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序章

王都編 アレクセイ王子の焦燥

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「まだ聖女は見つからぬのか!?」

 王宮にて、第一王子のアレクセイは焦っていた。前任の聖女が病に倒れてから一週間。国を挙げて捜索しているが、見つかったという報告はない。
 本来聖女というのは国中の女性が憧れる地位であり、今もたくさんの人が「自分が聖女かもしれない」と名乗りを挙げている。しかしそれらは全て今のところ全て勘違いであり、本物が見つかったという報告はない。聖女になれば富も名誉も思いのままなのになぜ名乗り出ないのか、アレクセイには全く理解出来なかった。

 そして聖女がいなくなれば、災害が起こり、魔物が国に攻め寄せるだろうと言われている。実際にはイリスが密かに部屋で祈っているためそうはならないのだが、そんなことはアレクセイの知るところではない。それに実は、聖女として認める儀式を経ていないため、イリスの聖女の力は完全なものではなかった。

 そのため、オルセイン王国ではこれまでなかった小さな日照りや増水のような災害がぽつぽつと増えているという報告もあった。極めつけはアレクセイの父である国王が病で倒れたことである。偶然のタイミングなのかは分からないが、王宮では聖女が不在になったからだと不吉な噂が流れた。

 そのため現在はアレクセイが国王の代わりに国を動かしている。
 アレクセイは長男であるため今のところ第一王子に収まっているが、弟も数人おりここでうまくやらなければ王位を継がせてもらえない可能性もある。

「申し訳ございません」

 アレクセイの目の前で頭を下げているのは神殿のトップである大司教である。

「なぜ見つからぬのだ? 辺境の村々まできちんと聖女を探していることを周知しているのか?」
「はい、もちろんでございます」
「それなら聖女に出す褒美を上げるのだ」
「はい、分かりました」

 褒美に釣られてやってくる人物が本物の聖女なのかは疑わしかったが、背に腹は代えられない。
 アレクセイが焦っているのと同じように、大司教も焦っていた。神殿にとって一番重要な役割は神に祈ることだが、それには聖女が不可欠だ。

 大司教はアレクセイの部屋を出るとはあっとため息をつく。
 実は聖女が見つからないことについて一つの噂が流れていた。アレクセイは女癖が悪く、まだ婚約者も決まっていないのに見目のよい侍女や城下で見つけてきた女を夜な夜な部屋に連れ込んでいるという。そのようなアレクセイの評判を見かねた神により、聖女がいなくなってしまったのではないかというものだ。

「歴代にはもっと悪い王もいたが、その時もきちんと聖女はいた。だから大丈夫だとは思うが……」

 大司教はため息をついた。



 それからさらに数日後のことである。
 相変わらず聖女は見つからず、アレクセイの苛々は募っていくばかりである。アレクセイは大司教にさらに捜索の手を増やすよう命じに行こうとして、彼の部屋の中で誰かが話しているのに気づく。

「まだ聖女は見つからぬか」
「はい。大司教様、このままではこの国は終わりです。大事になる前にアレクセイ殿下には身を引いていただき、清廉潔白と名高い第二王子のレリクス殿下に政務をとっていただきましょう」
「なるほど。それも考えなければならぬな」

 その会話を聞いてアレクセイは戦慄した。このままでは自分は無能の烙印を押されてしまう。
 何としてでも聖女を見つけなければ。
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