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第11章 離れゆく空
第53話 空の、裕樹の苦痛の根幹
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僕はついに空さんの希死念慮の根幹に指先を届かせることができた。この感情が消えない限り空さんは本来の空さんになれない。
「じゃあ、少しずつでいいですから自分を好きになっていきましょう」
「無理よ」
「何か事情があるんですね。よかったら話していただけませんか? そして一緒に考えて悩みましょう。例え答えが出なくとも」
「一緒に……?」
「そう一緒に」
「……」
空さんが何かすがるような目つきになって僕を見つめる。瞳を震わせ口を微かに開き…… そして閉じてうつむき頭を振った。セミロングの髪が揺れる。
「ごめんやっぱりできない。私これ以上ひろ君に甘えたくない、甘えちゃいけないの」
僕は考えた。今、口を開く寸前までいったところで良しとすべきだろう。空さんは僕に匹敵するくらい重たいものを背負っているようだ。
「いいですよ、僕は急ぎません。空さんのタイミングで僕に話していただければそれでいいんです。どうか焦らないで下さい」
空さんは不思議そうな顔をする。
「どうしてそんなにを私を気にかけるの?」
「それは多分…… 僕が空さんと同じだからです」
「えっ」
「暗闇の向こうには死と罰しか見えない。前にそんな事を言ってましたよね」
「……え、ええ」
僕は身体を空さんの方に向かせて、空さんの眼をはっきり見据えて言った。
「僕もです……」
空さんは驚いた顔になる。
「でも全然そんな風には……」
「この間フラッシュバックしたでしょう」
「あっ……」
「自分に嘘を吐いて生きているとこうなるんです。忘れるな、忘れるな、お前の犯した罪を思い出せ、ってね」
「本当に、罪を犯したの?」
「はい」
「じゃあそれを教えて」
僕はビクッと震えた。
「それはできません」
空さんも身体を僕の方に向かせて座り、挑みかかるような眼で言った。
「じゃあ信じない」
「えっ」
「本当のことがなんなのか、なんにもわからないのに、あなたの言うことを鵜呑みにするなんておかしいわ。だから私は信じない。私にとっては優しくて世話好きで面倒見がよくて温和で馬の寝床作りとブラッシングの得意なひろ君だから。私ひろ君の死と罰なんて絶対絶対信じない」
「空さん……」
では僕も言いたいことを言わせてもらおう。
「じゃあ空さんはちょっとぼんやりして忘れ物が多いけど、その割には冷静で落ち着いたところがあって、絵がものすっごく上手くて、乗馬のセンスが抜群で手先が器用で集中力が高くて、僕より年上なくせに凄く可愛らしいところがある人です。そこには罪科のかけらもありません」
空さんの顔が真っ赤になる。どこか怒ったような顔で漏らす。
「ずるい……」
「本当のことです」
「そんなこと言われたら私……」
すっくと立ち上がるとくるっと180°回転し僕に背を向ける空さん。僕に背中を見せたままぶっきらぼうな言葉を投げかける。
「とっとにかくっ、明日から部署は変わるから、もう迷惑かけないで済むし」
「迷惑だなんてそんな。ひとつも迷惑なんて思ったことはありません。異動先でも頑張って下さいね」
「うん、頑張るね。それと…… い、今までありがと」
「こちらこそありがとうございました。また苦しい事があったら何でも言って下さい」
「……うん」
耳を真っ赤にした空さんは一人泉を出て行った。
僕はひとりになった。この孤独感を僕はどうして埋めればいいんだろう。
それでもまだ僕は空さんへの想いに目を向けようとはしなかった。僕にはそんな資格などなかったのだから。
【次回】
第54話 シエロとお昼寝、空の罪
「じゃあ、少しずつでいいですから自分を好きになっていきましょう」
「無理よ」
「何か事情があるんですね。よかったら話していただけませんか? そして一緒に考えて悩みましょう。例え答えが出なくとも」
「一緒に……?」
「そう一緒に」
「……」
空さんが何かすがるような目つきになって僕を見つめる。瞳を震わせ口を微かに開き…… そして閉じてうつむき頭を振った。セミロングの髪が揺れる。
「ごめんやっぱりできない。私これ以上ひろ君に甘えたくない、甘えちゃいけないの」
僕は考えた。今、口を開く寸前までいったところで良しとすべきだろう。空さんは僕に匹敵するくらい重たいものを背負っているようだ。
「いいですよ、僕は急ぎません。空さんのタイミングで僕に話していただければそれでいいんです。どうか焦らないで下さい」
空さんは不思議そうな顔をする。
「どうしてそんなにを私を気にかけるの?」
「それは多分…… 僕が空さんと同じだからです」
「えっ」
「暗闇の向こうには死と罰しか見えない。前にそんな事を言ってましたよね」
「……え、ええ」
僕は身体を空さんの方に向かせて、空さんの眼をはっきり見据えて言った。
「僕もです……」
空さんは驚いた顔になる。
「でも全然そんな風には……」
「この間フラッシュバックしたでしょう」
「あっ……」
「自分に嘘を吐いて生きているとこうなるんです。忘れるな、忘れるな、お前の犯した罪を思い出せ、ってね」
「本当に、罪を犯したの?」
「はい」
「じゃあそれを教えて」
僕はビクッと震えた。
「それはできません」
空さんも身体を僕の方に向かせて座り、挑みかかるような眼で言った。
「じゃあ信じない」
「えっ」
「本当のことがなんなのか、なんにもわからないのに、あなたの言うことを鵜呑みにするなんておかしいわ。だから私は信じない。私にとっては優しくて世話好きで面倒見がよくて温和で馬の寝床作りとブラッシングの得意なひろ君だから。私ひろ君の死と罰なんて絶対絶対信じない」
「空さん……」
では僕も言いたいことを言わせてもらおう。
「じゃあ空さんはちょっとぼんやりして忘れ物が多いけど、その割には冷静で落ち着いたところがあって、絵がものすっごく上手くて、乗馬のセンスが抜群で手先が器用で集中力が高くて、僕より年上なくせに凄く可愛らしいところがある人です。そこには罪科のかけらもありません」
空さんの顔が真っ赤になる。どこか怒ったような顔で漏らす。
「ずるい……」
「本当のことです」
「そんなこと言われたら私……」
すっくと立ち上がるとくるっと180°回転し僕に背を向ける空さん。僕に背中を見せたままぶっきらぼうな言葉を投げかける。
「とっとにかくっ、明日から部署は変わるから、もう迷惑かけないで済むし」
「迷惑だなんてそんな。ひとつも迷惑なんて思ったことはありません。異動先でも頑張って下さいね」
「うん、頑張るね。それと…… い、今までありがと」
「こちらこそありがとうございました。また苦しい事があったら何でも言って下さい」
「……うん」
耳を真っ赤にした空さんは一人泉を出て行った。
僕はひとりになった。この孤独感を僕はどうして埋めればいいんだろう。
それでもまだ僕は空さんへの想いに目を向けようとはしなかった。僕にはそんな資格などなかったのだから。
【次回】
第54話 シエロとお昼寝、空の罪
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