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22.ファルス家の決着

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 アデルに明確な拒絶を突き付けられたコンスタンは、ジョセフに救いを求めるような眼差しを向けた。その姿はまるで雨の中捨てられた犬だが、ジョセフの目の前にいるのはただの屑だ。父と思いたくもない。
 なので満面の笑みを浮かべながら、無言で手を振った。

 もはや自分に味方はいないと確信したのだろう。コンスタンは頭を抱えながらその場に崩れ落ちたが、入ってきた屈強な男二人に両脇を固められて執務室から去って行った。
 扉が閉まると、アデルはすぐに窓を開けた。

「あの男が吐いた呼吸と体臭が残っていて不快だわ。すぐに換気しないと」
「でもよかったんですか?」
「何が」
「治験の件ですよ。父上、そこに関しては何も気にしていないようでしたけど……」

 新たな就職先を用意されてもコンスタンが渋っていたのは、そもそも屋敷から出たくないと考えていたからだ。治験の仕事そのものには特に疑問や警戒心を持っていなかった。
 用意された薬を飲むだけの楽な仕事。その程度にしか考えていないに違いない。

 治験者に支払われる賃金は高めだ。一日中肉体労働をして得る分よりも高額の場合もある。
 しかし一般的に治験バイトは『最後の手段』と言われるほどリスクが高い。

「あんなの実質ただの人体実験じゃないですか。一年持てばいい方って言われてますよ」
「そんなこと、コンスタンに教えたら嫌がるに決まっているじゃない。それに平民でも知っているような常識を知らないあいつが悪いのよ」
「まあ、それもそうですね」

 正直コンスタンへの罰が甘すぎると思っていたくらいだ。薬の副作用で苦しみながら死んでくれればいい。それがかつての父に対するジョセフの願いだった。

「さて、これで我が家はカタが付きそうね。あとはレーヌ家がどうするか……」
「カミーユがそのまま野に放たれるのは困るんだよなぁ。オデットに随分とご執心だったようだし、うちに押しかけて来そうじゃないですか?」

 レーヌ邸でカミーユが見せたオデットへの執着は異常なものだった。いや、思考回路からして異常なのだが。
 現在カミーユは自身の屋敷で軟禁状態となっているが、それは彼がまだ貴族だからだ。平民になれば屋敷から追い出され、自由の身となる。
 そうなった彼が真っ先に向かう先はこのファルス邸だろうと、ジョセフは断言出来る自信があった。

「その点についてはダミアン卿も分かっているわ。だから、うちと同じように手を打つつもりだと仰っていたけれど……万が一に備えて対策は講じておく必要があるわね」
「あとコレどうします? 今日も何枚か来たんですよね?」

 ジョセフは机の上に山積みになっている釣書の山を見て肩を竦めた。
 離婚した途端に、オデットの再婚相手を名乗り出る者がちらほら現れるようになったのである。
 才女として名高い彼女を欲する貴族は多いのだ。


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