ゆうしゃの夏、まほうつかいの空

えんびあゆ

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番外編:『まほうの手紙、ゆうしゃへの道しるべ ―結城ほのか、3年前の物語―』

第15話 ゆうしゃへの手紙と未来へのまほう[5]

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葬儀の日、空はどこまでも澄んでいた。
雲一つない青空が広がり、透明な光が葬儀場を静かに照らしていた。
けれど吹く風は冷たく、まるで夏の終わりを告げるように、白い花々を静かに揺らしていた。

真っ白な祭壇の前で、ほのかの遺影はやさしく微笑んでいた。
写真の中の彼女は、まるで今にも「大丈夫だよ」と言いそうなほど、穏やかな表情を浮かべていた。

家族や親族、そして学校の友だちが静かに列をなして進む。
祭壇に白い菊や百合の花が供えられるたびに、なつみは母と手をつないだまま、小さな肩を震わせていた。

なつみの目には涙があふれ、頬には乾いた涙の跡がいくつも重なって残っていた。
その小さな顔には、まだこの現実を受け入れきれない戸惑いが影を落としていた。

彼女は時折、祭壇の上の姉の微笑む遺影を見つめては、再び悲しみに胸を締め付けられた。
もう姉はここにはいないのだという事実が、冷たい秋の風とともになつみの心を何度も突き刺した。

「お姉ちゃん……」

なつみは誰にも聞こえないほど小さくつぶやき、母の手を握る力を強めた。
母の手もまた冷たく震えていたが、なつみを支えようと必死で涙をこらえていた。

その様子を後ろの方で静かに見守っていたのが、ほのかの親友であるひよりだった。
ひよりは胸に抱いていた一冊のノートを、ぎゅっと抱きしめていた。

それは、ほのかがずっと秘密にしてきた“しるしの記録”だった。
彼女は誰にも言わず、ただひよりにだけこのノートを託していた。
その理由を、ひよりはすぐに理解していた。

ほのかは、自分がいなくなった後も誰かが自分の想いを受け取ってくれることを願っていたのだ。
ひよりは震える手でそっとノートを開いた。

ページの隅には、ほのかのやさしい筆跡でこう記されていた。

「ゆうしゃって、誰かの気持ちを背負って、前に進める人だと思う」

その言葉を目にした瞬間、ひよりの目からも静かに涙がこぼれ落ちた。
彼女は胸が苦しくなるほど、ほのかのことを思い出していた。

一緒に笑い合った教室の風景、図書室で夢を語り合った放課後のひととき。
自分が落ち込んでいた時には、ほのかはいつも黙ってそばにいてくれた。
病気で苦しい時さえ、自分よりもひよりのことを気遣ってくれた。

(そうだよ、ほのか。あなたはきっと、本当の“ゆうしゃ”だった。いえ、なつみちゃんにとっては”まほうつかい”だった)

ひよりは心の中で静かにそうつぶやいた。

それと同時に、自分にできたことがあまりにも少なかったことへの悔しさが胸を締めつけた。
ほのかは自分に何も求めなかったが、もっと彼女の力になりたかったという思いが、どうしても消えなかった。

ノートを抱きしめたまま、ひよりは祭壇に視線を戻した。
ほのかの遺影の微笑みが、自分を見守っているような気がした。

(ほのかが遺してくれたこの想い、今度は私が背負っていくからね)

ひよりは涙をぬぐいながら、心に固く決意を込めた。

葬儀は静かに進んだ。
誰もが無言のまま、自分の悲しみを胸にしまい込んでいた。

やがて儀式が終わり、人々が静かに会場を後にする。
なつみは父に抱きかかえられていたが、遺影から目を離すことができず、ずっと振り返っていた。

「お姉ちゃん、またね……」

その小さな声は、風にかき消されることなく、ひよりの耳にも静かに届いていた。

ひよりはなつみの背中を静かに見送った。
ノートの温もりが自分の心を勇気づけるように、胸の奥に熱を灯していた。

自宅に帰る途中、ひよりは空を見上げた。
青く澄み渡った空の下、どこかでほのかが微笑んでいる気がした。

(ほのか、ありがとう。私、がんばるから)

空に向かって小さくつぶやき、ひよりはしっかりと前を向いた。
ほのかの遺してくれた“しるしの記録”を胸に抱いて、彼女はゆっくりと歩き始めた。

この日の空の青さと、花を揺らした冷たい風を、ひよりは生涯忘れないだろう。
それは、ほのかが最後に教えてくれた、大切な約束だった。

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