【完結】婚約破棄された彼女は領地を離れて王都で生きていこうとしていたが、止める事にしました。

まりぃべる

文字の大きさ
4 / 23

〈4. 訪れた先は、初めての連続〉

しおりを挟む
 エステルが生まれ育ったガブソンルンド領の東門の端から出ている乗り合い馬車に乗り、この国クリシャンスターメ国の王都の方角へ向かう。


 と言っても、日が暮れる前に馬車に乗れたとはいえ夜通し走るわけにはいかない。
 馬車が通る道は、舗装された道ではなく土が踏み固められた道であったし、道沿いにも夜道を照らす灯りなんてものも無い。
それこそ事故に遭ってもいけないし、少し進んだ小さな村で今日は休む事になる。


(そういえば私のお母様、馬車で出掛けた先で亡くなったと聞いたわ。だからか、お父様は領地の外へほとんど出なかったのよね。)


 エステルは、そんな事を思いながら馬車に揺られていた。
 この馬車は乗り合い馬車な為、板張りの座面に薄っぺらい敷物が一枚、体裁を取り繕うように敷いてあるだけだった。
 伯爵家所有の馬車と比べ、乗り心地は決して良いとは言えないがこれからはこれが普通なのだとエステルは言い聞かせる。


「この村で宿屋に泊まるのね。」


 エステルは、宿屋に泊まる事も初めてだ。母親を早くに亡くし、父親は領主として忙しくしていた為、領地から外に出た事もなかった。


 馬車から降り、馬車の御者が教えてくれたのはこの村で一つだけのこの宿屋だった。
食堂はついていないので、隣にある別の人が経営している食堂へ食べに行かないといけないが、エステルにはなにもかもが新鮮だった。
 王都へと向かう人は、他の客は途中で降りてしまったので、その馬車では王都へ向かうのはエステル一人だった。
 その為、御者は泊まる宿を教えたりエステルをやたらと気に掛けて話し掛けてきた。
 というより、御者は年のほど近いエステルに鼻の下を伸ばしているとも言える。


「よう嬢ちゃん。食堂は夜は酒も提供されるから女の子一人だと危ない。一緒に食べよう。」


 そう御者に言われたエステルは、なんて親切な人だろうと思った。

(なるほど…そういうものなのね。私はこれから、今まで覚えてきた貴族のしきたりではなく、庶民のしきたりを覚えていかないと行けないのだわ。)

「ご親切にありがとうございます。御者さん。私、初めてなので何も分からなくて。教えてもらって助かりました!」

「なんのなんの!そういう客はたくさんいるからね。さぁ、荷物を置いて来たら早速食べに行こう。」

「はい!」



 隣の食堂は、まだそんなに混んではいなかった。

「さぁ、奥に座ろう。」

 そう言った御者は、エステルの背中に手を添えて奥に促した。
エステルは、婚約者だったトゥーレにも片手で数えるほどしかエスコートされておらず、そのようにされると体がびくりとなった。


(エスコートよ、ただの。お父様が良くやってくれるそれだわ。)


 エステルは、そう思い気にしないようにした。


 テーブルにつくと早速、

「今日のお薦めを二つもらおうか。」

 そう御者がエステルに聞きもせずに言い、それからビールも二つ注文する。
 このクリシャンスターメ国では、ビールは十五歳から飲めるが、味や好みもあり飲み慣れていない人もいる。エステルもそれであった。


 程なくして料理がテーブルに並ぶと、御者は促す。

「さぁ、飲んで。今日の出会いに乾杯しよう!」

(ビール、あまり飲んだ事ないんだけどなぁ。でも、初めの一杯だけなら…。)

 エステルが眉間に皺を寄せ、少し戸惑いつつもグラスを上げたその時。


「こんばんは。一緒にいいですか?」


 と、少し離れた同じく壁際に座っていた人が席を立ち、エステルへと声を掛けてきた。

「な、なんだ!君は!」

「お兄さんさぁ…見たところ、彼女お酒慣れてなさそうだけど酔わそうとでも思っていたの?」

「はぁ!?」

「だって、よく見るからね-。酒に慣れてない人に酒を勧める男の人。」

「な…!なわけないだろう!私はね、可愛い彼女が一人だったから、親切心で誘ったんだよ。決してやましい気持ちではなかったさ!」

「ふぅーん。だったら、酒じゃなくて果実ジュースでもよかったんじゃない?ここのジュース、美味しいし。」

「それは…!か、乾杯がしたかったんだ!」

「そう見えなかったけどなぁ…。まぁいいや。僕の連れがお兄さんと話したいみたいだから、場所変わってくれる?」

 そう言った、肩まで伸びた真っ直ぐな黒髪の少年は今まで自分が座っていた席を振り返る。
 黒い髪の、エステルの父親ほどの年齢の厳つい男性が座ってビールジョッキを片手にこちらを見ていた。

「あぁ、このビール持っていってね。」


 ささっと話をまとめた少年は、御者の腕を引っ張って立たせて席へと促し、空いた席に座りエステルへと自己紹介を始めた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

「お前を愛する事は無い」ですか、やっぱり

あんど もあ
ファンタジー
貧乏子爵家の令嬢が「持参金不要」の訳アリ縁談に飛び付いたら、「お前を愛する事は無い」と言われたよ〜、というよくある話。

婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。

お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?

サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。 「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」 リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

婚約者と義妹に裏切られたので、ざまぁして逃げてみた

せいめ
恋愛
 伯爵令嬢のフローラは、夜会で婚約者のレイモンドと義妹のリリアンが抱き合う姿を見てしまった。  大好きだったレイモンドの裏切りを知りショックを受けるフローラ。  三ヶ月後には結婚式なのに、このままあの方と結婚していいの?  深く傷付いたフローラは散々悩んだ挙句、その場に偶然居合わせた公爵令息や親友の力を借り、ざまぁして逃げ出すことにしたのであった。  ご都合主義です。  誤字脱字、申し訳ありません。

事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~

水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」 第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。 彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。 だが、彼女は知っていた。 その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。 追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。 「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」 「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」 戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。 効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。

平民の方が好きと言われた私は、あなたを愛することをやめました

天宮有
恋愛
公爵令嬢の私ルーナは、婚約者ラドン王子に「お前より平民の方が好きだ」と言われてしまう。 平民を新しい婚約者にするため、ラドン王子は私から婚約破棄を言い渡して欲しいようだ。 家族もラドン王子の酷さから納得して、言うとおり私の方から婚約を破棄した。 愛することをやめた結果、ラドン王子は後悔することとなる。

処理中です...