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第三章 暴風のコロッセオ
第176話 エステアの実力
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メルアと別れた後、いつもよりかなり遅い時間に食堂へ向かうと、ホムとファラ、ヴァナベルとヌメリンが仲良く夕食を囲んでいた。
「マスター!」
「ひーふ、はっへはぞ!」
僕たちが遅かったのを余程心配していたのか、ホムとヴァナベルが揃って立ち上がり、声を上げる。
「ベル~! お口のなか、ナイナイしてから喋ってよぉ~」
「にゃはっ! 口にパンを入れた瞬間だったもんな」
ヴァナベルを注意するヌメリンの正面で、ファラが身体を揺らして笑っている。注意を受けたヴァナベルは水で口の中のパンを流し込むと、胸の辺りをどんどんと叩いた。
「喉に詰まっちゃうでしょ~。も~」
「にゃはははっ!」
ヌメリンが追加の水をヴァナベルに差し出す。ヴァナベルはそれを一気に飲むと、大きく息を吐いた。
「はぁ、死ぬかと思ったぜ。ってか、聞いてくれよ」
「そんなに慌てて、何を言おうとしてたんだい?」
ホムに席を促され、アルフェと隣り合って座る。ホムが僕たちの分の食事を確保してくれていたようで、まだ微かに湯気の立っている魚のソテーとパン、サラダなどが手際良く目の前に差し出された。
「武侠宴舞の戦略を立ててたらさ、結局タヌタヌ先生のお説教を受けたんだけど……」
「にゃはっ、ありゃヴァナベルが悪ぃよ」
まあ、なにがあったのかは大体想像がつくので黙って聞くことにする。
「話の流れで、エステアの白兵戦闘力の話になったんだよ。でさ、その点数、何点だったと思う?」
白兵戦闘力というのは、入学したての頃にタヌタヌ先生の軍事訓練で測定された刀剣などの近接戦闘用の武器を用いた戦闘能力の値のことだ。タヌタヌ先生の白兵戦闘力を100点として、算出されており、F組の一位はホムの120点だった。
「昨日の決闘のことを考えれば、200点近いのかな?」
「それがさ、300点だっていうんだよ! とんでもねぇぜ、あの生徒会長!」
300点という点数は、つまりタヌタヌ先生が三人いないとエステアと互角に戦えないということだ。
「それは凄いね」
ここまでの戦闘力の差を数値で突き付けられれば、感嘆の声しか出ない。
「……エステア様のあの自信が、やっと理解できました」
呟くホムの声は微かに震えている。僕の施した感情抑制が働いていても、それとわかるくらい悔しいんだろうということが伝わり、僕は傍らに佇むホムの手を取ってそっと撫でた。
「武侠宴舞は白兵戦闘力を競うわけじゃない。勝ち目はあるさ」
「マスター……」
「ホムとアルフェに専用機を用意するよ。まだ計画段階だから、急がないといけないけれど」
大会まであと二か月しかない。武侠宴舞・カナルフォード杯の一次選考が通るのは間違いないようだから、二次選考のことを考えるとさらに時間は短縮される。機兵をカスタマイズするとなると、明日にでも申請を行ってベースとなる機兵を確保しなければならないだろうな。
「ファラは、お父さんの機体を送ってもらうんだよね?」
「そうそう。もう手配しといたよ。あ、それでさ、ついでに機兵適性値の話なんだけど、エステアが100、メルアが94だって」
「わっかんねーのが、イグニスの野郎の機兵適性値なんだよな。去年の今頃は65ぐらいしかなかったって話なんだけどさ、なんかいきなり30くらい増えてんだって。機体が変わったにしたってさ、意味分かんねぇ増え方だよな」
ああ、その話はメルアが話していたような気がするな。あまり現実的ではない数値の増え方をしているところを見ると、生徒会にイグニスを入れるために教頭の働きかけがあったと考えるのが自然かもしれない。
「あ、でもぉ~、それってチャンスじゃないのかな?」
ふと思いついたように、ヌメリンが身体を左右に揺らしている。
「チャンスってなんだよ、ヌメ」
「だってぇ、本当はイグニスの機兵適性値が65しかないんだったら、戦力的に劣るってことだよねぇ?」
「にゃはっ! そりゃそうだな! けど、そう簡単な話じゃないと思うけどなぁ」
ファラの発言には僕も全面的に同意する。エステアが懸念していたように、イグニスが生徒会の名誉を毀損する恐れがあるとしても、彼自身が無様に負けるようでは、本人のためにはならないだろう。生徒会を陥れようとしているのだとすれば、もっと他にやり方があるはずで、そこには今の僕たちでは考えの及ばないようななにかがあるのかもしれない。
「まあ、いずれにしても機兵でどれだけ戦えるかが勝負になるだろうね」
エステアのあの技も、機兵を通じてどれだけ使えるのかはまだ未知数だ。それこそメルアに聞けば教えてくれるだろうけれど、教えてもらったところでエステアに不利に働くような情報でもなさそうだ。
「そうなんだよな。で、本題なんだけど、明日から放課後にホムを借りるぜ」
「ホムがいいなら、僕は構わないよ。なにか考えがあるんだろう?」
「はい。ファラ様とヴァナベル、ヌメリンと一緒に機兵を借りて訓練を行うことに致しました」
ホムが頷き、窓の外へ視線を移す。視線の先には、貴族寮の明かりが見えた。
「オレたちだけって訳じゃなくて、貴族寮のヤツらもいるんだけどな」
「まあ、エステアも様子見に来るって話だし、あたし的には機兵戦闘力を見る良い機会になるんじゃないかなって思ってるよ」
「それはいいね」
エステアは多分、武侠宴舞・カナルフォード杯に向けて生徒会長として全力を尽くすつもりなのだろう。そういう意味では、貴族と平民の枠を越えて、僕たちに接することもあるかもしれない。
「それじゃあ、僕はアルフェとホムの機兵を一刻も早く完成出来るように努めるよ」
「ワタシも、メルア先輩のところで魔法の強化、頑張るね!」
メルアのところには顔を出すけれど、明日から放課後の僕たちは別行動が増えそうだな。少し寂しい気もするが、これも僕たちが乗り越えるべき試練だ。全てが終わって振り返った時には、きっと些細なことに感じられるのだろうな。
「マスター!」
「ひーふ、はっへはぞ!」
僕たちが遅かったのを余程心配していたのか、ホムとヴァナベルが揃って立ち上がり、声を上げる。
「ベル~! お口のなか、ナイナイしてから喋ってよぉ~」
「にゃはっ! 口にパンを入れた瞬間だったもんな」
ヴァナベルを注意するヌメリンの正面で、ファラが身体を揺らして笑っている。注意を受けたヴァナベルは水で口の中のパンを流し込むと、胸の辺りをどんどんと叩いた。
「喉に詰まっちゃうでしょ~。も~」
「にゃはははっ!」
ヌメリンが追加の水をヴァナベルに差し出す。ヴァナベルはそれを一気に飲むと、大きく息を吐いた。
「はぁ、死ぬかと思ったぜ。ってか、聞いてくれよ」
「そんなに慌てて、何を言おうとしてたんだい?」
ホムに席を促され、アルフェと隣り合って座る。ホムが僕たちの分の食事を確保してくれていたようで、まだ微かに湯気の立っている魚のソテーとパン、サラダなどが手際良く目の前に差し出された。
「武侠宴舞の戦略を立ててたらさ、結局タヌタヌ先生のお説教を受けたんだけど……」
「にゃはっ、ありゃヴァナベルが悪ぃよ」
まあ、なにがあったのかは大体想像がつくので黙って聞くことにする。
「話の流れで、エステアの白兵戦闘力の話になったんだよ。でさ、その点数、何点だったと思う?」
白兵戦闘力というのは、入学したての頃にタヌタヌ先生の軍事訓練で測定された刀剣などの近接戦闘用の武器を用いた戦闘能力の値のことだ。タヌタヌ先生の白兵戦闘力を100点として、算出されており、F組の一位はホムの120点だった。
「昨日の決闘のことを考えれば、200点近いのかな?」
「それがさ、300点だっていうんだよ! とんでもねぇぜ、あの生徒会長!」
300点という点数は、つまりタヌタヌ先生が三人いないとエステアと互角に戦えないということだ。
「それは凄いね」
ここまでの戦闘力の差を数値で突き付けられれば、感嘆の声しか出ない。
「……エステア様のあの自信が、やっと理解できました」
呟くホムの声は微かに震えている。僕の施した感情抑制が働いていても、それとわかるくらい悔しいんだろうということが伝わり、僕は傍らに佇むホムの手を取ってそっと撫でた。
「武侠宴舞は白兵戦闘力を競うわけじゃない。勝ち目はあるさ」
「マスター……」
「ホムとアルフェに専用機を用意するよ。まだ計画段階だから、急がないといけないけれど」
大会まであと二か月しかない。武侠宴舞・カナルフォード杯の一次選考が通るのは間違いないようだから、二次選考のことを考えるとさらに時間は短縮される。機兵をカスタマイズするとなると、明日にでも申請を行ってベースとなる機兵を確保しなければならないだろうな。
「ファラは、お父さんの機体を送ってもらうんだよね?」
「そうそう。もう手配しといたよ。あ、それでさ、ついでに機兵適性値の話なんだけど、エステアが100、メルアが94だって」
「わっかんねーのが、イグニスの野郎の機兵適性値なんだよな。去年の今頃は65ぐらいしかなかったって話なんだけどさ、なんかいきなり30くらい増えてんだって。機体が変わったにしたってさ、意味分かんねぇ増え方だよな」
ああ、その話はメルアが話していたような気がするな。あまり現実的ではない数値の増え方をしているところを見ると、生徒会にイグニスを入れるために教頭の働きかけがあったと考えるのが自然かもしれない。
「あ、でもぉ~、それってチャンスじゃないのかな?」
ふと思いついたように、ヌメリンが身体を左右に揺らしている。
「チャンスってなんだよ、ヌメ」
「だってぇ、本当はイグニスの機兵適性値が65しかないんだったら、戦力的に劣るってことだよねぇ?」
「にゃはっ! そりゃそうだな! けど、そう簡単な話じゃないと思うけどなぁ」
ファラの発言には僕も全面的に同意する。エステアが懸念していたように、イグニスが生徒会の名誉を毀損する恐れがあるとしても、彼自身が無様に負けるようでは、本人のためにはならないだろう。生徒会を陥れようとしているのだとすれば、もっと他にやり方があるはずで、そこには今の僕たちでは考えの及ばないようななにかがあるのかもしれない。
「まあ、いずれにしても機兵でどれだけ戦えるかが勝負になるだろうね」
エステアのあの技も、機兵を通じてどれだけ使えるのかはまだ未知数だ。それこそメルアに聞けば教えてくれるだろうけれど、教えてもらったところでエステアに不利に働くような情報でもなさそうだ。
「そうなんだよな。で、本題なんだけど、明日から放課後にホムを借りるぜ」
「ホムがいいなら、僕は構わないよ。なにか考えがあるんだろう?」
「はい。ファラ様とヴァナベル、ヌメリンと一緒に機兵を借りて訓練を行うことに致しました」
ホムが頷き、窓の外へ視線を移す。視線の先には、貴族寮の明かりが見えた。
「オレたちだけって訳じゃなくて、貴族寮のヤツらもいるんだけどな」
「まあ、エステアも様子見に来るって話だし、あたし的には機兵戦闘力を見る良い機会になるんじゃないかなって思ってるよ」
「それはいいね」
エステアは多分、武侠宴舞・カナルフォード杯に向けて生徒会長として全力を尽くすつもりなのだろう。そういう意味では、貴族と平民の枠を越えて、僕たちに接することもあるかもしれない。
「それじゃあ、僕はアルフェとホムの機兵を一刻も早く完成出来るように努めるよ」
「ワタシも、メルア先輩のところで魔法の強化、頑張るね!」
メルアのところには顔を出すけれど、明日から放課後の僕たちは別行動が増えそうだな。少し寂しい気もするが、これも僕たちが乗り越えるべき試練だ。全てが終わって振り返った時には、きっと些細なことに感じられるのだろうな。
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