【完結】婚約破棄された彼女は領地を離れて王都で生きていこうとしていたが、止める事にしました。

まりぃべる

文字の大きさ
6 / 23

〈6. 王都へ胸を弾ませ、出発〉

しおりを挟む
 あれから少しして席に戻ってきたレーヴィは、席を立ったついでにエステルへと果実ジュースを注文していたようで、レーヴィが戻る頃にジュースもテーブルへと提供された。


「え?ありがとう!レーヴィ!」

「どういたしまして!それより、勝手に頼んだけれど良かった?」

「ええ。でも、これは何かしら?」

「それはベリージュースだよ。色も、ブドウ酒みたいでしょう?」

「本当に。きれいだわ!」

「そう言ってくれたなら良かった!では、ささやかながら…今日のこの出会いに乾杯!」

「フフフ。乾杯!」

 エステルは、この言葉を御者に言われた先ほどは少し警戒したのだ。だが、自分より三歳年下のかわいらしい男の子に言われ、微笑ましく思いながらグラスを上げた。




☆★

 翌日。


 あれから小一時間ほどレーヴィと食事を楽しんだエステルは、共に宿屋へ戻る。
 その際にレーヴィから夜が明ける前に宿屋の玄関に集合と言われたのでエステルは、部屋へ戻ると身支度を整え、早々に寝る事とした。
いろいろとあった一日ではあったが、夕食にはレーヴィと楽しい会話をしていたし、慣れない馬車に揺られた為かすぐに寝付いていた。



 翌朝。
 エステルが荷物を持って玄関へと行くと、すでにレーヴィは連れと一緒に立っていた。

「おはよう!エステルさん。さぁ行こう!」

「あ、待って!支払いをするわ。」

「お客さん、もうそちらの方が払ってくれたよ。」

 エステルが、カウンターへと行こうとすると、カウンターにいた店主がそう言った。

「え!あ、えと…ありがとうございました!」

 エステルは焦りながらもまず宿屋の店主へとお礼を言い、次にレーヴィに駆け寄る。するといつの間にか連れはいなくなっており、レーヴィだけだった。


「レーヴィ、おはよう。えっと、支払うわ!幾らだったの?」

「いいえここは持たせてよ!エステルさんはきっとこれから大変だろうからね。」

「え、でもそんな事言って、昨日の食事代だっていつの間にか支払ってくれていだでしょう?」

「さぁさぁ、そんな事よりも早く出発するから馬車に乗るよ!」

 そう話を逸らされ、促されたエステルは、レーヴィが伸ばした手にドキリと心臓がはねる。荷物カバンをスッと自分の左手に持ち替えると、エステルの左手を優しく握ってエスコートする。馬車が置かれた場所までの距離は短く、すぐに手は離された。

「さぁ、とりあえず乗って?」

「ええ。お願いしま…す?あら?」

「はい、どうぞ。私はラッセと言います。」

 御者席にいた人物は、昨日の人物とは違い、レーヴィの連れだと言った人だった。

「えっと…?」

「あぁ、昨日の御者をされてた方は、急遽が出来たとかで、行けなくなったと言われましてね。それでも、あなた様の事を気にされてましたよ。王都へとお連れ出来ないと。それを聞き、ちょうど私共も王都へ予定がありますからこの馬車をしたのです。あ、お金もお返しいただきましたよ。」

 そう言ったラッセと名乗った四十代前後の恰幅のいい男性が、お金をエステルへと渡した。

「あ…そうなのです…?え?でも、こんなに!」

 返ってきた金額は、エステルが渡したのと同じ額の金貨三枚だった。

「あぁ、金貨三枚なんてちょっと貰い過ぎたと言われてましたよ。」

「でも、この村まで連れてきてくれた分は…」

「まぁ、気にされなくて大丈夫ですよ。乗り合い馬車は本来そんなに高くないのです。そうですね…王都までならせいぜい銀貨一枚ほどです。」

「ラッセ!もういいだろう!…さぁ、乗りましょう。」

「はいはい…では、お乗り下さい。」

「ええ…。」

「あ、ほら。お手をどうぞ。」

「ありがとう、レーヴィ!」

(間違えて、かぁ…。本来なら銀貨一枚だったなんて。でも、レーヴィもラッセさんもありがたいわ。お金は大事だもの!それに、一緒に乗る相手がいるなんて楽しいわね!あぁ、王都はどんな所なのかしら!)


 エステルは、戸惑いながらもそう思い、レーヴィにエスコートされながら馬車へと乗り込んだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

白い結婚のはずでしたが、理屈で抗った結果すべて自分で詰ませました

鷹 綾
恋愛
「完璧すぎて可愛げがない」 そう言われて王太子から婚約破棄された公爵令嬢ノエリア・ヴァンローゼ。 ――ですが本人は、わざとらしい嘘泣きで 「よ、よ、よ、よ……遊びでしたのね!」 と大騒ぎしつつ、内心は完全に平常運転。 むしろ彼女の目的はただ一つ。 面倒な恋愛も政治的干渉も避け、平穏に生きること。 そのために選んだのは、冷徹で有能な公爵ヴァルデリオとの 「白い結婚」という、完璧に合理的な契約でした。 ――のはずが。 純潔アピール(本人は無自覚)、 排他的な“管理”(本人は合理的判断)、 堂々とした立ち振る舞い(本人は通常運転)。 すべてが「戦略」に見えてしまい、 気づけば周囲は完全包囲。 逃げ道は一つずつ消滅していきます。 本人だけが最後まで言い張ります。 「これは恋ではありませんわ。事故ですの!」 理屈で抗い、理屈で自滅し、 最終的に理屈ごと恋に敗北する―― 無自覚戦略無双ヒロインの、 白い結婚(予定)ラブコメディ。 婚約破棄ざまぁ × コメディ強め × 溺愛必至。 最後に負けるのは、世界ではなく――ヒロイン自身です。 -

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

今さら「間違いだった」? ごめんなさい、私、もう王子妃なんですけど

有賀冬馬
恋愛
「貴族にふさわしくない」そう言って、私を蔑み婚約を破棄した騎士様。 私はただの商人の娘だから、仕方ないと諦めていたのに。 偶然出会った隣国の王子は、私をありのまま愛してくれた。 そして私は、彼の妃に――。 やがて戦争で窮地に陥り、助けを求めてきた騎士様の国。 外交の場に現れた私の姿に、彼は絶句する。

偽りの断罪で追放された悪役令嬢ですが、実は「豊穣の聖女」でした。辺境を開拓していたら、氷の辺境伯様からの溺愛が止まりません!

黒崎隼人
ファンタジー
「お前のような女が聖女であるはずがない!」 婚約者の王子に、身に覚えのない罪で断罪され、婚約破棄を言い渡された公爵令嬢セレスティナ。 罰として与えられたのは、冷酷非情と噂される「氷の辺境伯」への降嫁だった。 それは事実上の追放。実家にも見放され、全てを失った――はずだった。 しかし、窮屈な王宮から解放された彼女は、前世で培った知識を武器に、雪と氷に閉ざされた大地で新たな一歩を踏み出す。 「どんな場所でも、私は生きていける」 打ち捨てられた温室で土に触れた時、彼女の中に眠る「豊穣の聖女」の力が目覚め始める。 これは、不遇の令嬢が自らの力で運命を切り開き、不器用な辺境伯の凍てついた心を溶かし、やがて世界一の愛を手に入れるまでの、奇跡と感動の逆転ラブストーリー。 国を捨てた王子と偽りの聖女への、最高のざまぁをあなたに。

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

契約書にサインをどうぞ、旦那様 ~お飾り妻の再雇用は永年契約でした~

有沢楓花
恋愛
――お飾り妻、平穏な離婚のため、契約書を用意する。  子爵家令嬢グラディス・シャムロックは、結婚式を目前にしてバセット子爵家嫡男の婚約者・アーロンが出奔したため、捨てられ令嬢として社交界の評判になっていた。  しかも婚約はアーロンの未婚の兄弟のうち「一番出来の悪い」弟・ヴィンセントにスライドして、たった数日で結婚する羽目になったのだから尚更だ。 「いいか、お前はお飾りの花嫁だ。これは政略結婚で、両家の都合に過ぎず……」 「状況認識に齟齬がなくて幸いです。それでは次に、建設的なお話をいたしましょう」  哀れなお飾り妻――そんな世間の噂を裏付けるように、初夜に面倒くさそうに告げるヴィンセントの言葉を、グラディスは微笑んで受けた。  そして代わりに差し出したのは、いつか来る離婚の日のため、お互いが日常を取り戻すための条件を書き連ねた、長い長い契約書。 「こちらの契約書にサインをどうぞ、旦那様」  勧められるままサインしてしまったヴィンセントは、後からその条件を満たすことに苦労――する前に、理解していなかった。  契約書の内容も。  そして、グラディスの真意も。  この話は他サイトにも掲載しています。 ※全4話+おまけ1話です。

「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で“価値の高い女性”だった

佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・エレガント公爵令嬢とフレッド・ユーステルム王太子殿下は婚約成立を祝した。 その数週間後、ヴァレンティノ王立学園50周年の創立記念パーティー会場で、信じられない事態が起こった。 フレッド殿下がセリーヌ令嬢に婚約破棄を宣言した。様々な分野で活躍する著名な招待客たちは、激しい動揺と衝撃を受けてざわつき始めて、人々の目が一斉に注がれる。 フレッドの横にはステファニー男爵令嬢がいた。二人は恋人のような雰囲気を醸し出す。ステファニーは少し前に正式に聖女に選ばれた女性であった。 ステファニーの策略でセリーヌは罪を被せられてしまう。信じていた幼馴染のアランからも冷たい視線を向けられる。 セリーヌはいわれのない無実の罪で国を追放された。悔しくてたまりませんでした。だが彼女には秘められた能力があって、それは聖女の力をはるかに上回るものであった。 彼女はヴァレンティノ王国にとって絶対的に必要で貴重な女性でした。セリーヌがいなくなるとステファニーは聖女の力を失って、国は急速に衰退へと向かう事となる……。

処理中です...