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33. 船の上で
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「大切にする。愛してるよ、クラーラ。」
「嬉しい!ラグンフリズ様、私もよ!」
「おめでとうー!」
「素敵-!」
「お幸せに-!」
今日は、待ちに待った結婚式。婚約すると決めて半年が経ったのだ。
せっかくならと、フォントリアー家所有の船の上でという事になった。
新しい船のお披露目も兼ねて。
この船は最新式で、振動や騒音が従来のものよりも少ないとされている。大きさは五十人程が乗って航海に出られるようになっている大きな船であり、船室も地下一階と二階があり、船首楼は低く、長い船体であるから安定性がとても良かった。
実は、ラグンフリズに愛する人が出来たと言われてから親子でこだわりを入れつつ注文していたので、今回に漸く間に合ったのだ。
「それにしても、ものすごい船だな。」
「そうであろう?何ていったって、最新式だからな。これで、酔う事もなく何ヵ月も船旅に出ていられるぞ。」
ティーオドルとモウリッツが船について話していた。
クラーラの母エルセも、ラグンフリズの母も互いに涙を流して喜んでくれている。
エルセは今度こそクラーラを大切にしてくれる人と添い遂げられるという安心から。
ラグンフリズの母はやっと息子にも添い遂げたいと思える人ができたという安心からである。
「幸せになるのよ。今も充分幸せそうだけれど。」
「そうね、幸せになりましょうね。息子の愛が重かったなら遠慮なく言ってちょうだいね。」
「母上…酷いですよ。仕方ないではないですか。クラーラが可愛すぎるのがいけないんです。」
「もう!止めて下さいませ!」
少し離れた所では、二人の弟達がその様子を見ている。
「ようやく、あの二人幸せになれそうですね。」
「あぁ。お前がいきなり屋敷に訪ねて来た時は驚いたよ。」
「済みません。次期領主となられるのに、兄上は女性が苦手そうでしたから…とても感じのよい義姉上と初めてお会いした時に、この人だ!と思ったもので…。」
「よくそれが、自分の相手に、とはならなかったな。」
「なるわけないじゃないですか!兄上が領主となるのですから、兄上の結婚相手にこそ相応しい。僕なんか…。」
「何を言ってる。アスガーだって自領が栄える為に努力しているくせに。」
アスガーは屋敷から出ない分、国内の領地の名産品をことごとく調べ、更なる発展が出来ないかといつも考えている。
ベントナー伯爵領にも、マグヌッセン伯爵領とはまた少し質の異なる陶土が出た。それを、マグヌッセン領から派遣された使用人が発見する。
現領主のアクセルに進言し、その土をマグヌッセン家が買い取り、今までとは違う白地に絵を描いた陶器を新たに販売する事とした。そしてそれをフォントリアー家で海外に販売してもらうという図を作り上げたのがアスガーというわけだ。
「まぁ、それで自分の存在意義を確認しているんです。それがなければ、僕は要らない人間のような気がして。」
「馬鹿だなぁ、アスガーは。俺にはアスガーが必要だよ。せっかくなれた親友なんだから。あんなバカップル的な二人を支えるのは、俺一人じゃムリだからな!」
「ティム…ありがとう。そうだね。兄上は仕事ではしっかりしているのに、義姉上の事になるとなんだかネジが抜けたようになるのですから。」
「ま、完璧過ぎなくていいじゃないか!あ、そろそろ俺達は船から降りる時間か?」
「そうですね。兄上と義姉上は今から出航ですから。」
「ティム-!アスガー!!」
クラーラが、少し離れた所で話しているティムとアスガーに声を掛けた。
「はーい、姉上。今行きます。あ、屋敷に持って帰る荷物なら僕が持ちますから!!」
「…ティム。義姉上の前と、僕の前じゃなんか違わないです?」
「何言ってるんだ。姉上は僕のこと、〝良く出来た可愛い弟〟だと思っているんだから。その期待を裏切ってはダメだろ?」
「アホらしいですね。ま、それがティムらしいといえばそうか。さ、素敵な兄と姉の元へ行きましょうか。」
ティムとアスガーは、今日の主役の元へ歩きだした。
「ねぇ、ラグンフリズ様。どこへ行くのですか?」
結婚式が終わり、皆にも行って来ますと挨拶を終えると船の錨が上がり始める。
船が動き出したのを見てクラーラはラグンフリズに尋ねた。
「記念すべき新婚旅行ではあるけど、クラーラは船旅第一回目だからね、すぐ近くの国がいいかと思って。半日もすれば付くよ。少し寒いけれど。」
「寒い?ここよりも?」
「あぁ。でも今の時期、街が彩られているんだ。素敵だからね。大丈夫。暖かいコートや防寒具は船室にちゃんとしまってあるから。」
「そうなのね、ありがとう。楽しみだわ!」
「ほら、見てごらん。あんなにもう人が小さくなってる。」
結婚式は、船の上と決めたけれど来てくれた人全員が乗れなかったので、船の上から、式が始まる前に手を降った。
でもその中には、船が出航するのを見たかった人もいるのか、式が終わっても人だかりが散らなかった。
船が出航して、そちらを見遣ると式が始まる前からあった人だかりと変わらない塊で、けれどだんだんと小さくなっていく人達がいつまでも手を振ってくれていた。
「ありがとう、皆!行ってくるわー!」
「寒くない?船室を案内しようか?」
「ありがとう。でも、もう少しだけ居てもいい?すごいわ!海の風って、なんだか纏わり付く感じね。でも、気持ちいいかも。」
「そう言ってくれて嬉しいよ。これから幾度となく、一緒に感じられるといいな。…なぁ、こっちに来てくれないか?」
そう言ってラグンフリズに連れてこられたのは、船の中央部分。甲板に括りつけられた樽は、上の部分がくりぬかれ土が詰め込まれて花が植わっていた。それは、いつか一緒にマグヌッセンの屋敷で見た小さな赤い花。
「え!?船の上に?」
「あぁ。癒されるかなと思って作ったんだ。船に花があるのって和むかなって。でもそれだけじゃなくて、言っただろう?君にいつか渡したいって。〝あなたと一緒にいたい〟俺は、いつまでもクラーラと一緒にいたい。こうして同じ景色を見て、同じ風を感じたい。」
「ラグンフリズ様…!」
「もう、晴れて夫婦になったんだ。どうか、ラグンフリズと。」
「…ラグンフリズ。」
「ありがとうクラーラ。俺は、君に甘い言葉なんて囁く事は上手く出来ないけれど、せめてオキザリスを君に。」
目に涙を溜めたクラーラは、ラグンフリズに思い切り抱きついた。ラグンフリズもそれを軽々と受け止め、離さないようにいつまでもその温もりを感じていた。
クラーラは一度目の婚約者には、不器用ながらも大切にしてくれていたと思っていたけれど、全く違い、気持ちが寄り添えなかった。
もう結婚は無理かと思ったけれど、無事に幸せが訪れた。
これからも、本当に自分を大事にしてくれる人と幸せな時を過ごしていくクラーラであった。
☆★☆★☆★
これで、終わりです。
読んで下さいましてありがとうございます。思い掛けずたくさんの方に読んでいただきまして、驚くと共に有難く思っておりました。
感想を下さった方ありがとうございます。温かいお言葉をくださった方もいて、涙を流しながら読ませていただきました。
しおりを挟んでくれた方、お気に入り登録してくれた方、本当にありがとうございました。
あと番外編が二話、あります。どうぞ楽しんで下さると嬉しいです。
「嬉しい!ラグンフリズ様、私もよ!」
「おめでとうー!」
「素敵-!」
「お幸せに-!」
今日は、待ちに待った結婚式。婚約すると決めて半年が経ったのだ。
せっかくならと、フォントリアー家所有の船の上でという事になった。
新しい船のお披露目も兼ねて。
この船は最新式で、振動や騒音が従来のものよりも少ないとされている。大きさは五十人程が乗って航海に出られるようになっている大きな船であり、船室も地下一階と二階があり、船首楼は低く、長い船体であるから安定性がとても良かった。
実は、ラグンフリズに愛する人が出来たと言われてから親子でこだわりを入れつつ注文していたので、今回に漸く間に合ったのだ。
「それにしても、ものすごい船だな。」
「そうであろう?何ていったって、最新式だからな。これで、酔う事もなく何ヵ月も船旅に出ていられるぞ。」
ティーオドルとモウリッツが船について話していた。
クラーラの母エルセも、ラグンフリズの母も互いに涙を流して喜んでくれている。
エルセは今度こそクラーラを大切にしてくれる人と添い遂げられるという安心から。
ラグンフリズの母はやっと息子にも添い遂げたいと思える人ができたという安心からである。
「幸せになるのよ。今も充分幸せそうだけれど。」
「そうね、幸せになりましょうね。息子の愛が重かったなら遠慮なく言ってちょうだいね。」
「母上…酷いですよ。仕方ないではないですか。クラーラが可愛すぎるのがいけないんです。」
「もう!止めて下さいませ!」
少し離れた所では、二人の弟達がその様子を見ている。
「ようやく、あの二人幸せになれそうですね。」
「あぁ。お前がいきなり屋敷に訪ねて来た時は驚いたよ。」
「済みません。次期領主となられるのに、兄上は女性が苦手そうでしたから…とても感じのよい義姉上と初めてお会いした時に、この人だ!と思ったもので…。」
「よくそれが、自分の相手に、とはならなかったな。」
「なるわけないじゃないですか!兄上が領主となるのですから、兄上の結婚相手にこそ相応しい。僕なんか…。」
「何を言ってる。アスガーだって自領が栄える為に努力しているくせに。」
アスガーは屋敷から出ない分、国内の領地の名産品をことごとく調べ、更なる発展が出来ないかといつも考えている。
ベントナー伯爵領にも、マグヌッセン伯爵領とはまた少し質の異なる陶土が出た。それを、マグヌッセン領から派遣された使用人が発見する。
現領主のアクセルに進言し、その土をマグヌッセン家が買い取り、今までとは違う白地に絵を描いた陶器を新たに販売する事とした。そしてそれをフォントリアー家で海外に販売してもらうという図を作り上げたのがアスガーというわけだ。
「まぁ、それで自分の存在意義を確認しているんです。それがなければ、僕は要らない人間のような気がして。」
「馬鹿だなぁ、アスガーは。俺にはアスガーが必要だよ。せっかくなれた親友なんだから。あんなバカップル的な二人を支えるのは、俺一人じゃムリだからな!」
「ティム…ありがとう。そうだね。兄上は仕事ではしっかりしているのに、義姉上の事になるとなんだかネジが抜けたようになるのですから。」
「ま、完璧過ぎなくていいじゃないか!あ、そろそろ俺達は船から降りる時間か?」
「そうですね。兄上と義姉上は今から出航ですから。」
「ティム-!アスガー!!」
クラーラが、少し離れた所で話しているティムとアスガーに声を掛けた。
「はーい、姉上。今行きます。あ、屋敷に持って帰る荷物なら僕が持ちますから!!」
「…ティム。義姉上の前と、僕の前じゃなんか違わないです?」
「何言ってるんだ。姉上は僕のこと、〝良く出来た可愛い弟〟だと思っているんだから。その期待を裏切ってはダメだろ?」
「アホらしいですね。ま、それがティムらしいといえばそうか。さ、素敵な兄と姉の元へ行きましょうか。」
ティムとアスガーは、今日の主役の元へ歩きだした。
「ねぇ、ラグンフリズ様。どこへ行くのですか?」
結婚式が終わり、皆にも行って来ますと挨拶を終えると船の錨が上がり始める。
船が動き出したのを見てクラーラはラグンフリズに尋ねた。
「記念すべき新婚旅行ではあるけど、クラーラは船旅第一回目だからね、すぐ近くの国がいいかと思って。半日もすれば付くよ。少し寒いけれど。」
「寒い?ここよりも?」
「あぁ。でも今の時期、街が彩られているんだ。素敵だからね。大丈夫。暖かいコートや防寒具は船室にちゃんとしまってあるから。」
「そうなのね、ありがとう。楽しみだわ!」
「ほら、見てごらん。あんなにもう人が小さくなってる。」
結婚式は、船の上と決めたけれど来てくれた人全員が乗れなかったので、船の上から、式が始まる前に手を降った。
でもその中には、船が出航するのを見たかった人もいるのか、式が終わっても人だかりが散らなかった。
船が出航して、そちらを見遣ると式が始まる前からあった人だかりと変わらない塊で、けれどだんだんと小さくなっていく人達がいつまでも手を振ってくれていた。
「ありがとう、皆!行ってくるわー!」
「寒くない?船室を案内しようか?」
「ありがとう。でも、もう少しだけ居てもいい?すごいわ!海の風って、なんだか纏わり付く感じね。でも、気持ちいいかも。」
「そう言ってくれて嬉しいよ。これから幾度となく、一緒に感じられるといいな。…なぁ、こっちに来てくれないか?」
そう言ってラグンフリズに連れてこられたのは、船の中央部分。甲板に括りつけられた樽は、上の部分がくりぬかれ土が詰め込まれて花が植わっていた。それは、いつか一緒にマグヌッセンの屋敷で見た小さな赤い花。
「え!?船の上に?」
「あぁ。癒されるかなと思って作ったんだ。船に花があるのって和むかなって。でもそれだけじゃなくて、言っただろう?君にいつか渡したいって。〝あなたと一緒にいたい〟俺は、いつまでもクラーラと一緒にいたい。こうして同じ景色を見て、同じ風を感じたい。」
「ラグンフリズ様…!」
「もう、晴れて夫婦になったんだ。どうか、ラグンフリズと。」
「…ラグンフリズ。」
「ありがとうクラーラ。俺は、君に甘い言葉なんて囁く事は上手く出来ないけれど、せめてオキザリスを君に。」
目に涙を溜めたクラーラは、ラグンフリズに思い切り抱きついた。ラグンフリズもそれを軽々と受け止め、離さないようにいつまでもその温もりを感じていた。
クラーラは一度目の婚約者には、不器用ながらも大切にしてくれていたと思っていたけれど、全く違い、気持ちが寄り添えなかった。
もう結婚は無理かと思ったけれど、無事に幸せが訪れた。
これからも、本当に自分を大事にしてくれる人と幸せな時を過ごしていくクラーラであった。
☆★☆★☆★
これで、終わりです。
読んで下さいましてありがとうございます。思い掛けずたくさんの方に読んでいただきまして、驚くと共に有難く思っておりました。
感想を下さった方ありがとうございます。温かいお言葉をくださった方もいて、涙を流しながら読ませていただきました。
しおりを挟んでくれた方、お気に入り登録してくれた方、本当にありがとうございました。
あと番外編が二話、あります。どうぞ楽しんで下さると嬉しいです。
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