私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。

火野村志紀

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責任転嫁

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「……というわけです。ここまで説明すれば、流石にご自分の立場を理解いただけますよね?」
「そ、そん、そんな……」

 咄嗟に言葉を紡ぐことが出来ず、ダミアンは愕然と立ち尽くす。
 盤石だと信じて疑わなかった地位が、実は滑石ダルクのように脆く砕けやすいものだった。
 それを粉々にしてしまったのは自分自身。
 アリシアの言う通り、認めざるを得ない事実だ。
 そして、今こうして追い出されようとしている。

「だ、だが、こんなの卑怯だと思わないか?」
「はい?」
「僕はそんなこと、一言も聞かされていなかった。知っていればポーラに惑わされることなく、ずっと君を愛し続けていたというのに! いや今も愛している!」
「……本気でそう仰ってますの?」

 アリシアは冷え切った目でダミアンを見て、深い溜め息をついた。執事も見てられないとばかりに、眉間を押さえて俯いている。
 するとポーラが心の底から後悔するように呟いた。

「うわ……こんな男捕まえるんじゃなかった……」
「何だと!?」
「そういうのは本人に知らせたら意味ないじゃない。そんな簡単なことも分からないの!?」
「いや、それは……」
「あんた、本当に貴族なの? 娼館の男たちの方がまだ頭がよかったわよ!」
「はぁぁぁっ!?」

 男娼以下の烙印を押され、ダミアンは顔を真っ赤にしてポーラを睨み付ける。

「ふざけるなよ! 誰のせいでこうなったと思ってるんだ!」
「何よ、私のせいだって言いたいの!?」
「お前がいなければ、僕は公爵になれたんだぞ! 人の人生を滅茶苦茶にしやがって!」
「そんなの自業自得でしょ! 女に騙されて、女に捨てられるとかバッカみたい!!」

 ポーラが顔を歪めて口汚く喚き散らす。
 だが、何一つ間違っていないので、何も言い返せない。
 友人たちの忠告を無視してポーラにのめり込み、知らず知らずのうちに母とアリシアに見切りをつけられていた。
 それでもダミアンは往生際悪く、この状況を打開する術を模索する。
 ここからやり直すことは出来ないだろうかと。

 と、その時だった。メイドが広間にやって来た。

「アリシア様、レナルド王太子殿下がお見えになっておいでです」
「殿下が?」

 事前に知らされていなかったのだろう。アリシアが突然の来訪に目を丸くしている。
 この瞬間、ダミアンは起死回生の策を思い付いて口角を吊り上げた。

 あの温厚そうで理性的な王太子のことだ。
 オデットが実子を追放して、そこらの男爵令嬢を養子に迎えようとしていると知ったら、待ったをかけるだろう。
 家督など告げなくてもいい。何とかして、アリシアの夫というポジションにしがみつく。
 そのためにレナルドの同情を誘い、味方に引き込む。
 それがダミアンの作戦だった。


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