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完結編:『ゆうしゃの誓い、まほうつかいの旅立ち -さよならの向こうにあるもの-』
第8話 なつみの迷いとひよりの助言[3]
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次の日、曇り空の向こうに淡い日差しが射していた。
なつみは部屋のベッドに座り、スマホを手のひらで転がしていた。外では春の風が何度も窓ガラスを揺らしている。
友だちからのグループLINEは、卒業旅行や新しい制服の話題でにぎわっていたけれど、なつみの指は一度もその画面をタップしなかった。
通知が一つ鳴る。
見慣れない番号――でも、どこかで覚えている気がした。
「……もしもし?」
少し緊張した声で電話を取ると、耳に優しい声が届いた。
「なつみちゃん、わたし、相澤ひより。少しだけ、会えないかな?」
その声は、なつみが子どもの頃に何度も聞いたことがあった。
お姉ちゃんの親友――優しくて静かで、本のことをたくさん知っていて、時々ほのかの代わりに話を聞いてくれた人。
「……はい。いいですよ」
小さな声でそう返したとき、なつみはなぜかほっとした。
待ち合わせの場所は、ほのかもよく通っていた近所の図書館だった。
春休みの昼下がり、普段よりも人の少ない館内には、古い本の香りと窓越しの光が静かに広がっている。
ここは、なつみとそらたにとっても特別な場所だ。
5年生の夏、“ゆうしゃのしるし”を探す冒険が始まった日も、この図書館だった。
入口のガラス戸を開けると、窓際のテーブルにひよりが座っていた。
ベージュ色のコート、肩に下ろした黒髪、どこか大人っぽくなったけど、微笑んだときのやさしい雰囲気は、あの日と変わらない。
「来てくれてありがとう」
ひよりが椅子から立ち上がり、やわらかな声で言った。
「はい……」
なつみも、小さな声で返す。
「なつみちゃんに見せたいものがあるの」
そう言いながら席につくと、ひよりは一冊のノートをそっとテーブルの上に置いた。
表紙には、ほのかの書いた丸い字で“しるしの記録”と書かれていた。
「これ、ほのかちゃんが昔書いてたノートなの。なつみちゃんに読んでほしいって、ずっと思ってたの」
なつみはそっとページをめくる。
紙の感触、淡いインクの匂い、ページの間から春の空気がやさしく流れ込んでくる気がした。
懐かしい字で、こう綴られていた――
「大切な人と離れるのはさみしい。でも、心がつながっていれば、大丈夫」
なつみは、胸の奥がきゅうっと締めつけられるのを感じた。
「……ほのかちゃん、ずっと“しるし”を隠す場所を色々考えていたんだよ。最終的にはあの場所になったけど……色々考えてた。自分が居なくなっても、なつみちゃんが“勇者”で居られるように……」
ページには、何通りもの地図のスケッチや、場所の候補が並んでいた。
図書館の児童書コーナー、校庭の桜の木の根元、公園のすべり台の下……。
どれも、なつみとほのかの思い出の場所だった。
「お姉ちゃん……」
ページのすみ、走り書きのような文字が涙でにじんで見えた。
ふと、なつみは黙り込んでしまった。
涙が、ノートの上にぽつりと落ちる。
隣でひよりがそっとハンカチを差し出してくれる。
「……どうして、そんなふうに思えるの?」
なつみは小さな声で尋ねた。
「私は、さよならって言いたくないよ。そらたがいなくなるのが、こわくて、さみしくて……」
ひよりは、そっとなつみの手を取った。
その手はあたたかく、なつみの緊張がほんの少しほどけていく。
「……ほのかちゃんも、私も、いつも“お別れ”がこわかったよ。でも――大事なのは、距離じゃなくて、つながり。どんなに遠く離れても、思い合っていれば、きっと気持ちは届くんだって、ほのかちゃんが教えてくれたんだ」
「……でも、やっぱり、さみしいよ」
なつみはぽつりとつぶやく。
「それでいいんだよ」
ひよりは微笑みながら頷いた。
「さみしいって思えるのは、それだけ相手を大事にしてきた証拠。なつみちゃんが今感じているその気持ち、ぜんぶ、あなたの“しるし”だよ」
なつみは部屋のベッドに座り、スマホを手のひらで転がしていた。外では春の風が何度も窓ガラスを揺らしている。
友だちからのグループLINEは、卒業旅行や新しい制服の話題でにぎわっていたけれど、なつみの指は一度もその画面をタップしなかった。
通知が一つ鳴る。
見慣れない番号――でも、どこかで覚えている気がした。
「……もしもし?」
少し緊張した声で電話を取ると、耳に優しい声が届いた。
「なつみちゃん、わたし、相澤ひより。少しだけ、会えないかな?」
その声は、なつみが子どもの頃に何度も聞いたことがあった。
お姉ちゃんの親友――優しくて静かで、本のことをたくさん知っていて、時々ほのかの代わりに話を聞いてくれた人。
「……はい。いいですよ」
小さな声でそう返したとき、なつみはなぜかほっとした。
待ち合わせの場所は、ほのかもよく通っていた近所の図書館だった。
春休みの昼下がり、普段よりも人の少ない館内には、古い本の香りと窓越しの光が静かに広がっている。
ここは、なつみとそらたにとっても特別な場所だ。
5年生の夏、“ゆうしゃのしるし”を探す冒険が始まった日も、この図書館だった。
入口のガラス戸を開けると、窓際のテーブルにひよりが座っていた。
ベージュ色のコート、肩に下ろした黒髪、どこか大人っぽくなったけど、微笑んだときのやさしい雰囲気は、あの日と変わらない。
「来てくれてありがとう」
ひよりが椅子から立ち上がり、やわらかな声で言った。
「はい……」
なつみも、小さな声で返す。
「なつみちゃんに見せたいものがあるの」
そう言いながら席につくと、ひよりは一冊のノートをそっとテーブルの上に置いた。
表紙には、ほのかの書いた丸い字で“しるしの記録”と書かれていた。
「これ、ほのかちゃんが昔書いてたノートなの。なつみちゃんに読んでほしいって、ずっと思ってたの」
なつみはそっとページをめくる。
紙の感触、淡いインクの匂い、ページの間から春の空気がやさしく流れ込んでくる気がした。
懐かしい字で、こう綴られていた――
「大切な人と離れるのはさみしい。でも、心がつながっていれば、大丈夫」
なつみは、胸の奥がきゅうっと締めつけられるのを感じた。
「……ほのかちゃん、ずっと“しるし”を隠す場所を色々考えていたんだよ。最終的にはあの場所になったけど……色々考えてた。自分が居なくなっても、なつみちゃんが“勇者”で居られるように……」
ページには、何通りもの地図のスケッチや、場所の候補が並んでいた。
図書館の児童書コーナー、校庭の桜の木の根元、公園のすべり台の下……。
どれも、なつみとほのかの思い出の場所だった。
「お姉ちゃん……」
ページのすみ、走り書きのような文字が涙でにじんで見えた。
ふと、なつみは黙り込んでしまった。
涙が、ノートの上にぽつりと落ちる。
隣でひよりがそっとハンカチを差し出してくれる。
「……どうして、そんなふうに思えるの?」
なつみは小さな声で尋ねた。
「私は、さよならって言いたくないよ。そらたがいなくなるのが、こわくて、さみしくて……」
ひよりは、そっとなつみの手を取った。
その手はあたたかく、なつみの緊張がほんの少しほどけていく。
「……ほのかちゃんも、私も、いつも“お別れ”がこわかったよ。でも――大事なのは、距離じゃなくて、つながり。どんなに遠く離れても、思い合っていれば、きっと気持ちは届くんだって、ほのかちゃんが教えてくれたんだ」
「……でも、やっぱり、さみしいよ」
なつみはぽつりとつぶやく。
「それでいいんだよ」
ひよりは微笑みながら頷いた。
「さみしいって思えるのは、それだけ相手を大事にしてきた証拠。なつみちゃんが今感じているその気持ち、ぜんぶ、あなたの“しるし”だよ」
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