11 / 34
アシュリー視点 チャーリー殿下
しおりを挟む
逃げるように会場を出た私はどこをどう歩いたかいまいち記憶がなくて、気が付くと王宮の外にいた。
そこでようやく自分の息が上がっていることに気づき、足が止まる。
気持ちが動転していても、体がそれについていける訳ではないらしい。
「ああ、まるで悪い夢みたい」
おそらくあの会場に集められていたのは、捕まっていたアルベルトたちを除けば皆殿下と親しい貴族たちだったのだろう。
それで会場に近づくなり違和感があったのだ。
殿下がどう考えても無理筋の婚約破棄を発表しても、あの会場ではそれが当然だという空気が流れていて、それに堪えきれずに私はしゃべれなくなってしまい、逃げ出してしまった。
「やけに動揺しているようだが、大丈夫か?」
そんな私に声をかけてきたのは第二王子のチャーリーだった。
突然そんな人物に話しかけられ、しかも今の醜態を見られてしまったということもあってどきりとしてしまう。
第一王子のカールのように表に出ることはあまりないので、あまり情報はないが、実は相当のキレ者であるとの噂も聞く。
「す、すみません、こんなはしたないところをお見せしてしまって」
「一体何があったんだ? 間違っていたら申し訳ないが、あなたは兄上の婚約者のアシュリー殿だろう?」
向こうも私とはそんなに面識がないのだろう、少し自信なさげに言う。
「はい、そうです……もっとも、今はそうではないようですが」
「どういうことだ?」
「つい先ほど婚約破棄されたんです」
「何だと!?」
それを聞いてチャーリーもさすがに驚いたようだ。
どうやら彼も知らされていなかったらしい。
もっともあの婚約破棄はあまり周囲に根回しされていたようには思えないが。むしろさっさと既成事実を作ってしまおうという意志さえ感じた。
「私も未だに何が起こったのかよく分かりません……。一つ確かなことは、殿下は私をひどく憎んでいて、この結末は避けられないものだったということです」
「何だと……あなたは知らないかもしれないが、アシュリー殿は優秀でそつがなく、兄上に足りないところをよく補ってくれる素晴らしい方で、将来は素晴らしい王妃になる方だと評判だったんだ」
「そうなのですか。でもいくら周囲にそのように言われても本人に憎まれていては意味がありません」
「それはそうだが……」
私の落ち込みようにチャーリーもしばしの間言葉をなくしたらしい。
「とりあえず事情を話してみてくれないか?」
「分かりました……」
私は元々カールとの仲がうまくいってなかったこと、先日の王宮脱走事件、そしてここ数日は彼が大人になったと見せかけて今日突然婚約破棄を宣言されたことを話します。
「……ということがあったんです」
「なるほど、あれほどあなたにサポートされておきながらその恩を仇で返すとは。まず兄がそのようなことをしてしまったことを心から謝罪させてくれ」
そう言って突然チャーリーが険しい表情で頭を下げる。
「いえ、あなたは何も悪くありません! 悪いのは殿下にそのように思わせてしまった私です!」
「いや、あなたは悪くない。悪いのはあなたの親切を逆恨みした兄上……と言いたいところだが、兄上一人ではここまでのことをしようとは思い至らないだろう」
確かにカールは数日前に王宮を逃げ出したことから分かるように、どちらかというと自分からこのようなことを仕組むようなタイプではない。
「ということはおそらく誰かが悪知恵をつけたのだろうが……おそらくヒューム伯爵あたりだろうな」
「そうなのですか!?」
「ああ、彼は忠臣づらしているが、その実兄上に都合のいいことばかりをして個人的に好かれようとしているだけの男だ。今回は婚約破棄をおぜん立てして、伯爵ながら兄上に重用されようとしたのだろう」
「そんなことのために」
それを聞いて私は愕然としてしまった。まさか出世したいというそれだけのためにこんなことを企むなんて。
そこでようやく自分の息が上がっていることに気づき、足が止まる。
気持ちが動転していても、体がそれについていける訳ではないらしい。
「ああ、まるで悪い夢みたい」
おそらくあの会場に集められていたのは、捕まっていたアルベルトたちを除けば皆殿下と親しい貴族たちだったのだろう。
それで会場に近づくなり違和感があったのだ。
殿下がどう考えても無理筋の婚約破棄を発表しても、あの会場ではそれが当然だという空気が流れていて、それに堪えきれずに私はしゃべれなくなってしまい、逃げ出してしまった。
「やけに動揺しているようだが、大丈夫か?」
そんな私に声をかけてきたのは第二王子のチャーリーだった。
突然そんな人物に話しかけられ、しかも今の醜態を見られてしまったということもあってどきりとしてしまう。
第一王子のカールのように表に出ることはあまりないので、あまり情報はないが、実は相当のキレ者であるとの噂も聞く。
「す、すみません、こんなはしたないところをお見せしてしまって」
「一体何があったんだ? 間違っていたら申し訳ないが、あなたは兄上の婚約者のアシュリー殿だろう?」
向こうも私とはそんなに面識がないのだろう、少し自信なさげに言う。
「はい、そうです……もっとも、今はそうではないようですが」
「どういうことだ?」
「つい先ほど婚約破棄されたんです」
「何だと!?」
それを聞いてチャーリーもさすがに驚いたようだ。
どうやら彼も知らされていなかったらしい。
もっともあの婚約破棄はあまり周囲に根回しされていたようには思えないが。むしろさっさと既成事実を作ってしまおうという意志さえ感じた。
「私も未だに何が起こったのかよく分かりません……。一つ確かなことは、殿下は私をひどく憎んでいて、この結末は避けられないものだったということです」
「何だと……あなたは知らないかもしれないが、アシュリー殿は優秀でそつがなく、兄上に足りないところをよく補ってくれる素晴らしい方で、将来は素晴らしい王妃になる方だと評判だったんだ」
「そうなのですか。でもいくら周囲にそのように言われても本人に憎まれていては意味がありません」
「それはそうだが……」
私の落ち込みようにチャーリーもしばしの間言葉をなくしたらしい。
「とりあえず事情を話してみてくれないか?」
「分かりました……」
私は元々カールとの仲がうまくいってなかったこと、先日の王宮脱走事件、そしてここ数日は彼が大人になったと見せかけて今日突然婚約破棄を宣言されたことを話します。
「……ということがあったんです」
「なるほど、あれほどあなたにサポートされておきながらその恩を仇で返すとは。まず兄がそのようなことをしてしまったことを心から謝罪させてくれ」
そう言って突然チャーリーが険しい表情で頭を下げる。
「いえ、あなたは何も悪くありません! 悪いのは殿下にそのように思わせてしまった私です!」
「いや、あなたは悪くない。悪いのはあなたの親切を逆恨みした兄上……と言いたいところだが、兄上一人ではここまでのことをしようとは思い至らないだろう」
確かにカールは数日前に王宮を逃げ出したことから分かるように、どちらかというと自分からこのようなことを仕組むようなタイプではない。
「ということはおそらく誰かが悪知恵をつけたのだろうが……おそらくヒューム伯爵あたりだろうな」
「そうなのですか!?」
「ああ、彼は忠臣づらしているが、その実兄上に都合のいいことばかりをして個人的に好かれようとしているだけの男だ。今回は婚約破棄をおぜん立てして、伯爵ながら兄上に重用されようとしたのだろう」
「そんなことのために」
それを聞いて私は愕然としてしまった。まさか出世したいというそれだけのためにこんなことを企むなんて。
62
あなたにおすすめの小説
心を病んでいるという嘘をつかれ追放された私、調香の才能で見返したら調香が社交界追放されました
er
恋愛
心を病んだと濡れ衣を着せられ、夫アンドレに離縁されたセリーヌ。愛人と結婚したかった夫の陰謀だったが、誰も信じてくれない。失意の中、亡き母から受け継いだ調香の才能に目覚めた彼女は、東の別邸で香水作りに没頭する。やがて「春風の工房」として王都で評判になり、冷酷な北方公爵マグナスの目に留まる。マグナスの支援で宮廷調香師に推薦された矢先、元夫が妨害工作を仕掛けてきたのだが?
【完結】「お前に聖女の資格はない!」→じゃあ隣国で王妃になりますね
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【全7話完結保証!】
聖王国の誇り高き聖女リリエルは、突如として婚約者であるルヴェール王国のルシアン王子から「偽聖女」の烙印を押され追放されてしまう。傷つきながらも母国へ帰ろうとするが、運命のいたずらで隣国エストレア新王国の策士と名高いエリオット王子と出会う。
「僕が君を守る代わりに、その力で僕を助けてほしい」
甘く微笑む彼に導かれ、戸惑いながらも新しい人生を歩み始めたリリエル。けれど、彼女を追い詰めた隣国の陰謀が再び迫り――!?
追放された聖女と策略家の王子が織りなす、甘く切ない逆転ロマンス・ファンタジー。
格上の言うことには、従わなければならないのですか? でしたら、わたしの言うことに従っていただきましょう
柚木ゆず
恋愛
「アルマ・レンザ―、光栄に思え。次期侯爵様は、お前をいたく気に入っているんだ。大人しく僕のものになれ。いいな?」
最初は柔らかな物腰で交際を提案されていた、リエズン侯爵家の嫡男・バチスタ様。ですがご自身の思い通りにならないと分かるや、その態度は一変しました。
……そうなのですね。格下は格上の命令に従わないといけない、そんなルールがあると仰るのですね。
分かりました。
ではそのルールに則り、わたしの命令に従っていただきましょう。
婚約破棄させたいですか? いやいや、私は愛されていますので、無理ですね。
百谷シカ
恋愛
私はリュシアン伯爵令嬢ヴィクトリヤ・ブリノヴァ。
半年前にエクトル伯爵令息ウスターシュ・マラチエと婚約した。
のだけど、ちょっと問題が……
「まあまあ、ヴィクトリヤ! 黄色のドレスなんて着るの!?」
「おかしいわよね、お母様!」
「黄色なんて駄目よ。ドレスはやっぱり菫色!」
「本当にこんな変わった方が婚約者なんて、ウスターシュもがっかりね!」
という具合に、めんどくさい家族が。
「本当にすまない、ヴィクトリヤ。君に迷惑はかけないように言うよ」
「よく、言い聞かせてね」
私たちは気が合うし、仲もいいんだけど……
「ウスターシュを洗脳したわね! 絶対に結婚はさせないわよ!!」
この婚約、どうなっちゃうの?
婚約破棄されたから、とりあえず逃げた!
志位斗 茂家波
恋愛
「マテラ・ディア公爵令嬢!!この第1王子ヒース・カックの名において婚約破棄をここに宣言する!!」
私、マテラ・ディアはどうやら婚約破棄を言い渡されたようです。
見れば、王子の隣にいる方にいじめたとかで、冤罪なのに捕まえる気のようですが‥‥‥よし、とりあえず逃げますか。私、転生者でもありますのでこの際この知識も活かしますかね。
マイペースなマテラは国を見捨てて逃げた!!
思い付きであり、1日にまとめて5話だして終了です。テンプレのざまぁのような気もしますが、あっさりとした気持ちでどうぞ読んでみてください。
ちょっと書いてみたくなった婚約破棄物語である。
内容を進めることを重視。誤字指摘があれば報告してくださり次第修正いたします。どうぞ温かい目で見てください。(テンプレもあるけど、斜め上の事も入れてみたい)
平民を好きになった婚約者は、私を捨てて破滅するようです
天宮有
恋愛
「聖女ローナを婚約者にするから、セリスとの婚約を破棄する」
婚約者だった公爵令息のジェイクに、子爵令嬢の私セリスは婚約破棄を言い渡されてしまう。
ローナを平民だと見下し傷つけたと嘘の報告をされて、周囲からも避けられるようになっていた。
そんな中、家族と侯爵令息のアインだけは力になってくれて、私はローナより聖女の力が強かった。
聖女ローナの評判は悪く、徐々に私の方が聖女に相応しいと言われるようになって――ジェイクは破滅することとなっていた。
【完結・全7話】「困った兄ね。」で済まない事態に陥ります。私は切っても良いと思うけど?
BBやっこ
恋愛
<執筆、投稿済み>完結
妹は、兄を憂う。流れる噂は、兄のもの。婚約者がいながら、他の女の噂が流れる。
嘘とばかりには言えない。まず噂される時点でやってしまっている。
その噂を知る義姉になる同級生とお茶をし、兄について話した。
近づいてくる女への警戒を怠る。その手管に嵌った軽率さ。何より婚約者を蔑ろにする行為が許せない。
ざまあみろは、金銭目当てに婚約者のいる男へ近づく女の方へ
兄と義姉よ、幸せに。
婚約破棄には婚約破棄を
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。
『目には目を歯には歯を、婚約破棄には婚約破棄を』
サヴィル公爵家の長女ヒルダはメクスバラ王家の第一王子メイナードと婚約していた。だが王妃の座を狙う異母妹のヘーゼルは色情狂のメイナード王子を誘惑してモノにしていた。そして王侯貴族が集まる舞踏会でヒルダに冤罪を着せて婚約破棄追放刑にする心算だった。だがそれはヒルダに見破られていたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる