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決闘(オルク視点)

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 俺の名はオルク。名門ルベレスト公爵家の長男として生まれた。そのため生まれた時から周囲から期待され、後継者として振る舞うよう無意識に強要されてきた。
 俺にとって一番得意なのは剣術だったから、必死で剣の練習をした。今は平和な時代だが、一昔前は貴族も軍勢を率いて戦争をしていたから、剣の腕が立つというのは分かりやすい自慢ポイントになるからだ。
 そのおかげで俺は周囲から「ルベレスト家の後継者は剣術の才能がある」「これで次代も安泰だ」などと言われてきた。

 そしてそんな俺がデルフィーラ学園に入学したのが去年のこと。入学試験では見事トップの成績をとり、男子首席として入学した。
 俺は学園にいる間ぐらいは家のしがらみから自由になれるかと思って期待しながら入学したが、入ってみると全くそんなことはなかった。

 親たちにとって俺の学園生活は将来の結婚相手探しの時間でしかなかったらしい。気が付くと、女子首席のレミリアという女と婚約させられていた。どうせ彼女の魔力が高いから、俺との間に魔力が高い子供が生まれることを期待したのだろう。

 だが、正直言って俺はレミリアが嫌いだった。ルベレスト家跡継ぎの俺を見ても他の女子と違って特に何の反応もしないし、常に他人に対して「私はあなた方のような友達ごっこはしません」みたいな冷たいオーラを出している。
 要するに可愛くない。案の定、俺との婚約が決まるといじめを受けていた。まあそうだろうな、と俺は冷たい目で眺めていた。

 それはさておき、俺が好きだったのはシルヴィアという女だった。家柄もクラスメイトの中では一番良かったし、何より可愛い。俺が挨拶をするととても嬉しそうに、かつ丁寧に返してくれる。それが俺にとっては嬉しかった。まあ、俺以外にもそういう態度なのは薄々分かってはいたが。
 とはいえ婚約者を決められてしまった以上どうにもならない。俺は一人で悔しがっていた。

 そんな事態を変えてくれたと思ったのが昨年度末の試験だ。レミリアが突如魔力を失ったのを見て俺はここぞとばかりに婚約を破棄してシルヴィアに告白した。そしてそれをシルヴィアも受けてくれた。そこでようやく俺の願いがかなった、とうれしくなった。正直シルヴィアの魔力が高いことは俺にとってはそこまで重要ではなかった。まあその方が実家に報告するときに都合はいいが。

 が、すぐに事態は急変した。何とシルヴィアとレミリアの魔力は元に戻ったのだ。考えてみれば急に魔力が入れ替わるなどおかしいことだったのだが、俺はレミリアと婚約破棄出来ることが嬉しくて全くそこまで考えていなかった。

 俺は慌てた。

 このままでは俺は父上に怒られてしまう。ここまで重大なことを自分の一存でやって、しかも勘違いでしたでは後継者を降ろされても文句は言えない。

 その後俺はすぐにシルヴィアと婚約破棄した。よくも騙したな、と怒鳴りつけてやろうかとも思ったが、彼女の方が魔力を失ったことに意気消沈していてその気も失せてしまった。
 そして急いでレミリアに復縁を持ちかけたが、冷たく断られてしまった。本当にあいつは可愛くない。泣き落としも買収も効かないなんてどうすればいいんだ。

 そしてそんな時だった、アルフという男が割り込んできたのは。
 こいつは試験の騒動の時以来レミリアにつきまとっている男で、それまでは特に気にしていなかったが、急に苛々してきた。今まで目立たなかったくせに急にレミリアの彼氏面をしやがって。きっとこいつがいるせいでレミリアは俺の誘いを断るに違いない。こいつさえいなければ。
 ならば俺はこいつとの格の差を見せつけてやるしかない。そう考えて俺は決闘を申し込んだ。するとなぜかそいつは二つ返事で決闘を受けた。その男気は認めてやるが、俺の実力を知らないのだろうか。




 という経緯があって俺は決闘の日を迎えた。
 週末の昼頃、俺たちは校庭で向かい合う。すぐ近くには立会の教師がおり、その後ろで俺たちの姿を見守るレミリアと、そしてたくさんの見物人たち。決闘が行われるのは珍しいらしく、わざわざ休みの日に集まっているらしい。
 これだけたくさんのギャラリーの前で勝てばやはり俺が婚約者にふさわしいということが証明されるだろう。それとこれとは違う、と言われるかもしれないが決闘というのはそういうものだ。

「とりあえず逃げずに来たことを褒めてやろう」

 俺は目の前に立つ男に声をかける。なぜかこいつは学年最強の俺と戦うというのに不自然なほど落ち着いてみえた。結果が分かっているからせめていいところを見せようということだろうか。

「決闘から逃げる訳ないだろう。そっちこそ、負けた時は素直に身を引く覚悟は出来たか?」
「それはこっちの台詞だ」

 向こうがそのことを自覚しているなら話は早い。
 俺が勝った後に「負けたからといって身を引くとは言ってない」などとごねられても面倒だ。

「では両者武器を構えて」

 教師の言葉に合わせ、俺たちは用意された木刀を構える。木刀とはいえ、本気で戦えばかなり痛いし怪我をする可能性も高い。
 お互いが構えをとり、そこで初めて俺は違和感を覚えた。アルフの構えはごく普通なのに、なぜかどこにも隙が見当たらないのだ。どう打ちこんでもはじき返されそうな気がする。確かこいつの剣術の成績はそこそこだったはず。それなのになぜここまで勝てる気がしないのだろうか。

 じっとりと全身に汗がにじむ。何だこの感覚は。
 今まで授業で何回も他の生徒と戦ってきたが、こんな感覚に囚われたことはない。そう言えば、学園に来る前強い武将に稽古をつけてもらったことがあったが、その時に感じたのと似た感覚だ。
 それを思い出して俺は改めて身を震わせる。
 これまでクラスで目立たなかったこいつがそんなに強いと言うのか?
 いや、そんな訳がない。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 プレッシャーに堪えられなくなった俺は木刀を構えて突撃する。するとアルフはすっと木刀を動かして俺の攻撃を受け流す。見た目によらず彼の腕力は強く、俺の攻撃は受け流されてしまう。

「なぜだ……うおおっ!」

 再度の攻撃を繰り出すが再びアルフに受けられる。観客は手に汗握って攻防を見つめているが俺には分かってしまった。
 これは俺が攻めているのではない。
 ただこいつに弄ばれているのだ、と。

「なぜだ、なぜだ、なぜだ……!?」

 俺は狂ったように連撃を繰り出すがそのすべてをアルフが的確にいなしていく。

「うおおおおおおおっ!」

 そしてその中でも特に気合を入れて木刀を振り降ろした時だった。コツン、と音がして俺の木刀はアルフの木刀にぶつかり、次の瞬間には木刀は俺の手を離れて飛んでいってしまう。

「何だと?」

 そしてその隙をアルフは見逃さなかった。
 すぐに俺の喉元へ木刀を突き付ける。そして言った。

「これでチェックメイトだ」

 俺はその言葉になすすべもなく頷くしかなかった。
 こうして学年一位の俺はあっさり負けてしまったのだ。
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