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【シャルデル伯爵の手中】

7.シャルデル伯爵の執着

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 手に持った小さな箱に、ディアヴェルは視線を落とす。
「リシアは喜んでくれるかな」
「私が調査したのですよ? 疑うのですか?」
 心外だ、と目の前のサイフォンが言うものだから、ディアヴェルは呆れざるを得ない。


「…お前も変わり身が早い…。 リシアが邸に来るまでは、警戒心しかなかったのに、今や【レイナール夫人をシャルデル伯爵夫人にしよう】の筆頭だものな」
 ディアヴェルがレイナール夫人に贈り物をすることに苦い顔をし、カイトが不在の間レイナール夫人を滞在させると言ったときに猛反発したのがこのサイフォンだ。


 人妻に恋慕しても不毛なだけだ、と長々と説教をされたが、ディアヴェルが「レイナール夫人がシャルデル伯爵夫人になれば問題ないだろう?」と返せば絶句された。
 このサイフォンは、リシアが邸に来るまでの半月ほど、ディアヴェルと口を効かないという子どもじみた抵抗をしていたはずなのに、リシアが来るなりコロリと掌を返したのだ。
 あのときの脱力感と疲労感は、言葉に出来ない。


「お仕えするのならやはり、麗しい夫人の方が嬉しいですし、生まれるであろう御子はやはりお可愛らしいほうが嬉しい」
 真顔で先のように言うのだから、冗談か本気かわからない。
「…顔か」
「顔もですが、あの方は私たち使用人に優しい。 メイドの失敗を笑って許して、手製の菓子を振る舞うような方には、恐らくもう出会えないと思います」
 その方が現在、他の男の妻というのがとても癪ですが、という低い声が続く。


「ですから、貴方の使用人は、全て、あの方を貴方の夫人に迎えることに相違ありません。 早く既成事実でもなんでもおつくりになってください」
 それを聞いてディアヴェルは、表情を引き攣らせそうになった。
 あの夜のことを、サイフォンは知らないはずだ。


「…既成事実ならあるんだが…」
 もごもごと、ディアヴェルは口の中でぼやく。


 問題はあの夫は、ディアヴェルとリシアの関係を知っても、特に気にしないという確信が持ててしまうことだ。
 ディアヴェルの想像でしかないが、限りなく事実に近いだろうと思う。 あの夫は、ディアヴェルがリシアを孕ませたところで、リシアを離縁しようとはしないはずだ。
 産まれてくる子どもが纏う色彩は、リシアとカイトの子どもと言ったところで疑われるようなものではない。
 リシアの心がディアヴェルに完全に委ねられ、且つ、ディアヴェルがリシアを幸せに出来る存在でないと、確信できない限りは。


 もしも自分が、この髪の色でなければ、この瞳の色でなければ、リシアは関係を持つ相手に自分を選びはしなかっただろう。
 この髪と瞳の色が、リシアと自分を繋いでくれたものだとは、わかっている、けれど。


 ディアヴェルは初めて、自身の髪の色と瞳の色がカイトと全く違う色ならよかったのに、と思った。


 もしも、リシアが孕んだとして。
 世界中の誰とも違う色であれば、生まれる子どもは自分とリシアの子どもだと誰から見ても明らかだ。
 リシアが、カイトとの愛の証のように見える子どもを欲しがるように。

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