【R18】紅の獅子は白き花を抱く

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紅の騎士は白き花を抱く

23.あなた、だったから。

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「…あのまま、ひとつになれちゃったら、よかったのに…」
 リシェーナが、溜息と共に漏らすと、ジオークがその音を拾い、言葉を返してきた。
「おれは、今のままのほうがいいけど」
「え?」
 リシェーナが驚いて視線を上げると、ジオークは優しくて穏やかなのに、どこか色っぽくリシェーナに笑みかけるのだ。

「じゃなかったら、ああいうこと、できないよ?」
 ああいうこと、と言われてぽっと頬を染めたリシェーナに、ジオークが優しくて穏やかな視線を落とす。
「別々の人間だから、触れ合うことができるんだし、触れ合ったときに嬉しくなるんだよ、きっと」

 そうだよね? とジオークは自分の意見を押しつけるようなことはしない。
 けれど、ジオークの言葉には説得力があった。

 だから、だろうか。
 リシェーナは、ジオークとひとつになった喜びや嬉しさ、幸せや心地よさ、安心感をジオークに伝えたいと思ったのだ。
 ジオークだから、そうなるのだと。

「…あのね、ジオ」
「うん」
「怒らないで?」
「うん?」
 言葉遊びだとでも、思っているのだろうか。
 リシェーナが少し緊張しながら言葉を紡いでいるというのに、ジオークの声は笑みが混じっていて楽しそうだ。
 真剣なリシェーナは、真っ直ぐにジオークを見つめる。

「…わたし、あんなふうになったの、初めて」
「あんなふう?」
 一世一代の告白は、きょとんとした表情のジオークに不思議そうに問い返されて、終わった。
 説明を求められているのはわかるけれど、それを言葉にするのは恥ずかしくて、リシェーナはふいと顔を背ける。

「い…言わない!」
 ジオークは沈黙していたが、何かに気づいてしまったらしい。
 唐突に、口を開いた。
「………もしかして、気持ちよくなったこと、なかった?」
 どうして、今、ここで察するのだろう。

 リシェーナが一気に体温を上げて、顔を赤くしていると、ジオークが慌てたような声を出してリシェーナを覗き込んでくる。
「リシェ…ほんとに?」
 ジオークの声には、驚きと歓喜が含まれているような気がして、リシェーナはおずおずとジオークに顔を向けてジオークを見返した。

「だ、だから…すごく、不安だった。 …ここ、が、あんなふうになるのも、なくて。 女として、わたし、ダメなんじゃ、って思って、だから、嬉しい。 あなたが、気に入ってくれたの」
「ダメなんて、そんなこと言わないで。 リシェはすごくいい女だよ。 おれはリシェに夢中になって、一晩中でも求めていたいって思ったもん。 リシェが一番知ってるでしょ?」
 ね? と石榴石の綺麗な瞳に問いかけられて、リシェーナはジオークの、シャツを引っ掛けただけの胸にそっと頬を寄せた。


「あなた、だったから」


 たまたまリシェーナの右耳が触れた、ジオークの胸から、ジオークの心臓の音が聞こえる。
 とく、とく、という一定のリズムに、気持ちが落ち着く。
 ジオークの腕の中で、安心しきっていたから、深く意味も考えずに言えたのだと思う。


「あなたがわたしを、女にしてくれたの」


 ジオークが、軽く目を見張った。
 次の瞬間には、彼の膝の上に横抱きにされていた身体が宙に浮く。
 ジオークの腕に横抱きにされたままで、ジオークが立ち上がったのだ。

 もしかして、お風呂まで連れて行ってくれるのだろうか。
 ジオークの負担になっては大変だ、とリシェーナがジオークの首に腕を回そうとしたときだ。
 なぜか、ジオークがベッドに向き直り、リシェーナをベッドに下ろして口づけてきた。
 深くて、気持ちのいいキスに上手に思考が回らなくなった頃、ジオークの唇が離れて、その舌がぺろりと自らの唇を舐める。 ひどく扇情的な姿だ。


「昼間にしたこともない?」


 問いながら、力の緩んだリシェーナの手から、身体を申し訳程度に隠していた夜着をジオークの手が遠ざける。
「え。 あ」
 ハッと我に返ったリシェーナは咄嗟に横向きになり、自分を抱きしめるようにして胎児のように丸まった。
「うん?」
 覗き込んで来ようとするジオークを、リシェーナは肩越しに見る。
「だ、だめ。 明るいし、昨夜…あんなに、したのに」
 精一杯怖い顔をしてみたのだが、ジオークの様子を見るとあまり効果はなかったのだろう。

「困ったな、これじゃ何もできない」
 全く困っていなさそうな様子で、声に笑みを混じらせながら言うのだ。 説得力がない。

 丸まって自分を抱きしめるリシェーナを、ジオークはしばらく見つめていたのだが、さすが騎士、とでもいうのだろうか。 難なくリシェーナを転がして、再び自分の膝の上に乗せてしまう。
 けれど、自分が荷物になったような感じはしないのだから、ジオークの扱いの巧さというところなのだろう。

「じゃ、とりあえずキスしよ」
「え?」
 ジオークの提案に、リシェーナは目を丸くする。
 けれど、どうやらジオークは本気らしい。
「キスしてるうちに、気分変わるかもしれないし」

 言うなり、顔を近づけてくる。
 その唇はうっすらと開いていて、ジオークの瞼がゆっくりと下ろされていくのも確認して、リシェーナは声を上げた。

「だめ」
「どうして?」
 問うジオークの声は、怒っているわけでも苛立っているわけでもなく、純粋に不思議がっているという感じだった。 だから、リシェーナも、憚りながらも理由を口に出せたのだと思う。

「…あなたとキスしたら、そういう気分になる、から」
 だから、だめなの、と言ったつもりだった。

 なのに、なぜかジオークは微笑む。
 そして、その瞳に宿る甘さと熱が、何となくだが不穏だ。
 リシェーナの直感は間違いではなかったらしい。

「じゃ、しよ?」
 甘く囁いて、可愛く首を傾げてリシェーナを誘惑するジオークに、胸がきゅんとする。

 ああ、だめだ。
 こんなの、だめだなんて言えない。

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