君がいなくなればいい

桜 舞華

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鈍い君

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 ヴーヴー……ヴーヴー……

 眠りについた私を寝かせまいと、今日も必死に携帯が震える。寝起きの私は不機嫌なまま、それを手に取った。
 着信は〝君〟から。

「なに」

 ピッと通話ボタンを押して、私は電話に出た。

「もしもし。あ、もしかして寝てた?」

「……当たり前でしょ」

 今の時間は、深夜2時。2時だよ。まだ2時。
 眠いのに私は、君からの電話だからなんてバカな理由で電話に出るんだ。ほんと、笑えるよね。

「なに笑ってんの?」

 向こうから、君が聞く。

「別に」

 私が笑ってる理由なんて、君には関係ないでしょう。

「まあいいや。あのさ、今、電話いい?」

 いい訳ないでしょう。なんて、言えないよ。だって、君の声を聞いていたい。
 ああやだやだ。目元が湿ってしまう。
 ぼんやりと視界がぼやけたのは、欠伸のせいにした。わざとらしく、ふぁー……なんて大口を開ける。

「あ、やっぱダメなんじゃん」

「だから、いいってば」

 呆れたような君の声に、私は間髪入れずに返す。

「で、今日は何の用?」

 君は私に、よく電話をかけてくる。私は君の声が聞きたいからいいの。
 でも、話の内容は嬉しくないよ。

「うん、その、さ。告白って、どうすればいいと思う?」

 あぁバカバカしい。なんで私が、好きなあんたと、あんたの好きな人の仲を取り持たなきゃなんないの。
 ガシガシと頭を掻いたら、寝癖で絡まった髪が指にまとわりついてうっとおしい。

「普通に……好きです、でいいじゃん」

 カッと、顔が熱くなった。まるでこれでは、私があんたに告白してるみたいじゃない。
 電車の走る音に掻き消された告白が、私の耳に蘇る。その後で?茲を流れた水の冷たさも思い出す。

「うぉ」

 君の声で私は、現実に戻る。

「何。変な声出して」

「いやなんかさ、お前に告白されたような感じがして」

「……バカじゃん。私が告白?百年早い」

 やめてよ。あんたに告白なんてさ、私ができるわけないでしょう。
 私が思ってたことを、思わないで。

「ハハッ。だよなあ」

「で、なんだってこんな夜中に電話してきたの」

「え?いや、悩み始めたのは10時ぐらいなんだけどさ、そのまま悩みに悩んで今電話したんだよ」

「あ、そ」

 あんたはバカだ。そんなあんたを好きになった私は多分もっとバカ。

「私もう寝るから」

「え?もう?……あ、ごめん」

 私の無言に、何か察したのか君は慌てて謝っていった。

「明日さ」

「なに」

 まだ話すのか、と半ば呆れながら聞き返す。

「告白しようと思うんだよ」

「うん、それで?」

「だからさ」

 照れたように、君はなかなか言わない。

「上手くいくよう祈っといて。それだけ。じゃあな」

 ピッと、勝手に電話を切られた。私はため息を吐いて携帯を投げる。
 ガンって音がしたけれど、携帯は割れなかった。まるで私の恋心だわー。なんて、詩人を気取る。
 いくら衝撃を受けても、割れやしない。君を好きだと思う気持ち。

 バフッと、枕に体を預けた。流れ出した水を堰きとめるように、腕を目の上に乗せた。

「応援するわけないよ、バカやろお」

 あんたが失敗することを祈ってる。でも神様、あなたは天邪鬼だから。
 私が祈ったことの正反対を叶えてしまうんだよ。
 知ってる。


 神様、あなたは残酷ですね。
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