【R18】レイナール夫人の華麗なる転身

【後日談】

シャルデル伯爵の婚約者②

　夜会から邸に戻ると、二十二時を回っていた。
　使用人が湯の用意をしてくれて、ディアヴェルは現在、リシアと共に入浴をしている。


　リシアは優しいから、この時間にリシアの部屋の浴室にも湯を貯めねばならない使用人の手間を惜しんだらしかった。
　でもなければ、一緒に入浴などしてくれないだろう。
　今だって、彼女の上気した肌が湯で温まっただけとは考えにくい。　羞恥心を押し殺して、我慢しているのだろうとは容易に想像がつく。


　猫足のバスタブの中で、リシアはディアヴェルが寄りかかっているのとは逆の側で、身を縮ませている。
　その様子が可愛らしくて、思わず笑みが漏れた。
「リシア、疲れました？」
　問えば、リシアは縮こまったままで、肩越しにディアヴェルを振り返る。


「え？」
「何か嫌なことは言われていません？」
　ディアヴェルの問いかけに、リシアは翡翠の瞳を少し潤ませる。
　そして、意を決したような表情になったかと思えば、ディアヴェルの方に寄って来てぴたりとディアヴェルの胸に寄りそう。
　予想もしなかったリシアの行動に、心臓が跳ねて痛い。
　けれど、それをリシアには気づかれないように、と思いながら、ディアヴェルは問う。


「何？　リシア」
「…嬉しいなぁ、って」
「？」
　リシアが、甘えるようにディアヴェルの胸にもたれながら、微笑む。
「貴方って、絶対わたしから離れないの。　わたしを置いていかないの。　傍にいてくれるから…すごく嬉しい」
　その表情があまりに綺麗で、紡がれる言葉に擽られて、堪らなくなる。


　最近のリシアは、とても可愛い。
　いや、以前から可愛くはあった。　必死にディアヴェルから距離を置こうとする様や、素っ気なく振る舞おうとする様子が可愛くて堪らなかった。
　今は、――主に二人きりのときだけではあるが――ディアヴェルが好きだということを言葉や態度で惜しみなく示してくれるところが可愛い。


　ディアヴェルが、リシアから離れずに傍にいたがる理由なんて、ひとつだ。
「離れて誰かに取られるのが嫌なだけですよ」
「うん。　そんなふうに思ってくれてありがとう、って」
　リシアは幸せそうに笑んで、すり、とディアヴェルの胸に頬ずりした。


　耐えられると思ったが、無理だ！
　こんなに綺麗で可愛い愛しい女性を目の前にして、何もせずにいられるだろうか。
「…そんなふうに言われたら、したくなるんですが」
　ディアヴェルが独白のように呟けば、リシアは不思議そうな顔で見上げてくる。
「？」
　白い肌が上気している様子や、薄く開いた唇の艶めいた様子に、ディアヴェルは本能に身を委ねる。


　その唇に、自身の唇を重ねて、角度を変えて舌を滑り込ませた。
「ん…」
　角度を変えながら、リシアの口内を堪能していると、甘い声が漏れ聞こえてぞくぞくする。
　唇が離れると、リシアは蕩けた表情でディアヴェルを見上げていた。
　素肌の胸の先が、つんと尖ってしまっているのも、確認できる。


　ディアヴェルがそっと胸の先に触れれば、リシアは目をぎゅっと瞑って、びくりと震えた。
「ん」
「こういうこと」
　耳を甘噛みしながら、意図して甘く囁くと、ふるっ…とリシアは震える。
　困ったようでいて、期待するような表情が可愛くて、ディアヴェルの表情も緩んでしまう。
「だめ？　もう、月のもの、終わったでしょう？」


　リシアはふっと視線を逸らすと、ますます困ったような表情になった。
「それとも、したくない？」
　これでだめなら引くか、と思いながらディアヴェルが言うと、リシアは視線を逸らしたままで瞳を揺らした。
「…えっと、その、ディアヴェル、赤ちゃん、は結婚式、済んでから、って、言ってたから」
　頬を染めて、もごもごと口にするリシアは、あのときのディアヴェルの言葉を【結婚式までしない】と受け取っていたらしい。


「…きちんと避妊するよ、ってことだったんだけど」
　ディアヴェルが説明すると、リシアの瞳が揺れる。
　迷っている、ということは、したくないわけではないらしい。
　もう一押ししてみよう。


「…リシア、する？」
　甘く、耳元で囁けば、リシアは息を飲んだようだった。
　祈るように胸の前で手を組んで、顔をぎゅっとしている。
　だめそうだな、とディアヴェルが諦めようとしたとき、こく、とリシアが頷くのが目の端に映った。


「え、いい、の？」
　リシアがもう一度、こくりと頷くので、ディアヴェルは満たされた気持ちになる。
「では、ベッドに行きましょうか」