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「あなたが講師だなんて、皆喜んで参加してくれると思うわよ」
「ありがとうございます、先生」
担任のルイーズから温かな言葉をかけられ、ブリュエットからは自然と笑みが零れた。
ルイーズには以前から、魔法学の講習に教える側として参加してみないかと声をかけられていたのだ。
今までは諸事情で断っていたが、ブリュエット自身から講師になりたいと申し出ると、大いに喜んでくれた。
「その講習は生徒しか参加することができないのか? 私も参加したいのだが……」
「教師が可能なら、私も是非」
ここは職員室だ。
ブリュエットとルイーズの会話を耳にして、他の教師も集まり出す。
既に生徒からも参加希望が出ており、これは思ったよりも大人数になりそうである。
空き教室を借りる予定だったが、もう少し広い部屋を使った方がいいかもしれないと考えていた時だった。
「ブリュエットはいるか!」
そんな声とともに、職員室のドアが乱暴に開けられた。
静かにするようにと、注意しようとした教師の動きが止まる。
職員室に足を踏み入れた生徒は、未来の国王だったからだ。
「はい、私はここにいますが」
ブリュエットが昨日とは打って変わり、にこやかな表情で自らの居場所を伝えると、リュカは鼻息を荒くしながらこちらへ向かってきた。
恐らく誰かから講習の話を聞き、自分を探しにきたのだろう。
とはいえ、タイミングが少し悪い。ここは言わば教師たちの巣窟。多忙の身である彼らに迷惑をかけてしまうことになる。
「どういうことだ、ブリュエット! 講習を開くなど、俺は許さないぞ!」
「許さない? それは何故でしょう。リュカ殿下のご迷惑になることではないはずです」
「なる! 妃教育を放棄するなど、お前は何を考えているんだ!」
早朝の清々しい空気に満ちた職員室に、王太子殿下の怒号が響き渡る。
数人の教師が頬を引き攣らせる中、ブリュエットは臆した様子も見せず、婚約者からの言葉を脳内で復唱していた。
(妃教育を放棄……? 何を仰っているの、このお方は)
ブリュエットが既に妃教育を終えているのを知らないのだろうか。
そんなわけはない。一年ほど前に終了した時点で教えていたはず。
つまり、ただ単にリュカが忘れているだけである。
(どうせそれを指摘したところで、聞いていないの一点張りでしょうけれど)
しかし仮にブリュエットが自らの意思で妃教育を放棄したとして、何故リュカが憤るのか。
妃教育の妃とは正妃を指す。
お飾り妃とも称される側妃とは違い、正妃には学ぶべきことがあまりにも多い。
そして側妃と言い渡されたブリュエットには、妃教育を受ける義務が自動的に消滅したのである。
「……殿下が私に相談もなしに、私の今度に関わることを独断で決められたのです。ならば、私も好き勝手させていただきますと、昨日申し上げたはずですが」
「黙れ! お前が側妃になったとしても、妃教育は受けてもらう。俺の妻が頭の悪い女では困るからな」
上から目線。物事を深く考えずに発言する。
この男の、頭に血が上った時の悪い癖だ。
おかげで『側妃』という単語の登場で、職員室にどよめきが起こっている。
「この俺をあまり怒らせるなよ。お前を俺の女として作り替えてやる」
とまあ、余計な一言まで。
ブリュエットが呆気に取られていると、リュカはすっきりした表情を見せて職員室を後にした。
「ありがとうございます、先生」
担任のルイーズから温かな言葉をかけられ、ブリュエットからは自然と笑みが零れた。
ルイーズには以前から、魔法学の講習に教える側として参加してみないかと声をかけられていたのだ。
今までは諸事情で断っていたが、ブリュエット自身から講師になりたいと申し出ると、大いに喜んでくれた。
「その講習は生徒しか参加することができないのか? 私も参加したいのだが……」
「教師が可能なら、私も是非」
ここは職員室だ。
ブリュエットとルイーズの会話を耳にして、他の教師も集まり出す。
既に生徒からも参加希望が出ており、これは思ったよりも大人数になりそうである。
空き教室を借りる予定だったが、もう少し広い部屋を使った方がいいかもしれないと考えていた時だった。
「ブリュエットはいるか!」
そんな声とともに、職員室のドアが乱暴に開けられた。
静かにするようにと、注意しようとした教師の動きが止まる。
職員室に足を踏み入れた生徒は、未来の国王だったからだ。
「はい、私はここにいますが」
ブリュエットが昨日とは打って変わり、にこやかな表情で自らの居場所を伝えると、リュカは鼻息を荒くしながらこちらへ向かってきた。
恐らく誰かから講習の話を聞き、自分を探しにきたのだろう。
とはいえ、タイミングが少し悪い。ここは言わば教師たちの巣窟。多忙の身である彼らに迷惑をかけてしまうことになる。
「どういうことだ、ブリュエット! 講習を開くなど、俺は許さないぞ!」
「許さない? それは何故でしょう。リュカ殿下のご迷惑になることではないはずです」
「なる! 妃教育を放棄するなど、お前は何を考えているんだ!」
早朝の清々しい空気に満ちた職員室に、王太子殿下の怒号が響き渡る。
数人の教師が頬を引き攣らせる中、ブリュエットは臆した様子も見せず、婚約者からの言葉を脳内で復唱していた。
(妃教育を放棄……? 何を仰っているの、このお方は)
ブリュエットが既に妃教育を終えているのを知らないのだろうか。
そんなわけはない。一年ほど前に終了した時点で教えていたはず。
つまり、ただ単にリュカが忘れているだけである。
(どうせそれを指摘したところで、聞いていないの一点張りでしょうけれど)
しかし仮にブリュエットが自らの意思で妃教育を放棄したとして、何故リュカが憤るのか。
妃教育の妃とは正妃を指す。
お飾り妃とも称される側妃とは違い、正妃には学ぶべきことがあまりにも多い。
そして側妃と言い渡されたブリュエットには、妃教育を受ける義務が自動的に消滅したのである。
「……殿下が私に相談もなしに、私の今度に関わることを独断で決められたのです。ならば、私も好き勝手させていただきますと、昨日申し上げたはずですが」
「黙れ! お前が側妃になったとしても、妃教育は受けてもらう。俺の妻が頭の悪い女では困るからな」
上から目線。物事を深く考えずに発言する。
この男の、頭に血が上った時の悪い癖だ。
おかげで『側妃』という単語の登場で、職員室にどよめきが起こっている。
「この俺をあまり怒らせるなよ。お前を俺の女として作り替えてやる」
とまあ、余計な一言まで。
ブリュエットが呆気に取られていると、リュカはすっきりした表情を見せて職員室を後にした。
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