【完結】婚約破棄された彼女は領地を離れて王都で生きていこうとしていたが、止める事にしました。

まりぃべる

文字の大きさ
21 / 23

〈21. おじさまに会いに行く  〜レーヴィ視点〜〉

しおりを挟む
 レーヴィは外に出て、ラッセを見つけると駆け寄った。

「ラッセ、どう?」

「手筈は整っております。元々、いつ決断されてもいいように準備しておりましたから。」

「そうか、ありがとう。って、ラッセ、別に今までの話し方でいいのに。」

「それでは威厳が保てません。レーヴィ様は、偉大なるガブリエル国王の血統を受け継いだ、正統なる王太子様なのですから。」

「止めてよ、そう持ち上げるの。まぁ、仕方ないか…今までは隠れていたようなものだし。
騎士団長、腕は鈍っていない?」

「元、ですからね。けれど、今の騎士団にはまだまだ負けませんぞ。命を賭してまで、戦う所存です。」

「だから、そういうの要らないって!いい?この作戦では、誰一人命を落とさないのが目標だからね?」

「第一目標は、ですね。我々は、ガブリエル国王の仇を討ちたいとウズウズしていますから。」

「証拠が無い。変な事するなよ?」

 レーヴィの周りにいる者は皆、野心家のアードルフが兄ガブリエルを葬ったと思っている。
激昂したら、姉を殺めに行ってしまうくらいだ。
 ベーネルスタードに攻め入った後、自らアームの住む村へとこっそりと隠れるように越していったアードルフ。『我を忘れてしまった。名もなき村で謹慎する』と反省の色を見せたがそれも、虎視眈々と王位を狙っていたのを隠す為だろうと誰もが思っている。

 だが、そう。確たる証拠が無い。だからこそ皆、腸が煮えくりかえるほどであるし、アードルフと同じところまで墜ちたくないとも思っている。少なくとも、今は。

「それは、次第ですな。さ、行きますか。」

「うん。」

「…ところで、いつを取るおつもりで?」

「僕が、おじさんに会ったら取るよ。それまでは一応、前国王の息子とバレないようにしたいからね。」

「そうですな。もう少しの辛抱です。さ、ちょっと汚れますがここから。」

「あぁ、懐かしいな。昔はあっち王宮側からこっち王都側までよく抜け出して……」

しか教えられていない通路を使うのですから、当時は皆血相を変えて探されておりましたな……」


 ラッセとレーヴィは、王都の一角にある一見すると何の変哲もない水路だがその実、王宮への隠し通路に歩みを進めた。

ーーー
ーー





 レーヴィは分かれ道を曲がったりしながら迷子にならないよう器用に進み、ある一つの出口へと進んだ。

 そこは、庭園の一角へと続く道だった。

 庭園の茂みへと出たレーヴィは、ラッセと共に辺りを見渡す。体つきの大きなラッセには、少々辛い通路ではあったが、そんな事は言ってられないと肩や首を素早く回した。

「あ、あちらに、アードルフ様が。」

 ラッセがそう言うと、レーヴィも、

「うん。あんなところで…」

 と呟き唇を噛んだ。
 どうやら今の時間は、昼食前の僅かな一時らしく、庭園が見える一角でアードルフは椅子に座ってウトウトと微睡んでいる。

 辺りを見渡しても、衛兵らしき人は見えない。アードルフは、自分は栄華を極めていると油断しているのだ。だから護衛も付けずに一人でいる。

「僕が行く。ここで待て。合図をしたら、姿を現して。」

「承知!」

 レーヴィがそう言って、足早にアードルフへと向かう。目の前に立っても、アードルフはまだ目を覚ます気配が無かった。

「おじさま。アードルフおじさま!」

 意を決してレーヴィがそう声を掛けると、アードルフはゆっくりと目を開けた。

「ん?誰だ?まだ夢を見ているのか?」

「お久しぶりです。」

 そう言って、レーヴィは自身の頭を掴んで引っ張った。すると、黒い髪から、あごのラインで切り揃えられた金髪の髪へと変わり、手には鬘が握られた。
一般庶民が多いとされる黒い髪色の鬘をかぶる事で、市井へと紛れていたのだ。

「お前…レーヴィか!人を呼ぶぞ!?」

「おじさま。あなたと少しお話がしたくて来たのです。聞いて下さいませんか?」

「…なんだ?ここまでどうやって入った?」

 まだ訝しげにアードルフは見ているが、話を聞いてもらえるようでレーヴィはホッとする。

「まず、おじさまの政策は、革新的ですごいです!」

「お?どうした?そうだろう?おかげでどんどん王都へ人が集まってくるだろう?」

「でも、その為にシワ寄せが王都以外の領地にいっていますよ。」

「地方には、以前よりも多額の税率へと引き上げた事か?仕方在るまい。有事の際の備えもせねばならん。」

「それがおじさまのですものね。それで助けられた人がいるのも事実ですし。」

「そうであろう!?無償で基本的な衣食住を提供なんて優良な政策だろうが。兄には考え付かなかった政策ぞ!」

(シワ寄せがくるからやらなかっただけだろ。)

 そうレーヴィは思ったが、アードルフは激昂させると何をしでかすか分からない為に反論は胸にしまって言葉を続ける。

「で、提案があります。僕、ベーネルスタードで暮らしたいので、あの地区をこのクリシャンスタンメ国から独立させて下さい。」

「はぁ!?あの、何も無い地区か!?」

(何もかも無くさせたのは、お前だろうが!!)

 またも、言葉を飲み込んで畳みかける。

「はい。させてくれますよね?
今まで、僕は逃げ隠れていただけだと思いますか?今、僕がこの王宮に入って来たみたいに、いつでもおじさまをどうこうする事なんて出来るのですよ?でも、この半年、それを敢えてしませんでした。それは、僕が平穏な暮らしを望んでいるからです。でも、僕が命令すれば、おじさまなんてすぐに葬れるんです。ほら、見て?」

 そう言ったレーヴィは敢えて、ラッセがいる方角を指差し、姿を見せさせる。

「ラッセがいるって事は、他にもいます。おじさまはおじさまの正義を貫きその理想郷を目指して下さい。僕は僕の正義の元に、生活を送りたいのです。」

「う、うむ…。」

 アードルフは騎士団長であるラッセが苦手だった。
騎士団長であるがゆえ、真面目なのだ。アードルフは事ある毎に小言を言われ、仕返しをしたいが武力では負けてしまう。
だから、アードルフは私兵を結成させてしまったのだ。
所詮寄せ集めではあったが、ベーネルスタードへ攻め入った時、何の知らせもせずにいきなり攻めた為、反撃をする頃には領地は戦火の炎に巻き込まれた後だったのだ。

 苦手なラッセがいる、それだけでアードルフは苦虫を噛み潰したような顔をし、うなり声を上げた。

「おじさま。許可して下さいますよね?僕を殺すより、生かす方が『心が広い偉大な国王』だと国民にも思わせる事が出来ますよね?」

 それが、決定的だった。
アードルフは認めてもらいたいという気持ちが強いのだと、レーヴィはその気持ちを揺さぶったのだ。

「相分かった。聞き入れよう。その代わり、二度とラッセを俺の前に見せるな。」

「ありがとうございます!それは、おじさまの行動次第ですよ。我々に干渉されないのでしたら、僕らも変に干渉しませんから。では。」

 そう言って、レーヴィはアードルフの元を去った。
その間、ラッセはアードルフをずっと睨みつけていた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

白い結婚のはずでしたが、理屈で抗った結果すべて自分で詰ませました

鷹 綾
恋愛
「完璧すぎて可愛げがない」 そう言われて王太子から婚約破棄された公爵令嬢ノエリア・ヴァンローゼ。 ――ですが本人は、わざとらしい嘘泣きで 「よ、よ、よ、よ……遊びでしたのね!」 と大騒ぎしつつ、内心は完全に平常運転。 むしろ彼女の目的はただ一つ。 面倒な恋愛も政治的干渉も避け、平穏に生きること。 そのために選んだのは、冷徹で有能な公爵ヴァルデリオとの 「白い結婚」という、完璧に合理的な契約でした。 ――のはずが。 純潔アピール(本人は無自覚)、 排他的な“管理”(本人は合理的判断)、 堂々とした立ち振る舞い(本人は通常運転)。 すべてが「戦略」に見えてしまい、 気づけば周囲は完全包囲。 逃げ道は一つずつ消滅していきます。 本人だけが最後まで言い張ります。 「これは恋ではありませんわ。事故ですの!」 理屈で抗い、理屈で自滅し、 最終的に理屈ごと恋に敗北する―― 無自覚戦略無双ヒロインの、 白い結婚(予定)ラブコメディ。 婚約破棄ざまぁ × コメディ強め × 溺愛必至。 最後に負けるのは、世界ではなく――ヒロイン自身です。 -

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

今さら「間違いだった」? ごめんなさい、私、もう王子妃なんですけど

有賀冬馬
恋愛
「貴族にふさわしくない」そう言って、私を蔑み婚約を破棄した騎士様。 私はただの商人の娘だから、仕方ないと諦めていたのに。 偶然出会った隣国の王子は、私をありのまま愛してくれた。 そして私は、彼の妃に――。 やがて戦争で窮地に陥り、助けを求めてきた騎士様の国。 外交の場に現れた私の姿に、彼は絶句する。

偽りの断罪で追放された悪役令嬢ですが、実は「豊穣の聖女」でした。辺境を開拓していたら、氷の辺境伯様からの溺愛が止まりません!

黒崎隼人
ファンタジー
「お前のような女が聖女であるはずがない!」 婚約者の王子に、身に覚えのない罪で断罪され、婚約破棄を言い渡された公爵令嬢セレスティナ。 罰として与えられたのは、冷酷非情と噂される「氷の辺境伯」への降嫁だった。 それは事実上の追放。実家にも見放され、全てを失った――はずだった。 しかし、窮屈な王宮から解放された彼女は、前世で培った知識を武器に、雪と氷に閉ざされた大地で新たな一歩を踏み出す。 「どんな場所でも、私は生きていける」 打ち捨てられた温室で土に触れた時、彼女の中に眠る「豊穣の聖女」の力が目覚め始める。 これは、不遇の令嬢が自らの力で運命を切り開き、不器用な辺境伯の凍てついた心を溶かし、やがて世界一の愛を手に入れるまでの、奇跡と感動の逆転ラブストーリー。 国を捨てた王子と偽りの聖女への、最高のざまぁをあなたに。

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

契約書にサインをどうぞ、旦那様 ~お飾り妻の再雇用は永年契約でした~

有沢楓花
恋愛
――お飾り妻、平穏な離婚のため、契約書を用意する。  子爵家令嬢グラディス・シャムロックは、結婚式を目前にしてバセット子爵家嫡男の婚約者・アーロンが出奔したため、捨てられ令嬢として社交界の評判になっていた。  しかも婚約はアーロンの未婚の兄弟のうち「一番出来の悪い」弟・ヴィンセントにスライドして、たった数日で結婚する羽目になったのだから尚更だ。 「いいか、お前はお飾りの花嫁だ。これは政略結婚で、両家の都合に過ぎず……」 「状況認識に齟齬がなくて幸いです。それでは次に、建設的なお話をいたしましょう」  哀れなお飾り妻――そんな世間の噂を裏付けるように、初夜に面倒くさそうに告げるヴィンセントの言葉を、グラディスは微笑んで受けた。  そして代わりに差し出したのは、いつか来る離婚の日のため、お互いが日常を取り戻すための条件を書き連ねた、長い長い契約書。 「こちらの契約書にサインをどうぞ、旦那様」  勧められるままサインしてしまったヴィンセントは、後からその条件を満たすことに苦労――する前に、理解していなかった。  契約書の内容も。  そして、グラディスの真意も。  この話は他サイトにも掲載しています。 ※全4話+おまけ1話です。

「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で“価値の高い女性”だった

佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・エレガント公爵令嬢とフレッド・ユーステルム王太子殿下は婚約成立を祝した。 その数週間後、ヴァレンティノ王立学園50周年の創立記念パーティー会場で、信じられない事態が起こった。 フレッド殿下がセリーヌ令嬢に婚約破棄を宣言した。様々な分野で活躍する著名な招待客たちは、激しい動揺と衝撃を受けてざわつき始めて、人々の目が一斉に注がれる。 フレッドの横にはステファニー男爵令嬢がいた。二人は恋人のような雰囲気を醸し出す。ステファニーは少し前に正式に聖女に選ばれた女性であった。 ステファニーの策略でセリーヌは罪を被せられてしまう。信じていた幼馴染のアランからも冷たい視線を向けられる。 セリーヌはいわれのない無実の罪で国を追放された。悔しくてたまりませんでした。だが彼女には秘められた能力があって、それは聖女の力をはるかに上回るものであった。 彼女はヴァレンティノ王国にとって絶対的に必要で貴重な女性でした。セリーヌがいなくなるとステファニーは聖女の力を失って、国は急速に衰退へと向かう事となる……。

処理中です...