王子様と乳しぼり!!婚約破棄された転生姫君は隣国の王太子と酪農業を興して国の再建に努めます

黄札

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42話 ステラの懸念

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 ソフィアは帰城後、目星をつけていた土地の所有者に手紙を書いた。出資してくれる貴族がいたので、金の心配はない。ボドがダメな場合は別の者を行かせる気だった。

(新しい土地でやっていくとなると、かなり気概のある人じゃないと。うーん……ボド以外には思い当たらないわ)

 ボドがダメだった場合を考えて、頭を悩ませていると、晩餐の時間になった。
 また、謎マナーの最悪な席次に苦しみつつ、ネイリーズ伯爵からカカオの経営戦略を聞く。晩餐の時間は地味にストレスとなっていた。

 食後、ソフィアはとっとと部屋へ逃げ帰りたかった。ルシアとエドアルド夫妻から早く逃れたい。いつまでいるのだろう、この醜悪な夫婦は──

 だから、ステラに呼び止められたのは、少々煩わしかった。牧場の見学をしたいと言っていたため、そのことだろうと思い、ソフィアはなんの気構えもなしにステラの客室へ行ったのである。


 ガチャリ、部屋のドアが閉まると同時にステラの丸い顔がこわばった。

「おばさま、どうされました?」

 ソフィアとしては、なにもかも順調。懸念材料といえば、人材の確保と宰相セルペンスのことぐらいだ。柔和なステラが顔をしかめる理由が思いつかない。

「んもぅ……あなたってば、鈍いんだから」
「なにが、です?」
「そこがかわいいところでもあるんだけど、これはダメ。ちゃんと対処しないと」

 なんのことを言っているのか、ソフィアはサッパリだ。自分に甘々な人が厳しい顔をしていると、緊張してしまう。首をかしげるソフィアに対し、ステラはハァーーーーと長い溜息を吐いた。

「あなたの妹、ルシアのことよ」
「あ、ああ、いつまでいるんでしょうね、あの夫婦? とっとと帰ってほしいわ」
「ほんとに早く帰ってもらうべきよ。気づいてない? ほうぼうで悪口を言われてるのよ、あなた。自分の夫を誘惑したとか、地位ほしさにリヒャルトと結婚したとか、牧場ごっこに国費を浪費しているとか……」
「今に始まったことではないんですよ。実家にいる時からです。ほうっておけば、いいんですよ」
「そこが、甘いっていうのよ」

 ぴしゃりと言われ、ソフィアは黙った。ルシアのアレは病気のようなもので、気に入らない標的に対してとことん中傷する。子供のころからソフィアはやられ続けてきたので、いちいち気にしてられないのだ。まともな人はそんな中傷を信じないのだから、相手にしなくてもいいと思ったのだが……

「あの子、結構したたかよ? 現にあなた、実家では居場所をなくしていたでしょう?」
「両親との折り合いが悪かったせいもあります。リヒャルト様もそうですし、おばさまだってそんな悪口を信じないでしょう? 大切な人がちゃんと見てくれれば、わたくしは構わないのです」
「普通なら、それでいいわね。でも、アレは限度を超えている」

 立ったまま話していたので、スツールに座るよう促され、ソフィアはためらいつつ腰掛けた。これはあまり楽しい話ではない。大好きなステラとは、経営の話やお菓子の話をしたい。

「いい? ソフィアちゃん、あなたがこれからやろうとしていることは、とっても大きなことなの。一人では成し遂げられないわ。たくさんの仲間や世間の信頼が必要よ」

 お説教モードは苦手だ。ソフィアは居心地悪くなって、座り直した。

「あなたの妹はね、あなたの足を引っ張ることになる。あなたの留守中、彼女が何をしてたと思う? 城内を取り仕切ろうと、ありとあらゆる人間に声をかけていたわ。幸い、今は冬だから、貴族の多くは地方に帰っている。けど、政務に携わる貴族や近郊にいる貴族を呼び寄せ、熱心に自分を売り込んでいたわ」

「売り込むってなにを?」

「ソフィアちゃん、あなたの悪口を吹き込んで、自分の価値を高めていたわね。リヒャルトが拒絶したから、ちょっと引いたけど、あの子、次期王妃、公爵夫人の座を狙っているわよ?」
「そんなバカな!? だって、わたくしたち、もう結婚してるんですよ?」
「実際に訪れて、こっち……リヒャルトのほうが優良物件だと踏んだんでしょうね。自分の国で王子を生んで太后をやるより、あなたを追い出して、リエーヴで王妃になりたくなったんじゃない?」

 たしかに、強欲な妹はソフィアの物をなんでも奪っていった。ドレスも侍女もアクセサリーも、なんでもだ。婚約者のエドアルドもそう。しかし、いくらなんでも夫まで奪おうとするだろうか……

 ソフィアは信じられなかった。そんなソフィアに、ステラはいらだったようだった。

「ほんとに無防備すぎる。今まであなたという人が埋もれていたのは、全部あの妹のせいだと言っても過言ではないわ。戦わなくてはダメよ」
「リヒャルト様はわたくしを裏切ったりしません」
「そうよ、リヒャルトはあなたを愛してる。でも、城中の者や貴族たちはどうかしら? 全員、あなたの味方になると思う?」
「それは……」
「あなたは真面目で不器用、口下手だから、無愛想に思われることが多い。冷たい印象も受ける。誤解されやすいのよ。対して、ルシアは社交的で華やか、取っつきやすい。簡単に人の懐へ入り込む」

 ステラの言うことはすべて的を得ている。ソフィアは口をつぐむしかなかった。

「あなたのような人を悪役に仕立て上げるのは簡単よ。頭のいいあなたは皆が皆、自分と同じように正確な状況判断ができると思ってる。だから、弁解もなにもしない。愚かな弁舌も放置する。でもね、多くの人は表面的なことしか見ないの。印象でしか人を判断しないのよ。悪役のレッテルを貼られたら最後、あなたは実家にいた時のように居場所を失うわ」

 では、どうすればいいのだ?──言葉を飲み込み、ソフィアは目で訴えた。今まで築き上げてきたものが、すべて奪われてしまう恐怖を感じている。信頼している人からここまで断言されては、打ちのめされる。

 ステラの厳しい表情がフッと和らいだ。

「あたくしは心配してるのよ。あなたのことを好いているから、心配で心配でしょうがないの」

 突然、ガバァと抱きしめられた。リヒャルトともルツともちがう肉感だ。濃い香水の香りが鼻腔をふさぐ。柔らかく分厚い肉がソフィアを守ってくれた。

「リヒャルトに言って、なるべく早く妹夫婦を追い出しましょう。あたくしからも、話しておくから。ソフィアちゃんには、最大限の注意を払ってほしいの。自分の身を守るためにね」

 ソフィアはコクンとうなずいた。ステラは温かいだけでなく、強くて怖い人だが、ソフィアの大切な仲間だ。彼女を信じようと思った。
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