2 / 23
〈2. 父親からの言葉も思いやりが無いなんて悲しい〉
しおりを挟む
「馬鹿野郎!!!」
その言葉に、エステルは何故自分が罵声を浴びせられないといけないのか分からず困惑する。労いと慰めの言葉を掛けられるかと思っていたのに、父の普段と声や態度とは全く違う、威厳ある伯爵家の当主らしい冷たいその声に身を強張らせた。
エステルは、屋敷に帰ると早速父親のいる執務室へと向かい、出来事を報告したのだ。
伯爵の仕事である、ここカブソンルンドの特産品である、リボン状の織物を仕分けしていた彼は、エステルの突然の訪問に驚きつつも耳を傾け聞いていると徐々に拳を振るわせ、話し終わると机を叩いて立ち上がりながらそう言ったのだった。
「なんだそれは!?あぁ、終わりだ!全く!どうしてそんな事に…」
力無く倒れ込むようにまた椅子に座った父親に、エステルはここぞとばかりに反論する。
「お父様!まさかとは思いますが誤解なさっているのですか!?私は、子爵家のお金など横領なんてするはずありませんわ!」
「分かっておる!あぁ…事実なんてこの際どうでもいいのだ。そのような噂が出回るなんて、うちの信用が無くなるではないか…。」
「それは…!でも、トゥーレ様が勝手に言われたのです!」
「あぁ、そうだろうとも!きっとその女達への貢ぐ金欲しさに、大方トゥーレが盗んだのだろうよ!でもな、エステル…貴族社会とは、そんな真実はどうだっていいのだよ。ただ、レッテルが張られてしまったならその後、どうなるか分かるか?」
「…。」
「エステルの弟であるアルヴィの結婚に支障が出て、この伯爵家が次代に繋げなくなっては困るのだよ。分かるね?」
「……。」
「エステル。周りへの示しとして、エステルは…エステルは……うちを出て行きなさい。」
「はぁ!?」
エステルはますます眉間にしわを寄せ、淑女にあるまじき声を上げる。
「私だって辛いのだよ。だけどね、分かるだろう?」
「分からないわ!全く分からないですわよ?私、被害者のはずです!何も、悪い事はしておりません!清廉潔白ですわよ!」
「だから、分かっておくれよエステル。ほら、修道院へ行って奉公するよりは、噂が出回るよりも早く市井へ下りて生活する方が刺激があっていいだろう?パルポラ子爵家へ抗議はする。だがね、婚約者の手綱を掴んで操作出来なかったエステルにも少しは非がある、となってしまうんだよ。」
「どうして…。だって……。」
婚約者の手綱を掴んで操作、と言われ、エステルは自分のせいじゃない!と叫びたかったが、確かに非が全くないのかと言われれば、そうではないと言えてしまうと思った。
(婚約者に決まったからと、形ばかりの交流というお茶会に、それこそ当たり障りのない話ばかりをしていたわ。心を砕いて、腹を割って話していたかと問われたら、していなかったわね…。それがつまり、私の非…。)
「…分かりました。」
「おお、分かってくれるか?そうだな…悪いが、暫くはこちらへ帰って来られないだろうがエステルなら大丈夫だろう。」
(帰ってくると体裁が悪いという事ね…。全く。貴族ってば面倒だわ。それに、私なら大丈夫ってどの口が言うのよ?私、そんなに強くはないのに…。でも、私を理解してくれないお父様の元にいるよりも、一人になった方が気楽なのかもしれないわね…。)
「……。」
エステルは、その父親の言葉に腹立たしさを滲ませ言葉を発する事もなく睨みつける。が、父親はそれには見ない振りをし、言葉を続ける。
「あぁ、エステル。荷物は最小限で行きなさい。支度金は今回このような事となった為に大量に渡す事は出来ないが、僅かばかりの金でどうにかしてくれ。なに、エステルならどうにか増やす事も出来るだろう。さぁ、行きなさい。」
「い、今からですか?」
「そうだよ。こういうのは、早い方がいい。」
(そんな…!でも仕方ないわ。これ以上ここにいても、分かってもらえないのは辛いものね。)
エステルはそう思い、やっぱり口を開くと何を言ってしまうか自分でも分からない為、唇を噛みつつも敢えて深々とお辞儀をしてから部屋を辞した。
その言葉に、エステルは何故自分が罵声を浴びせられないといけないのか分からず困惑する。労いと慰めの言葉を掛けられるかと思っていたのに、父の普段と声や態度とは全く違う、威厳ある伯爵家の当主らしい冷たいその声に身を強張らせた。
エステルは、屋敷に帰ると早速父親のいる執務室へと向かい、出来事を報告したのだ。
伯爵の仕事である、ここカブソンルンドの特産品である、リボン状の織物を仕分けしていた彼は、エステルの突然の訪問に驚きつつも耳を傾け聞いていると徐々に拳を振るわせ、話し終わると机を叩いて立ち上がりながらそう言ったのだった。
「なんだそれは!?あぁ、終わりだ!全く!どうしてそんな事に…」
力無く倒れ込むようにまた椅子に座った父親に、エステルはここぞとばかりに反論する。
「お父様!まさかとは思いますが誤解なさっているのですか!?私は、子爵家のお金など横領なんてするはずありませんわ!」
「分かっておる!あぁ…事実なんてこの際どうでもいいのだ。そのような噂が出回るなんて、うちの信用が無くなるではないか…。」
「それは…!でも、トゥーレ様が勝手に言われたのです!」
「あぁ、そうだろうとも!きっとその女達への貢ぐ金欲しさに、大方トゥーレが盗んだのだろうよ!でもな、エステル…貴族社会とは、そんな真実はどうだっていいのだよ。ただ、レッテルが張られてしまったならその後、どうなるか分かるか?」
「…。」
「エステルの弟であるアルヴィの結婚に支障が出て、この伯爵家が次代に繋げなくなっては困るのだよ。分かるね?」
「……。」
「エステル。周りへの示しとして、エステルは…エステルは……うちを出て行きなさい。」
「はぁ!?」
エステルはますます眉間にしわを寄せ、淑女にあるまじき声を上げる。
「私だって辛いのだよ。だけどね、分かるだろう?」
「分からないわ!全く分からないですわよ?私、被害者のはずです!何も、悪い事はしておりません!清廉潔白ですわよ!」
「だから、分かっておくれよエステル。ほら、修道院へ行って奉公するよりは、噂が出回るよりも早く市井へ下りて生活する方が刺激があっていいだろう?パルポラ子爵家へ抗議はする。だがね、婚約者の手綱を掴んで操作出来なかったエステルにも少しは非がある、となってしまうんだよ。」
「どうして…。だって……。」
婚約者の手綱を掴んで操作、と言われ、エステルは自分のせいじゃない!と叫びたかったが、確かに非が全くないのかと言われれば、そうではないと言えてしまうと思った。
(婚約者に決まったからと、形ばかりの交流というお茶会に、それこそ当たり障りのない話ばかりをしていたわ。心を砕いて、腹を割って話していたかと問われたら、していなかったわね…。それがつまり、私の非…。)
「…分かりました。」
「おお、分かってくれるか?そうだな…悪いが、暫くはこちらへ帰って来られないだろうがエステルなら大丈夫だろう。」
(帰ってくると体裁が悪いという事ね…。全く。貴族ってば面倒だわ。それに、私なら大丈夫ってどの口が言うのよ?私、そんなに強くはないのに…。でも、私を理解してくれないお父様の元にいるよりも、一人になった方が気楽なのかもしれないわね…。)
「……。」
エステルは、その父親の言葉に腹立たしさを滲ませ言葉を発する事もなく睨みつける。が、父親はそれには見ない振りをし、言葉を続ける。
「あぁ、エステル。荷物は最小限で行きなさい。支度金は今回このような事となった為に大量に渡す事は出来ないが、僅かばかりの金でどうにかしてくれ。なに、エステルならどうにか増やす事も出来るだろう。さぁ、行きなさい。」
「い、今からですか?」
「そうだよ。こういうのは、早い方がいい。」
(そんな…!でも仕方ないわ。これ以上ここにいても、分かってもらえないのは辛いものね。)
エステルはそう思い、やっぱり口を開くと何を言ってしまうか自分でも分からない為、唇を噛みつつも敢えて深々とお辞儀をしてから部屋を辞した。
26
あなたにおすすめの小説
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。
パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。
お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?
サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。
「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」
リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件
水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
以後、
寝室は強制統合
常時抱っこ移動
一秒ごとに更新される溺愛
妻を傷つける者には容赦なし宣言
甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。
さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――?
自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。
溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ
婚約者と義妹に裏切られたので、ざまぁして逃げてみた
せいめ
恋愛
伯爵令嬢のフローラは、夜会で婚約者のレイモンドと義妹のリリアンが抱き合う姿を見てしまった。
大好きだったレイモンドの裏切りを知りショックを受けるフローラ。
三ヶ月後には結婚式なのに、このままあの方と結婚していいの?
深く傷付いたフローラは散々悩んだ挙句、その場に偶然居合わせた公爵令息や親友の力を借り、ざまぁして逃げ出すことにしたのであった。
ご都合主義です。
誤字脱字、申し訳ありません。
事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~
水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」
第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。
彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。
だが、彼女は知っていた。
その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。
追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。
「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」
「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」
戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。
効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。
平民の方が好きと言われた私は、あなたを愛することをやめました
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私ルーナは、婚約者ラドン王子に「お前より平民の方が好きだ」と言われてしまう。
平民を新しい婚約者にするため、ラドン王子は私から婚約破棄を言い渡して欲しいようだ。
家族もラドン王子の酷さから納得して、言うとおり私の方から婚約を破棄した。
愛することをやめた結果、ラドン王子は後悔することとなる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる