身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美

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第二章 公爵は身代わりの花嫁に接近したい

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「私は大丈夫ですが。お店の皆さん、我が家の使用人の方々が大丈夫ではないようですね」
腰を抜かし床の上に座る数人を見ながら、恵麻は龍迫に見たままを言うのだが。

「恵麻は本当に優しいな。”ちょっと”俺がイラッとして、力を振るた俺だけではなくて。周囲にも気をかけてあげるだなんて」

”ちょっと”イラッではなく。

完全にブチ切れていらっしゃいましたよ?
恵麻は突っ込みたいが、これ以上、周囲の人を怯えさせては申し訳ないので黙っていると龍迫は義成を軽く蹴り遠ざけつつ恵麻の肩を抱く。
「殴ろうかと思ったんだが、無礼な男を触った手で恵麻に触れたくなくて。足にしたら、力加減が分からなかったんだ」
来世は俳優がいいと思うわ。
微塵も思っていないことをシャーシャーと言えるのは才能。
龍迫の腕っ節を知らない人間であれば、信じてしまうだろうが恵麻は調査済。
「そうだったんですね」
ここで、絶対に違うでしょう!
力加減はパンチでも、蹴りでも分かっているはずよ。
公爵様は凄くお強いんだものっと言うことはできるが、言う気ははやりない。
部屋の隅で伸びている義成を恵麻は冷たく見る。
「三木さん。その兄という生物を摘み出してくださる?7歳の時から男をたぶらかす天才、阿婆擦れと噂を流されて。それが原因で危ないめにあったりしたから、視界に入れておきたくないの」
「はっ!奥様!」
指名をされた三木は義成を担ぐと店の外に出ていった。
三木は龍迫に対して、龍迫が恵麻を愛さなければ自分が妻にすると宣言をした。
その行為自体は褒められたことではないのだが、いざという時に身をていしてでも恵麻を守る可能性が高いと龍迫は判断。
恵麻の側近護衛として配置した。
「よく写真が合成だと分かりましたね」
「当然だ」
実際に見た事はないが、恵麻はあの写真よりもスタイルが良く、白くて美しい玉肌のはずだ。
そして、携帯に写真が映し出されたときの”これは自分ではない”という恵麻の顔。
信じないでっとすがる瞳。
信じるはずがない。
龍迫は恵麻の温もりをそっと抱きしめて噛み締める。
あぁ、良い匂いだ。愛おしい。
「旦那様。ここは家ではありません」
「そうだな」
「そうだなじゃないです!私ではなく、宝石を触りましょう。宝石見ましょう!私は宝石が見たい!宝石が欲しい!結婚指輪という貴金属っ高価ジュエリー!」
人前に抱きしめられることに全身の血液が沸騰しそうになるのを感じながら、恵麻は叫ぶが後ろから抱きしめらるという体制になるだけで、解放されることはなかった。

龍迫は本格的で露骨な愛情表現を開始した。

***
22時。
龍迫、恵麻で仕事をだらだらしていた。
「どうなさいましたか?」
飯田は難しい顔で考え込むことが増えた誠司に声を掛ける。
今やっている仕事は、急ぎの仕事でもなければ難しいものではない。
それもこれも恵麻が手伝い戦力となっているからだ。
なので、難しい顔になる必要はない。
寝室で本を読むなり、テレビを見るなりしてもいいものだが・・・2人の寝室は未だ別々。
同じ空間に一緒に居たいので、こんな夜にやる必要のない仕事ではない仕事をやっていたのだ。

「今度の夜会では恵麻を俺の半径30センチ以内にいてもらおうと考えている」
「名案・・・でございますね」
名案か?妙案の間違いでしょうっ!
トイレはどうするの?っと、猟奇的な発言を威圧的たっぷりに言い切りる龍迫にいいたいが。
あまりにも真剣に言うので、声が出ない。
「着飾った恵麻に誰かが惚れることは間違いないだろう」

「否定はいたしません」

否定をしましょうよ。
飯田さん。
真剣に相槌を打つ間に恵麻は心の中で叫ぶ。
私の淫乱、阿婆擦れ、性悪女、男癖が悪いなどの悪い噂は打ち消されてはいない。
着飾り美しくなればなるほど、噂を肯定するようなもので・・・。
惚れる人などいない。
そして、能津家の娘としては相応しくない黒髪であるが。
どこからどう見ても能津家の人間だと分かる白い肌に、大きな瞳。
そして、凛っとしていて華奢なその姿は守ってあげたくなるほど儚げ。
誰もが噂の能津恵麻だと分かるだろう。
「俺は着飾った恵麻の姿を見たい。襤褸ぼろをまとわせ、連れ歩いても恵麻と接すれば優しく穏やかで寛大な天女の分身かと思われるような魅力に誰もが心奪われことは間違いない」
「否定はいたしません」
飯田は再び頷く。
この屋敷に恵麻がやって来た時。
彼女は髪の毛はぼさぼさで、服はボロボロのがばがば。
そして、顔色も顔つきも悪く見える不細工メイクをしていたが。
凛っとした立ち居振る舞いに男女共に心惹かれた。

「飯田」
「はい」
「着飾った妻を隣に連れて歩き。誰にも見せないようにはどうしたらいい?」
「恵麻様の周りに幕でも垂らしますか?」
「名案だ」
だからっ!
名案じゃなくて、妙案でしょう!
しかし、神妙な面持ちで会話をする二人に開いた口をパクパクするだけで恵麻は何も言えない。
「しかし、旦那様。垂れ幕で覆いますとご主人様の美しい奥様を皆に自慢できませんが?」
「そこが問題点なんだ。自慢はしたい」
龍迫は椅子の上で足を開き、膝の上に肘をつき深く考え込む。
「はぁー・・・。そして、最大の問題はっだ」
龍迫はそこで言葉を切る。

「恵麻が俺以外の人間に微笑みでもしたら、その男を殺したくなる」

えっ!それは、困るわ。
私の顔は愛想が良くて、しなんだったら通常運転が“にヘラ笑い”顔に近い。
愛想の良さ、愛嬌が長所だ。
「ご主人様。思うのは勝手ですが、行動には起こさないでくださいね?」
「努力"は"する」
「旦那様。努力ではなく、約束してください」
眉間に皺をよせ、本当に殺しかねない龍迫に恵麻は念を押す。
先日の義成の一件がある。
兄の義成は精神的攻撃のみだが。
継母、姉は義成と違い精神攻撃だけではなく、物理攻撃をしてくる。
惚れるだの、愛想をうるだので命の危機なら・・。
怖くて話題にすらできず。

「私は愛想が良く、愛嬌が良いので。絶対に微笑みます」

恵麻は今の会話に集中する。
「そうか。・・・愛想の悪い“俺だけの愛し”の妻を無理に演じさせ、“俺だけの愛し”の妻に負担を掛ける気はない。許可を検討する」
「愛されているという実感を初めて持たせてくれた旦那様を裏切ったりはしませんよ」
“愛されているという実感”を持っている。
龍迫はふわっと笑った。
気持ちが伝わっているのは嬉しい。

「恵麻様。ご主人様の独占欲むき出しは、放置しておいたらいいですよ。一生、不安を口にするでしょう」
やれやれとパンフレットを抱えた岬は会話に割り込む。
「恵麻様の夜会で身に着けられるドレスの後方が3着届きました」
そういいながら岬はパンフレットを恵麻に見せる。
「新しいドレス?どれも素敵だけど、有栖川公爵家に中古ドレスいいですよ?針と糸でちょちょっと、自分でお直ししますし」
岬はそんな恵麻に首を振りながら、諫めるように口を開いた。
「恵麻様。節約魂は喜ばしい事ですが、このドレスは有栖川公爵領のデザイナーが作ったもの。気に入るものを着用し、恵麻様が公爵夫人として宣伝をお願いいたします。ご主人様もそうですがこの家はお金を使う主がいない為、貯金が有り余っています。社会の経済の為にもある程度はお使いください」
「そうですね」
パンフレットのドレスはどれも美しい。
どれも、恵麻の魅力を最大限引き出すデザイン。確実に老若男女問わず魅了できるだろう。
「いい出来た。恵麻がどこぞの馬の骨の作ったドレスを身に纏う。恵麻が・・・俺以外の他の馬の骨の物で身を包むこと以外は言うことがない」

「“どこぞの馬の骨“って。旦那様、名前と出身地がしっかりしているこの有栖川公爵領の領民です」
これは世にいう、溺愛というものかしら?
猟奇的だわ。
龍迫の分かりやすく、重たい愛に恵麻は突っ込みを入れながらクスクス笑い出した。
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