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34. 番外編 ー私の初恋ー
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七歳になる、活発な女の子が港の近くを走り回っていた。
それは、見慣れた風景ではあるが、今日は港についた船があり、いつもより人が多かった。
「今日は人が多いわ。こういう日は犯罪が増えるから、気をつけないと!」
この女の子は、名前をマリーアと言う。母がクラーラ、父がラグンフリズである。
クラーラの元来の性格に似たのか、活発で、いつも港街から山に向かうと高台にある広いフォントリアー家のカントリーハウスを抜け出し、港街に来て、海運業組合の建物や港に入り浸っていた。
港街に住んでいる人達も、クラーラやラグンフリズがいつも連れているのでマリーアの事は知っている。だから、護衛も付けずにマリーアが遊び回っていても、気にも止めない。だが、一度危ない目に遭いそうになると近くにいる人達が助けに入る。
「あ!なによあれ…。」
マリーアが見回りと称して歩き回っていると、店先にあったパンをつまみ、そのまま代金を払わず歩いて行ってしまう男性二人を見かけた。店主は気づいていない。
マリーアは駆け出し、その男達の手を後ろから引っ張り、大声で叫んだ。
「おい、盗人!ちゃんとお金を払ってからじゃないと自分の物にならないんだよ。そんな事も知らないの!?」
周りの人達はなんだなんだとジロジロと見てきた。慌てて手を引っ張られた男は、その手を振り払い、負けじと叫び返した。
「なんだ!?言い掛かりをつけるのか!これは、今払ってきたに決まってら!なぁ?」
「おお、そうだ。当たり前の事言っちゃいけねぇ!子供だからって、粋がんじゃねぇぞ!」
そう言われ、隣に居た男性に胸を押されたので、マリーアは後ろに倒れそうになった。
が、誰かが後ろから支えてくれ、マリーアは倒れずに済んだ。
そして、その人が男達に向けて声を掛けた。
「おいおい…手ぇ出すんはいけねぇ。か弱い子供に手ぇ上げるんはかっこ悪いぜ、お兄さんよ。もしかして、金も払えない位貧しいのか?可哀想に…。じゃあ仕方ない。衛兵には連れて行くの止めてあげるから、店主に謝りに行こう。貧しいから払えません!って言えば、店の手伝い位できっと許してくれるから。」
「そうだぞ、兄ちゃん達、貧しいならしょうがねぇもんなぁ!」
「そうだそうだ!自分だけじゃ謝りに行けないんなら、俺も着いてってやろうか?」
「チッ…なんだよ、おい、逃げるぞ!」
「へい!」
「おい、逃がすか!」
それからは、さすが港街。普段は素知らぬふりをして歩いていても、いざ揉め事があったら皆で団結して解決をする。港街は、国の玄関口でもある為、悪い事をしようとする輩もどうしても入って来てしまう。その為、さながら自警団のように、街の皆で悪い輩を捕まえて、衛兵に引き渡しているのだ。
「よし、捕まえた!あっけねぇなぁ。悪い事はしちゃいけねぇよ。」
街の人達が誰がやったか分からないように、足を引っ掛けて転ばせたり、ちょっと殴ったり服を引っ張って行く手を阻んだりして、あとは体格の良い奴が出てきて後ろ手に捕まえ、誰かが縄を投げ、それを拾い、ぐるぐる巻きにして一丁上がり。いつものように、衛兵へ引き渡した。
「おい、お前。皆が助けてやったから良かったもんだけど、まだガキなんだから自分からやりに行くなよ。」
マリーアを後ろに倒れないように助けてくれた人が、マリーアへと注意した。彼は、オレンジのような髪をした、十七歳のエマヌエルだ。
父親のような髪色に、マリーアは目が奪われた。
マリーアは知らなかったが、フォントリアー家の海運業組合に勤めているまだまだ下っ端だ。
「あら、でも、悪事は見逃せないわ。治安維持も大切な仕事よ。」
「そうだけどよ、お前はまだ小さいんだ。今回は俺が助けたから良かったものの、怪我があったらいけないだろ?」
そう言われ、マリーアは自分を心配してくれる人がいるんだと思った。
マリーアは、領主の娘である。
ラグンフリズは、結婚して二年目にモウリッツの跡を継いで領主になったのだ。その娘のマリーアを心配しない者はいない。その為、港街に出歩くマリーアを見つけた時は、街の住人総出で見守っているようなものなのだ。
だが、その事をマリーアは知らないし、面と向かって言われたのは初めてだった為に舞い上がってしまった。
「まぁ!そんな事言う人なんて初めてだわ!あなた名前は?私は、マリーアよ。」
「俺は、エマヌエルだ。いいか?気をつけろ。悪事が見過ごせないなら、近くの大人に言え。俺が近くにいれば俺でもいいから。」
「なんて優しいの…!エマヌエル、私と結婚して!」
「はぁ!?」
「お父様が言ってたんだもの!一緒に居たいと思う人が、結婚したいと思う人なんだって!!」
「バッ…バッカじゃねぇの!?(何組合長は娘に言ってんだよ!)俺は貴族でも何でもねぇ!だから無理だな。他を探せよ。」
「何言ってるの?それこそ馬鹿じゃないの?人は、貴族か貴族じゃないかでは無いのよ?自分の事を本当に大切にしてくれるかどうかなの!ね、エマヌエル!今じゃダメなら、もう少し大人になったら考えて!」
「…いつかな!お前が大人になって、まだそう思ってんなら、その時考えてやるよ。(ま、その時はもう、俺の事なんて忘れてるだろ。)」
「言ってくれたわね!?男に二言はないのよ?私、お母様に似た素敵な淑女になってやるんだから!いい?覚悟しておきなさい!」
マリーアは、忘れない内に早くこの事を両親に伝えないとと思って急いで家路に向かった。
それは、見慣れた風景ではあるが、今日は港についた船があり、いつもより人が多かった。
「今日は人が多いわ。こういう日は犯罪が増えるから、気をつけないと!」
この女の子は、名前をマリーアと言う。母がクラーラ、父がラグンフリズである。
クラーラの元来の性格に似たのか、活発で、いつも港街から山に向かうと高台にある広いフォントリアー家のカントリーハウスを抜け出し、港街に来て、海運業組合の建物や港に入り浸っていた。
港街に住んでいる人達も、クラーラやラグンフリズがいつも連れているのでマリーアの事は知っている。だから、護衛も付けずにマリーアが遊び回っていても、気にも止めない。だが、一度危ない目に遭いそうになると近くにいる人達が助けに入る。
「あ!なによあれ…。」
マリーアが見回りと称して歩き回っていると、店先にあったパンをつまみ、そのまま代金を払わず歩いて行ってしまう男性二人を見かけた。店主は気づいていない。
マリーアは駆け出し、その男達の手を後ろから引っ張り、大声で叫んだ。
「おい、盗人!ちゃんとお金を払ってからじゃないと自分の物にならないんだよ。そんな事も知らないの!?」
周りの人達はなんだなんだとジロジロと見てきた。慌てて手を引っ張られた男は、その手を振り払い、負けじと叫び返した。
「なんだ!?言い掛かりをつけるのか!これは、今払ってきたに決まってら!なぁ?」
「おお、そうだ。当たり前の事言っちゃいけねぇ!子供だからって、粋がんじゃねぇぞ!」
そう言われ、隣に居た男性に胸を押されたので、マリーアは後ろに倒れそうになった。
が、誰かが後ろから支えてくれ、マリーアは倒れずに済んだ。
そして、その人が男達に向けて声を掛けた。
「おいおい…手ぇ出すんはいけねぇ。か弱い子供に手ぇ上げるんはかっこ悪いぜ、お兄さんよ。もしかして、金も払えない位貧しいのか?可哀想に…。じゃあ仕方ない。衛兵には連れて行くの止めてあげるから、店主に謝りに行こう。貧しいから払えません!って言えば、店の手伝い位できっと許してくれるから。」
「そうだぞ、兄ちゃん達、貧しいならしょうがねぇもんなぁ!」
「そうだそうだ!自分だけじゃ謝りに行けないんなら、俺も着いてってやろうか?」
「チッ…なんだよ、おい、逃げるぞ!」
「へい!」
「おい、逃がすか!」
それからは、さすが港街。普段は素知らぬふりをして歩いていても、いざ揉め事があったら皆で団結して解決をする。港街は、国の玄関口でもある為、悪い事をしようとする輩もどうしても入って来てしまう。その為、さながら自警団のように、街の皆で悪い輩を捕まえて、衛兵に引き渡しているのだ。
「よし、捕まえた!あっけねぇなぁ。悪い事はしちゃいけねぇよ。」
街の人達が誰がやったか分からないように、足を引っ掛けて転ばせたり、ちょっと殴ったり服を引っ張って行く手を阻んだりして、あとは体格の良い奴が出てきて後ろ手に捕まえ、誰かが縄を投げ、それを拾い、ぐるぐる巻きにして一丁上がり。いつものように、衛兵へ引き渡した。
「おい、お前。皆が助けてやったから良かったもんだけど、まだガキなんだから自分からやりに行くなよ。」
マリーアを後ろに倒れないように助けてくれた人が、マリーアへと注意した。彼は、オレンジのような髪をした、十七歳のエマヌエルだ。
父親のような髪色に、マリーアは目が奪われた。
マリーアは知らなかったが、フォントリアー家の海運業組合に勤めているまだまだ下っ端だ。
「あら、でも、悪事は見逃せないわ。治安維持も大切な仕事よ。」
「そうだけどよ、お前はまだ小さいんだ。今回は俺が助けたから良かったものの、怪我があったらいけないだろ?」
そう言われ、マリーアは自分を心配してくれる人がいるんだと思った。
マリーアは、領主の娘である。
ラグンフリズは、結婚して二年目にモウリッツの跡を継いで領主になったのだ。その娘のマリーアを心配しない者はいない。その為、港街に出歩くマリーアを見つけた時は、街の住人総出で見守っているようなものなのだ。
だが、その事をマリーアは知らないし、面と向かって言われたのは初めてだった為に舞い上がってしまった。
「まぁ!そんな事言う人なんて初めてだわ!あなた名前は?私は、マリーアよ。」
「俺は、エマヌエルだ。いいか?気をつけろ。悪事が見過ごせないなら、近くの大人に言え。俺が近くにいれば俺でもいいから。」
「なんて優しいの…!エマヌエル、私と結婚して!」
「はぁ!?」
「お父様が言ってたんだもの!一緒に居たいと思う人が、結婚したいと思う人なんだって!!」
「バッ…バッカじゃねぇの!?(何組合長は娘に言ってんだよ!)俺は貴族でも何でもねぇ!だから無理だな。他を探せよ。」
「何言ってるの?それこそ馬鹿じゃないの?人は、貴族か貴族じゃないかでは無いのよ?自分の事を本当に大切にしてくれるかどうかなの!ね、エマヌエル!今じゃダメなら、もう少し大人になったら考えて!」
「…いつかな!お前が大人になって、まだそう思ってんなら、その時考えてやるよ。(ま、その時はもう、俺の事なんて忘れてるだろ。)」
「言ってくれたわね!?男に二言はないのよ?私、お母様に似た素敵な淑女になってやるんだから!いい?覚悟しておきなさい!」
マリーアは、忘れない内に早くこの事を両親に伝えないとと思って急いで家路に向かった。
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