ゆうしゃの夏、まほうつかいの空

えんびあゆ

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番外編:『まほうの手紙、ゆうしゃへの道しるべ ―結城ほのか、3年前の物語―』

第16話 ゆうしゃへの手紙と未来へのまほう[6]

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帰り道。

葬儀場を後にしたなつみは、ただ静かに俯いて歩いていた。
彼女が小さな影を落としながらゆっくりと進むその後ろ姿を、ひよりは少し距離を置いて見つめていた。
なつみの肩は小刻みに震え、目元はまだ涙で腫れている。
そんななつみを見ていると、ひよりの胸が痛んだ。

けれど、立ち止まってはいられなかった。
ひよりはそっと息を吸い込んで、なつみに優しく声をかけた。

「なつみちゃん……」

なつみは一瞬びくりと肩を震わせた後、ゆっくりと顔を上げた。
泣き腫らした赤い目でひよりを見つめる。

「……うん……」

声にならないような小さな返事が、かすれた声で返ってきた。
それでもひよりは温かな微笑みを浮かべて言葉を続けた。

「お姉ちゃんね、きっと、“しるし”を残したんだよ。なつみちゃんのために」

「しるし……?」

なつみは小さな声で問い返した。
目を瞬かせて、ひよりの表情を探るようにじっと見上げる。
その瞳には、まだ悲しみの影が濃く残っていた。

ひよりは静かに頷いた。

「うん。ほのかちゃんは、すごくやさしくて、誰よりも大切な人のことを考える人だったから。きっと、なつみちゃんが前に進めるように……ちゃんと、道しるべを遺してくれてるよ」

なつみは小さく唇を震わせた。
視線が揺れ、迷うように足元を見つめていた。

「でも……どこにあるの……?」

その問いは、か細く、頼りなげだった。
ひよりは優しく、けれど力強い声で答えた。

「まだ、気づけないかもしれない。でもね、いつか、きっとわかる日が来る。なつみちゃんが“ゆうしゃ”として、前に進むそのときに、見つけられるように――そう思ってる」

なつみの目に、新たな涙がじわりと溢れた。
しかしそれはただ悲しみだけの涙ではなかった。
姉が遺したという見えない“しるし”への希望が、ほんのわずかに彼女の胸を温めていた。

「お姉ちゃん、私のために……?」

震える声で呟きながら、なつみは立ち止まった。
ひよりもゆっくりと足を止め、そっとなつみの手を握った。
なつみの指は冷たく震えていたが、ひよりが優しく握ると、その震えは少しずつ収まった。

「そうだよ。ほのかちゃんはきっと、なつみちゃんが前に進めるようにって思って、ちゃんと道を作っておいてくれてるんだと思う」

なつみはじっとひよりの瞳を見つめた。そして、小さく頷いた。

「……わかった」

その一言には、まだか細くはあるものの、確かな決意が込められていた。

ふたりは再び歩き出した。
風がふわりと吹き抜け、街路樹の葉がさらさらと揺れた。
その音は、どこか遠く優しい響きを持っていた。

ふとひよりが空を見上げると、雲のすきまから一筋の光が差していた。
まるで天の向こうから、誰かがふたりを見守っているかのようだった。

(ほのかちゃん……)

ひよりは心の中でそっと呟いた。
空から差すその光は、ほのかが「おかえり」と微笑んでいるように感じられた。

悲しみは簡単に消えるものではない。
けれども、ほのかが遺した想いは、確かにここにある。

なつみが再び前を向き、勇気を持って一歩ずつ歩き始める日まで――。

ひよりは、その日を強く願いながらなつみの手を握った。

(むしろ、ここからが始まりなんだ。なつみちゃんが、本当に「ゆうしゃ」として歩き出す、その日まで……)

そしてその日、なつみの隣にはきっと、まほうつかいのように寄り添う“誰か”がいるはずだ。
ひよりは、その未来を信じていた。
そっと息を吐き、彼女はもう一度空を見上げた。
空は澄み切り、雲のすきまから覗く光がふたりをやさしく照らしている。

それはまるで、ほのかが静かに微笑んでいるかのようだった。

「大丈夫、なつみちゃん。きっと、大丈夫だよ」

ひよりは微笑みながら、優しく語りかけた。
なつみは、その言葉にそっと頷く。
そして二人は静かな街をゆっくりと歩き続けた。

悲しみを抱えながらも、前を向いて進むために。
この道の先には、きっとほのかが遺した「しるし」が待っている。

ゆうしゃの少女が、「ただいま」と言える日まで――。
いつの日か、まほうつかいと共に始める冒険の日が訪れることを――。
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