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21 番外編 子爵領にて
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ランメルトとフレイチェの結婚式から一週間が経った。
レオポルトの領地に一人でやって来たフレイチェは、レオポルトと共に領内を歩いているのだが次々に感嘆の声を上げていた。
「まぁ!なんて素晴らしいのでしょう!本当にさまざまな植物が育てられているのね。」
それを聞いたレオポルトは、頷きながら答えた。
「そうなんだよ、私の息子は本当にこの方面の知識は豊富だったのだよ!
だが、私にはさっぱりでね、カスペルが見たら嘆くかもしれん。あっちに咲いている花はほとんどが枯れてしまって。
なかなかに植物を育てるのは難しいとこの歳になって痛感しているのだ。」
それを聞いたフレイチェは、そうだろうと頷く。
「植物には、それぞれ適した気候や、育て方があります。それを、カスペルさんはこの気候に合わせつつ、水の量や土質を調節したりしていたのかもしれませんね。」
そこだけ明らかに土の色が変わっている地面がそれを物語っていると、フレイチェは指を指しながら言った。
「そうだろうそうだろう!!
だが、全くわからなくて困っておる。」
「では紙とペンをご用意出来ますか?いつでもこれを見返せば分かるように、まとめてみますね。」
「おお!有り難い!!
資料をひっぱり出してくるのは、何処に書いてあるのかも分からないから、本当に助かるよ。」
フレイチェは、一通りこの子爵領で栽培されている植物を確認させてもらい、順に育て方をまとめる。
使用人達にも分担させられるように仕事毎に簡単に見て分かるようなものも作った。
使用人達は、カスペルに言われた時に水を撒いたりしていただけだったから、どれをどのペースで世話すればいいのか誰一人分からなかった。カスペルは、危険な植物も育てていた為、基本的には自分で管理していたからだ。
水は一日二回撒くものや、二~三日に一度撒くなど、簡易な地図の上に書いて作業工程もわかりやすくした。
また、フレイチェがよく分からない植物は、屋敷の書庫から探して書いた。
敷地はそこまで広くはないが、種類が多い為朝一でこちらに来たのにいつの間にか日が傾いていた。
「フレイチェよ、今日は泊まっていくか?」
子爵領の応接室で書類を作成していたフレイチェは、レオポルトに言われはっとして窓の外を見る。
「いいえ、そろそろ帰らないと。」
今から帰れば真っ暗になるギリギリの所で屋敷に着くだろうと思い、フレイチェはレオポルトへと言った。続きはまた来たときにでも、と断りを入れる。
レオポルトは少し残念そうな顔をしたが、そうだな、と呟く。
フレイチェに、アレッタがどうしているのか聞きたくて一日中うずうずしていたのだ。
すると、俄に外が騒がしくなり、侍従と共にランメルトが部屋へ入ってきた。
「フレイチェ、帰ろう。」
「なんだ、ランメルトよ。迎えに来たのか。」
「はい。じいさんがなかなか帰してくれないと思いまして。
そしたら思った通りだ!」
「何を言うか。フレイチェは真面目でずっとやっていてくれただけだ。私が話し掛けたくてもずっと紙とにらめっこしておったわ。」
「それはじいさんの為でしょう!育て方が分からないと嘆いていたのはどなたですか!?」
「そうなんだが、アレッタの事だって聞きたいに決まっとるだろ?せっかく来てくれたんだから。」
「フレイチェにあまり負担を掛けさせないで下さいよ!…それで、兄上は?」
「あぁ、ハブリエルならもう帰ったよ。仕事を何日も休めないらしくてね。あれでも一応、この国有数のフェニング商会でお世話になっているそうだ。」
「フェニング商会!そうだったんですね…。」
「あぁ。ランメルトの事を気に掛けておったわ。
あんな奴ではあるが、根は昔と変わっとらんよ。」
「…分かってます。でもですね、こればかりはそうすぐには許せそうにありません。」
「だがな、ランメルト…」
「レオポルト様、アレッタ様が怒ってますよ。」
フレイチェは、ランメルトが複雑そうな顔をしているので助け船を出そうと、レオポルトの気をひく話をした。
大抵は、レオポルトの傍にいるアレッタ。その話をすればきっとハブリエルの話なんてしなくなるだろうと思ったのだ。
「ええ!?な、何故怒っておる!?私が何かしたか?」
「ハブリエルさんに、今度いろんな外国のお酒を手土産に持って来てと言ったのですか?お酒の飲み過ぎは体に悪いですよ、って。」
「なんと!聞いておったのかアレッタ!す、済まん!だが、フェニング商会は珍しい外国の物も扱っておるんじゃ!飲み過ぎたりはしない!そうだ、アレッタにも何か手土産を頼んでおくと言ってくれ。」
「ウフフ、必要ないそうですよ。」
「必要ない?怒っとるのか?」
「いいえ、今は微笑んでおられます。きっと、アレッタ様に贈ろうとされたお気持ちが嬉しかったのだと思いますよ。」
「そうか…そりゃアレッタを愛しておるからな!」
「じいさん、そろそろ帰ります。」
「おお、そうだな。では気をつけて帰るのだよ。
フレイチェ、丁寧に手引きを作ってくれてありがとう。またいつでも来ておくれ。」
「はい、お邪魔致しました。」
フレイチェは、レオポルトにもアレッタにもペコリとお辞儀をして、ランメルトへと視線を向ける。
「ではまた来ます。」
そう言って、フレイチェとランメルトは部屋を出た。
馬車に乗ったランメルトは、横に座っているフレイチェに先ほどの話を振った。
「フレイチェ、さっきはありがとう。」
「え?」
「その…兄上の話をしている時だ。話を逸らしてくれたのだろう?」
「だって…ランメルトのお気持ちが少しだけ分かるもの。家族だし気になる、だけど許せる訳も無いって。」
フレイチェは、ランメルトがハブリエルと対峙した時にあんなにも溢れ出た気持ちを抑え込もうとしているのを見て、心が葛藤をしているのだと思ったのだ。そしてそれは、フレイチェが両親に対する思いと似ている部分があると感じたのだ。
「フレイチェには、いつもかっこ悪い所を見せてしまうな。」
「そんな事無いわよ?」
「家のゴタゴタも、俺が解決しようと意気込んだがフレイチェが全て白状させてくれた。何も出来なかった自分が無力に思ってな。」
思いのほか落ち込んだ様子のランメルトに、フレイチェはランメルトの青い目を覗き込むように見つめて優しく軽口を叩くように聞いた。
「無力だなんて…出しゃばったかしら?」
(ハブリエルさんの事が引っ掛かっているのかしら。)
「そんな事無い!寧ろ助かった。フレイチェがいなければ、あんなにすんなり白状もしなかっただろう。」
「そう?だったら良かったわ。
自分が誰かの助けになるなら、私が生きていて良かったって事だもの。」
「ああ、フレイチェが居てくれて…俺は幸せだ。」
「本当?私も幸せよ?」
「そうか…情けない所ばかり見せて済まないな。」
「ふふ…情けない?どこが情けないかは分からないけれど、ランメルトのいろいろな表情を見られるのは嬉しいわ。だから、これからもたくさん見せてくれていいのよ?」
「フレイチェ…あぁ、君は…!」
そう言ったランメルトは、横に座っていたフレイチェを抱き締める。
「きゃ…!」
「好きだ、フレイチェ。」
「…私もよ。大好き。」
僅かにランメルトの肩が揺れているように思ったフレイチェは、ランメルトの背中に手を回し、支えるようにして囁いた。
レオポルトの領地に一人でやって来たフレイチェは、レオポルトと共に領内を歩いているのだが次々に感嘆の声を上げていた。
「まぁ!なんて素晴らしいのでしょう!本当にさまざまな植物が育てられているのね。」
それを聞いたレオポルトは、頷きながら答えた。
「そうなんだよ、私の息子は本当にこの方面の知識は豊富だったのだよ!
だが、私にはさっぱりでね、カスペルが見たら嘆くかもしれん。あっちに咲いている花はほとんどが枯れてしまって。
なかなかに植物を育てるのは難しいとこの歳になって痛感しているのだ。」
それを聞いたフレイチェは、そうだろうと頷く。
「植物には、それぞれ適した気候や、育て方があります。それを、カスペルさんはこの気候に合わせつつ、水の量や土質を調節したりしていたのかもしれませんね。」
そこだけ明らかに土の色が変わっている地面がそれを物語っていると、フレイチェは指を指しながら言った。
「そうだろうそうだろう!!
だが、全くわからなくて困っておる。」
「では紙とペンをご用意出来ますか?いつでもこれを見返せば分かるように、まとめてみますね。」
「おお!有り難い!!
資料をひっぱり出してくるのは、何処に書いてあるのかも分からないから、本当に助かるよ。」
フレイチェは、一通りこの子爵領で栽培されている植物を確認させてもらい、順に育て方をまとめる。
使用人達にも分担させられるように仕事毎に簡単に見て分かるようなものも作った。
使用人達は、カスペルに言われた時に水を撒いたりしていただけだったから、どれをどのペースで世話すればいいのか誰一人分からなかった。カスペルは、危険な植物も育てていた為、基本的には自分で管理していたからだ。
水は一日二回撒くものや、二~三日に一度撒くなど、簡易な地図の上に書いて作業工程もわかりやすくした。
また、フレイチェがよく分からない植物は、屋敷の書庫から探して書いた。
敷地はそこまで広くはないが、種類が多い為朝一でこちらに来たのにいつの間にか日が傾いていた。
「フレイチェよ、今日は泊まっていくか?」
子爵領の応接室で書類を作成していたフレイチェは、レオポルトに言われはっとして窓の外を見る。
「いいえ、そろそろ帰らないと。」
今から帰れば真っ暗になるギリギリの所で屋敷に着くだろうと思い、フレイチェはレオポルトへと言った。続きはまた来たときにでも、と断りを入れる。
レオポルトは少し残念そうな顔をしたが、そうだな、と呟く。
フレイチェに、アレッタがどうしているのか聞きたくて一日中うずうずしていたのだ。
すると、俄に外が騒がしくなり、侍従と共にランメルトが部屋へ入ってきた。
「フレイチェ、帰ろう。」
「なんだ、ランメルトよ。迎えに来たのか。」
「はい。じいさんがなかなか帰してくれないと思いまして。
そしたら思った通りだ!」
「何を言うか。フレイチェは真面目でずっとやっていてくれただけだ。私が話し掛けたくてもずっと紙とにらめっこしておったわ。」
「それはじいさんの為でしょう!育て方が分からないと嘆いていたのはどなたですか!?」
「そうなんだが、アレッタの事だって聞きたいに決まっとるだろ?せっかく来てくれたんだから。」
「フレイチェにあまり負担を掛けさせないで下さいよ!…それで、兄上は?」
「あぁ、ハブリエルならもう帰ったよ。仕事を何日も休めないらしくてね。あれでも一応、この国有数のフェニング商会でお世話になっているそうだ。」
「フェニング商会!そうだったんですね…。」
「あぁ。ランメルトの事を気に掛けておったわ。
あんな奴ではあるが、根は昔と変わっとらんよ。」
「…分かってます。でもですね、こればかりはそうすぐには許せそうにありません。」
「だがな、ランメルト…」
「レオポルト様、アレッタ様が怒ってますよ。」
フレイチェは、ランメルトが複雑そうな顔をしているので助け船を出そうと、レオポルトの気をひく話をした。
大抵は、レオポルトの傍にいるアレッタ。その話をすればきっとハブリエルの話なんてしなくなるだろうと思ったのだ。
「ええ!?な、何故怒っておる!?私が何かしたか?」
「ハブリエルさんに、今度いろんな外国のお酒を手土産に持って来てと言ったのですか?お酒の飲み過ぎは体に悪いですよ、って。」
「なんと!聞いておったのかアレッタ!す、済まん!だが、フェニング商会は珍しい外国の物も扱っておるんじゃ!飲み過ぎたりはしない!そうだ、アレッタにも何か手土産を頼んでおくと言ってくれ。」
「ウフフ、必要ないそうですよ。」
「必要ない?怒っとるのか?」
「いいえ、今は微笑んでおられます。きっと、アレッタ様に贈ろうとされたお気持ちが嬉しかったのだと思いますよ。」
「そうか…そりゃアレッタを愛しておるからな!」
「じいさん、そろそろ帰ります。」
「おお、そうだな。では気をつけて帰るのだよ。
フレイチェ、丁寧に手引きを作ってくれてありがとう。またいつでも来ておくれ。」
「はい、お邪魔致しました。」
フレイチェは、レオポルトにもアレッタにもペコリとお辞儀をして、ランメルトへと視線を向ける。
「ではまた来ます。」
そう言って、フレイチェとランメルトは部屋を出た。
馬車に乗ったランメルトは、横に座っているフレイチェに先ほどの話を振った。
「フレイチェ、さっきはありがとう。」
「え?」
「その…兄上の話をしている時だ。話を逸らしてくれたのだろう?」
「だって…ランメルトのお気持ちが少しだけ分かるもの。家族だし気になる、だけど許せる訳も無いって。」
フレイチェは、ランメルトがハブリエルと対峙した時にあんなにも溢れ出た気持ちを抑え込もうとしているのを見て、心が葛藤をしているのだと思ったのだ。そしてそれは、フレイチェが両親に対する思いと似ている部分があると感じたのだ。
「フレイチェには、いつもかっこ悪い所を見せてしまうな。」
「そんな事無いわよ?」
「家のゴタゴタも、俺が解決しようと意気込んだがフレイチェが全て白状させてくれた。何も出来なかった自分が無力に思ってな。」
思いのほか落ち込んだ様子のランメルトに、フレイチェはランメルトの青い目を覗き込むように見つめて優しく軽口を叩くように聞いた。
「無力だなんて…出しゃばったかしら?」
(ハブリエルさんの事が引っ掛かっているのかしら。)
「そんな事無い!寧ろ助かった。フレイチェがいなければ、あんなにすんなり白状もしなかっただろう。」
「そう?だったら良かったわ。
自分が誰かの助けになるなら、私が生きていて良かったって事だもの。」
「ああ、フレイチェが居てくれて…俺は幸せだ。」
「本当?私も幸せよ?」
「そうか…情けない所ばかり見せて済まないな。」
「ふふ…情けない?どこが情けないかは分からないけれど、ランメルトのいろいろな表情を見られるのは嬉しいわ。だから、これからもたくさん見せてくれていいのよ?」
「フレイチェ…あぁ、君は…!」
そう言ったランメルトは、横に座っていたフレイチェを抱き締める。
「きゃ…!」
「好きだ、フレイチェ。」
「…私もよ。大好き。」
僅かにランメルトの肩が揺れているように思ったフレイチェは、ランメルトの背中に手を回し、支えるようにして囁いた。
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