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18.破滅と幸せ
ポーマ子爵の件でアラン様が逮捕されたことで、エルガニアに滞在していたホロウス侯爵はすぐに帰国した。
そしてリード邸を訪れて、私とクラレンス様に深々と頭を下げた。
「私の知らぬ間に、まさかこんなことになっていたとは……本当にすまなかった……!」
何と侯爵様、二つの婚約破棄のことを全く知らされていなかった模様。
屋敷に戻ってから、執事に事情を説明されたらしい。
「執事は私に報告すべきと考えていたのだが、妻と息子に『些細なことで手紙を出すな』と止められていたらしい」
「さ、些細なこと……」
私は頬を引き攣らせた。婚約破棄なんて人生に関わる大事件なのに、その程度の認識だったなんて、改めて怒りが込み上げてくる。
隣をちらりと見ると、クラレンス様も眉を顰めて、ホロウス侯爵の話に耳を傾けていた。そして小さくため息をついて、口を開く。
「謝らないでください、侯爵様。あなたは婚約破棄の件に一切関与していません」
「だが、妻に家のことを一任してしまった私にも非がある」
ホロウス侯爵夫人は男爵家の出身で、元々は温厚な性格だったみたい。
だけど侯爵と結婚してから人が変わってしまって、傲慢な振る舞いをすることが多くなったのだという。
今まで苦労ばかりしていたのだからと、侯爵はそれを強く咎めようとしなかった。
その結果が、これである。
「一連の責任は、しっかり取る。私も、妻も……そして娘もな」
ホロウス侯爵は神妙な顔つきで言った。
そしてその後、ホロウス家から爵位を剥奪するようにと国王陛下に自ら奏上した。
これまでの功績に免じて降爵で済んだみたいだけれど、男爵となって領地もほとんど没収された。
ホロウス侯爵夫人とは離婚。
夫人は「この歳で離婚だなんて、待ってちょうだい!」と抗議したものの、聞き入れられるはずもなく、実家に帰された。
実家の家督を継いだ兄からは呆れられ、屋敷に住まわせてもらう代わりに使用人として働くことになったのだとか。
そしてエミリー様は相変わらず屋敷に閉じこもっていると思っていたら、リード邸に突然押しかけて来た。
その目的は、クラレンス様。
『わたくし、アランお兄様に唆されて、クラレンス様に酷い態度を取っていました……ですが、自分の気持ちにようやく気づきました。本当はあなたのことを愛していたって……ですから、お願いします。もう一度、わたくしの手を取って……!』
『ご遠慮します』
『え?』
『僕と君には、もう何の繋がりもありません。それに今の僕にはシャロンがいます。どうか、お引き取りください』
淡々とそう告げるクラレンス様。
その場には私も居合わせたのだけれど、とてもかっこよくて、クラレンス様に改めて惚れ直した瞬間だった。
ところが次の瞬間、エミリー様は可愛らしい顔を歪めて、ティーカップの紅茶を私にかけてきた。
『きゃっ!?』
温かったから火傷はしなかったけれど、着ていたドレスはびしょびしょに濡れてしまった。
『あなたを追い出せば、いつかアラン様と結婚して、侯爵夫人になれたかもしれなかったのに! しかもクラレンス様も奪うなんて、私の人生をめちゃくちゃにして何が楽しいの!?』
顔を真っ赤にして憤るエミリー様に、思わず言葉を失う。
自分のことを被害者だと思い込んでいることもだけど、まさか侯爵夫人の座まで狙っていたなんて……
『私はお父さんとお母さんが死んで可哀想な子なの! だから、幸せになるべきなのに!』
呆然とする私に、エミリー様が掴みかかろうとする。
けれどクラレンス様に拘束されてしまった。
『いやぁっ! 痛い痛い! 離してぇ……っ』
エミリー様の泣き叫ぶ声が響き渡る。
幼い頃に両親を亡くしたことは同情するけれど、だからと言って私を逆恨みするのは間違ってると思う。
そう言葉をかけたとして、彼女は理解してくれないだろうけど。
騒ぎを聞いたホロウス侯爵はすぐに駆けつけて、エミリー様を連れ帰った。
その後、エミリー様は屋敷から追い出されて貴族ですらなくなったらしい。
本当は性根を一から叩き直すために、修道院に数年ほど送る予定だったのが、今回のことで白紙になったとのこと。
これまで容姿と病弱の二点だけで、周囲からちやほやされてきたエミリー様が、これからどうやって生きていくのか、それは私にも分からない。
ホロウス侯爵、いや男爵家が起こした騒動が社交界に広まり、レイネス家への評判も回復した頃。
私はとある教会で、白いドレスに身を包んで、神父の言葉を聞いていた。
その隣には、純白のタキシードを着たクラレンス様。
「では、指輪の交換を」
神父に促されて正面を向き合うと、私たちは銀色のリングをお互いの左手の薬指にスッとはめた。
「シャロン、僕を選んでくれてありがとう」
クラレンス様が微笑みながら、お礼を言う。
「いいえ、お礼を言うのはこちらの方です。ありがとう……愛しています」
これからは、今まで以上に多忙な日々が待っている。けれど、今まで以上に幸せな日々の始まり。
私は、私を愛する人とこの先ずっと一緒に歩き続ける。
そしてリード邸を訪れて、私とクラレンス様に深々と頭を下げた。
「私の知らぬ間に、まさかこんなことになっていたとは……本当にすまなかった……!」
何と侯爵様、二つの婚約破棄のことを全く知らされていなかった模様。
屋敷に戻ってから、執事に事情を説明されたらしい。
「執事は私に報告すべきと考えていたのだが、妻と息子に『些細なことで手紙を出すな』と止められていたらしい」
「さ、些細なこと……」
私は頬を引き攣らせた。婚約破棄なんて人生に関わる大事件なのに、その程度の認識だったなんて、改めて怒りが込み上げてくる。
隣をちらりと見ると、クラレンス様も眉を顰めて、ホロウス侯爵の話に耳を傾けていた。そして小さくため息をついて、口を開く。
「謝らないでください、侯爵様。あなたは婚約破棄の件に一切関与していません」
「だが、妻に家のことを一任してしまった私にも非がある」
ホロウス侯爵夫人は男爵家の出身で、元々は温厚な性格だったみたい。
だけど侯爵と結婚してから人が変わってしまって、傲慢な振る舞いをすることが多くなったのだという。
今まで苦労ばかりしていたのだからと、侯爵はそれを強く咎めようとしなかった。
その結果が、これである。
「一連の責任は、しっかり取る。私も、妻も……そして娘もな」
ホロウス侯爵は神妙な顔つきで言った。
そしてその後、ホロウス家から爵位を剥奪するようにと国王陛下に自ら奏上した。
これまでの功績に免じて降爵で済んだみたいだけれど、男爵となって領地もほとんど没収された。
ホロウス侯爵夫人とは離婚。
夫人は「この歳で離婚だなんて、待ってちょうだい!」と抗議したものの、聞き入れられるはずもなく、実家に帰された。
実家の家督を継いだ兄からは呆れられ、屋敷に住まわせてもらう代わりに使用人として働くことになったのだとか。
そしてエミリー様は相変わらず屋敷に閉じこもっていると思っていたら、リード邸に突然押しかけて来た。
その目的は、クラレンス様。
『わたくし、アランお兄様に唆されて、クラレンス様に酷い態度を取っていました……ですが、自分の気持ちにようやく気づきました。本当はあなたのことを愛していたって……ですから、お願いします。もう一度、わたくしの手を取って……!』
『ご遠慮します』
『え?』
『僕と君には、もう何の繋がりもありません。それに今の僕にはシャロンがいます。どうか、お引き取りください』
淡々とそう告げるクラレンス様。
その場には私も居合わせたのだけれど、とてもかっこよくて、クラレンス様に改めて惚れ直した瞬間だった。
ところが次の瞬間、エミリー様は可愛らしい顔を歪めて、ティーカップの紅茶を私にかけてきた。
『きゃっ!?』
温かったから火傷はしなかったけれど、着ていたドレスはびしょびしょに濡れてしまった。
『あなたを追い出せば、いつかアラン様と結婚して、侯爵夫人になれたかもしれなかったのに! しかもクラレンス様も奪うなんて、私の人生をめちゃくちゃにして何が楽しいの!?』
顔を真っ赤にして憤るエミリー様に、思わず言葉を失う。
自分のことを被害者だと思い込んでいることもだけど、まさか侯爵夫人の座まで狙っていたなんて……
『私はお父さんとお母さんが死んで可哀想な子なの! だから、幸せになるべきなのに!』
呆然とする私に、エミリー様が掴みかかろうとする。
けれどクラレンス様に拘束されてしまった。
『いやぁっ! 痛い痛い! 離してぇ……っ』
エミリー様の泣き叫ぶ声が響き渡る。
幼い頃に両親を亡くしたことは同情するけれど、だからと言って私を逆恨みするのは間違ってると思う。
そう言葉をかけたとして、彼女は理解してくれないだろうけど。
騒ぎを聞いたホロウス侯爵はすぐに駆けつけて、エミリー様を連れ帰った。
その後、エミリー様は屋敷から追い出されて貴族ですらなくなったらしい。
本当は性根を一から叩き直すために、修道院に数年ほど送る予定だったのが、今回のことで白紙になったとのこと。
これまで容姿と病弱の二点だけで、周囲からちやほやされてきたエミリー様が、これからどうやって生きていくのか、それは私にも分からない。
ホロウス侯爵、いや男爵家が起こした騒動が社交界に広まり、レイネス家への評判も回復した頃。
私はとある教会で、白いドレスに身を包んで、神父の言葉を聞いていた。
その隣には、純白のタキシードを着たクラレンス様。
「では、指輪の交換を」
神父に促されて正面を向き合うと、私たちは銀色のリングをお互いの左手の薬指にスッとはめた。
「シャロン、僕を選んでくれてありがとう」
クラレンス様が微笑みながら、お礼を言う。
「いいえ、お礼を言うのはこちらの方です。ありがとう……愛しています」
これからは、今まで以上に多忙な日々が待っている。けれど、今まで以上に幸せな日々の始まり。
私は、私を愛する人とこの先ずっと一緒に歩き続ける。
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