22 / 23
〈22. レーヴィが帰ってきて、嬉しかったのよ〉
しおりを挟む
ヘルミが、お腹が空いたと言って奥の倉庫から食べ物を出してきた。
ここは、隠れ家の為日持ちする食べ物は常に置いてあるのだ。
「時間が掛かるかもしれないものね。あ、彼らにも渡してくるわ。」
干し肉とパンと果実ジュースを男性三人にも渡す。家が狭いのだが、彼らは窓際に身を寄せている。ヘルミとエステルが話をするのに遠慮も少しはあるが、警戒をしているというのが本音だ。
何もないとは思うが一応、エステルとヘルミへの護衛として元騎士団の彼らを置いて行ったのだ。
☆★
食事が終わり、ヘルミと紅茶を飲んでいると、扉がまた不規則に叩かれたあとに開いた。
「ただいま!」
レーヴィが、出掛ける前とは違い明るい声で言った。
「お帰りなさい!…あら!?」
エステルがホッとして言うと、レーヴィは満面の笑みでエステルに近づく。だが、エステルはレーヴィの髪色が金髪になっている事に驚いた。
「良かった…帰ってこれたよ。ん?あ、鬘被ってたんだ。金髪って目立つから。
ねぇ、エステル、一緒に行こう?どうかなぁ。それとも、ここで、先生になる?」
「あ…!」
エステルは、そうだった、考えていなかったと思った。
(レーヴィがアードルフ国王に会いに行ったと聞いて、大丈夫なのかとハラハラしていてそれを考えるどころでは無かったわ…。でも。)
「ええ、行く。行くわ!」
「本当!?良かった…!皆に、なぜあそこへ行くのかと言われたんだ。でも、僕には、アードルフおじさまを葬って王位を奪うなんて出来なくて…あ!ヘルミから僕の立場、聞いた?」
「うん、聞いたわ。レーヴィって王太子様だったのね。」
「止めてね、聞いたからって今まで通りに接してよ?よそよそしくなったりしないでね?
…でさ、エステルが心配していたように、この国を前のように戻す事は僕には無理なんだ。今の国のやり方で、現に喜んでいる人がいる。本当は、そのシワ寄せとして地方の人達に重税がかかっているんだ。喜んでいる人の裏で苦しんでいる人がいる。でも、それでもこのクリシャンスターメ国がいいなら仕方ないと思っている。僕は弱い人間なんだ。ずるい人間なんだ。それでも…」
そう話していたレーヴィはだんだん下を向き始める。
エステルは、彼も悩んでいたんだと思って、エステルより少しだけ高い身長のレーヴィの肩を叩く。
「レーヴィ。それでも、レーヴィは頑張っていると思うわ。決断って、難しいものね。どちらに転んでもきっと喜んでいる人の裏で苦しんでいる人がいるのだと思う。だって、私の住んでいたカブソンルンドでもそうだったもの。だけど、レーヴィは今から、ベーネルスタードへ行くのでしょう?そこで、一から作り直すのでしょう?少しでも苦しむ人が減るように、皆で一緒に考えましょう?」
そう、励ますようにエステルが言うと、レーヴィは顔を上げる。涙を堪えて、泣き笑いのような顔になったが、それを隠すようにエステルを抱き締めた。
「エステル、ありがとう…!大好きだよ!初めて会った時、あんな男に騙されそうになってるのを見て心配だったんだ。年上でしっかりしているように見えるのになんだかほっとけなくて。エステル、苦労を掛けるかもしれないけれど、共に分かち合っていきたい。」
「レーヴィ…!」
エステルは、レーヴィのその言葉に胸を打たれた。そして、抱き締められているレーヴィの背中にそっと手を回した。
「ま!良かったわね!でも、急いだ方がいいわよ?追っ手が来ないとも限らないし。」
少ししてヘルミが咳払いをしてからそう言った。
エステルは、皆がいたんだと慌てて体を放す。
「あーあ!エステルが離れちゃったじゃないか!でも確かにそうだね。分かったよ、行こう。」
「あ、レーヴィ。ご飯は?」
「うーん、いい!それ、家族みたいだね!お腹は空いてるから咥えながら行くよ!」
そう言って、干し肉を口に咥えた。
「あ、エステル、ごめんなさい。勝手に部屋に入ってしまって。荷物、取ってきたのよ。」
そう言ったヘルミは、持って来た大きなカバンの中からエステルのカバンを取り出した。
「あ、ありがとう!戻らなくていいのね。じゃあ今から出発?」
「ああ。行こう!僕達の新しい場所へ!」
新しい地。
エステルはまだ、どんな場所かは見ていない。荒れ果てた領地と聞いているから、一から建て直すのは大変だ、と思う。
でもエステルは、
(レーヴィやヘルミ達と一緒に、新しい場所で生きていくわ!)
と、決意を新たにした。
☆★
これで本編は終わりです。
あと、一話です。
ここは、隠れ家の為日持ちする食べ物は常に置いてあるのだ。
「時間が掛かるかもしれないものね。あ、彼らにも渡してくるわ。」
干し肉とパンと果実ジュースを男性三人にも渡す。家が狭いのだが、彼らは窓際に身を寄せている。ヘルミとエステルが話をするのに遠慮も少しはあるが、警戒をしているというのが本音だ。
何もないとは思うが一応、エステルとヘルミへの護衛として元騎士団の彼らを置いて行ったのだ。
☆★
食事が終わり、ヘルミと紅茶を飲んでいると、扉がまた不規則に叩かれたあとに開いた。
「ただいま!」
レーヴィが、出掛ける前とは違い明るい声で言った。
「お帰りなさい!…あら!?」
エステルがホッとして言うと、レーヴィは満面の笑みでエステルに近づく。だが、エステルはレーヴィの髪色が金髪になっている事に驚いた。
「良かった…帰ってこれたよ。ん?あ、鬘被ってたんだ。金髪って目立つから。
ねぇ、エステル、一緒に行こう?どうかなぁ。それとも、ここで、先生になる?」
「あ…!」
エステルは、そうだった、考えていなかったと思った。
(レーヴィがアードルフ国王に会いに行ったと聞いて、大丈夫なのかとハラハラしていてそれを考えるどころでは無かったわ…。でも。)
「ええ、行く。行くわ!」
「本当!?良かった…!皆に、なぜあそこへ行くのかと言われたんだ。でも、僕には、アードルフおじさまを葬って王位を奪うなんて出来なくて…あ!ヘルミから僕の立場、聞いた?」
「うん、聞いたわ。レーヴィって王太子様だったのね。」
「止めてね、聞いたからって今まで通りに接してよ?よそよそしくなったりしないでね?
…でさ、エステルが心配していたように、この国を前のように戻す事は僕には無理なんだ。今の国のやり方で、現に喜んでいる人がいる。本当は、そのシワ寄せとして地方の人達に重税がかかっているんだ。喜んでいる人の裏で苦しんでいる人がいる。でも、それでもこのクリシャンスターメ国がいいなら仕方ないと思っている。僕は弱い人間なんだ。ずるい人間なんだ。それでも…」
そう話していたレーヴィはだんだん下を向き始める。
エステルは、彼も悩んでいたんだと思って、エステルより少しだけ高い身長のレーヴィの肩を叩く。
「レーヴィ。それでも、レーヴィは頑張っていると思うわ。決断って、難しいものね。どちらに転んでもきっと喜んでいる人の裏で苦しんでいる人がいるのだと思う。だって、私の住んでいたカブソンルンドでもそうだったもの。だけど、レーヴィは今から、ベーネルスタードへ行くのでしょう?そこで、一から作り直すのでしょう?少しでも苦しむ人が減るように、皆で一緒に考えましょう?」
そう、励ますようにエステルが言うと、レーヴィは顔を上げる。涙を堪えて、泣き笑いのような顔になったが、それを隠すようにエステルを抱き締めた。
「エステル、ありがとう…!大好きだよ!初めて会った時、あんな男に騙されそうになってるのを見て心配だったんだ。年上でしっかりしているように見えるのになんだかほっとけなくて。エステル、苦労を掛けるかもしれないけれど、共に分かち合っていきたい。」
「レーヴィ…!」
エステルは、レーヴィのその言葉に胸を打たれた。そして、抱き締められているレーヴィの背中にそっと手を回した。
「ま!良かったわね!でも、急いだ方がいいわよ?追っ手が来ないとも限らないし。」
少ししてヘルミが咳払いをしてからそう言った。
エステルは、皆がいたんだと慌てて体を放す。
「あーあ!エステルが離れちゃったじゃないか!でも確かにそうだね。分かったよ、行こう。」
「あ、レーヴィ。ご飯は?」
「うーん、いい!それ、家族みたいだね!お腹は空いてるから咥えながら行くよ!」
そう言って、干し肉を口に咥えた。
「あ、エステル、ごめんなさい。勝手に部屋に入ってしまって。荷物、取ってきたのよ。」
そう言ったヘルミは、持って来た大きなカバンの中からエステルのカバンを取り出した。
「あ、ありがとう!戻らなくていいのね。じゃあ今から出発?」
「ああ。行こう!僕達の新しい場所へ!」
新しい地。
エステルはまだ、どんな場所かは見ていない。荒れ果てた領地と聞いているから、一から建て直すのは大変だ、と思う。
でもエステルは、
(レーヴィやヘルミ達と一緒に、新しい場所で生きていくわ!)
と、決意を新たにした。
☆★
これで本編は終わりです。
あと、一話です。
26
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
白い結婚のはずでしたが、理屈で抗った結果すべて自分で詰ませました
鷹 綾
恋愛
「完璧すぎて可愛げがない」
そう言われて王太子から婚約破棄された公爵令嬢ノエリア・ヴァンローゼ。
――ですが本人は、わざとらしい嘘泣きで
「よ、よ、よ、よ……遊びでしたのね!」
と大騒ぎしつつ、内心は完全に平常運転。
むしろ彼女の目的はただ一つ。
面倒な恋愛も政治的干渉も避け、平穏に生きること。
そのために選んだのは、冷徹で有能な公爵ヴァルデリオとの
「白い結婚」という、完璧に合理的な契約でした。
――のはずが。
純潔アピール(本人は無自覚)、
排他的な“管理”(本人は合理的判断)、
堂々とした立ち振る舞い(本人は通常運転)。
すべてが「戦略」に見えてしまい、
気づけば周囲は完全包囲。
逃げ道は一つずつ消滅していきます。
本人だけが最後まで言い張ります。
「これは恋ではありませんわ。事故ですの!」
理屈で抗い、理屈で自滅し、
最終的に理屈ごと恋に敗北する――
無自覚戦略無双ヒロインの、
白い結婚(予定)ラブコメディ。
婚約破棄ざまぁ × コメディ強め × 溺愛必至。
最後に負けるのは、世界ではなく――ヒロイン自身です。
-
辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~
紫月 由良
恋愛
辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。
魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。
※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています
今さら「間違いだった」? ごめんなさい、私、もう王子妃なんですけど
有賀冬馬
恋愛
「貴族にふさわしくない」そう言って、私を蔑み婚約を破棄した騎士様。
私はただの商人の娘だから、仕方ないと諦めていたのに。
偶然出会った隣国の王子は、私をありのまま愛してくれた。
そして私は、彼の妃に――。
やがて戦争で窮地に陥り、助けを求めてきた騎士様の国。
外交の場に現れた私の姿に、彼は絶句する。
偽りの断罪で追放された悪役令嬢ですが、実は「豊穣の聖女」でした。辺境を開拓していたら、氷の辺境伯様からの溺愛が止まりません!
黒崎隼人
ファンタジー
「お前のような女が聖女であるはずがない!」
婚約者の王子に、身に覚えのない罪で断罪され、婚約破棄を言い渡された公爵令嬢セレスティナ。
罰として与えられたのは、冷酷非情と噂される「氷の辺境伯」への降嫁だった。
それは事実上の追放。実家にも見放され、全てを失った――はずだった。
しかし、窮屈な王宮から解放された彼女は、前世で培った知識を武器に、雪と氷に閉ざされた大地で新たな一歩を踏み出す。
「どんな場所でも、私は生きていける」
打ち捨てられた温室で土に触れた時、彼女の中に眠る「豊穣の聖女」の力が目覚め始める。
これは、不遇の令嬢が自らの力で運命を切り開き、不器用な辺境伯の凍てついた心を溶かし、やがて世界一の愛を手に入れるまでの、奇跡と感動の逆転ラブストーリー。
国を捨てた王子と偽りの聖女への、最高のざまぁをあなたに。
婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです
藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。
家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。
その“褒賞”として押しつけられたのは――
魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。
けれど私は、絶望しなかった。
むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。
そして、予想外の出来事が起きる。
――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。
「君をひとりで行かせるわけがない」
そう言って微笑む勇者レオン。
村を守るため剣を抜く騎士。
魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。
物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。
彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。
気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き――
いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。
もう、誰にも振り回されない。
ここが私の新しい居場所。
そして、隣には――かつての仲間たちがいる。
捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。
これは、そんな私の第二の人生の物語。
契約書にサインをどうぞ、旦那様 ~お飾り妻の再雇用は永年契約でした~
有沢楓花
恋愛
――お飾り妻、平穏な離婚のため、契約書を用意する。
子爵家令嬢グラディス・シャムロックは、結婚式を目前にしてバセット子爵家嫡男の婚約者・アーロンが出奔したため、捨てられ令嬢として社交界の評判になっていた。
しかも婚約はアーロンの未婚の兄弟のうち「一番出来の悪い」弟・ヴィンセントにスライドして、たった数日で結婚する羽目になったのだから尚更だ。
「いいか、お前はお飾りの花嫁だ。これは政略結婚で、両家の都合に過ぎず……」
「状況認識に齟齬がなくて幸いです。それでは次に、建設的なお話をいたしましょう」
哀れなお飾り妻――そんな世間の噂を裏付けるように、初夜に面倒くさそうに告げるヴィンセントの言葉を、グラディスは微笑んで受けた。
そして代わりに差し出したのは、いつか来る離婚の日のため、お互いが日常を取り戻すための条件を書き連ねた、長い長い契約書。
「こちらの契約書にサインをどうぞ、旦那様」
勧められるままサインしてしまったヴィンセントは、後からその条件を満たすことに苦労――する前に、理解していなかった。
契約書の内容も。
そして、グラディスの真意も。
この話は他サイトにも掲載しています。
※全4話+おまけ1話です。
「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で“価値の高い女性”だった
佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・エレガント公爵令嬢とフレッド・ユーステルム王太子殿下は婚約成立を祝した。
その数週間後、ヴァレンティノ王立学園50周年の創立記念パーティー会場で、信じられない事態が起こった。
フレッド殿下がセリーヌ令嬢に婚約破棄を宣言した。様々な分野で活躍する著名な招待客たちは、激しい動揺と衝撃を受けてざわつき始めて、人々の目が一斉に注がれる。
フレッドの横にはステファニー男爵令嬢がいた。二人は恋人のような雰囲気を醸し出す。ステファニーは少し前に正式に聖女に選ばれた女性であった。
ステファニーの策略でセリーヌは罪を被せられてしまう。信じていた幼馴染のアランからも冷たい視線を向けられる。
セリーヌはいわれのない無実の罪で国を追放された。悔しくてたまりませんでした。だが彼女には秘められた能力があって、それは聖女の力をはるかに上回るものであった。
彼女はヴァレンティノ王国にとって絶対的に必要で貴重な女性でした。セリーヌがいなくなるとステファニーは聖女の力を失って、国は急速に衰退へと向かう事となる……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる