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レクラス視点 5 思わぬ味方

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「最近、物資が滞ってるみたいだな。」
部屋に戻ってきたニックに話し掛けた。

「あぁ。やはり流通をわざと止めているのか、あっちが買い占めているのか…。」
とニックも返してきた。

父上は何と言っているのだろうか。

「父上にも話をしにいきたいな。」
「分かった。確認してこよう。」
コンコンコン

「誰だ?」
「お仕事中すみません。ギュルセーフィスト侯爵令嬢様がお見えです。なんでも、至急お会いしたいそうで。」
と、外にいた騎士団の第三部隊の一人が言った。

「なんでまた…?」
その令嬢は、義兄上の婚約者候補である。が、義兄上は平等に接していて特定の人に深入りはしていなかった。側妃に余計な勘繰りをされたら困るからだ。
今は午前の早い時間。側妃はよく遅くまで起きて遊んでいるから、まだ寝ている為バレはしないだろうが。
それにしても騎士団へ来るなんてどうしたのか?

「ああ。頼んでいた観劇の本が見つかったのだろう。通してくれ。」
少し大きめの声で言った。自分でも無理があるとは思ったが、これで、怪しむ奴はいないだろう。

「すみません。お仕事中に。」
と、入って早々、腰を深く折って謝ってきた。
「早い方がと思って来てしまいましたの。」

「そうですか。おい、お茶を入れて来てくれ。」
「いいえ。時間は取らせませんわ。証拠になるかと思って。」
「「証拠??」」
そう言って、メルシェ=ギュルセーフィスト侯爵令嬢は小さな手荷物から、布にくるまれた集音貝を出した。
そして、
「ここで聞いても大丈夫ですか?」
と聞いた。

「ああ。」
と、俺はメルシェ侯爵令嬢に向かって言った。
「では。」
と、彼女も、集音貝を開き、聞かせてくれる。

ーーーーー

『メフィス、もうすぐ戦争になる。だから、一緒に帰ろう。』
『あら、どこに帰ろうと言うのです。もう故郷はないわ。』
『2人で逃げよう。もうここにいても贅は尽くせない。』
『どうして?たくさんドレスを着れるわ。』
『気づいてるか?お前はドレスなんて着なくても、いつでも何を着てもキレイだよ。』
『な、何を今更…。』
『今更じゃないだろう。なぁ、まさかあいつは俺の子か?』
『もう!そんな戯言を言わないで下さる?それだけを言いに来たの?』
『戦争が来たら、この国は潰れるさ。だから、一緒に行こう。』
『どちらにしても今はダメよ。そうね。この国も終わりなのね…。陛下も、あれから一度も私の元へ来ないもの。』
『淋しいだろ?早く俺の所へこいよ。』
『あ、やめて。そうねぇ…。戦争はいつ?』
『即位式の日に攻め入るらしいぞ。』
『そうなの…じゃあ迎えに来て。』
『王宮までか?』
『いいえ、王都まで行くわ。』
『じゃあいつもの所にするか?』
『あら。うふふ。そうね。』
『楽しみだな。その夜は眠らせないぞ。』
『まぁ…。』

ーーーーーー

「どうでしょう。」
と、メルシェ侯爵令嬢は勝ち誇ったように言ってきた。

「これは…!」
「いける…か?」
俺とニックは顔を見合わせた。

「メルシェ侯爵令嬢、これはどのように?」
そう問うと、整った眉を片方だけ動かし、
「まぁ!それは私の情報網という事でよろしいんではなくて?」
と言われた。

「そうか。では質問を変えます。これは、誰と誰の話ですか?」
と聞いた。声で、側妃の声だと思う。あともう一人の男性の声は恐らく宝石商だと思うが違う奴なのか…。

「レクラス王子殿下のお察しの通りかと。先日、メフィス側妃様のお部屋にバルグェン国の宝石商が訪ねた時のものでございます。」
と、赤い口紅を引いた綺麗な口角を上げてメルシェ侯爵令嬢が言う。

やった!ツキが回ってきたか!

「素晴らしい!これは頂いてよろしいものか?」
俺は、メルシェ侯爵令嬢に念のため問う。

「ええ、もちろんです。それからあともう一つ。大切な証人がいらっしゃるとお伝え致しますわ。そして、出来れば匿っていただきたいのです。」
と、メルシェ侯爵令嬢はいい、後ろで立っていた侍女を呼んだ。

「この娘は、5年前まで王宮で働いておりました。そして、側妃様からある仕事を申し遣った後、適当な理由を付けられ辞めさせられたのです。」

「ほう。」
俺はその娘をまじまじと見た。見たところ義兄上と同じ位か。5年前というと、14歳位だな。若いが、軽い仕事なら任されるだろう。

「その仕事とは、ある葉をすり潰すというもの。当時は、元気が出る薬だからと言われ、すり鉢と乳棒も手ずから渡され、細かくすり潰したそうです。しかし、いつもの侍女を通さず、若い下っ端の自分に直々に仕事が回ってきた事が恐れ多くも嬉しくて、ウキウキしてすり鉢と乳棒を返すのを忘れていたそうです。しかしその次の日、突然辞めさせられたそうで、乳棒とすり鉢を返せなかったみたいで未だ家にあるそうなのです。」
なんと…!5年前というと母上が倒れられた時期か?もしかしたらそれで辿れるかもしれない。

「それで、なぜその娘を今更?」
はやる気持ちを抑え、聞いた。

「薄々感じておられるでしょう?彼女が辞めさせられた日と正妃様がお倒れになった日は同じだそうですわ。」
メルシェ侯爵令嬢は、持っていた扇子を口元にあてた。

「どうです?悲願が達成されません事?…その為に私も動いておりましたの。やっと見つけましたのよ。あと2週間程で即位式でしょう?間に合って本当に良かったですわ。きっとマナクル殿下も身辺をすっきりさせ安心して妃を迎えられる事でしょう。…その妃が私だとなお良いのですけれど。」

「メルシェ侯爵令嬢。俺は義兄上に口利きは出来ないぞ?」
俺は、義兄上とそこまで仲良くないから、推してやる事は難しい。それと引き換えにという事だったら難しいな…。

「あ、誤解をなさらないで下さいまし。私は純粋にマナクル殿下をお慕い申し上げているだけですわ。だから、暗躍しているだけ。選ばれなければ、それまで。自分の力不足として反省し、これからも陰ながらお支えするだけです。深い意味はございませんわ。」
そういって俯く彼女は口元を扇子で隠しているから表情ははっきり読み取れない。だが目元には薄らと光るものが見えた。そこまで義兄上を思ってくれていたのか…。本当に有難いな。

「誤解をして済まなかった。しかし、なぜ俺に言いに?」
俺は取引では無かったのだとホッとして、メルシェ侯爵令嬢にそう伝えた。
すると、彼女は顔を上げ、少し微笑むと言った。

「いいえ。なぜってきっと、レクラス王子殿下は私と、想いは同じだと思いましたの。彼に安心して国王になってほしいと。…それから、すり潰した葉の粉なのですが、残りが部屋にあるそうですのよ。侍女が掃除をする時、絶対に触ってはいけない本棚があるそうですわ。そこには日記があるからと言われているそうですが、でしたらその棚だけ掃除を禁止すればいいものを、粉が入った瓶が置いてある別の段の棚も禁止しているそうなのです。近日中に手に入れれる事でしょう。」

「ほう…。」

これは使えるな。よし、父上にも一度話をしてから行動に移すか。

「ありがとう。では証人は…そうだな表向きは騎士団の食事係として雇う事にするか?あそこで寝泊まりすれば、側妃も手出しは出来ないだろう。まぁ、日にちはないから数日中に片を付けるようにするが。おい、ニック。」
そういって今まで成り行きを見守ってくれていたニックに、手続きをさせるべく呼んだ。
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