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完結編:『ゆうしゃの誓い、まほうつかいの旅立ち -さよならの向こうにあるもの-』
第9話 なつみの迷いとひよりの助言[4]
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ノートを読み進めていくうちに、なつみの中には新しい疑問が芽生えはじめていた。
――“しるし”は本当に、あれで全部だったんだろうか。
ページの終わり、ほのかの字は途中から空白になり、何かを書きかけてやめたような跡が残っている。
わずかに消しゴムで消された痕や、ページをめくった爪痕が切ない。
なつみは胸の中がざわざわした。
思えば、ほのかの“しるし”はいつも誰かの背中をそっと押してくれるものだった。
勇気がほしいとき、不安で立ち止まりそうなとき、ページをめくるたびに言葉がなつみを助けてくれた。
けれど今、その“しるし”は終わりのない空白になっている。
(もしかして、お姉ちゃんは最後のヒントを、まだどこかに残しているのかもしれない――)
「……ひよりさん」
ふいに声が漏れた。
目の前で静かに本を閉じていたひよりが、なつみの顔をやさしく覗き込む。
「ん?」
ひよりの声は、春の日差しのように柔らかい。
なつみは一瞬言葉に詰まった。けれど、もう胸の中で一人で抱えきれなかった。
「……そらた、引っ越すんです。卒業してすぐ……遠くに」
ぽつりと呟いた瞬間、なつみの頬を涙がつたった。
いままで、誰にも言えなかったこと。
ひよりの前だから、初めて素直に言えたのかもしれない。
ひよりは少し驚いたように目を丸くした。
でもすぐに、彼女は落ち着いた表情に戻り、ゆっくりとうなずいた。
「そうだったんだ……教えてくれてありがとう。
そらたくんがいなくなるのは、なつみちゃんにとって、とても大きなことだよね」
なつみは何度もうなずいた。
「……はい」
涙が止まらなかった。
自分でもこんなに泣けるんだ、と思うくらい。
でも、誰かに話せてほっとしたような気持ちもあった。
ひよりはなつみの前にノートを戻して、空白のページを指さした。
「ここ、何か続きを書きたかったのかな? それとも、まだ見つかっていない“しるし”があるのかもしれない。
ほのかちゃんはきっと、なつみちゃんが困った時のために、もう一つ、ヒントを残してる気がするんだ」
その言葉に、なつみの心に新しい灯がともった。
「……私、探してみます」
涙を拭い、ノートをもう一度じっと見つめる。
不思議と、胸の奥の不安が少しだけ和らいでいく気がした。
「大丈夫。きっと、ほのかちゃんはいつも見守ってくれている。
そして、そらたくんとも、どこにいても必ず繋がっていられるよ」
ひよりは微笑み、なつみの背中をそっと押した。
外の窓から差し込む春の光が、ノートの空白のページを照らす。
そこにはまだ、言葉にならない“何か”が確かに残されているようだった。
それなら、私は探さなければならない。お姉ちゃんが遺した大切なしるしなのだから……。
「……ありがとう、ひよりさん」
なつみはそっと立ち上がった。
窓の外では、桜の蕾が今にもほころびそうに揺れている。
(お姉ちゃん……私は、まだあきらめない。
そらたと本当にお別れするその前に、もう一度、ふたりの冒険をしてみせる。
そして、見つけるよ。お姉ちゃんが私に残してくれた“最後のしるし”を――)
静かな図書館の午後。
なつみは再び“冒険”を始める決意を胸に、新しい春の光の中へ歩き出した。
*
図書館を出て駅前の通りに差し掛かったとき、なつみはもう一度ノートの“空白”のページを指でなぞった。
どこかひっかかる。その違和感が心の奥で膨らんでいく。
(お姉ちゃんは、いつも「言葉」にしない大事なヒントを残すのが好きだった。
それに、ひよりさんの“最後のしるしがあるかも”って言い方も……まるで私に探してほしいって合図みたいだった)
桜の並木道を歩きながら、なつみはふと、ほのかが遺したしるしの“場所”について思いを巡らせた。
あの夏に見つけたしるしは図書館の本棚の奥、勇気を出して“未来の自分”へ向けて残されたものだった。
今回は、もっと“私だけにしか分からないヒント”かもしれない――
――“しるし”は本当に、あれで全部だったんだろうか。
ページの終わり、ほのかの字は途中から空白になり、何かを書きかけてやめたような跡が残っている。
わずかに消しゴムで消された痕や、ページをめくった爪痕が切ない。
なつみは胸の中がざわざわした。
思えば、ほのかの“しるし”はいつも誰かの背中をそっと押してくれるものだった。
勇気がほしいとき、不安で立ち止まりそうなとき、ページをめくるたびに言葉がなつみを助けてくれた。
けれど今、その“しるし”は終わりのない空白になっている。
(もしかして、お姉ちゃんは最後のヒントを、まだどこかに残しているのかもしれない――)
「……ひよりさん」
ふいに声が漏れた。
目の前で静かに本を閉じていたひよりが、なつみの顔をやさしく覗き込む。
「ん?」
ひよりの声は、春の日差しのように柔らかい。
なつみは一瞬言葉に詰まった。けれど、もう胸の中で一人で抱えきれなかった。
「……そらた、引っ越すんです。卒業してすぐ……遠くに」
ぽつりと呟いた瞬間、なつみの頬を涙がつたった。
いままで、誰にも言えなかったこと。
ひよりの前だから、初めて素直に言えたのかもしれない。
ひよりは少し驚いたように目を丸くした。
でもすぐに、彼女は落ち着いた表情に戻り、ゆっくりとうなずいた。
「そうだったんだ……教えてくれてありがとう。
そらたくんがいなくなるのは、なつみちゃんにとって、とても大きなことだよね」
なつみは何度もうなずいた。
「……はい」
涙が止まらなかった。
自分でもこんなに泣けるんだ、と思うくらい。
でも、誰かに話せてほっとしたような気持ちもあった。
ひよりはなつみの前にノートを戻して、空白のページを指さした。
「ここ、何か続きを書きたかったのかな? それとも、まだ見つかっていない“しるし”があるのかもしれない。
ほのかちゃんはきっと、なつみちゃんが困った時のために、もう一つ、ヒントを残してる気がするんだ」
その言葉に、なつみの心に新しい灯がともった。
「……私、探してみます」
涙を拭い、ノートをもう一度じっと見つめる。
不思議と、胸の奥の不安が少しだけ和らいでいく気がした。
「大丈夫。きっと、ほのかちゃんはいつも見守ってくれている。
そして、そらたくんとも、どこにいても必ず繋がっていられるよ」
ひよりは微笑み、なつみの背中をそっと押した。
外の窓から差し込む春の光が、ノートの空白のページを照らす。
そこにはまだ、言葉にならない“何か”が確かに残されているようだった。
それなら、私は探さなければならない。お姉ちゃんが遺した大切なしるしなのだから……。
「……ありがとう、ひよりさん」
なつみはそっと立ち上がった。
窓の外では、桜の蕾が今にもほころびそうに揺れている。
(お姉ちゃん……私は、まだあきらめない。
そらたと本当にお別れするその前に、もう一度、ふたりの冒険をしてみせる。
そして、見つけるよ。お姉ちゃんが私に残してくれた“最後のしるし”を――)
静かな図書館の午後。
なつみは再び“冒険”を始める決意を胸に、新しい春の光の中へ歩き出した。
*
図書館を出て駅前の通りに差し掛かったとき、なつみはもう一度ノートの“空白”のページを指でなぞった。
どこかひっかかる。その違和感が心の奥で膨らんでいく。
(お姉ちゃんは、いつも「言葉」にしない大事なヒントを残すのが好きだった。
それに、ひよりさんの“最後のしるしがあるかも”って言い方も……まるで私に探してほしいって合図みたいだった)
桜の並木道を歩きながら、なつみはふと、ほのかが遺したしるしの“場所”について思いを巡らせた。
あの夏に見つけたしるしは図書館の本棚の奥、勇気を出して“未来の自分”へ向けて残されたものだった。
今回は、もっと“私だけにしか分からないヒント”かもしれない――
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