【完結】婚約破棄された彼女は領地を離れて王都で生きていこうとしていたが、止める事にしました。

まりぃべる

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〈22. レーヴィが帰ってきて、嬉しかったのよ〉

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 ヘルミが、お腹が空いたと言って奥の倉庫から食べ物を出してきた。
ここは、隠れ家の為日持ちする食べ物は常に置いてあるのだ。

「時間が掛かるかもしれないものね。あ、彼らにも渡してくるわ。」

 干し肉とパンと果実ジュースを男性三人にも渡す。家が狭いのだが、彼らは窓際に身を寄せている。ヘルミとエステルが話をするのに遠慮も少しはあるが、警戒をしているというのが本音だ。
 何もないとは思うが一応、エステルとヘルミへの護衛として元騎士団の彼らを置いて行ったのだ。





☆★

 食事が終わり、ヘルミと紅茶を飲んでいると、扉がまた不規則に叩かれたあとに開いた。

「ただいま!」

 レーヴィが、出掛ける前とは違い明るい声で言った。

「お帰りなさい!…あら!?」

 エステルがホッとして言うと、レーヴィは満面の笑みでエステルに近づく。だが、エステルはレーヴィの髪色が金髪になっている事に驚いた。

「良かった…帰ってこれたよ。ん?あ、鬘被ってたんだ。金髪って目立つから。
ねぇ、エステル、一緒に行こう?どうかなぁ。それとも、ここで、先生になる?」

「あ…!」

 エステルは、そうだった、考えていなかったと思った。

(レーヴィがアードルフ国王に会いに行ったと聞いて、大丈夫なのかとハラハラしていてそれを考えるどころでは無かったわ…。でも。)

「ええ、行く。行くわ!」

「本当!?良かった…!皆に、なぜあそこへ行くのかと言われたんだ。でも、僕には、アードルフおじさまを葬って王位を奪うなんて出来なくて…あ!ヘルミから僕の立場、聞いた?」

「うん、聞いたわ。レーヴィって王太子様だったのね。」

「止めてね、聞いたからって今まで通りに接してよ?よそよそしくなったりしないでね?
…でさ、エステルが心配していたように、この国を前のように戻す事は僕には無理なんだ。今の国のやり方で、現に喜んでいる人がいる。本当は、そのシワ寄せとして地方の人達に重税がかかっているんだ。喜んでいる人の裏で苦しんでいる人がいる。でも、それでもこのクリシャンスターメ国がいいなら仕方ないと思っている。僕は弱い人間なんだ。ずるい人間なんだ。それでも…」

 そう話していたレーヴィはだんだん下を向き始める。
エステルは、彼も悩んでいたんだと思って、エステルより少しだけ高い身長のレーヴィの肩を叩く。

「レーヴィ。それでも、レーヴィは頑張っていると思うわ。決断って、難しいものね。どちらに転んでもきっと喜んでいる人の裏で苦しんでいる人がいるのだと思う。だって、私の住んでいたカブソンルンドでもそうだったもの。だけど、レーヴィは今から、ベーネルスタードへ行くのでしょう?そこで、一から作り直すのでしょう?少しでも苦しむ人が減るように、皆で一緒に考えましょう?」

 そう、励ますようにエステルが言うと、レーヴィは顔を上げる。涙を堪えて、泣き笑いのような顔になったが、それを隠すようにエステルを抱き締めた。

「エステル、ありがとう…!大好きだよ!初めて会った時、あんな御者に騙されそうになってるのを見て心配だったんだ。年上でしっかりしているように見えるのになんだかほっとけなくて。エステル、苦労を掛けるかもしれないけれど、共に分かち合っていきたい。」

「レーヴィ…!」

 エステルは、レーヴィのその言葉に胸を打たれた。そして、抱き締められているレーヴィの背中にそっと手を回した。


「ま!良かったわね!でも、急いだ方がいいわよ?追っ手が来ないとも限らないし。」

 少ししてヘルミが咳払いをしてからそう言った。
エステルは、皆がいたんだと慌てて体を放す。

「あーあ!エステルが離れちゃったじゃないか!でも確かにそうだね。分かったよ、行こう。」

「あ、レーヴィ。ご飯は?」

「うーん、いい!それ、家族みたいだね!お腹は空いてるから咥えながら行くよ!」

 そう言って、干し肉を口に咥えた。


「あ、エステル、ごめんなさい。勝手に部屋に入ってしまって。荷物、取ってきたのよ。」

 そう言ったヘルミは、持って来た大きなカバンの中からエステルのカバンを取り出した。

「あ、ありがとう!戻らなくていいのね。じゃあ今から出発?」

「ああ。行こう!僕達の新しい場所へ!」



 新しい地。
エステルはまだ、どんな場所かは見ていない。荒れ果てた領地と聞いているから、一から建て直すのは大変だ、と思う。

 でもエステルは、

(レーヴィやヘルミ達と一緒に、新しい場所で生きていくわ!)

 と、決意を新たにした。






☆★

これで本編は終わりです。
あと、一話です。
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