【完結】婚約破棄された彼女は領地を離れて王都で生きていこうとしていたが、止める事にしました。

〈5. 彼との出会いは、旅の楽しみ〉

「僕はね、レーヴィというよ。今年で十五歳になったんだ、よろしく。いきなりでごめんね。でも、見ていたらお姉さんはあのお兄さんにお持ち帰りされてもいけないからと声を掛けちゃったよ。」

　と、黒髪の少年はニコニコと人当たりの良い顔でエステルへと言った。

「そうなの？お持ち帰りって…？
私は、エステル=シス…いえ、エステルよ。今年で十八歳になったわ。
あの人はね、乗り合い馬車の御者さんなのよ。王都まで行くのに、乗せてもらったのよ。」

　先ほどの御者へと向けた挑戦的な口調ではない、優しい口調となったレーヴィにエステルはそう答えた。年下であるし、自然と弟に話すような感じで言葉を返す。

「へー…エステルさんって、王都へ行くの？一人で？」

「え、ええ。まぁ…いろいろとあったの。」

　エステルは、さすがに自分の身に起こった事を全て今話すべきか迷い、濁すように言う。

「そう……まぁ、人生っていろいろとあるよね。でも、一人で大丈夫？見たところ、慣れてないように思ったから。」

「ええ、確かに慣れていないわ。自分の住み慣れた領地から出るのが今日が初めてだったの。でも、だから親切な御者さんがいろいろと世話をしてくれたから助かったのよ。この隣の宿屋に泊まる事も教えてくれたし、食堂にも一人で食べに行くと危ないって教えてくれたのよ。馬車もね、普段より安い値段で乗せてくれるって言ってくれたの。だから、悪い人ではないのよ？」

　と、先ほどのやり取りで御者を悪者にさせないようにとエステルはそう言った。

「安いって…いくらって言われたの？」

「えっと、金貨三枚。手持ちが減ってしまったけれど、自分で歩いて行くには遠いもの。」


　エステルは、屋敷から出る時に、少しの着替えと手渡された金貨、銀貨、銅貨それぞれ十枚を持って来ていた。
市井の生活では、銅貨があれば普段の生活はほとんど生活できると言われている。
　つまり、エステルは高額な値段を吹っかけられたのだ。


「金貨三枚…。ねぇ、エステルさん。僕らも、一緒に王都へ行っていい？」

「え？でも…レーヴィくんはここの村の人ではないの？」

　服装は質素であったし軽装でもあったから普段着なのかと思ったのだ。

「やだなぁ。エステルさんのが年上なのだから、レーヴィって呼んで！それに、王都に僕らも用事があったんだよね。」

　と、優しい笑みを返すレーヴィ。

（そうなのね。私も、あの御者さんと二人というよりは、大勢居た方がいいのかもしれないわ。）

　初めて会ったのにも関わらず弟のように気軽に話してくるレーヴィに、アルヴィ弟の事を重ねて懐かしく感じながらエステルは、

「馬車では退屈だったから一緒に行けるのなら私も嬉しいけど…」

　と返す。

「本当！？嫌ではないのなら良かった！早速連れに話してきていい？あ、これ先に食べてて！すぐに戻って来るからね！」

　そういったレーヴィは、ガタンと席を勢いよく立ち上がり、先ほどの席へと戻っていく。


（話しやすい子…。それに、感じもいいわね。）

　エステルは、知らず笑顔になり、食事を食べながらそう思った。