歴史法律事務所

眠り猫

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歴史法律事務所

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第1章「歴史法律事務所」

―――令和元年―――
2019年9月25日
 俺は今日、秘密裏に作られた組織「歴史法律事務所」に配属されることになった。
 なぜ配属されたかと言うと、俺はここに配属される前はごく普通の大学生だった。
 俺は歴史が好きで、色々な歴史を勉強していた。
 そのおかげか、希望大学には特待生枠で入学することができ、色々と特待生の恩恵を受けながら青春を謳歌していた。
 「そろそろ就活もしないとなぁ。うちだとやっぱりこのまま公務員か?」
 就職活動を目前に控えていたそんなある日、あの手紙が俺の元に届いた。
 その手紙には歴史法律事務所と書いてあった。
 身に覚えどころか、見たことも聞いたこともない差出人に、不信感を抱きながら開封すると、中には3つ折りにされたA4用紙が入っていた。
「拝啓、佐藤椿様
 初めまして。突然このようなお手紙差し上げる非礼をお許しください。
さて、この度突然お手紙差し上げた理由として、貴方様に1つお願いしたいことがございます。
 貴方様は歴史の分野、それとスポーツ、特に格闘技の分野においてとても優秀であるということをお伺いしました。
 尽きましては、詳しいお話をさせて頂きたく、お手数ですが、ご都合のよろしいお日にちをこちらの連絡先までご返信頂ければと幸いです。

追伸
不躾ではありますが、こちらのお手紙を開封次第なるべく早めのご返信をおすすめ致します。
猿飛優美子
敬具」
手紙にはそう書かれていた。だが不信すぎる内容に、俺は内容を無視してゴミ箱に捨てた。
 歴史法律事務所?そんなものは聞いたこともないし、たちの悪いイタズラかなにかだろう。
 しかし、俺はその1ヶ月後に後悔することになった。
「一体どれだけ送ってくるんだよ!!いい加減しつこいわ!」
毎日届く手紙に、俺は辟易していた。なんだってこの歴史法律事務所という所は、そうまでして俺を勧誘したいんだ。俺はどこにでもいる大学生だぞ。
そんなことを思っていると、また一通手紙が玄関に備え付けてあるポストに投函された。
「わかったよ……返信するまで送り付けてくるって訳だな。直接会って文句言ってやる!」
 意を決して返信を書くと、俺はその足でポストに向かった。ついでに、コンビニで夕飯でも買って帰るか。


 俺は、歴史法律事務所からの返信の中に入っていた地図を見て、事務所がある場所へ向かっていた。
「ここ、か?」
 地図にあった場所に着くと、そこはオフィス街にある、何の変哲もないただのビルだった。ビルの入口にある案内板には、確かにこのビルの最上階に『 歴史法律事務所』と記されていた。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用向きでしょうか?」
 自動ドアを潜り、辺りを見回していると、受付嬢と思しき女性が声をかけてきた。
「歴史法律事務所という所に用があって来ました。アポは取ってあります。佐藤椿と言えば分かるはずです」
 そう伝えると、受付嬢は、
「あぁ、佐藤椿さんですね。お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
 と言って受付の奥、パーテーションで区切られたスペースに案内された。
「こちらで少々お待ちください。何かお飲み物をお持ちしますが、お好みはございますか?」
 俺は短く「コーヒーをお願いします」と伝え、席に着いた。
 今にして思えば、あのまま手紙を、受け取り拒否とかにして送り返せばよかったんだ。なぜわざわざ返信をして、足を運んでしまったのだろう。


 紆余曲折の末、俺は歴史法律事務所に属すことになってしまった。
 俺があの日聞いたのは、歴史法律事務所と言うのは、過去、未来に渡って様々な時代に行き、歴史を守る仕事だという。どこかの某ゲームで聞いたような内容だなと思いながら聞いていると、他の歴史に行くために、タイムマシーンで移動すると説明が続いた。
 タイムマシーンと言っても、ドラ某が使っているような乗り物ではなく、建物内にある大扉が様々な歴史に繋がっているという。
 俺は令和部隊隊長として配属されたが、まだ隊長の実感がない。そもそもいきなり隊長と言われたのだ。実感のしようなどあるはずもないだろう。普通隊長ともなれば歴戦の隊士や、ベテランの人がなるものではないのだろうか。こんな右も左も分からない、いきなり連れてこられた、どこにでもいるただの大学生がなるものではないだろう。
 晴れて大学を卒業した俺は、今日からの職場である、オフィス街の一角、歴史法律事務所に足を運んでいた。先程晴れて卒業したとは言ったが、卒業式当日は土砂降りだった。ニュースでは半世紀に一度の、と言っていた気がするが、何かの暗示出ないことを祈るばかりだ。
 自動ドアを潜ると、
「お待ちしておりました。令和部隊隊長の佐藤 椿さんですね。ようこそ歴史法律事務所へ。私は歴史法律事務所秘書を勤めさせていただいております、猿飛 優美子と申します。以後お見知りおきを」
と、いつの間に現れたのか、女性に声をかけられた。
 この人がここの秘書か。服装からしてまず俺と同じ時代の人ではないだろう。ん、猿飛?
「えと、もし間違ってたら聞き流していただいて構わないのですが、こちらからの最初の手紙に忠告を添えてくれたのはあなたですか?」
「えぇ、覚えていて下さったのですね」
 俺の問いに猿飛さんは「こちらへどうぞ」と手招きながら答えた。
「心遣い頂きありがとうございました」
「いえいえ、どうやらその心遣いも無駄になってしまったとお見受けしますが?」
 猿飛さんの案内に続いて廊下を進みながら、お礼を言うと、どこか悪戯な笑顔を浮かべながら猿飛さんは言った。それに俺が口ごもっていると、
「いえいえ、気にしていませんよ。隊長になられる方は皆さん同じ道を通っていらっしゃいますから」
 どうやら皆あの手紙の洗礼を受けたらしい。なぜ歴史法律事務所はそんなにまでして勧誘してきたのだろう。切手代も安くはないだろうに。
「そういえば、猿飛さんはどの時代の方ですか?」
 俺は猿飛さんに尋ねると、猿飛さんは微笑みながら俺の顔を見て「私ですか?私は江戸ですよ。なので、もし普通に生きていたら佐藤さんより年上、ということになりますね」
 と、また悪戯な笑顔を浮かべながら言った。これは食えない人のようだ。ちなみに俺から見た猿飛さんは、俺より少し年上の落ち着いたお姉さん、と言ったところだろうか。
「佐藤さんは私がいくつに見えますか?」
 そう言って猿飛さんは、少し意地悪く微笑えみながら言った。
「えっと………にじゅう………」
「あら、ふふ。ありがとうございます。まだまだそんなに若く見えるんですね」
 俺が言い淀んでいると、猿飛さんは途中で切って嬉しそうに歩き出してしまった。とりあえずは命拾いをしたのだろうか。
「さて、この扉をくぐって、廊下を抜けるとロビーです」
 猿飛さんに案内されるがままに歩いていると、いくつかの角を曲がった先、廊下の突き当たりにその扉があった。
 扉は観音開きで、持ち手はそれぞれの扉に縦にバーが渡してある仕様だった。コンサートホールにあるような扉をイメージしてもらえば大体同じだろう。
「あれ、方向感覚があれかもしれないのですが、この建物ってそんなに広かったでしたっけ?」
「それはですね、扉を開けていただいたらわかりますよ」
 そう言って猿飛は、扉の横に据え付けてあったタッチパネルを操作すると、どうぞどうぞと手招きした。
 俺はよく分からないままに、扉に持ち手に手をかけると
『 佐藤椿、指紋、登録完了しました。静脈、登録完了しました。』
 と、機械音声が先程猿飛さんが操作していたタッチパネルから流れた。どうやらこの持ち手には何かしらの機械が組み込まれていたらしい。
「これで次からは、お1人でも通れます」
 そう言って猿飛さんはにっこりと微笑んだ。ここに来てサプライズというか、ドッキリを仕掛けてきますか、そうですか。俺はこの短時間でしかこの人を知らないが、この人の性格が少しわかった気がした。「じゃあ、今度こそ開けますね」
 俺はそう言って扉を押し開けた。
「なるほど、わかるってそういう……」
 扉を開けた先、そこに広がっていたのは、広い絨毯張りの廊下と、抜けるように高い天井だった。明らかに先程とは様子も雰囲気も違う空間に
「これって隣の建物だったりします?」
 と、思わず尋ねると、
「改めまして、ようこそ歴史法律事務所へ。私達一同、あなたを歓迎致します」
 猿飛さんはビシッと敬礼をして言った。先程までの雰囲気はどこに行ったのか、こちらにまで緊張感が伝わってきた。
「さて、それでは行きましょうか。皆さんもうお揃いのようですので」
俺は猿飛さんに促され、再び歩き出した。どこへ案内されているのかわからないまま、すれ違う人を見ると、服装が皆違っていた。俺と同じ洋服を着ている人、着物、袴を着ている人、更には甲冑や半裸の人もいた。いや、最後のはおかしくないか?ともう一度確認しようと振り向くと
「佐藤さん、珍しいのは分かりますがあまり周りをじろじろ見ないように。こ動物園ではありませんよ。………まぁあながち間違いでもありませんが」
と猿飛さんに注意を受けてしまった。最後になにか、ぼそっと聞こえたような気がしたが、気の所為ということにしておこう。
 俺はそれ「すみません」と謝罪し、あまり周りを見ないことにした。それでも、チラチラとどうしても気になる人はいるもので、幾度となく視線を奪われる度に、猿飛さんは咳払いをしていた。
「さぁ、着きましたよ。ここから先は私と、隊長格、それと隊長代理のみが入れるエリアとなります。今回は初出勤なので、挨拶や紹介もあるでしょうし、私が同行しますね。まだ佐藤さんの副官さんはいらしていないようなので、彼女はまた改めて私が案内させていただきます」
「あの、今更なんですが本当に俺が隊長なんかでいいんですか?もっと向いてる人がいると思うんですけど」最後の抵抗というわけではないが、俺がずっと感じていた疑問を猿飛さんに問いかけてみた。ことここに至った今でも、俺が隊長に選ばれる理由が分からないのだ。
「大丈夫ですよ。なにも間違ってはいません。暫くは、色々と混乱することや戸惑うこともあるかもしれません。ですが、すぐにわかります。佐藤さんがやるべき事や、なぜ選ばれたのか。佐藤さんは既に歴史に名前を残すことになっていますから」
 猿飛さんの説明に、新しく疑問が浮かんだ。
「俺は、ただの大学生卒業したての社会人1年生であって、歴史に名前を残すようなことをした覚えはないし、残すことをできるとも思えないんですが」
「今はまだお教えできませんが、いずれお目にかかる時が来るでしょう。全ての答えはそこにありますよ」
 猿飛さんは意味深な笑みを浮かべると、「それでは、行きましょうか」と言って扉を開けた。
 扉の先には、何人かの人影があった。
「あそこにいらっしゃる皆様は各歴史部隊の隊長達です。佐藤さんはあそこにいる皆さんと同じく、令和部隊の隊長として歴史を守って頂きます」
 俺は扉を潜ろうと、足を上げたが、前に出るどころか、逆に後ろへ引いてしまった。そして自分でも驚くほど体が強ばって動かない。本能がそれ以上進むなと訴えかけているのがわかる。。え、なに、どうしてこんな……
 俺は、やっとの思いで視線を室内に走らせると、その原因はすぐに見つけられた。部屋の中の隊長達、その全員から、今まで感じたことのない殺気を向けられていたのだ。
「へぇ、一応わかんだな」
 誰が言ったのか、その言葉と同時に殺気が消えた。
「ちょっと、犬塚さん!?何をしているんですか!?」
 そう言って、猿飛さんは庇うようにして俺の前に立った。
「どう見ても平和ボケしたガキだったからな。一種の警告と洗礼だよ」
 犬塚と呼ばれた男は、部屋の奥に据えられた小上がりの座敷で胡座を組んでいた。
「それにしたってやりすぎです。佐藤さんはまだ実践だって経験していないんですよ!?」
「だからだろうが。そんな緩い頭じゃすぐに死ぬぞ。未来史だか裏歴史だか知らねぇけど、そんなんで戦えんのかよ」
 犬塚はふんと鼻を鳴らしながら言うと、
「へぇ、そうですか。犬塚さんだってここに来たばっかりの時はよく泣いてたじゃありませんか。それに、背丈だって今の佐藤さんより小さくてひょろひょろだったくせに」
 犬塚の言葉に、猿飛さんは睨みを効かせながら返した。
「なんだよ、やんのか?」
「そっちこそ。また昔みたいに痛い目見ないと分からないようですね」
 犬塚は片膝を立て、どこから取り出したのか、刀を構えた。あの構えは居合……だろうか。
  一方猿飛さんも、どこからか小太刀を取り出し構えていた。こちらは既に抜刀し、切っ先を犬塚という男に向けている。
 まさに一触即発という雰囲気の中、先に動いたのはやはり犬塚という男だった。
 体を少し持ち上げたかと思えば、5メートルはありそうな距離を一瞬で詰め、刀を振り抜いた。
 それを受けようと猿飛さんも刀を構えるが、俺が瞬きをした瞬間、ちょうど刀同士が触れ合う瞬間に、2人の手から刀が消えた。
 犬塚の方は、手からすっぽ抜けたのかとも思ったが、どこにも刀は転がってもいないし、刺さってもいない。
 いや、仮にすっぽ抜けたのだとしても、猿飛さんは受けるためにしっかりと握っていたはずだ。一体どこへ消えてしまったのか。
 カチンッ、そう音が聞こえた方を見ると、1人の女性が、居合刀と小太刀を鞘に収めたところだった。
「お二人方共、いい加減になさい。顔を合わせる度に悶着を起こしていては、いずれ怪我をしますよ」
 そう言って女性は笑みを浮かべるも、その目の奥は全くと言っていいほど笑ってはいなかった。むしろその表情とは裏腹に冷たく、怒りを感じる。「す、すみませんでした。以後自重致します」
 そう言って、猿飛さんは俺の後ろに隠れた。一方の犬塚はと言うと、「チッ」と舌打ちをして再び座敷に胡座を組んだ。
「はい、それでは表の時代も進んで、新しい方もいらっしゃった事ですし、自己紹介をしましょう」
 そう言って、女性は微笑みながら手のひらを、ぺちんと合わせた。
「それでは猿飛さん、進行をお願いしてもいいかしら?」
「か、かしこまりました!」
 笑みを向けられた猿飛さんは、背筋をピンと伸ばして俺の前に出た。
「こほん。それでは佐藤さん、改めて隊長の方々をご紹介させて頂きます」
 そう言って猿飛さんは、一瞬嫌そうな顔をして犬塚という男を指した。
「左側から自己紹介しますね。まずは江戸部隊の隊長、犬塚栄吉さん。見た目は怖い、言葉使いは悪い、果てには喧嘩っぱやいと三重苦ですが」
「誰が三重苦だ、このクソアマ!」
 猿飛さんの紹介に、犬塚は激昂して再び立ち上がったが、
「それでも、部隊一他人思いな上に、人一倍心配症で優しい方です。そのおかげか部隊内でも人望も厚く、実力も確かです。言うならば喧嘩番長タイプの人間です」
  後半に行くにつれ、猿飛さんの表情が厳しくなり、犬塚さんはバツの悪そうに顔を背けていた。思っていたより悪い人ではないらしい。
 犬塚さんの自己紹介をしている間、他の隊長達は微笑ましそうに眺めていた。この2人、本当はとても仲がいいんだろうな。
「何見てんだよ」
 俺も、つられて笑みを浮べて犬塚さんを眺めていると、犬塚さんに睨まれてしまった。しかし先程の紹介のおかげか、最初に感じたような恐怖は感じない。
「続いてそのお隣。明治部隊の隊長、中村民さんです。普段はおしとやかなで、とても優しいお姉さんです。しかしご存知の通り、怒るととても怖いです。えぇ!本当に……恐ろしい……」
「猿飛さん?」
「は、はいっ」
 先程の一連の流れを見てわかったが、この人は絶対に怒らせてはいけない人だろう。現に今も猿飛さんが萎縮しちゃってるし。
「失礼しちゃうわね。私だって怒りたくて怒っているわけではありませんよ」
 そう言って、中村さんは腕を組むと、ふんっと鼻を鳴らした。なんというか、仕草の可愛い人、と言った印象だ。怒ると怖いけど。
「民さんは文明開化の攘夷真っ只中で、実際に指揮を取り、ご自身も一騎当千の将校として戦われた女傑の1人でもあります」
 明治時代、まだ女性の地位も低く、出世できる人なんてほとんどいなかっただろう。それなのに将校とは。
「よろしくお願いしますね、佐藤さん。私の事は皆さん同様、名前で民と呼んでくださいね」
 そう言って中村さん……民さんはにっこりと微笑んでくれた。本当に優しいお姉さんのようだ。
「続いて大正部隊の隊長、鉄穴森彩芽さん。部隊隊長の中でも、最年少で1番の人見知りです。普段も小動物みたいでとても可愛いらしい子です」
 猿飛さんは、頬に手を当てて微笑みながら言うと、鉄穴森さん本人は、中村さんの後ろに隠れてしまった。なるほど、人見知り、と。
「続いては昭和部隊の隊長、田中勇気さん。無口でゆったりとした方で、あまり動きませんね。特に、仕事以外は全くと言っていいほど動きません」
 動かないと聞いて、佐藤は田中の方に目をやると、田中の目は開いているが、どうやら寝ているようだった。
「立ちながら寝てますね……」
 言うと、田中さんは意識があったのか、僅かに手を上げて振った。よろしく、と取っていいのだろうか。
「最後は平成部隊の隊長、東谷奏多さん。男らしくて、正義感が強く、腕も確かな方です。それと部隊1のイケメンです。どこかの犬何とかさんを、ひっくり返したような方です。そのルックスと性格から、部隊内での女性人気は、圧倒的なものです」
  猿飛さんの言葉に、犬塚さんは僅かに視線を向けたものの、民さんが「あらあら」と声を漏らすと、再び舌打ちをして視線を戻した。
 猿飛さんは、全隊長の紹介を終わらせると、
「それでは、今日の本題に入りましょうか」
 そう言って、猿飛さんは端末を取りだし、どこかに電話をかけ始めた。
 俺は、初めての会議に、改めて緊張をしていると、いつの間に近くに来たのか、田中さんに肩を叩かれた。
「あまり緊張しなくていい…」
 田中さんはそう言うと、そのまま動かなくなってしまった。「田中さん?」と声をかけると、応えの代わりに、スーと言う寝息が聞こえた。
 どうやら再び眠ってしまったようだ。
「って、田中さん!?会議始まっちゃいますよ!?」
 田中さんの身体を揺すろうと手を伸ばすと、後ろから
「そのまま寝かせておいてやってくだせえ」
 と、声が聞こえた。俺は声の聞こえた後ろを振り向いたが、そこに人影はなかった。
「こちらです。そのまま下をご覧なさい」
 言われるまま視線を下に向けると、そこには人間のように二足で立ち、その首にマントと笠を下げた猫がいた。その口には、葉っぱの付いた細い枝を咥えていた。どこかで見たことがあるようなビジュアルだ。
「勇気のことは起こさなくてもいいのです。許可は取ってありますゆえ。代わりに拙者が会議の内容を聞きますので」
 猫はそう言って、田中さんの近くテーブルの上に乗ると、メモ用紙と筆記用具を取り出した。
「えーと、どこから聞いていいんだろう?喋る猫……?というか普通に立って……?」
「はっはっは、二足で立つは当たり前でござるよ。拙者は猫でありながら、元は人間だったゆえ。二足で歩くのも、立ち回るのも当たり前でござろう。ほら、そろそろ会議が始まるでござるよ」
 猫の言う通り、会議室にスーツを着た男性がやって来た。その男性の手には、書類が詰め込まれているのか、分厚いファイルを抱えていた。
「お待たせしました。それでは歴史部隊長会議を始めさせて頂きます。その前に、新しい隊長の方がおられるので、軽い自己紹介をさせて頂きます。皆様ご存知の通り、会議の取りまとめを勤めさせていただきます、新井敬語です。以後よろしくお願い致します。今回の案件は重要な任務のため、全隊長会議として皆様をお呼びしました。それでは、会議を始めます」
 会議が始まると、新井さんはファイルの中から書類を取り出すと、全員に書類を手渡した。
「この書類は部外秘にあたりますので、丁重に取り扱ってください。決して無くしたりしないように。無くす人はちゃんとファイルとかに入れて、保管してください」
 重要という書類に書いてあったのは、江戸時代におこっているという事件だった。

【1750年12月10日、町民が辻斬りによって黄昏時に惨殺された。子供が5名、大人15名、状態は様々だが、いずれも現場は凄惨な様相を呈していた。未だ辻斬りの犯人が見つかっておらず、捜査は難航している。

 江戸での事件故、犬塚栄吉隊長の任務とする。
 なお、新隊長の実力を測定、研修も含めるため、佐藤椿には同行を命じるものとす】
 書類には、その他にも辻斬りの瓦版が数枚あった。
「辻斬りって言うと、今の時代で言う通り魔みたいなものですか?」
 俺の疑問に
「そうですね、椿ちゃんの言うとおり、辻斬りは今で言う通り魔みたいなものですね。しかしその規模が違います。」「えーと、新井さん今俺の事を椿ちゃんって呼びました?」
 新井はニコっと笑みを浮かべると、そのまま辻斬りの話に戻してしまった。
「話を逸らされた……?」
「新井は人の話を全く聞かないやつだ。おまけに謎も多い。もし聞いていたとしても一部分だけ聞いて、他は全部無視するか、流す。関わるだけ時間の無駄だ」 
 犬塚さんがそう説明をしてくれると、何かが犬塚さんの顔を掠めた。

 トスッ。

「あれあれ~栄吉ちゃんに当たったと思ったんだけど~、当たらなかったみたいだね?何、僕の話をしてるの?もしかして僕のこと褒めてくれてる?」
 新井が微笑みながら言うと、俺は犬塚さんと顔を見合わせて「いや、何も話してもないし、褒めてもないです」と声を合わせて言った。
 新井は目を細めて「へー、話もしてないし、褒めてもいないと。じゃあ、君たちが話してた事を全部話してあげようか?」そう言うと新井は、少しずつじりじりと距離を詰めてきた。
「新井さん、今は会議中ですよ。怒るのは会議が終わったあとでお願いしますね。それと、佐藤さんと犬塚さんもおふざけはこれくらいにして、ちゃんと会議に集中してください」
 民さんが俺と犬塚さん、新井に言うと3人揃えるように「はい…」と答えた。
 逆らったり物申したら後が怖いし。
「じゃあ、さっそく任務に行ってもらおうかな」
「えっ、そんなあっさりですか!?」
 あまりに唐突に言われ、俺は動揺した。
「そそ。そんなに難しい案件でもなさそうだし、サクッと終わらせてきちゃってよ」
 新井は、そう言ってにっこり笑顔で手を振っていた。この男、本当に食えない性格をしている。
「そんな朝食のコーンフレークじゃないんですから」
「お、上手いこと言うねぇ。でも残念、僕コーンフレークは牛乳たっぷりかけて、しっとりさせてから食べる派だから、どちらかと言えばしっとりなんだよねぇ。それともあれかな、こんな案件朝飯前って事かい?心強いねぇ」
 そんな調子で、新井はのらりくらりと終始余裕を見せていた。
「だから無駄だと言ったろ。そいつに関わるのは時間の無駄だ。ほれ、わかったらとっとと行くぞ」
 そう言って犬塚さんは、刀を腰に下げて歩き出した。そしておもむろに立ち止まり、俺の方を振り向いて言った。
「初めての任務だからといって気を抜くなよ。死ぬぞ」
 俺は犬塚さんに言われるまで、どこか現実感がなく気を抜いていた。この後が本当に恐ろしい事が起きるとも知らず。


――――江戸時代――――
 1750年12月10日、黄昏時。
俺は犬塚さんと共に、京の都にやってきた。平城京、平安京と栄えた都である。
「凄いですね、本当に一瞬で移動しちゃった」
 京に着き、早速聞き込みを始めようとすると、犬塚に風呂敷を被せられた。
「何ですかこれ」
「何ですかじゃねぇよ。この時代にお前みたいな頭してる奴なんていねぇよ」
 そう言って、犬塚は歩き出した。俺は犬塚から貰った風呂敷を頭に巻き、後を追った。
 だが、夕暮れ時なのか、京の都には人が人っ子一人いなかった。
「誰もいませんね」
「逢魔が時。この時間は、彼岸と此岸の境界がぼやけて魔が出ると信じられているからな。それに今は辻斬り騒動真っ只中だ。この時間に好んで外に出るやつは早々いないだろ」
 犬塚さんの言うことは最もだ。だが、それにしたって妙だ。
「犬塚さん…やっぱり変じゃありませんか?いくら外に出ないからと言って静かすぎませんか?」
 江戸時代に到着してから早くも30分近くは経過している。その間に人影がないのはいいとしても、家屋から物音がしないのだ。
 俺がそう言うと、犬塚さんは上を向き深呼吸をして、辺りを見回した。
「あそこの木陰に誰かいるな」
 そう言って犬塚さんは近くにあった木を指を差した。俺はその木の陰の方に視線をやると、そこには小さな人影があった。
 俺はゆっくりと近づくと、その木陰に隠れていた小さな影はびくっと跳ねた。そして僅かに顔を覗かせると、「こ…殺さないで」とか細い声で言った。
 俺は近づき、子供の顔を見ながらしゃがんで言った。
「驚かせてごめんね。俺は怪しい人じゃないから安心して……って言っても無理か」
 そう言うと、子供は木陰から顔を出し、俺の顔を見て「お、お兄ちゃんは怖い人じゃないの?」と言った。
 その言葉に頷くと、子供は木陰から出てきた。
 木陰から出てきた子供の着物には、赤黒く、鉄と何かが入り交じったような汚れが、ベッタリと着いていた。血だ。定かではないが、これは人の血だ。直感的にか、本能的にそう感じ取ると、耳元で何かがバクバクと音を立て始めた。
「おい」
 後ろから犬塚さんが近づいてきて、子供の着物を見てからゆっくり目をつぶると、深く息を吐き、子供の顔を見た。
 子供は犬塚さんの顔を見て、俺の後ろに隠れてしまった。
「犬塚さん、子供が怖がっているのでそんなに見ないで上げてください」
 そう言われて犬塚さんは舌打ちして、俺越しに子供に問いかけた。
「おいガキ…その着物はどうした。お前の親は何処にいる?」
「か…刀を持ってるお侍が、お…おっかちゃんを刺して、おっかちゃんはおいらの目の前で倒れて、そのお侍はどっかに、き、消えちゃった」
 犬塚さんの問いに、子供は俯いて涙を流しながら、震える声で応えた。
 子供の話を聞いて、耳元の音がさらに大きく鳴り始めた。そうか、これは俺の心臓の音か。胸の内から、恐怖で心臓が激しく脈を打っていたのだ。
 だが同時に、心の奥底からは怒りがあふれ出していた。
 俺は、この時代に来る前に犬塚さんに言われたことを思い出した。
『 おい、初めての任務だからといって力を抜くなよ、死ぬぞ』
 その忠告が頭をよぎり、ようやく実感を持つことが出来た。
 地面に膝がつき、頭の中が真っ白になった。今自分は件の辻斬りに恐怖しているのだろうか。それとも、こんな幼い子供から親を奪ったことを怒っているのだろうか。思考は冷静なのに全く考えがまとまらない。
「お前がそんなでどうする。呆けて震えているだけじゃ、お前の目の前にいるガキや他のやつを守る事はできねぇぞ」

 犬塚さんに言われて気づいた。いつの間にか俺は膝を着いて震えながら天を仰いでいた。
 改めて目の前にいる子供を見ると、体中に切り傷を負い、今にも倒れそうなほど憔悴していた。
「そうだよな。倒れ込んでしまって申し訳ございません。俺、この子供や京にいる人達を守りたいです。絶対に殺させやしません。」
そう言うと犬塚は佐藤の顔を見ると佐藤の顔をは最初にあった時と違って恐れを知り、何かに決心した顔になっていることに気づく。
「気づくのが遅いんだよ。なら早速辻斬りを探すぞ。誰も殺させやしねぇ。」
そう言うと犬塚は目の前にいる子供の頭に手を置き「お前は家に帰れ。お前の代わりに俺達がおっかちゃんの敵を打ってきてやる」と言うと、子供は涙を拭って「うん」と笑って言う。
そして2人は子供が言っていた場所に向かった。
「ここですよねあの子が言っていた場所って」
言われた場所についたところは目の前に橋があり下には川が流れている。
周りには明かりになるものは無く、人気もない。
「こんなとこらに辻斬りが現れるんですかね。」と言うと犬塚は橋の先を見て指を指す。
「佐藤、橋の先を見ろ」
橋の先を見ろと、その先には道場があり周りには家がなくその道場しかなかったのだ。
そして、その道場から出てくる人影を見見て2人は木陰に隠れる。
道場から出てきたのは刀を持った侍だったのだ。
「子供が言ってた刀を持ってる侍ってもしかしてあの人じゃないですよね。」
そう言って佐藤は犬塚の顔を見ると犬塚は周りを見渡すと、東の方から人が歩いてくる事に気づく。
「誰か来た」
2人は東の方を向くと男女2人組がこちらに歩いて来る。
段々と近づいてくる2人を見て、佐藤はどうしたらいいか考えていると、犬塚が道場の方を向き侍の姿をはっきり見た。

「当たりだ。辻斬りはあの侍で合ってる」
道場から出てきた侍は着ている着物には赤黒い色をした着物を着ていた。
その着物は子供が着ていた着物に付いていた色と同じ色だった。
「あ…あれって人の血ですよね」
「人の血だな…それに左手を見ろ何かを引きずってる」
2人は侍が何を引きずってるのが気になった。
そして、道場から侍の体が全身見えた時2人は全身が震え上がった。
「嘘だろ…ひ、人を引きずってるのか?」
2人は驚いている時、東から来た男女2人組は橋のそばまで来た。
道場から出てきた侍は橋のそばまで来た男女2人組を見て持ってる人を置き橋の前に来た男女2人組を襲った。
佐藤と犬塚はそれに気づき自分たちが持ってる武器で男女2人組を守る。
「危ねぇじゃねえかこの野郎」
「ま…間に合って良かったです」
犬塚が侍の刀を防御し佐藤は男女2人組を守る。
「な、何なんだ」
「きゃぁー」
男女2人組は怖くて腰を抜かして、女性の方は怖くて叫んでしまった。
佐藤はどうしたらいいのか分からなくなり犬塚さんの方を向くと犬塚はは必死に侍からくる攻撃を交わしている。
佐藤は考えて考えて、考え抜いた結果男女2人組を両方の腕で抱えて人気がある所まで走った。
その姿を見た犬塚は侍の刀を振り払い侍の首元に刀を指す。
- [ ] 
「おめぇさんが人を夕暮れ時に殺してる辻斬りかい?」
そう答えると侍はニヤリと笑い怒り狂ったように話し始めた。
「ハハハそうさ、辻斬りは俺のことさぁ~楽しいなぁ~知ってるか、人を斬る快感。斬られると知って喚き泣き叫びそして、殺さないでと願う。その時助けてやると言った瞬間力が抜けた時人を刺し殺すと力が抜けた顔から恐ろしい顔になりまた泣き叫ぶその快感がたまらない。ガキもそうさ喚き泣き叫びそして逃げた瞬間刺し殺す。快感だよなぁ~生きてるって感じがするぜぇ~」
犬塚はこいつが何を言ってるのかが理解ができず、何が快感なのかもよくわからない。
この男がいかれ狂っていることは理解できた。
だが、犬塚は辻斬りが言っていた言葉を思い出して妹の記憶が頭に流れてくる。
昔犬塚の妹は何もしていないことを侍に言ったが、言っても信じてもらえず、川辺で公開死刑に合った。
公開死刑は打ち首で犬塚は自分の目の前で妹が首を切られたところを見る。
そして犬塚は侍を嫌い人を殺し行かれている人間も嫌った。
妹の記憶が流れた瞬間、犬塚は頭に血が登り
「自分が何を言ってるのか分かってるのか…何が快感だ何が生きてる実感だ意味がわかんねぇよ人を殺して何が楽しいんだてめぇは」
そう言うと辻斬りは目をギョロっと犬塚の方を見てニヤリと笑い「お前も殺してやるよ」と言って刀を大きく上から振り下ろす。
その時犬塚の刀は一歩遅く振り下ろされる刀を抑えることができず間に合わないと思った瞬間遠くから自分を呼ぶ声がした。
「犬塚さん。諦めないでください」
そして、辻斬りが振り下ろした刀を佐藤が両剣で防ぐ。
「何をやってるんですか。前をちゃんと見てください、死にますよ」

佐藤の声に気づき頭に血が上っていたのが治まった。
前にいる辻斬りの腹の方に思いっきり足蹴りを入れその場を回避する。
「反応するのが遅いですよ」
「悪い…頭に血が上ってた…」
2人が話している間に辻斬りの男が立ち上がり刀を構え佐藤と犬塚に切りかかる。
それに気づいた2人は辻斬りの攻撃を避けて、辻斬りの首元に2人の刀がギリギリのところで止まる。
「観念してください」
辻斬りはその場に足がついた瞬間、2人に思いっ切り刀を振るう。
「危ねぇじねえか」
「よそ見しているのが悪いんだよ」
辻斬りは笑みを浮かべながら家がある方に走っていく。
2人は辻斬りを追って家がある方へと向かったのだ。

一方その頃、組織では佐藤と犬塚が居なくなってから少し立った頃令和の扉から小さな子供が来て、佐藤を呼んで走っていたのであった。
「このこ誰なんでしょうか?」
「可愛い子何だけど…何で佐藤さんの名前を呼んでるんですかね?」
中村と鉄穴森は不思議そうに走っている女の子を見る。
女の子は走って疲れたのかその場に座りこんでしまった。
「えーと貴方は誰ですか?どうして佐藤さんの名前を読んでいるのですか?」
中村が女の子に問いかけると女の子は泣きながら「お…お兄ちゃんがこっちに行くの見えたから、追いかけてきたの」と言った。
組織に残っている部隊隊長達は女の子が佐藤の事をお兄ちゃんと言ったことに驚き「お兄ちゃん」と大声を出してしまった。

女の子は兄が何処かに行くところを見て兄のことを追っかけてここ法律事務所まできてしまった。
「困りましたね。今佐藤君は辻斬りの任務で居ないんですよね」
「この子に辻斬りの任務とは教えられないからどうしましょう…あ、佐藤さん達が帰ってくるまで昭和部隊隊長の相方の二郎が相手してあげればいいんじゃない?」 
そう言うと田中は二郎を抱っこして女の子の前に置く。
女の子は二郎を見て涙が止まり笑ってくれたのです。
「えーと佐藤くんの妹さんは名前はなんていうんですか?」
「那…佐藤那月って言います」
那月はそう言って二郎の手を掴んで遊んでいた。

「えーと佐藤くんの妹さんは名前はなんていうんですか?」
「那…佐藤那月って言います」
那月はそう言って二郎の手を掴んで遊んでいた。
猿飛は少し考えて不思議に思ったことがある。
なぜ、那月ちゃんはここに来れたのかが問題だったのだ。
本来ここに来れるものは歴史法律事務所に呼ばれたお客人かそれか、ここに配属されたものしか来れない所のはずなのに那月ちゃんは兄(佐藤)を追いかけてここまでこれた事に疑問を持つ。
「どうして那月ちゃんは来れたのでしょう…」
那月は何かを思い出したのか、フードの右ポケットに手を入れて紙を取り出した。
紙を見せてもらうと紙にはこう書いてあった。
「佐藤那月を佐藤椿の令和部隊副隊長として歴史法律事務所の仕事をしてもらうことにした」と書いてある。
「兄妹で法律事務所に働かせるんですか…」
「那月ちゃんはここがどういうところから知っているのか?」
那月はニコと笑い「知ってるよ」と答えると、部隊隊長達は驚いた顔をする。那月立ち上がり改めて部隊隊長達に挨拶をする。
「改めまして令和部隊副隊長させていただきます佐藤那月です歳は7歳です。自分で言うのはおかしいけど、お兄ちゃんより頭がいい天才小学生です。皆さんこれからもよろしくお願いします」
部隊隊長達は那月が頭を下げると、それにつられて体調たちも頭を下げる。その時田中が何かを思い出したように那月に話しかける。
「そう言えば…さっき君はここに来た時泣いていたよな」
田中が那月に問いかけると那月は笑いながら「あはは、あれは嘘泣きですよ」
「う…嘘泣き?」

「はい!嘘泣きです。ここにいる皆さんを試してしまってすみません」
そう言うと那月は猿飛の方に行き、猿飛の顔を見る。
「心配しなくて大丈夫です。那月お兄ちゃんが今江戸部隊隊長と共に辻斬りを捕まえに行ってるんでしょ?那月知ってるよ。だから隠さなくていいよ」
猿飛は心の中で(那月ちゃんは強い子だな)と思った。
じゃあ、那月は自分の部屋が分からないから猿飛さんはここの秘書さんなんですよね?那月のお部屋まで案内してもらってもいいですか?」
那月は猿飛に問いかけると猿飛は微笑みながら「いいですよ」と答える。

一方その頃江戸時代で辻斬りを追いかけている2人は都の中を走り回りやっとの思いで辻斬りを見つける。辻斬りの前には女性と子供がいた。
「た…助けてください。子供だけでいいので」
「おっかちゃん…」
辻斬りは女性の言葉を聞かず持っている刀を女性と子供に向かって振り下ろす。振り下ろされた刀は佐藤と犬塚で止める。
「ガキと女相手に何危ねえもん振り回してんだてめぇーは」
「大丈夫ですか?」
2人は襲われていた2人を助けると、女性の方は力が抜けたのか子供を抱きながら倒れてしまった。
「おっかちゃん!!」
「佐藤…お前は女と子供を守れ、俺があいつを倒す」
「だ…駄目です。それは絶対に許しません。この任務は犬塚さん一人の任務じゃないんですよ。俺達2人の任務です。だから辻斬りを倒すのは俺達2人です。てかさっきから倒すって言ってますけど殺しちゃだめですよ!!気絶ならいいですけど」
佐藤はそう言って犬塚の顔を見る。犬塚は顔に手を当てて大きく息を吸う。
「はぁ…お前といると色々狂うな。だけど、お前の言う通りこの任務は俺達2人の任務だ協力しないとな」
そう言うと犬塚は子供の方を向き子供の後ろに木陰があることに気づく。
「佐藤。ガキをあの木陰に置いてこい。あそこなら俺達が戦っても被害はおよばねぇ」
「分かりました」
女性と子供を木陰に隠れさせて、佐藤と犬塚は辻斬りの前に再び立つ。
「すまねぇえな待たせちまって、俺達が相手になるぜ」
そう言うと辻切りは顔が微笑みこちらに刃を向ける。佐藤は何かを感じたのか体が一歩後ろに下がる。それを見た犬塚は辻斬りの方を見る。
「犬塚さん…分かりますか」
「何が?」
「言葉にするのが難しいのですが、あいつから嫌な感じがします。殺戮を繰り返して殺気が凄いのも分かるんですけど、それ以外にも俺達人間の気配と違って化物見たいな感じがする」
犬塚は佐藤が何を言っているのか分からないが、1つだけ分かったことがある。辻斬りは人間とはかけ離れた存在だということを。
辻斬りは2人に向かって刀を振るうと2人は辻切りの攻撃をかわす。だが、辻斬りの動きが早すぎて避けるだけで精一杯だ。
「ほらほらどうした、もう終わりか」
「くそ…速すぎる」
辻斬りが振るう攻撃は刃物が見えず風が過ぎた瞬間体中カタナが当たる感覚がある。2人は避けても避けてもその攻撃からはよけ切れずどうしたらいいか考える。
「何なんだこの攻撃」
「…あれ?この攻撃ってもしかして、鎌鼬?」
佐藤は辻斬りの動きを見て鎌鼬に似ていると気づく。鎌鼬は妖(妖怪)でイタチの腕が釜になっていて風に乗り切り刻んで行く事で鎌鼬と名付けられたそうだ。
「えーと…鎌鼬の説明ありがとな。だが、今は戦いに集中しろ」
鎌鼬は風と共に切り刻みに来る。ならそれと同時進行で、俺達も辻斬りの動きをよんで切りに行けばいい。
2人は辻斬りの動きを見て、辻斬りの攻撃を交わしながら辻斬りの背後に入る。

「これで終わりだ」
そう言って辻斬りに刃を向けて切りに行く。
辻斬りの体には刀が刺さって辻斬りはその場に倒れてしまった。
だが、辻斬りの体は急所を外していたのであった。
「このまま俺達の本部【歴史法律事務所】に連れて行くぞ」
「わかりました」
辻斬りを拘束して本部に連れて帰った2人は自分たちが本部に戻ったことを猿飛に伝える。
「2人ともお帰りなさいこの人は私が預かるわ、あなた達はロビーのソファーにでも座ってゆっくりしてから自分の部屋に戻りなさい」
猿飛はそう言って辻斬りを連れていった。
2人はロビーに行くとロビーから佐藤を呼ぶ声が聞こえてきた「お兄ちゃん!!椿お兄ちゃん」と聞こえた。佐藤は聞き覚えがある声に耳を傾ける。
「那月?那月なのか」
ロビーに付くとそこには中村と鉄穴森と一緒に那月がいた。佐藤は驚いて那月の所に駆け寄った。
「那月お前なんでここにいるんだ。どうして…母さんや父さんはどうした?何も言わずここに来たのか」
「ちゃんと言ったよ。お兄ちゃんのところに行ってくるって」
そう言って那月は兄の顔を見て微笑みながら兄に抱きつく。
「お帰りお兄ちゃん」
……
「ただいま那月」
ごっほん…
「久しぶりの再会のところ悪いんだが俺は今ものすごく疲れてんだ。仲良しごっこするなら他のとこ行きやがれ」
そう言って犬塚はソファーに座って目をつぶる。中村が犬塚と佐藤にコーヒーを持ってきて微笑みながら「2人ともお帰りなさい。辻斬りの任務お疲れ様。大変だったでしょ、コーヒーでも飲んでゆっくりしていってね」と言って2人にコーヒーを出す。

「有難うございます中村さん。コーヒー美味しくいただきます」

やっと歴史法律事務所に戻ってきた佐藤と犬塚は辻斬りを猿飛に渡し、疲れきった体を一旦ロビーで休んでから自室に戻ろうとしたとき、ロビーには佐藤の妹那月がいて、久しぶりに兄妹再会した。そして、辻斬りの任務が終えた佐藤はここから新たな人生を踏み出すことになる。
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