27 / 213
22.ご対面
しおりを挟むこの世界における教会は、婚姻の誓いを立てる他に神に祈りを捧げて称号を授かる場所でもある。称号は多数存在し全てに効力があると言われているが、内容も程度も実に様々だ。もちろん誰もがホイホイ貰える訳では無い。条件と思われるものをクリアしても皆が必ず得られるとは限らず、その理由は未だに不明。
それでも大抵の人は半年に一度、年に一度の割合で教会を訪れて祈る。
ヘルプを終えたところで、教会があったらお祈りしようとしていたのを思い出した。ハイミルにもあったかもしれないがすっかり忘れていた。
教会は想像していたよりずっと大きな建物だった。地球にあったものと雰囲気は多少似ていたが十字架などはない。
「もしかして、教会初めて?」
「はい、初めてです」
建物を見上げているとエヴァさんに聞かれた。称号を得られるのは成人である20才からなので初めてでも不思議はないはず。
「そうか、ならやっぱり違う道を来て正解だったよ。ね?レオン」
「ああ、そうだな」
「…ありがとうございます」
「礼を言うほどの事じゃねえ」
「寄って行こうか?オレ達も暫く祈ってないし」
「ああ」
「あの、お祈りの作法とか分からないんですけど」
「別に特別なものは無い。跪いて祈るだけだ」
「そうなんですか」
エヴァさんの提案で寄っていく事になったんだけど…レオンさんが祈る姿を想像出来ないのは私だけでしょうか?
教会の扉を開けた時、空気が変わった気がした。静謐で、穏やかで不思議と安心する。中は吹き抜けの広いホールといった感じで、正面に像があり手前のスペースに木製の長椅子が並んでいる。上にある窓から光が注がれて明るく暖かい。
祈る人はまばらでシスターらしき女性は1人だけ端に立っていた。像の前へ進み、跪いてお祈りを始める。
神様、そして神弟子様、
そう心で呼びかけた時、頭の中に大声が響いた。
『キターーーッ!!』
「ーッ!?」
びっくりして叫びそうになった口を咄嗟に手で押さえたが、体がビクン!と反応してしまった。両隣に居た2人が不審に思って顔を上げる。
『待ってたよ!さあおいで!』
頭の中の声がそう言った次の瞬間―――――私は知らない場所に居た。1人ではなくレオンさんとエヴァさんまで一緒に。
そこは無機質な空間。目の前には白い布を纏った1人の男性と宙に浮いた大きな液晶画面。画面には教会で祈る私たちが映っていた。
「………あれ…彼女だけ呼んだつもりが………まあいいか」
………え、呼んだ?彼が私を呼んだの?どういうこと?
あまりの出来事に暫し呆けるが男性の言葉で覚醒する。両隣の2人を見るとまだ呆然としていた。私もどうしたら良いか分からず戸惑っていると、男性が言った。
「意識がある状態では初めまして、だな。おま…君が来るのを待ってたよ、キラ」
意識がある状態では?こんな訳の分からない場所でそのセリフ…思い当たる事などひとつしかない。まさか…
「…あの…もしかして…神弟子様、でしょうか?」
「ああ、そうだよ。おれ…わたしが君を異世界へ転移させた神の弟子だ」
やっぱり!!
「……異世界?…転移?それに…神の弟子、だと?どういう事だ?」
「…説明していただけますか?神弟子様とやら」
2人も漸く言葉を発した。というか、何故2人まで一緒なのか?
「あの、何故2人までここへ呼ばれたのですか?それにここは…」
「いや、キラだけ呼んだつもりが…」
「修行不足じゃよ」
質問する私に答えかけた神弟子様を遮ったのは老人だった。ギョッとして目を見開くも、すぐさま襟を正す神弟子様。この状況からして考えられる老人の正体は…
「キラよ、そして巻き込まれし者達よ、我が不肖の弟子が驚かせてしまってスマンの。ここは神界と地上の狭間じゃ」
…的中。
「…神様、ですか?」
「そうじゃよ、キラ。儂がこの世界の神じゃ」
「「神…」」
また言葉を無くす2人に心の中で謝りながら尋ねる。
「神様、ご説明頂けませんか?」
「うむ、答えよう」
神様は静かに語り始めた。
輪廻転生。肉体が滅びても魂は消滅せず、転生を繰り返す。だが転生先は生前と同じ世界と決まっているわけではない。特に地球は人口が増えすぎて異世界への転生が増加している。弟子は転生の手続き作業を行っていた。
その中から稀に見つかる才能ある魂は、記憶をそのままにして転移という形で異世界へ招かれる事がある。理由は様々だが、異世界の才能を持った者はいつも新しい風を巻き起こし、人々を、そして世界を豊かにする。
キラは地球からこの世界への転移人。今回の場合は弟子単独の判断によるもので全くのイレギュラーだった。ただキラの魂に才能を見い出したのは確かで、その事に関してはお手柄という他ない。
しかし転移の場合、大抵は事情を話して本人の了承を得るのだが。
ここまで説明して神様が神弟子様を見る。
「申し訳ない事に、今回は弟子が勝手に行ってしまってのぅ…完璧に出来たの肉体だけであろう?」
最後は神弟子様に向けて言い、話すよう促した。
「はい。才能ある魂を見つけたのでつい……気合を入れて肉体を創造しました!」
…はい?
「おれ史上最高の女ですよ!顔、身体、装備、全てをおれ好みに!本当はもっとスキルを授けて、インベントリにも色々入れてやるつもりだったのに…師匠が抜き打ち訪問なぞなさるから中途半端になってしまったのです!」
え、あの…こんな急に変わられても…って言うか、このカラダとビキニアーマーは神弟子様の趣味、だったんだ…はぁ。
「コソコソやっとるからじゃ。やるなら儂に許可を取らんか」
「いっつも途中で横取りされるからですよ!今度こそ全部自分でやりたかったんです!」
「ムムム…」
何だか跪いてるのがバカらしくなってきた。とか思っていたら、横から低い声が。
「キラが転移人、か……で?今日は何でこんなトコまで呼ばれた?」
おぉう…レオンさん、さすがにタメ口はどうかと。
「…スマン、そうじゃった。今日呼び出したのは…………説明する為じゃ」
「それとキラを間近で眺めるためだ」
「コ、コラ!そういうのは黙っとくもんじゃ!」
「どうせ師匠はおれの事覗き見してたんでしょう?なら師匠だってキラに会ってみたかったはずです!何せこんなに綺麗で可愛くて色気満載なんですから!」
…これが神様と名のつく者の言う事だろうか。
「いい加減にしてくれませんか?彼女が可愛いのは分かりますけど、神だというならもう少し威厳を持ってくださらないと敬う気が失せます」
「……同感だ。確かにキラはいい女だが、あんたらが神ならシャキッとしてくれや」
レオンさんとエヴァさんはついに立ち上がって文句を言ってしまった。
「…ほお、儂らを神と信じるか。清浄な魔力を持っているだけあるのぅ」
フッと場の空気が変わる。神様は突如として威厳に満ちた表情と声色で私たちに語りかけた。
「…こんな強烈な気配、神以外ないだろうよ」
「わざと気配を発してますよね?理解させるために」
皺だらけの顔に深い笑みが浮かぶ。
「…聡いのぅ。キラが教会を訪れたなら、弟子がここへ呼び寄せるであろうということは分かっておった。そなたらが一緒に引き寄せられたのは、確かに弟子の失敗であろう。じゃが儂は運命を感じる」
私たちを見回してから続ける。
「呼ばれたとて、ここへ来られるのは清く、強い心の持ち主のみ。それは稀有な存在である。そのような者が彼女の傍らにおった事を嬉しく思うぞ。……じゃが、様々な事を知ったからとて特別なことなどない。そなたらは、気持ちの向くまま素直に生きるが良い」
「「…」」
2人は神様の言葉に一瞬顔を見合わせ、黙って再び膝をついた。
それを確認し、今度は私へ向き直った。
「キラよ、そなたにはこの世界で好きに生きてほしい。それがこの世界の新たな風となり、自然と人々を豊かにする。すまなかったの、本来は最初に話すべき事じゃった。説明も無しに異世界へ放り込まれて大変だったであろうが、よくここまで来てくれた。儂はいつも天から見守っておるよ」
目配せを受け、神弟子様が口を開く。
「キラ、君の魂が目に止まったのは決して偶然じゃない。わたしには見えたんだ、内に秘めた才能が。その秘めたものが、わたしの創造した姿をより一層輝かせている。だから、自信を持って。どうか、この世界で幸せに。偶には教会へ寄ってくれ。…レオハーヴェン、エヴァント、巻き込んでしまって悪かった。未熟なわたしを許してほしい」
そう言った神弟子様は、神様に劣らず荘厳に見えた。
157
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る
伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。
それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。
兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。
何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる