上 下
12 / 12

第12話

しおりを挟む
ノアに話しを聞いたクロエは自我を失うほどショックでした。まだ心のどこかで浮気はしていないとハリーを信じていたのです。でもその思いは粉々に吹き飛びました。

なので監視が始まってハリーと会った時は、感情を抑えつけて無理に笑顔をつくって話していた。それがどんなに辛い気持ちだったか……正面にいた彼には見当もつかないでしょうね。

「最近は仕事が忙しくて会えなくて悪かった」
「そう、まだ忙しいの?」
「しばらくはそうだね。他のことをする余裕がないんだ。本当はクロエと一緒にいたいのにな」

いかにも申し訳なさそうに弱りきった顔で言ってきますが、ハリーがノアに自分の負担を押し付けている事をクロエは全てわかっているので、そっけない返事をして今後はどうなのかと尋ねた。

まだある程度は忙しいとふざけ過ぎたことを言った。最もらしい真面目な顔で口から出まかせの嘘を並べるのだ。彼はいつからそんなに嘘が上手くなったのか?昔は何かと気にかけて心配するような温かい人だったのに、平気な感じで反射的に嘘をつくようなになったのか?

(お前はノア様に仕事を任せている間、どこで何をやってるの?)

クロエは聞きたい言葉を胸中にくり返し、無関心を装ってハリーと会話を交わした。その話した内容は帰ってからも覚えていなかった。怒って罵声を浴びせたい言葉を飲み込んで、クロエは耐え抜いていたのだから仕方ありません。

ところが会話の途中でハリーの様子にが見えた。深刻な顔をしてクロエの目をまじまじと見つめてきたのです。突然気持ち悪いなとクロエは思っていたら、彼は考えられないこと言ってクロエを驚かせる。

「なんか前よりも冷たくなったね?もしかして……クロエ浮気してる?」
「……はぁ?」

数秒間クロエは反応ができなかった。ハリーは自分が浮気しているくせに、クロエの浮気を疑うような事を悪びれもなく言い放った。クロエは入れたてで湯気を立てている熱々の紅茶をハリーの顔に、かけようと本気で思うほどでした。内臓が震えているのを感じながら荒ぶる神経を必死でしずめた。

「言っておくけど僕は浮気は絶対に許さないからね?」
「もししたらどうなるの?」
「え……?冗談で言ったのに……ま、まさかクロエ本当にしてるのかあああぁ!」

やがて嫌らしくニヤリと笑いながら言った。クロエは無愛想な声で聞き返した時に、ハリーの顔に一瞬沈黙が流れた。そして自分は冗談半分にいったのに、浮気をしてるのかと慌てて立ち上がって凄い声で叫んだ。

やっぱり自分が浮気してると人の事を疑うようになるんでしょうか?クロエは呆れ気味な目を向けて彼を落ち着かせるのだった。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

貴方のために涙は流しません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:36,807pt お気に入り:2,245

あなたの世界で、僕は。

BL / 連載中 24h.ポイント:1,463pt お気に入り:53

【本編完結】寡黙な婚約者が一心に愛を囁いてくるまで

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:99pt お気に入り:685

転生少女は異世界でお店を始めたい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,878pt お気に入り:1,709

私が王女です

恋愛 / 完結 24h.ポイント:44,326pt お気に入り:454

あなたが幸せになれるなら婚約破棄を受け入れます

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:4,364

処理中です...