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紅の獅子は白き花を抱く
ジオークの思案③
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「ねぇ、ばあや、おれが仕事辞めたいって言ったらどうする?」
いつもマリーは、リシェーナやジオークが目を覚ます前にはジオークの家に来てくれる。
だから、ジオークは、いつもより少し早めに起きて、マリーを待ち構えていて、尋ねた。
マリーは、青灰色の目を軽く見張ったが、すぐに表情を引き締めた。
「奥様は何と仰ったのです?」
問う声も、心なし、固い。
「好きにしたらいいって言ってくれたよ」
ジオークが答えると、マリーは目を伏せて、わずかだが肩を落とす。
「ええ、奥様なら、きっとそう仰るでしょうね」
マリーは、諦め交じりに、細く息を吐いたようだった。
だが、次の瞬間には鋭い眼をジオークへ向けてくる。
「奥様を路頭に迷わせたら、承知しません。 心配ですから、ばあやはずっと、お二人の傍におりますからね」
マリーの言葉に、ジオークはふっと吹き出してしまった。
ああ、本当に、ばあやには敵わない。
リシェーナも、ばあやも、おれの家族。
それは、今までも、これからも、ジオークの中では変わらないことだけれど、婚姻という約束と絆で繋がれたジオークとリシェーナに比べ、自分たち夫婦とマリーには、確固とした繋がりはないのだ。
例えば、ジオークが職を辞せば、ジオークはマリーの真実の主と何の関わりもなくなる。 そんなジオークが、マリーに、この先もずっと、自分たち夫婦と一緒にいてくれるかと問うのは、憚られた。
だというのに、いや、だからだろうか。
マリーは恐らく、そのように誓ってくれたのだろう。
ジオークは、手を伸ばす。
そして、その老婦人を親愛を込めて、抱きしめる。
「ありがとね、ばあや」
いつもマリーは、リシェーナやジオークが目を覚ます前にはジオークの家に来てくれる。
だから、ジオークは、いつもより少し早めに起きて、マリーを待ち構えていて、尋ねた。
マリーは、青灰色の目を軽く見張ったが、すぐに表情を引き締めた。
「奥様は何と仰ったのです?」
問う声も、心なし、固い。
「好きにしたらいいって言ってくれたよ」
ジオークが答えると、マリーは目を伏せて、わずかだが肩を落とす。
「ええ、奥様なら、きっとそう仰るでしょうね」
マリーは、諦め交じりに、細く息を吐いたようだった。
だが、次の瞬間には鋭い眼をジオークへ向けてくる。
「奥様を路頭に迷わせたら、承知しません。 心配ですから、ばあやはずっと、お二人の傍におりますからね」
マリーの言葉に、ジオークはふっと吹き出してしまった。
ああ、本当に、ばあやには敵わない。
リシェーナも、ばあやも、おれの家族。
それは、今までも、これからも、ジオークの中では変わらないことだけれど、婚姻という約束と絆で繋がれたジオークとリシェーナに比べ、自分たち夫婦とマリーには、確固とした繋がりはないのだ。
例えば、ジオークが職を辞せば、ジオークはマリーの真実の主と何の関わりもなくなる。 そんなジオークが、マリーに、この先もずっと、自分たち夫婦と一緒にいてくれるかと問うのは、憚られた。
だというのに、いや、だからだろうか。
マリーは恐らく、そのように誓ってくれたのだろう。
ジオークは、手を伸ばす。
そして、その老婦人を親愛を込めて、抱きしめる。
「ありがとね、ばあや」
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