空の六等星。二つの空と僕――Cielo, estrellas de sexta magnitud y pastel.

第17章 空の覚悟

第91話 意外な援軍

　僕の背後から大城おおきさんもやってくる。

「おお、シェアト一のイケメンでボクシングの名手、大城おおきさんまでご登場たあ恐れ入るねえ」

「申し訳ないんですけど空さんだけでも開放してくれませんか？ そうしたらさしで話し合えるんですが」

「だめだね、空ちゃんには全部聞かれちまったからな」

「黙ってろ川東」

「おっといけねえ」

　西岡にたしなめられにたりと笑う川東。

　とにかく時間稼ぎをして応援を呼ばなくては。

「あなた方の目的は何です？ それぐらいは教えてくれてもいいでしょう」

　川東はにたにた笑いが止まらない。

「さあてなんだろうなあ。慌てなくてももうすぐわかるぜ。ひひっ」

　川東は3人の男たちに視線を送り僕たちを見る。たくましくいかにも強そうな彼らは僕らの方を向いた。

「3対2じゃおめえらにはかわいそうだが、ま、やられてくれや」

　だが西岡がカンテラの明かりで何度も時計を見ていた。その顔にはかすかに焦りの色が見える。

「……」

「ああ？ どうしたよ西岡」

「時間が……」

「ああ？」

　川東は空さんの両手首を掴んだ左腕をねじって空さんを振り回して時計を見る。

「ああ？ もうとっくに過ぎてんじゃねえかよ！ キャンプファイアはどうなった！」

「キャンプファイアは最少催行さいこう人数を下回ったので急遽きゅうきょキャンセルだ。当日キャンセル料は高くつくぞ」

　後ろから聞きなれない声がした。僕たちの背後から一人の人影が前に歩み出る。

「乾いぬいさん！」

「乾いぬい？」

　驚いた。もじゃもじゃ頭に無精ひげ、痩せぎすの体つきをした乾いぬいさんは、今までの無気力さとは別人のように気迫に満ち張りのある声をしていた。これが同一人物の声だっていうのか？

「これで3対3だ。どうする？ 続けるか？」

　乾いぬいさんの皮肉っぽい口調に川東がげらげらと下卑た笑い声をあげる。

「乾いぬいが？ 乾いぬいが助太刀して何になるよ！ 簑島みのしま以下のくず野郎の癖しやがって」

　乾いぬいさんは何かの拳法らしき構えをとる。

「では我が截拳道ジークンドーをその身体で存分に味わえ。そんじょそこらの喧嘩技とはひと味もふた味も違うぞ。笠谷の走狗そうくめ」

「貴様どこまで知っている！」

　「笠谷」の名前を聞いてはっとした西岡がうめく。

「何から、何まで」

　乾いぬいさんは無表情な一方、西岡は怒りに震えた顔で男たちに指示する。

「こうなった以上こいつらまとめてシメるしかねえ。やっちまえっ！」

「簑島みのしまは下がってろ」

　乾いぬいさんの言葉に気圧けおされるように僕は黙って下がった。今の乾いぬいさんは今まで見た乾いぬいさんとは全く違っていたからだ。背を丸め覇気がなくぼんやりした眼の乾いぬいさんとは全く違っていた。気迫に満ちた別人のような声で、背筋を伸ばし、燃えるような闘気を身にまとい眼を輝かせていた。

　大城おおきさんもボクシングの構えをとる。


【次回】
第92話　空の救出