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第3章 ゆうしゃのしるしを巡る冒険
第24話 秘密の地図とゆうしゃのしるし[12]
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「……ここまで順調にゆうしゃのしるし、見つけられてよかったね」
なつみがぽつりと言うと、そらたはとなりで小さくうなずいた。
夕方の風が少しだけ冷たくなってきた。
空に浮かぶ雲がオレンジと藍色の境い目に浮かんでいた。
「ねえ、そらた」
「ん?」
「この地図に、まだもうひとつ、“しるし”が書かれてたよね」
そらたはポケットから、ほのかのノートに挟まっていた地図を取り出した。
角が少し丸まっていて、ふたりで何度も開いたことが感じられる。
「“おわりの ない ところ”……」
「それって、どういう意味だろう?」
ふたりはベンチに腰かけて、地図を見つめた。
「“おわりのない”っていうのは、終わらないってことだよね」
「うん。つまり、“ずっと続いてる”とか……」
「道が続いてる場所とか?」
そらたは地図のすみに小さく描かれた記号を指差した。
「たぶん……ここ。川沿いの、土手じゃないかな」
「えっ、あの、土の道のあるところ?」
「うん。ずっとまっすぐに伸びてるよね。途中で切れてないし、向こうまでずっと続いてる」
それは、ほのかがなつみとふたりで歩いた道だった。
―――あの日、ほのかは思っていた。
それは、ほのかがかつてなつみと手をつないで歩いた、忘れられない道だった。
――わたしは、もう長くは生きられない。
ほのかはそのことを、静かに受け入れていた。
大人たちは気づかれないように振る舞っていたけれど、身体の変化や病院での会話の端々から、彼女にはわかっていたのだ。
それでもほのかは、泣かなかった。
泣いてしまったら、なつみの中に悲しみしか残らない気がしたから。
だからこそ、なつみに何かを残したかった。
――“ゆうしゃ”のしるしを。
それは、形のあるものではなく、思い出のなかでそっと力をくれる“まほう”のようなもの。
怖くても、泣いても、立ち上がれる勇気。
未来に向かって一歩を踏み出せる強さ。
わたしがいなくなっても、なつみが前を向けるように。
この道は、そんな願いをこめた場所だった。
終わりがある自分の命に対して、「終わりのない道」にそっと願いを託すように――ほのかはこの土手の風景を、なつみの心に残る“しるし”として選んだのだった。
―――なつみは、ふっと笑った。
「それって、わたしも小さいころに“おわりがない道だ”って言ったことあったのかも」
「やっぱり、そこかもね」
ふたりはまた歩きはじめた。
図書館の裏通りを抜けて、住宅街を通り抜けると、川沿いの道が現れた。
土手には、草が生い茂っていて、道の両端には背の高い草が風になびいていた。
すこし涼しくなってきた空気が、汗ばんだ肌に心地よい。
「ここ、久しぶりに来た」
「ぼくはときどき通るよ。図書館からの帰り道に」
「そっか。そらた、本当に本が好きなんだね」
「うん。……でも最近は、なっちゃんとの冒険のほうが楽しい」
なつみは、少し照れたようにうつむいた。
夕暮れからゆっくりと暗くなっていく光が、彼女の頬にやさしく影を落とした。
なつみがぽつりと言うと、そらたはとなりで小さくうなずいた。
夕方の風が少しだけ冷たくなってきた。
空に浮かぶ雲がオレンジと藍色の境い目に浮かんでいた。
「ねえ、そらた」
「ん?」
「この地図に、まだもうひとつ、“しるし”が書かれてたよね」
そらたはポケットから、ほのかのノートに挟まっていた地図を取り出した。
角が少し丸まっていて、ふたりで何度も開いたことが感じられる。
「“おわりの ない ところ”……」
「それって、どういう意味だろう?」
ふたりはベンチに腰かけて、地図を見つめた。
「“おわりのない”っていうのは、終わらないってことだよね」
「うん。つまり、“ずっと続いてる”とか……」
「道が続いてる場所とか?」
そらたは地図のすみに小さく描かれた記号を指差した。
「たぶん……ここ。川沿いの、土手じゃないかな」
「えっ、あの、土の道のあるところ?」
「うん。ずっとまっすぐに伸びてるよね。途中で切れてないし、向こうまでずっと続いてる」
それは、ほのかがなつみとふたりで歩いた道だった。
―――あの日、ほのかは思っていた。
それは、ほのかがかつてなつみと手をつないで歩いた、忘れられない道だった。
――わたしは、もう長くは生きられない。
ほのかはそのことを、静かに受け入れていた。
大人たちは気づかれないように振る舞っていたけれど、身体の変化や病院での会話の端々から、彼女にはわかっていたのだ。
それでもほのかは、泣かなかった。
泣いてしまったら、なつみの中に悲しみしか残らない気がしたから。
だからこそ、なつみに何かを残したかった。
――“ゆうしゃ”のしるしを。
それは、形のあるものではなく、思い出のなかでそっと力をくれる“まほう”のようなもの。
怖くても、泣いても、立ち上がれる勇気。
未来に向かって一歩を踏み出せる強さ。
わたしがいなくなっても、なつみが前を向けるように。
この道は、そんな願いをこめた場所だった。
終わりがある自分の命に対して、「終わりのない道」にそっと願いを託すように――ほのかはこの土手の風景を、なつみの心に残る“しるし”として選んだのだった。
―――なつみは、ふっと笑った。
「それって、わたしも小さいころに“おわりがない道だ”って言ったことあったのかも」
「やっぱり、そこかもね」
ふたりはまた歩きはじめた。
図書館の裏通りを抜けて、住宅街を通り抜けると、川沿いの道が現れた。
土手には、草が生い茂っていて、道の両端には背の高い草が風になびいていた。
すこし涼しくなってきた空気が、汗ばんだ肌に心地よい。
「ここ、久しぶりに来た」
「ぼくはときどき通るよ。図書館からの帰り道に」
「そっか。そらた、本当に本が好きなんだね」
「うん。……でも最近は、なっちゃんとの冒険のほうが楽しい」
なつみは、少し照れたようにうつむいた。
夕暮れからゆっくりと暗くなっていく光が、彼女の頬にやさしく影を落とした。
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******
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