王子の転落 ~僕が婚約破棄した公爵令嬢は優秀で人望もあった~

今川幸乃

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アシュリー視点 チャーリー殿下

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 逃げるように会場を出た私はどこをどう歩いたかいまいち記憶がなくて、気が付くと王宮の外にいた。
 そこでようやく自分の息が上がっていることに気づき、足が止まる。
 気持ちが動転していても、体がそれについていける訳ではないらしい。

「ああ、まるで悪い夢みたい」

 おそらくあの会場に集められていたのは、捕まっていたアルベルトたちを除けば皆殿下と親しい貴族たちだったのだろう。

 それで会場に近づくなり違和感があったのだ。
 殿下がどう考えても無理筋の婚約破棄を発表しても、あの会場ではそれが当然だという空気が流れていて、それに堪えきれずに私はしゃべれなくなってしまい、逃げ出してしまった。

「やけに動揺しているようだが、大丈夫か?」

 そんな私に声をかけてきたのは第二王子のチャーリーだった。
 突然そんな人物に話しかけられ、しかも今の醜態を見られてしまったということもあってどきりとしてしまう。
 第一王子のカールのように表に出ることはあまりないので、あまり情報はないが、実は相当のキレ者であるとの噂も聞く。

「す、すみません、こんなはしたないところをお見せしてしまって」
「一体何があったんだ? 間違っていたら申し訳ないが、あなたは兄上の婚約者のアシュリー殿だろう?」

 向こうも私とはそんなに面識がないのだろう、少し自信なさげに言う。

「はい、そうです……もっとも、今はそうではないようですが」
「どういうことだ?」
「つい先ほど婚約破棄されたんです」
「何だと!?」

 それを聞いてチャーリーもさすがに驚いたようだ。
 どうやら彼も知らされていなかったらしい。

 もっともあの婚約破棄はあまり周囲に根回しされていたようには思えないが。むしろさっさと既成事実を作ってしまおうという意志さえ感じた。

「私も未だに何が起こったのかよく分かりません……。一つ確かなことは、殿下は私をひどく憎んでいて、この結末は避けられないものだったということです」
「何だと……あなたは知らないかもしれないが、アシュリー殿は優秀でそつがなく、兄上に足りないところをよく補ってくれる素晴らしい方で、将来は素晴らしい王妃になる方だと評判だったんだ」
「そうなのですか。でもいくら周囲にそのように言われても本人に憎まれていては意味がありません」
「それはそうだが……」

 私の落ち込みようにチャーリーもしばしの間言葉をなくしたらしい。

「とりあえず事情を話してみてくれないか?」
「分かりました……」

 私は元々カールとの仲がうまくいってなかったこと、先日の王宮脱走事件、そしてここ数日は彼が大人になったと見せかけて今日突然婚約破棄を宣言されたことを話します。

「……ということがあったんです」
「なるほど、あれほどあなたにサポートされておきながらその恩を仇で返すとは。まず兄がそのようなことをしてしまったことを心から謝罪させてくれ」

 そう言って突然チャーリーが険しい表情で頭を下げる。

「いえ、あなたは何も悪くありません! 悪いのは殿下にそのように思わせてしまった私です!」
「いや、あなたは悪くない。悪いのはあなたの親切を逆恨みした兄上……と言いたいところだが、兄上一人ではここまでのことをしようとは思い至らないだろう」

 確かにカールは数日前に王宮を逃げ出したことから分かるように、どちらかというと自分からこのようなことを仕組むようなタイプではない。

「ということはおそらく誰かが悪知恵をつけたのだろうが……おそらくヒューム伯爵あたりだろうな」
「そうなのですか!?」
「ああ、彼は忠臣づらしているが、その実兄上に都合のいいことばかりをして個人的に好かれようとしているだけの男だ。今回は婚約破棄をおぜん立てして、伯爵ながら兄上に重用されようとしたのだろう」
「そんなことのために」

 それを聞いて私は愕然としてしまった。まさか出世したいというそれだけのためにこんなことを企むなんて。
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