞かせたくはない。

次期国王に選出されたハリーが婚約者のクロエを裏切って、他の女性にうつつを抜かしたりしていることなど知られることは絶対にあってはならない。人の噂には歯止めが利かなくなるので早々に退散させたというわけだ。

「ずっと兄さんを陰で支えていこうと思ってたのにな……兄さんがクロエを傷つけるなんて僕の判断は間違っていたのかもしれない」

現在のところは、次期国王はハリーだが本当はノアのほうが最も相応しい人物だとクロエは心の中で思う。面倒見のいい、よく働くノアはハリーの事を陰ながら支えていくことを納得していたようですが不満そうに言った。

両親が亡くなった時は、寂しい心を埋めてくれて何かと世話を焼いてくれてハリーですがを持っていた。幼馴染なので前からクロエも気がついていましたが、両親が亡くなって弱っていたので彼の悪い部分は無意識に見ないようにしていたのかもしれません。その事をクロエは自己反省を迫られることになる。

「ノア様、一つお願いがありますけどよろしいですか?」

沈黙しつづけたあと、クロエが話しだします。落ち着いて決意を固めているような顔であった。

「なにかな?」
「今日、私がここに来たことはハリーにはにしておいてください」
「わかった。約束するよ。それから何でも協力するから僕の事を頼ってほしい」

実を言えばノアはクロエのことが好きでした。最初に会ったまだ小さい時から一目で恋に落ちた。大きな瞳に吸い込まれてしまいそうな色白で天使みたいに可愛らしい女の子だった。今でも心の奥底に秘められている思いです。

兄のハリーと付き合っているとクロエから聞かされた時は、ショックで気を失いそうだった。その日から10日はひたすらに泣きわめいて寝れなかった。

ノアは兄の事も好きだし二人が仲良さそうに話している姿を見ると、兄とクロエの一途な愛を次第に認めてクロエの事は完全に諦めることにした。でも兄が本当に隠れて浮気をしているのなら、自分がクロエを奪いとろうと身体中から勇気をふるい起こして兄と命がけの戦いをすることを誓った。
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