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紅の騎士は白き花を抱く
23.あなた、だったから。
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「…あのまま、ひとつになれちゃったら、よかったのに…」
リシェーナが、溜息と共に漏らすと、ジオークがその音を拾い、言葉を返してきた。
「おれは、今のままのほうがいいけど」
「え?」
リシェーナが驚いて視線を上げると、ジオークは優しくて穏やかなのに、どこか色っぽくリシェーナに笑みかけるのだ。
「じゃなかったら、ああいうこと、できないよ?」
ああいうこと、と言われてぽっと頬を染めたリシェーナに、ジオークが優しくて穏やかな視線を落とす。
「別々の人間だから、触れ合うことができるんだし、触れ合ったときに嬉しくなるんだよ、きっと」
そうだよね? とジオークは自分の意見を押しつけるようなことはしない。
けれど、ジオークの言葉には説得力があった。
だから、だろうか。
リシェーナは、ジオークとひとつになった喜びや嬉しさ、幸せや心地よさ、安心感をジオークに伝えたいと思ったのだ。
ジオークだから、そうなるのだと。
「…あのね、ジオ」
「うん」
「怒らないで?」
「うん?」
言葉遊びだとでも、思っているのだろうか。
リシェーナが少し緊張しながら言葉を紡いでいるというのに、ジオークの声は笑みが混じっていて楽しそうだ。
真剣なリシェーナは、真っ直ぐにジオークを見つめる。
「…わたし、あんなふうになったの、初めて」
「あんなふう?」
一世一代の告白は、きょとんとした表情のジオークに不思議そうに問い返されて、終わった。
説明を求められているのはわかるけれど、それを言葉にするのは恥ずかしくて、リシェーナはふいと顔を背ける。
「い…言わない!」
ジオークは沈黙していたが、何かに気づいてしまったらしい。
唐突に、口を開いた。
「………もしかして、気持ちよくなったこと、なかった?」
どうして、今、ここで察するのだろう。
リシェーナが一気に体温を上げて、顔を赤くしていると、ジオークが慌てたような声を出してリシェーナを覗き込んでくる。
「リシェ…ほんとに?」
ジオークの声には、驚きと歓喜が含まれているような気がして、リシェーナはおずおずとジオークに顔を向けてジオークを見返した。
「だ、だから…すごく、不安だった。 …ここ、が、あんなふうになるのも、なくて。 女として、わたし、ダメなんじゃ、って思って、だから、嬉しい。 あなたが、気に入ってくれたの」
「ダメなんて、そんなこと言わないで。 リシェはすごくいい女だよ。 おれはリシェに夢中になって、一晩中でも求めていたいって思ったもん。 リシェが一番知ってるでしょ?」
ね? と石榴石の綺麗な瞳に問いかけられて、リシェーナはジオークの、シャツを引っ掛けただけの胸にそっと頬を寄せた。
「あなた、だったから」
たまたまリシェーナの右耳が触れた、ジオークの胸から、ジオークの心臓の音が聞こえる。
とく、とく、という一定のリズムに、気持ちが落ち着く。
ジオークの腕の中で、安心しきっていたから、深く意味も考えずに言えたのだと思う。
「あなたがわたしを、女にしてくれたの」
ジオークが、軽く目を見張った。
次の瞬間には、彼の膝の上に横抱きにされていた身体が宙に浮く。
ジオークの腕に横抱きにされたままで、ジオークが立ち上がったのだ。
もしかして、お風呂まで連れて行ってくれるのだろうか。
ジオークの負担になっては大変だ、とリシェーナがジオークの首に腕を回そうとしたときだ。
なぜか、ジオークがベッドに向き直り、リシェーナをベッドに下ろして口づけてきた。
深くて、気持ちのいいキスに上手に思考が回らなくなった頃、ジオークの唇が離れて、その舌がぺろりと自らの唇を舐める。 ひどく扇情的な姿だ。
「昼間にしたこともない?」
問いながら、力の緩んだリシェーナの手から、身体を申し訳程度に隠していた夜着をジオークの手が遠ざける。
「え。 あ」
ハッと我に返ったリシェーナは咄嗟に横向きになり、自分を抱きしめるようにして胎児のように丸まった。
「うん?」
覗き込んで来ようとするジオークを、リシェーナは肩越しに見る。
「だ、だめ。 明るいし、昨夜…あんなに、したのに」
精一杯怖い顔をしてみたのだが、ジオークの様子を見るとあまり効果はなかったのだろう。
「困ったな、これじゃ何もできない」
全く困っていなさそうな様子で、声に笑みを混じらせながら言うのだ。 説得力がない。
丸まって自分を抱きしめるリシェーナを、ジオークはしばらく見つめていたのだが、さすが騎士、とでもいうのだろうか。 難なくリシェーナを転がして、再び自分の膝の上に乗せてしまう。
けれど、自分が荷物になったような感じはしないのだから、ジオークの扱いの巧さというところなのだろう。
「じゃ、とりあえずキスしよ」
「え?」
ジオークの提案に、リシェーナは目を丸くする。
けれど、どうやらジオークは本気らしい。
「キスしてるうちに、気分変わるかもしれないし」
言うなり、顔を近づけてくる。
その唇はうっすらと開いていて、ジオークの瞼がゆっくりと下ろされていくのも確認して、リシェーナは声を上げた。
「だめ」
「どうして?」
問うジオークの声は、怒っているわけでも苛立っているわけでもなく、純粋に不思議がっているという感じだった。 だから、リシェーナも、憚りながらも理由を口に出せたのだと思う。
「…あなたとキスしたら、そういう気分になる、から」
だから、だめなの、と言ったつもりだった。
なのに、なぜかジオークは微笑む。
そして、その瞳に宿る甘さと熱が、何となくだが不穏だ。
リシェーナの直感は間違いではなかったらしい。
「じゃ、しよ?」
甘く囁いて、可愛く首を傾げてリシェーナを誘惑するジオークに、胸がきゅんとする。
ああ、だめだ。
こんなの、だめだなんて言えない。
リシェーナが、溜息と共に漏らすと、ジオークがその音を拾い、言葉を返してきた。
「おれは、今のままのほうがいいけど」
「え?」
リシェーナが驚いて視線を上げると、ジオークは優しくて穏やかなのに、どこか色っぽくリシェーナに笑みかけるのだ。
「じゃなかったら、ああいうこと、できないよ?」
ああいうこと、と言われてぽっと頬を染めたリシェーナに、ジオークが優しくて穏やかな視線を落とす。
「別々の人間だから、触れ合うことができるんだし、触れ合ったときに嬉しくなるんだよ、きっと」
そうだよね? とジオークは自分の意見を押しつけるようなことはしない。
けれど、ジオークの言葉には説得力があった。
だから、だろうか。
リシェーナは、ジオークとひとつになった喜びや嬉しさ、幸せや心地よさ、安心感をジオークに伝えたいと思ったのだ。
ジオークだから、そうなるのだと。
「…あのね、ジオ」
「うん」
「怒らないで?」
「うん?」
言葉遊びだとでも、思っているのだろうか。
リシェーナが少し緊張しながら言葉を紡いでいるというのに、ジオークの声は笑みが混じっていて楽しそうだ。
真剣なリシェーナは、真っ直ぐにジオークを見つめる。
「…わたし、あんなふうになったの、初めて」
「あんなふう?」
一世一代の告白は、きょとんとした表情のジオークに不思議そうに問い返されて、終わった。
説明を求められているのはわかるけれど、それを言葉にするのは恥ずかしくて、リシェーナはふいと顔を背ける。
「い…言わない!」
ジオークは沈黙していたが、何かに気づいてしまったらしい。
唐突に、口を開いた。
「………もしかして、気持ちよくなったこと、なかった?」
どうして、今、ここで察するのだろう。
リシェーナが一気に体温を上げて、顔を赤くしていると、ジオークが慌てたような声を出してリシェーナを覗き込んでくる。
「リシェ…ほんとに?」
ジオークの声には、驚きと歓喜が含まれているような気がして、リシェーナはおずおずとジオークに顔を向けてジオークを見返した。
「だ、だから…すごく、不安だった。 …ここ、が、あんなふうになるのも、なくて。 女として、わたし、ダメなんじゃ、って思って、だから、嬉しい。 あなたが、気に入ってくれたの」
「ダメなんて、そんなこと言わないで。 リシェはすごくいい女だよ。 おれはリシェに夢中になって、一晩中でも求めていたいって思ったもん。 リシェが一番知ってるでしょ?」
ね? と石榴石の綺麗な瞳に問いかけられて、リシェーナはジオークの、シャツを引っ掛けただけの胸にそっと頬を寄せた。
「あなた、だったから」
たまたまリシェーナの右耳が触れた、ジオークの胸から、ジオークの心臓の音が聞こえる。
とく、とく、という一定のリズムに、気持ちが落ち着く。
ジオークの腕の中で、安心しきっていたから、深く意味も考えずに言えたのだと思う。
「あなたがわたしを、女にしてくれたの」
ジオークが、軽く目を見張った。
次の瞬間には、彼の膝の上に横抱きにされていた身体が宙に浮く。
ジオークの腕に横抱きにされたままで、ジオークが立ち上がったのだ。
もしかして、お風呂まで連れて行ってくれるのだろうか。
ジオークの負担になっては大変だ、とリシェーナがジオークの首に腕を回そうとしたときだ。
なぜか、ジオークがベッドに向き直り、リシェーナをベッドに下ろして口づけてきた。
深くて、気持ちのいいキスに上手に思考が回らなくなった頃、ジオークの唇が離れて、その舌がぺろりと自らの唇を舐める。 ひどく扇情的な姿だ。
「昼間にしたこともない?」
問いながら、力の緩んだリシェーナの手から、身体を申し訳程度に隠していた夜着をジオークの手が遠ざける。
「え。 あ」
ハッと我に返ったリシェーナは咄嗟に横向きになり、自分を抱きしめるようにして胎児のように丸まった。
「うん?」
覗き込んで来ようとするジオークを、リシェーナは肩越しに見る。
「だ、だめ。 明るいし、昨夜…あんなに、したのに」
精一杯怖い顔をしてみたのだが、ジオークの様子を見るとあまり効果はなかったのだろう。
「困ったな、これじゃ何もできない」
全く困っていなさそうな様子で、声に笑みを混じらせながら言うのだ。 説得力がない。
丸まって自分を抱きしめるリシェーナを、ジオークはしばらく見つめていたのだが、さすが騎士、とでもいうのだろうか。 難なくリシェーナを転がして、再び自分の膝の上に乗せてしまう。
けれど、自分が荷物になったような感じはしないのだから、ジオークの扱いの巧さというところなのだろう。
「じゃ、とりあえずキスしよ」
「え?」
ジオークの提案に、リシェーナは目を丸くする。
けれど、どうやらジオークは本気らしい。
「キスしてるうちに、気分変わるかもしれないし」
言うなり、顔を近づけてくる。
その唇はうっすらと開いていて、ジオークの瞼がゆっくりと下ろされていくのも確認して、リシェーナは声を上げた。
「だめ」
「どうして?」
問うジオークの声は、怒っているわけでも苛立っているわけでもなく、純粋に不思議がっているという感じだった。 だから、リシェーナも、憚りながらも理由を口に出せたのだと思う。
「…あなたとキスしたら、そういう気分になる、から」
だから、だめなの、と言ったつもりだった。
なのに、なぜかジオークは微笑む。
そして、その瞳に宿る甘さと熱が、何となくだが不穏だ。
リシェーナの直感は間違いではなかったらしい。
「じゃ、しよ?」
甘く囁いて、可愛く首を傾げてリシェーナを誘惑するジオークに、胸がきゅんとする。
ああ、だめだ。
こんなの、だめだなんて言えない。
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