妻よりも幼馴染が大事? なら、家と慰謝料はいただきます

佐藤 美奈

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第22話

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「どうして、ですって? 簡単なことですわ。エミリー様ご本人から、お手紙をいただきましたもの」

「な、なんだとぉぉぉ!?」

ブラッドは、その場で一瞬息を呑み、まるで世界がひっくり返ったかのように目を見開いた。まさに、彼の心の中で何かが大きく崩れたかのように、動揺が全身から溢れ出していた。

困惑した顔をして、言葉もなく立ち尽くす彼の姿をよそに、セリーヌは侍女から静かに手紙を受け取った。それは、ブラッドが送ってきたものとは一線を画すものだった。紙質は繊細で、ほんのりとした花の香りが漂っていた。

「ここには、すべて書かれていましたわ。殿下が、いかに情熱的に彼女に愛を語り、結婚を申し込んだか。そして、彼女がどれほどきっぱりと、あなたを拒絶したか」

(どうしてだ、エミリー! 俺のプロポーズをあんな風に断って、こんな大事な時に、どうして余計なことばかりするんだ! 俺の心が壊れそうだ!)

ブラッドの胸中には、怒りと悲しみが入り混じった感情が渦巻いていた。エミリーが自分のプロポーズを断ったこと、それだけでも十分にショックだった。しかし、それ以上に衝撃的だったのは、彼女がその出来事をセリーヌに手紙で伝えていたという事実だった。

まるで自分の気持ちが完全に無視されたかのように、エミリーが余計なことをしている姿を思い浮かべるたび、胸の奥で何かが引き裂かれるような痛みが走った。どれほど彼女に愛を注いだとしても、こんなふうに裏切られるのだと、心が叫んでいるような気がした。

「手紙には、謝罪の言葉もありました。殿下を誘惑してしまったことへの。でも、それ以上に詳しく書かれていたのは、あなたとお別れになった理由でしたわ」

セリーヌは静かに手紙に目を落とし、その文字を一つ一つ丁寧に追った。そして、ゆっくりと口に出して読んでいく。

「『ブラッド殿下の思い込みの激しさと、息の詰まるような独占欲に、私は耐えられませんでした』と。それから『彼は、私が彼の思い通りに動く人形だとでも思っていたのでしょう。私が少しでも彼の意に沿わない言動をすると、まるで世界の終わりのように取り乱すのです。愛している、と言いながら、彼が見ていたのは私ではなく、彼自身が作り上げた理想の彼女の幻でした』」

手紙に綴られた内容には、エミリーが抱える複雑な感情が滲み出ており、セリーヌの表情も次第に厳しく、沈んだものへと変わっていった。

ブラッドの顔から、徐々に血の気が引いていく様子が、セリーヌの目にも明らかに感じ取れた。その頬は次第に青白く色を失い、唇はまるで言葉を失ったかのようにわずかに震えていた。

「や、やめろぉぉぉ!! う、うそだ! こんな仕打ち、ありえない……俺の気持ちを、どれだけ傷つければ気が済むんだぁぁ!」

目の前でセリーヌが、エミリーからの手紙をゆっくりと読み上げた。その一言一言が、ブラッドの胸に鋭く突き刺さり、まるで心を引き裂かれるような痛みが走った。彼の声は震え、言葉にならない感情が喉元に詰まっていくのがわかる。自分でも驚くほど、その感情を抑えきれなくなっていた。

エミリーの裏切りと、それに伴う無力感が、ブラッドの心を容赦なく圧し潰していった。まるで全身に重しがのしかかるように、足元がふらついて動こうとしても力が入らない。心の中では痛みと絶望が渦を巻き、何もかもが暗く冷徹に広がっていった。
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