4 / 16
4.
しおりを挟む
「大丈夫ですよぉ、リュカ様~。ブリュエット様に冷たくされても私が慰めてあげますから。だって私、『正妃』ですし!」
何も知らないエーヴが、頭の悪いことを言っている。この女は自分が正妃になれると、本気で思っているのだろうか……。
「エ、エーヴ、そのことで話があるんだが……」
「でもお妃様になれるなんて夢みたい! 綺麗なドレスやアクセサリーをたくさん欲しがっても、誰にも怒られないんですよね?」
顔を近づけて甘い声で尋ねられ、リュカはごくり、と唾を呑み込んだ。
エーヴそのものは軽視しているが、この美しさには敵わない。まだ未成年のため手は出せないが、成人すれば毎日抱き潰してベッドからは出してやれないだろう。
そうなれば公務にも支障をきたす。やはりエーヴは側妃にしておくべきなのだが……。
(まあいい。結婚式を挙げるのはまだ先の話だ。どうせその頃になれば、ブリュエットも自分の立場を理解するはずだ……)
自分にそう言い聞かせて、リュカはエーヴを抱き締めて彼女のうなじに顔を埋める。エーヴが愛用している香水は甘ったるい香りで、ブリュエットの清潔感のある香りとは正反対だった。
エーヴが王宮から去った後、リュカは机に筆記用具を並べていた。貴族学園には王族の人間も通っており、彼らだけが特別扱いされているわけではない。当然授業を受けることが義務づけられており、課題もある。いつものことながら面倒だ。
(だが、今日はブリュエットがいないから快適だな)
好き勝手にやる、と宣言して自室に閉じ籠ったきり、勉学の時間になっても姿を見せようとしない。リュカにとってはありがたい話だった。
少しでも休憩しようとすると「始めたばかりでしょう」、リュカが多国語を訳した文章を読むと「これでは攻撃的な内容に受け取られてしまいます」とうるさいのだ。
先に終わらせたブリュエットのプリントを盗み見ようとすれば、裏返しにされてしまう。
そんな息が詰まるような時間を過ごさずに済む。
上機嫌になりながら課題を取り出し、そこにペンを走らせる。学年トップクラスの成績を誇るリュカにとって、これらの問題はあまりにも簡単だ。
鼻歌を歌いつつ進めていき、いつもの半分の時間で終わってしまった。
「おい! 机の上を片づけておけ!」
「か、かしこまりました」
メイドに片づけを命じても、「そのくらいご自分でおやりなさい」と言われもしない。
そう考えると、ブリュエットを遠ざけたのは正解だったのかもしれない。
結果よければ全てよしとはこのことか。
リュカは解放感に包まれながら、厨房へ向かった。小腹が空いたので何を作らせるようと思うのだ。
何も知らないエーヴが、頭の悪いことを言っている。この女は自分が正妃になれると、本気で思っているのだろうか……。
「エ、エーヴ、そのことで話があるんだが……」
「でもお妃様になれるなんて夢みたい! 綺麗なドレスやアクセサリーをたくさん欲しがっても、誰にも怒られないんですよね?」
顔を近づけて甘い声で尋ねられ、リュカはごくり、と唾を呑み込んだ。
エーヴそのものは軽視しているが、この美しさには敵わない。まだ未成年のため手は出せないが、成人すれば毎日抱き潰してベッドからは出してやれないだろう。
そうなれば公務にも支障をきたす。やはりエーヴは側妃にしておくべきなのだが……。
(まあいい。結婚式を挙げるのはまだ先の話だ。どうせその頃になれば、ブリュエットも自分の立場を理解するはずだ……)
自分にそう言い聞かせて、リュカはエーヴを抱き締めて彼女のうなじに顔を埋める。エーヴが愛用している香水は甘ったるい香りで、ブリュエットの清潔感のある香りとは正反対だった。
エーヴが王宮から去った後、リュカは机に筆記用具を並べていた。貴族学園には王族の人間も通っており、彼らだけが特別扱いされているわけではない。当然授業を受けることが義務づけられており、課題もある。いつものことながら面倒だ。
(だが、今日はブリュエットがいないから快適だな)
好き勝手にやる、と宣言して自室に閉じ籠ったきり、勉学の時間になっても姿を見せようとしない。リュカにとってはありがたい話だった。
少しでも休憩しようとすると「始めたばかりでしょう」、リュカが多国語を訳した文章を読むと「これでは攻撃的な内容に受け取られてしまいます」とうるさいのだ。
先に終わらせたブリュエットのプリントを盗み見ようとすれば、裏返しにされてしまう。
そんな息が詰まるような時間を過ごさずに済む。
上機嫌になりながら課題を取り出し、そこにペンを走らせる。学年トップクラスの成績を誇るリュカにとって、これらの問題はあまりにも簡単だ。
鼻歌を歌いつつ進めていき、いつもの半分の時間で終わってしまった。
「おい! 机の上を片づけておけ!」
「か、かしこまりました」
メイドに片づけを命じても、「そのくらいご自分でおやりなさい」と言われもしない。
そう考えると、ブリュエットを遠ざけたのは正解だったのかもしれない。
結果よければ全てよしとはこのことか。
リュカは解放感に包まれながら、厨房へ向かった。小腹が空いたので何を作らせるようと思うのだ。
1,739
あなたにおすすめの小説
私を見ないあなたに大嫌いを告げるまで
木蓮
恋愛
ミリアベルの婚約者カシアスは初恋の令嬢を想い続けている。
彼女を愛しながらも自分も言うことを聞く都合の良い相手として扱うカシアスに心折れたミリアベルは自分を見ない彼に別れを告げた。
「今さらあなたが私をどう思っているかなんて知りたくもない」
婚約者を信じられなかった令嬢と大切な人を失ってやっと現実が見えた令息のお話。
【完結】「めでたし めでたし」から始まる物語
つくも茄子
恋愛
身分違の恋に落ちた王子様は「真実の愛」を貫き幸せになりました。
物語では「幸せになりました」と終わりましたが、現実はそうはいかないもの。果たして王子様と本当に幸せだったのでしょうか?
王子様には婚約者の公爵令嬢がいました。彼女は本当に王子様の恋を応援したのでしょうか?
これは、めでたしめでたしのその後のお話です。
番外編がスタートしました。
意外な人物が出てきます!
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた
奏千歌
恋愛
[ディエム家の双子姉妹]
どうして、こんな事になってしまったのか。
妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。
元婚約者は戻らない
基本二度寝
恋愛
侯爵家の子息カルバンは実行した。
人前で伯爵令嬢ナユリーナに、婚約破棄を告げてやった。
カルバンから破棄した婚約は、ナユリーナに瑕疵がつく。
そうなれば、彼女はもうまともな縁談は望めない。
見目は良いが気の強いナユリーナ。
彼女を愛人として拾ってやれば、カルバンに感謝して大人しい女になるはずだと考えた。
二話完結+余談
あなたが捨てた花冠と后の愛
小鳥遊 れいら
恋愛
幼き頃から皇后になるために育てられた公爵令嬢のリリィは婚約者であるレオナルド皇太子と相思相愛であった。
順調に愛を育み合った2人は結婚したが、なかなか子宝に恵まれなかった。。。
そんなある日、隣国から王女であるルチア様が側妃として嫁いでくることを相談なしに伝えられる。
リリィは強引に話をしてくるレオナルドに嫌悪感を抱くようになる。追い打ちをかけるような出来事が起き、愛ではなく未来の皇后として国を守っていくことに自分の人生をかけることをしていく。
そのためにリリィが取った行動とは何なのか。
リリィの心が離れてしまったレオナルドはどうしていくのか。
2人の未来はいかに···
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる