赤薔薇伯爵

６

私は止める親戚の声に耳は貸さず、橘邸での居候を始めた。
両親から相続した領地等については全てが私名義に書き換えられ、それらの手続きは彼が進めてくれた。
そしてその収入は私に自動で入るらしい。


ここでの生活が１週間経った。
父と母を失って、兄と姉を手に入れたようなものだ。

私は彼とラナに支えられ、悲しみを少しずつ和らげつつある。


ただ２人と生活を始めて分かったことがある。
ラナはあまり部屋から出てこないこと。
私は自然と彼と接する機会が増えた。

ラナはほぼ自室に籠っていた。

私が部屋を覗くといつも笑顔で招き入れてくれる。
ラナとのお茶の時間はとても楽しい。
その時もラナの部屋でクッキーをつまみながら、紅茶を飲んでいた。

ノックに対しラナが返事をすると、彼が入ってきた。


「茜、今度サーカス来るけど行ってみる？」

咄嗟にラナを見た。
ラナは彼を見ない、私に笑顔を向けるのみ。
彼は名指しで私に聞いた、ラナには何故聞かないの。

「ラナは…？」

この時、私は確実に二人の間に違和感を感じたのだ。


「私はいいの。
茜は行って来ればいいわ、気晴らしになるわよ」

彼を振り返ったら、彼もラナを見ていない。
二人の不協和音に晒されながら私は遠慮がちに頷くしかできなかった。


「じゃあ支度しといてね」

笑顔の彼を見送って私は再度、ラナを見た。

「何で…ラナは？」

「私はいいわ」

ラナの真意が分からない。
二人の真意が分からない。


「ねぇ、あの人を宜しくね」

ラナはそう言って笑顔を見せた。