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ギュンターを訪問するローフィス
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ローフィスは三年宿舎の、両開きの扉を開ける。
授業で皆が出払った、だだっ広い一階の食堂は、がらん。としていた。
『先に編入生の、様子見しよう』と思い、だが
『部屋を知らないな』と思いつつ…。
良く見ると、食堂の長椅子に寝そべってる、三年の一人を見つける。
本を顔の上に乗せ…横になってた。
本を…そっと持ち上げ、その下の、グレーがかった栗毛の髪色と、かつては美少年と注目浴びた整った顔立ちを見、“知った顔だ”とローフィスは気づく。
「…ゼイブン……。
編入生の部屋を、知らないか?
…ディングレーもさっき、戻って来なかったか?」
ゼイブンはローフィスにそう聞かれた途端、むくっ!と身を起こす。
そして…横に立つ、ローフィスを見上げた。
ローフィスは、吐息が漏れた。
「いい加減真面目に授業に出ないと、流石に単位をもらえないぞ?」
「…女遊びが、過ぎる…。
と言いたいのか?」
「…まあ…一・二年の頃、柔っちろい面で男に目を付けられ、鬱憤が溜まってんのは解ってるが」
「分かって無い!」
ゼイブンはローフィスの手から、本を引ったくって怒鳴った。
「…通い詰めでやっと、落とした女なんだ。
もう、激しくって三度終わってもまだ…!
と求められ、放してくれない。
嬉しいが、俺だって精力絶倫じゃないからな!
結局、戻ったのはさっきで…、
授業に出るつもりだったが、かったるくて…」
「そりゃ…そうだろう…。
そんな好き者の女を、通い詰めて口説いたのか?」
そう聞かれ、ゼイブンは頷く。
「貞淑な喪服の似合う未亡人で。
喪が明けても喪服着てるから…。
そりゃ凄く、死んだ旦那の事を愛してたんだ。と、燃えるだろう?」
「慰めるのは俺だって?
…馬鹿だろう?お前」
ゼイブンが睨むので…ローフィスは肩を竦めた。
「…あんただって知ってるだろう?
編入生が押し込まれる部屋なんて大抵…」
ローフィスは、もう先が解って頷いた。
「幽霊が出るって、噂の端部屋か?」
ゼイブンは無言で頷く。
ローフィスは行き先が判明し、歩を踏み出したが突然思い出し、ゼイブンに振り向く。
「授業に出る前、ちょっとディングレーの部屋に寄って。
俺が先に、編入生の部屋を覗いてから来る。
そう伝えといてくれ」
が、気安く伝言を頼むローフィスを、ゼイブンは睨み付けて怒鳴った。
「………冗談だろう?!
俺はディングレーが、凄く苦手だ!
ああそれから編入生も、カオはそりゃ綺麗だが、背はあるし大したタマだぞ!
初日にシーネスデスと殴り合って、奴を殴り倒し。
その後もやったらしくて…。
ともかく、グーデン配下を名乗ってる奴らは全員顔を腫らし、ギュンターが通り過ぎると、揃って道を譲ってる!」
ローフィスは、肩を思い切り竦め…呻いた。
「ディングレーの、助っ人する筈だ…」
ゼイブンは頷く。
「やりそうだな。
で…ディングレーとデキてるって噂だが…本当か?
全然そんな感じじゃないが」
ローフィスは、思い切りゼイブンに振り向く。
「…俺が知る筈無いだろう?」
「だが、これから会うんだろう?」
「…俺に見当付けろって?
それが重要か?」
ゼイブンはムキになった。
「寝室でディングレーに可愛がられてるんなら、ちっとは…。
可愛いとこもあるって事じゃないのか?!」
「…違ってたら?」
「俺は絶対!ギュンターの側には寄らない!」
ローフィスは吐息を漏らす。
「…ギュンターに、口説かれるから?」
ゼイブンは歯を剥いた。
「近づくと、喧嘩に巻き込まれるからに決まってる!!!」
「…つまり俺が編入生の部屋から帰って来るまで。
そこで、サボってる気か?」
「…言ったろう?
俺は四度目をこなし、出がけに五度目も、こなしたんだ!」
「じゃ、当分女は足りてるな」
ローフィスに言われ、ゼイブンは顔を下げた。
「…でも今夜、別口と約束がある」
ローフィスは呆れきった。
「その為に、授業サボって体力温存か?
…マジで単位落とすぞお前」
ゼイブンはまた、顔を上げてローフィスに言い返す。
「ご心配有り難いが、この可憐な美少年が!
最悪に危険な一、二年を乗り切って、無事今年三年で。
もう俺を、女の代わりにしようなんて発想の男が、ほぼ、居なくなったんだ!
今を楽しまなくてどうする?
来年は卒業だし」
ローフィスは絶句しかけた。
が、言った。
「…………だってここで単位落としたら、その卒業も、無いんだぞ?お前」
が、ゼイブンは俯くものの、言い返す。
「まだ年度始めだ。
後半は自重するさ」
『出来るのか?』
ローフィスはもの凄く、その言葉を言いたかった。が、止めた。
確かに可憐な美少年だった。一年の時は。
今は青年になりかけ、どうやら女に夢中で入れこんでる。
言ったって、聞きやしないだろう。
ローフィスは食堂の奥の、外へと続く扉を開け、そこに階段を見付けた。
去年自分が過ごした宿舎だ。
要領の悪い奴か、後から来た奴が押し込まれる、吹きっ晒しの外階段の、冬は冷え込む外れの一角だった。
ノックをすると案の定、入学式の時見た、派手な金髪の美貌が顔を出す。
思わず、くすっと笑う。
「…やっぱここに、押し込まれたか…」
ギュンターはその、見知らぬ男が好感が持てるのに、怪訝な表情で尋ねる。
「…あんたと俺は…面識があったかな?」
「酒場でオーガスタスと連んでたろう?
四年で、オーガスタスの友達だ」
ギュンターは必死で記憶を、探ろうとした。
確かにチラと…酒場で見た顔かもしれない。
ともかく、酒場で集うオーガスタスの友人は、多かったので。
「…で?」
ギュンターに聞かれ、ローフィスが囁く。
「ディングレーと一緒に、グーデンの所から少年を助け出したって?」
ギュンターは聞かれ、途端に顔を歪める。
がその表情すら綺麗で、ローフィスは呆れた。
確かに優美な美貌で、誰もが全員見入る筈だ。
外で見ても目立つだろうが、何といってもここはむさい男ばかりだから、余計に目立つ。
ギュンターは俯くと、口を開く。
「…ひどい状況だった。
縛られてて身動き取れず…グーデンが突っ込むため、散々…嬲られてたようだ」
ローフィスも内心吐き気がした。
が表情に出さずつぶやく。
「…傷付いては…無かったのか?
お前が面倒見ると言ったらしいが」
「…煽られて…勃ってたからな…。
ずっとそのままだから…何か薬でも使われたんじゃないか?」
ギュンターが声を顰めるので、ローフィスは中にその、少年が居る。と解った。
「…で?」
ギュンターはもっと、声を顰める。
「…手で納めるつもりだったが…」
「…そうはいかず…突っ込んだ?」
聞いてやると、ギュンターの、顔が揺れる。
「さんざ、煽られてて…どうしようも無かった」
「…でお前、それで勃ったのか?」
「か細い手でしがみつかれちゃ…勃つだろう?」
その返答で、ローフィスは“大したタマだ”の意味が解った。
「ちょっと様子、見てもいいか?」
そう尋ねると、ギュンターがようやく、横を開ける。
ローフィスが室内に入ると、寝台の上でその黒髪の美少年は、寝息を立てていた。
安らかな顔。
「寝てるから…声顰めたのか?」
小声で聞くと、ギュンターは頷く。
生意気にも隣に立つと、自分より背の高い三年につい…ローフィスは見上げる。
ギュンターは気づいて…首を縮こめ、頭を下げた。
「…そりゃひどい目に合って…やっと安心したんだ。
ゆっくり休ませてやりたいだろう?」
「…なる程…。
助け出した状況を…聞いてもいいか?」
ギュンターは軽く頷くと、低い声で説明を始める。
「俺が行った時、ディングレーは殴られてた。
多分…相手は四年だ」
「何人居た?」
「二人」
「助っ人したのか?」
「一人はディングレーが、とっくに沈めてたからな」
ローフィスは眉をひそめ、尋ねた。
「…だが他にも居たろう?
グーデンの部屋か?」
ギュンターが、頷く。
「王族の部屋とかで…品のある変わった髪色の奴が、えらく心配してたからな…」
ローフィスは、ローランデの事らしい。と見当付けた。
頷くローフィスに、ギュンターはその爽やかで整った顔を見つめ、尋ねる。
「ディングレーの部屋には行った事あるが…王族の部屋ってそんなに…敷居が高いのか?」
ローフィスは、ゼイブンの言った言葉の意味が解った。
「…ディングレーはだってお前を、招いたんだろう?
…奴は酒を飲んでいたか?」
「ああ俺も、飲んだ」
「…で、泊まった?」
ギュンターが、顔を上げる。
途端、真横にあった顔が上に伸び、見下ろされその顔は、眉間を思い切り寄せていた。
「…いや」
「一緒に酒を、飲んだだけか?」
念押すように尋ねられ、ギュンターはだがまだ慎重だった。
表情は誤解されてる。と感じかなり、怒っていたが。
「…そうだ。それ以外を期待されても、無い袖は振れない」
ローフィスは吐息を吐く。
「…ディングレーは深酒すると、男相手に迫るからな…」
ギュンターが、ぎょっとした。
「…じゃ、奴がかなり酒を煽った時は、さっさと退散しよう…。
いい奴だから、殴り合いたくない」
ローフィスはくすり…。と笑った。
「ディングレーが気に入ってるから…授業を抜けて助っ人したのか?」
ギュンターは俯く。
「…サボってたら…ディングレーが駆け出して…しゃべってるのが聞こえた。
一年が助けを求めてるって。
グーデンの名も、聞こえたしな」
ローフィスは呆れた。
「お前くらい目立つ奴は、代返が利かないだろう?」
ギュンターは歯を剥いた。
「昨日はオーガスタスと酒場で…かなり飲んだし、女も抱いちまったからな!」
ローフィスは肩を竦める。
「だってお前が酒場なんかに顔出したら、女が放って置かないだろう?」
ギュンターがまた…俯く。
「…一所に長く居た試しが無かったし…旅先じゃ俺は餓鬼でひよっ子に見られてて…そんなにモテた試しも無いから、つい…」
「楽しくて?」
ギュンターは気まずそうに顔を背ける。
「…そりゃつれなくされるより…歓迎された方が、いいに決まってる」
「…まあ、そうだ。
その面で旅って…盗賊によく、浚われなかったな?
ヘタすりゃアースルーリンドの、外で売られるぞ?」
ギュンターが、振り向く。
「…あんただったら大人しく捕まるか?」
ローフィスは首を横に振った。
「いや」
「…だから俺だって喧嘩の仕方を覚えた。
一緒の叔父貴には『浚われても助けない』と言われてたからな」
「………過酷だな………」
ギュンターは大人しく、頷いた。
「…まあ、背が伸びてから、寄って来るのは盗賊から女に変わったが」
「………良かったな」
ローフィスは思わず、長身の美貌の男に同情して顔を、上げた。
彼は殊勝に、頷いていた。
後でもう一度顔を出す。と言い、ローフィスはその部屋を後にした。
授業で皆が出払った、だだっ広い一階の食堂は、がらん。としていた。
『先に編入生の、様子見しよう』と思い、だが
『部屋を知らないな』と思いつつ…。
良く見ると、食堂の長椅子に寝そべってる、三年の一人を見つける。
本を顔の上に乗せ…横になってた。
本を…そっと持ち上げ、その下の、グレーがかった栗毛の髪色と、かつては美少年と注目浴びた整った顔立ちを見、“知った顔だ”とローフィスは気づく。
「…ゼイブン……。
編入生の部屋を、知らないか?
…ディングレーもさっき、戻って来なかったか?」
ゼイブンはローフィスにそう聞かれた途端、むくっ!と身を起こす。
そして…横に立つ、ローフィスを見上げた。
ローフィスは、吐息が漏れた。
「いい加減真面目に授業に出ないと、流石に単位をもらえないぞ?」
「…女遊びが、過ぎる…。
と言いたいのか?」
「…まあ…一・二年の頃、柔っちろい面で男に目を付けられ、鬱憤が溜まってんのは解ってるが」
「分かって無い!」
ゼイブンはローフィスの手から、本を引ったくって怒鳴った。
「…通い詰めでやっと、落とした女なんだ。
もう、激しくって三度終わってもまだ…!
と求められ、放してくれない。
嬉しいが、俺だって精力絶倫じゃないからな!
結局、戻ったのはさっきで…、
授業に出るつもりだったが、かったるくて…」
「そりゃ…そうだろう…。
そんな好き者の女を、通い詰めて口説いたのか?」
そう聞かれ、ゼイブンは頷く。
「貞淑な喪服の似合う未亡人で。
喪が明けても喪服着てるから…。
そりゃ凄く、死んだ旦那の事を愛してたんだ。と、燃えるだろう?」
「慰めるのは俺だって?
…馬鹿だろう?お前」
ゼイブンが睨むので…ローフィスは肩を竦めた。
「…あんただって知ってるだろう?
編入生が押し込まれる部屋なんて大抵…」
ローフィスは、もう先が解って頷いた。
「幽霊が出るって、噂の端部屋か?」
ゼイブンは無言で頷く。
ローフィスは行き先が判明し、歩を踏み出したが突然思い出し、ゼイブンに振り向く。
「授業に出る前、ちょっとディングレーの部屋に寄って。
俺が先に、編入生の部屋を覗いてから来る。
そう伝えといてくれ」
が、気安く伝言を頼むローフィスを、ゼイブンは睨み付けて怒鳴った。
「………冗談だろう?!
俺はディングレーが、凄く苦手だ!
ああそれから編入生も、カオはそりゃ綺麗だが、背はあるし大したタマだぞ!
初日にシーネスデスと殴り合って、奴を殴り倒し。
その後もやったらしくて…。
ともかく、グーデン配下を名乗ってる奴らは全員顔を腫らし、ギュンターが通り過ぎると、揃って道を譲ってる!」
ローフィスは、肩を思い切り竦め…呻いた。
「ディングレーの、助っ人する筈だ…」
ゼイブンは頷く。
「やりそうだな。
で…ディングレーとデキてるって噂だが…本当か?
全然そんな感じじゃないが」
ローフィスは、思い切りゼイブンに振り向く。
「…俺が知る筈無いだろう?」
「だが、これから会うんだろう?」
「…俺に見当付けろって?
それが重要か?」
ゼイブンはムキになった。
「寝室でディングレーに可愛がられてるんなら、ちっとは…。
可愛いとこもあるって事じゃないのか?!」
「…違ってたら?」
「俺は絶対!ギュンターの側には寄らない!」
ローフィスは吐息を漏らす。
「…ギュンターに、口説かれるから?」
ゼイブンは歯を剥いた。
「近づくと、喧嘩に巻き込まれるからに決まってる!!!」
「…つまり俺が編入生の部屋から帰って来るまで。
そこで、サボってる気か?」
「…言ったろう?
俺は四度目をこなし、出がけに五度目も、こなしたんだ!」
「じゃ、当分女は足りてるな」
ローフィスに言われ、ゼイブンは顔を下げた。
「…でも今夜、別口と約束がある」
ローフィスは呆れきった。
「その為に、授業サボって体力温存か?
…マジで単位落とすぞお前」
ゼイブンはまた、顔を上げてローフィスに言い返す。
「ご心配有り難いが、この可憐な美少年が!
最悪に危険な一、二年を乗り切って、無事今年三年で。
もう俺を、女の代わりにしようなんて発想の男が、ほぼ、居なくなったんだ!
今を楽しまなくてどうする?
来年は卒業だし」
ローフィスは絶句しかけた。
が、言った。
「…………だってここで単位落としたら、その卒業も、無いんだぞ?お前」
が、ゼイブンは俯くものの、言い返す。
「まだ年度始めだ。
後半は自重するさ」
『出来るのか?』
ローフィスはもの凄く、その言葉を言いたかった。が、止めた。
確かに可憐な美少年だった。一年の時は。
今は青年になりかけ、どうやら女に夢中で入れこんでる。
言ったって、聞きやしないだろう。
ローフィスは食堂の奥の、外へと続く扉を開け、そこに階段を見付けた。
去年自分が過ごした宿舎だ。
要領の悪い奴か、後から来た奴が押し込まれる、吹きっ晒しの外階段の、冬は冷え込む外れの一角だった。
ノックをすると案の定、入学式の時見た、派手な金髪の美貌が顔を出す。
思わず、くすっと笑う。
「…やっぱここに、押し込まれたか…」
ギュンターはその、見知らぬ男が好感が持てるのに、怪訝な表情で尋ねる。
「…あんたと俺は…面識があったかな?」
「酒場でオーガスタスと連んでたろう?
四年で、オーガスタスの友達だ」
ギュンターは必死で記憶を、探ろうとした。
確かにチラと…酒場で見た顔かもしれない。
ともかく、酒場で集うオーガスタスの友人は、多かったので。
「…で?」
ギュンターに聞かれ、ローフィスが囁く。
「ディングレーと一緒に、グーデンの所から少年を助け出したって?」
ギュンターは聞かれ、途端に顔を歪める。
がその表情すら綺麗で、ローフィスは呆れた。
確かに優美な美貌で、誰もが全員見入る筈だ。
外で見ても目立つだろうが、何といってもここはむさい男ばかりだから、余計に目立つ。
ギュンターは俯くと、口を開く。
「…ひどい状況だった。
縛られてて身動き取れず…グーデンが突っ込むため、散々…嬲られてたようだ」
ローフィスも内心吐き気がした。
が表情に出さずつぶやく。
「…傷付いては…無かったのか?
お前が面倒見ると言ったらしいが」
「…煽られて…勃ってたからな…。
ずっとそのままだから…何か薬でも使われたんじゃないか?」
ギュンターが声を顰めるので、ローフィスは中にその、少年が居る。と解った。
「…で?」
ギュンターはもっと、声を顰める。
「…手で納めるつもりだったが…」
「…そうはいかず…突っ込んだ?」
聞いてやると、ギュンターの、顔が揺れる。
「さんざ、煽られてて…どうしようも無かった」
「…でお前、それで勃ったのか?」
「か細い手でしがみつかれちゃ…勃つだろう?」
その返答で、ローフィスは“大したタマだ”の意味が解った。
「ちょっと様子、見てもいいか?」
そう尋ねると、ギュンターがようやく、横を開ける。
ローフィスが室内に入ると、寝台の上でその黒髪の美少年は、寝息を立てていた。
安らかな顔。
「寝てるから…声顰めたのか?」
小声で聞くと、ギュンターは頷く。
生意気にも隣に立つと、自分より背の高い三年につい…ローフィスは見上げる。
ギュンターは気づいて…首を縮こめ、頭を下げた。
「…そりゃひどい目に合って…やっと安心したんだ。
ゆっくり休ませてやりたいだろう?」
「…なる程…。
助け出した状況を…聞いてもいいか?」
ギュンターは軽く頷くと、低い声で説明を始める。
「俺が行った時、ディングレーは殴られてた。
多分…相手は四年だ」
「何人居た?」
「二人」
「助っ人したのか?」
「一人はディングレーが、とっくに沈めてたからな」
ローフィスは眉をひそめ、尋ねた。
「…だが他にも居たろう?
グーデンの部屋か?」
ギュンターが、頷く。
「王族の部屋とかで…品のある変わった髪色の奴が、えらく心配してたからな…」
ローフィスは、ローランデの事らしい。と見当付けた。
頷くローフィスに、ギュンターはその爽やかで整った顔を見つめ、尋ねる。
「ディングレーの部屋には行った事あるが…王族の部屋ってそんなに…敷居が高いのか?」
ローフィスは、ゼイブンの言った言葉の意味が解った。
「…ディングレーはだってお前を、招いたんだろう?
…奴は酒を飲んでいたか?」
「ああ俺も、飲んだ」
「…で、泊まった?」
ギュンターが、顔を上げる。
途端、真横にあった顔が上に伸び、見下ろされその顔は、眉間を思い切り寄せていた。
「…いや」
「一緒に酒を、飲んだだけか?」
念押すように尋ねられ、ギュンターはだがまだ慎重だった。
表情は誤解されてる。と感じかなり、怒っていたが。
「…そうだ。それ以外を期待されても、無い袖は振れない」
ローフィスは吐息を吐く。
「…ディングレーは深酒すると、男相手に迫るからな…」
ギュンターが、ぎょっとした。
「…じゃ、奴がかなり酒を煽った時は、さっさと退散しよう…。
いい奴だから、殴り合いたくない」
ローフィスはくすり…。と笑った。
「ディングレーが気に入ってるから…授業を抜けて助っ人したのか?」
ギュンターは俯く。
「…サボってたら…ディングレーが駆け出して…しゃべってるのが聞こえた。
一年が助けを求めてるって。
グーデンの名も、聞こえたしな」
ローフィスは呆れた。
「お前くらい目立つ奴は、代返が利かないだろう?」
ギュンターは歯を剥いた。
「昨日はオーガスタスと酒場で…かなり飲んだし、女も抱いちまったからな!」
ローフィスは肩を竦める。
「だってお前が酒場なんかに顔出したら、女が放って置かないだろう?」
ギュンターがまた…俯く。
「…一所に長く居た試しが無かったし…旅先じゃ俺は餓鬼でひよっ子に見られてて…そんなにモテた試しも無いから、つい…」
「楽しくて?」
ギュンターは気まずそうに顔を背ける。
「…そりゃつれなくされるより…歓迎された方が、いいに決まってる」
「…まあ、そうだ。
その面で旅って…盗賊によく、浚われなかったな?
ヘタすりゃアースルーリンドの、外で売られるぞ?」
ギュンターが、振り向く。
「…あんただったら大人しく捕まるか?」
ローフィスは首を横に振った。
「いや」
「…だから俺だって喧嘩の仕方を覚えた。
一緒の叔父貴には『浚われても助けない』と言われてたからな」
「………過酷だな………」
ギュンターは大人しく、頷いた。
「…まあ、背が伸びてから、寄って来るのは盗賊から女に変わったが」
「………良かったな」
ローフィスは思わず、長身の美貌の男に同情して顔を、上げた。
彼は殊勝に、頷いていた。
後でもう一度顔を出す。と言い、ローフィスはその部屋を後にした。
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