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第二章 銀色の聖女
第二話
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ジークとルークの出会いは約三年前まで遡る。『魔力硬化症』により病床に伏していたルークだったが浩人によって齎された特効薬によって命を繋いだ。
病気が直ぐに完治することはなかったが、医師が舌を巻く程驚異的なスピードで快復を果たした。
二人が出会うきっかけを作ったのは浩人の指導者でルークの父親でもあったブリンクとなる。是非息子に会ってほしいとせがまれた形だ。
浩人としてはどちらでも良かったが他領となるレント領に興味があったことから応じることにした。
お互いの紹介はブリンクの自宅で行われた。正式な場での紹介を望んでいたがジークから「貴様ら庶民の暮らしぶりを俺に見せてみろ」と言われたからである。なんとも上から目線の発言ではあったが、ブリンクとしては息子を気遣ったその優しさに心が暖かくなった。
実際のところは単に一般市民の生活水準を知りたかっただけだが。ラギアス領ではどこに行っても嫌われているから気軽に街を歩くことすらできない。
そんな中初めてのコンタクトだったがルークとしては何もかもが衝撃的だった。
自分と変わらない年齢、貴族との接触が初めての状況、しかもその相手は命の恩人。どのような対応を取るべきか子供ながらに悩んでいたが、ジークの一言で全てが吹き飛んだ。
「貧弱なガキだな。これが将来騎士になれるのか?」
初対面で真っ向から両断された形だ。いくら貴族で命の恩人であったとしても、将来の夢を否定されれば憤りを感じても不思議ではない。
「……君には関係ないよ。僕の夢だ」
「そうだ、全くもって関係ない。だから俺の邪魔はするなよ」
酷い言われようだった。ここまで辛辣な言葉を受けたのは初めてで思わず目が点になる。父親からは少し口調が強いと聞いてはいたが、情報に齟齬がある。人伝の言葉を鵜呑みにするのは良くないと学んだルークであった。
✳︎✳︎✳︎✳︎
「ふふっ……」
「……やはり頭がおかしくなったようだな」
「そんなんじゃないよ。昔のことを思い出してさ」
出会いは最悪だった。このような人間が貴族でいいのか。本当に自分はこの人物によって救われたのか。なにより憧れである父が目の前の不遜な少年の指導者に就いていることが納得いかなかった。
「覚えているかい? 初めて会った時に君が僕になんて言ったか」
「知るか」
「騎士にはなれない、みたいなことを言われてさ。さすがに頭にきたよ」
「今も騎士ではないだろうが」
「そういうことじゃなくて……。未だに君との縁が続いていることが不思議に思えてね」
今回限り、もう関わることもなければ率先して関わりたいとも思わない。そう望んでいたはずなのに今でも縁が切れることなく続いている。
(初めて父さんとジークの打ち合いを見た時は衝撃的だった)
ブリンクに勧められてジークの修行を見学することになった。ジークには近付きたくないというのが本音ではあったが、父が剣を振る姿は見ていたい。憧れを抱いていたからだ。その思いから渋々ではあったが見学することにした。
「俺を見世物にする気か? ここは託児所じゃないはずだが」
「そう言わずに。良い刺激になると思いますよ、お互いに」
自分はともかく父にまで不遜な態度を変えない。貴族の生まれというだけでこうも人格が歪むのか。剣にしても父の指導があるから多少出来るだけだと高を括っていた。直ぐに追い抜いて見せると。
「では始めます」
ブリンクの一声で指導が開始された。軽く打ち合うだけだと予想していたが、思った以上に激しい剣戟が繰り広げられる。実戦さながらの光景だった。
(な、何で……。父さんは元々騎士なのに)
自分と歳が変わらない年齢の少年が元騎士である父に劣らず剣を振る。実戦ではないにせよ遅れることなく剣を交えている。それも涼しい顔で。
見入っていた。嫌いな相手であることを忘れ、ただただ剣だけを。
立ち会いが終わった後には無意識のうちにジークに話しかけていた。
「どうしてそんなに剣がすごいの⁉︎ 僕も君みたいになれるかな⁉︎」
「…………そんなものは当人の能力次第だ」
嫌ってます感がひしひしと伝わってきていた浩人としては、まさか話しかけられるとは思わず、返答が少し遅れた。
「そっか……前に君が言っていたことはそういうことだったのか」
弱い体では剣を扱えない。剣に見合う強い体が必要なのだとジークの言葉を解釈した。
――当人としては病み上がりなんだからゆっくり休んだら、と言ったつもりだったのだが。
「分かったよ。先ずは元気に走れるよう体力を付けることにするよ」
キラキラと目が輝いていた。ジークではあり得ない純粋な瞳に思わずたじろぐ。
「二人の邪魔にならないよう見学を続けるよ!」
父が前に言っていた。目で学ぶのも強くなることへの一歩になると。
「おい、貴様の息子は大丈夫か?」
「あなたの姿を見て感化されたのでしょう」
(父さんの話では魔法も使えるらしい)
同い年の彼に出来て自分に出来ない道理はない。遠い父の背中を追いかける前に先ずはジークを目指す。
三年前に抱いた目標を懐かしく感じていたルーク。
「老人の思い出話に付き合うつもりはない。さっさと冒険者協会へ行くぞ」
「まったく……僕の友人は本当に口が悪い」
(君がいたからこそ僕はここまで変われたんだよ)
病気が直ぐに完治することはなかったが、医師が舌を巻く程驚異的なスピードで快復を果たした。
二人が出会うきっかけを作ったのは浩人の指導者でルークの父親でもあったブリンクとなる。是非息子に会ってほしいとせがまれた形だ。
浩人としてはどちらでも良かったが他領となるレント領に興味があったことから応じることにした。
お互いの紹介はブリンクの自宅で行われた。正式な場での紹介を望んでいたがジークから「貴様ら庶民の暮らしぶりを俺に見せてみろ」と言われたからである。なんとも上から目線の発言ではあったが、ブリンクとしては息子を気遣ったその優しさに心が暖かくなった。
実際のところは単に一般市民の生活水準を知りたかっただけだが。ラギアス領ではどこに行っても嫌われているから気軽に街を歩くことすらできない。
そんな中初めてのコンタクトだったがルークとしては何もかもが衝撃的だった。
自分と変わらない年齢、貴族との接触が初めての状況、しかもその相手は命の恩人。どのような対応を取るべきか子供ながらに悩んでいたが、ジークの一言で全てが吹き飛んだ。
「貧弱なガキだな。これが将来騎士になれるのか?」
初対面で真っ向から両断された形だ。いくら貴族で命の恩人であったとしても、将来の夢を否定されれば憤りを感じても不思議ではない。
「……君には関係ないよ。僕の夢だ」
「そうだ、全くもって関係ない。だから俺の邪魔はするなよ」
酷い言われようだった。ここまで辛辣な言葉を受けたのは初めてで思わず目が点になる。父親からは少し口調が強いと聞いてはいたが、情報に齟齬がある。人伝の言葉を鵜呑みにするのは良くないと学んだルークであった。
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「ふふっ……」
「……やはり頭がおかしくなったようだな」
「そんなんじゃないよ。昔のことを思い出してさ」
出会いは最悪だった。このような人間が貴族でいいのか。本当に自分はこの人物によって救われたのか。なにより憧れである父が目の前の不遜な少年の指導者に就いていることが納得いかなかった。
「覚えているかい? 初めて会った時に君が僕になんて言ったか」
「知るか」
「騎士にはなれない、みたいなことを言われてさ。さすがに頭にきたよ」
「今も騎士ではないだろうが」
「そういうことじゃなくて……。未だに君との縁が続いていることが不思議に思えてね」
今回限り、もう関わることもなければ率先して関わりたいとも思わない。そう望んでいたはずなのに今でも縁が切れることなく続いている。
(初めて父さんとジークの打ち合いを見た時は衝撃的だった)
ブリンクに勧められてジークの修行を見学することになった。ジークには近付きたくないというのが本音ではあったが、父が剣を振る姿は見ていたい。憧れを抱いていたからだ。その思いから渋々ではあったが見学することにした。
「俺を見世物にする気か? ここは託児所じゃないはずだが」
「そう言わずに。良い刺激になると思いますよ、お互いに」
自分はともかく父にまで不遜な態度を変えない。貴族の生まれというだけでこうも人格が歪むのか。剣にしても父の指導があるから多少出来るだけだと高を括っていた。直ぐに追い抜いて見せると。
「では始めます」
ブリンクの一声で指導が開始された。軽く打ち合うだけだと予想していたが、思った以上に激しい剣戟が繰り広げられる。実戦さながらの光景だった。
(な、何で……。父さんは元々騎士なのに)
自分と歳が変わらない年齢の少年が元騎士である父に劣らず剣を振る。実戦ではないにせよ遅れることなく剣を交えている。それも涼しい顔で。
見入っていた。嫌いな相手であることを忘れ、ただただ剣だけを。
立ち会いが終わった後には無意識のうちにジークに話しかけていた。
「どうしてそんなに剣がすごいの⁉︎ 僕も君みたいになれるかな⁉︎」
「…………そんなものは当人の能力次第だ」
嫌ってます感がひしひしと伝わってきていた浩人としては、まさか話しかけられるとは思わず、返答が少し遅れた。
「そっか……前に君が言っていたことはそういうことだったのか」
弱い体では剣を扱えない。剣に見合う強い体が必要なのだとジークの言葉を解釈した。
――当人としては病み上がりなんだからゆっくり休んだら、と言ったつもりだったのだが。
「分かったよ。先ずは元気に走れるよう体力を付けることにするよ」
キラキラと目が輝いていた。ジークではあり得ない純粋な瞳に思わずたじろぐ。
「二人の邪魔にならないよう見学を続けるよ!」
父が前に言っていた。目で学ぶのも強くなることへの一歩になると。
「おい、貴様の息子は大丈夫か?」
「あなたの姿を見て感化されたのでしょう」
(父さんの話では魔法も使えるらしい)
同い年の彼に出来て自分に出来ない道理はない。遠い父の背中を追いかける前に先ずはジークを目指す。
三年前に抱いた目標を懐かしく感じていたルーク。
「老人の思い出話に付き合うつもりはない。さっさと冒険者協会へ行くぞ」
「まったく……僕の友人は本当に口が悪い」
(君がいたからこそ僕はここまで変われたんだよ)
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