若き騎士達の波乱に満ちた日常

あーす。

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見ている者を巻き込み揺さぶる、激しいローランデとディングレーの攻防

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 ローランデも素早かったが、ディングレーも足を使う。
まるで幻影のように横を滑るローランデの背を、横から咄嗟、思い切り剣で薙ぎ払う。

その流麗な、明るい栗毛と濃い栗毛の交互に混じる髪が横に流れたかと思うと、すかしを喰らいディングレーは思わず、はっ…とする。

ローランデの、背を斬ったはずだった。
が、背を下げ避けたローランデの姿が、ぶれて一瞬正面に向かい見え…。
もう、肩に届かんとする剣が振り下ろされていた。

ざっっっっ!

おおっ!

ディングレーが真後ろにすっ飛ぶ様に、講堂中から声が沸く。

足が床に付く瞬間、ディングレーはもう身を倒し剣を横に構え、その場を滑るように身を移した。

しなやかな野生の狼が走り、牙を剥きながら警戒する様に、講堂中がぞくっ。とする。

「…あんな………」
シェイルの呟きに、ヤッケルもごくり。と喉を鳴らす。


アイリスはスフォルツァを見た。
“凄い!”

そう…彼の心の声が、聞こえた気がした。
ローランデに隙を見せれば一瞬で討ち取られるのを知り、ディングレーは斬ってみろ!とわざと体を横に滑らせ挑発する。

が、ディングレーはローランデの正面に身を移し、横に滑りながら一瞬たりとも隙を見せない。

スフォルツァの、喉がごくり。と鳴る。
ローランデの怖さは対戦して思い知ってる自分だ。

が、ディングレーは毛を逆立てた野生の狼に見えた。
自分を切り裂く自然の鎌鼬かまいたちに牙を剥く。

恐怖に竦む心を抑え込み、必死だった自分を恥じる間も無く。
ディングレーの迫力に、飲まれる。

講堂中が、これ程の強さを見せるディングレーに魅入られ、息を飲んで見守る。

風が捕らえられぬ早さで、その流麗な髪を靡かせ通り過ぎる早さに、ディングレーはしなやかに身を倒し追いすがる。

アイリスはその時、ディングレーに下げた剣を握る手が三度、ぴく、ぴくと動くのを見た。

ローランデから“殺気”の剣が三度飛ぶ。
正面で相対してると気が気でないだろうが、見物席からそれは良く、見えた。

ローランデの剣が後ろに、下がったままなのを。

今度はアイリスが、ごくり。と喉を鳴らす番だった。
“剣を下げたまま三度、斬りかかった”

そしてディングレーはそれに合わせるように、ローランデ同様剣を下げたまま、三度止めてみせた。

こんな…戦いがあるなんて!

ローフィスが呟く。
「同様動いて、あくまでもか弱い二年にプレッシャーかけてるな」

オーガスタスは頷く。
「…まあ…ディングレーのあの迫力は並じゃない。
相手によっちゃ、睨むだけで勝敗が決まる」

リーラスもぼやいた。
「ただの激しいだけのヤツならさばけるが…。
あの王族の坊ちゃんの、剣技は確かだしな。

よほど汚い手で気をらさないと勝てない」

オーガスタスとローフィスが揃ってリーラスを見、リーラスが怒鳴った。
「なんだ!
お前だってどうせそうする癖に!」

「そうするつもりだが、わざわざ言わない。
“汚い手を使う”だなんて」

ローフィスが言うと、オーガスタスも言った。
「汚かろうが、戦法の一つだ。
だがわざわざ“汚い”と注釈ちゅうしゃく付ける必要あるか?」

二人のごたくに、思わずリーラスは歯を剥いた。

がっ!

ディングレーが目前を過ぎる“風”に剣を振る。
ローランデはしなやかに身を倒し通り過ぎる。

瞬間ディングレーが横向き、斬りかかるローランデの剣に、剣をぶつけ止めた。

がっっっ!

「今のはディングレーが誘ったな」
「とことん打ち合う腹か」
「剣が折れるのを覚悟の戦いだな」
「折れて負けようが、全力出す気だ」

オーガスタスの悪友が、背後から口々に騒ぐ。

「…三年が魅せてくれるぜ!」
「負けんなよ!大将!」

オーガスタスは悪友達に、思い切りボヤいた。

「分かってんのか?!対戦相手はローランデなんだぞ?」

皆が一様いちように、肩竦める。
「…どう見たって地で戦えば、ディングレーやあんたが不利だ」
「だよな?」

「それに今年は、ディアヴォロスが居ない」

ローフィスが振り向く。
「だから?」

「剣が折れて負けるのは、恥じゃない」
「ディングレーを見ろ!
試合に負けて、勝負で勝つ気だ。
学校中の視線が、ヤツに釘付け」

「ここに女が居たら、全部奴に取られてたな」
「男の俺が言うのもナンだが、奴は格好イイ」

オーガスタスは周囲の五月蠅さに唸った。
が悪友共はまくし立てる。

「対する兄貴のグーデンが酷すぎるせいか、あいつは王族だが腹が立たない」
「…むしろ、気取って見えるのは金髪の編入生の方だ」

「あいつ、喧嘩はヤルぜ」
「剣は駄目で逃げたか」

「…頼むから、試合を見せてくれ!」

ローフィスの叫びに、オーガスタスは同意して大きく、頷いた。

「…それにギュンターは、故郷の病人に薬を持って行ってる。
ばっくれた訳じゃない」

オーガスタスの言葉に、皆がまた一斉に喚き立てた。

「…いかにも薄情そうに見えるのにな」
「あいつ自分以外は、興味無いって風じゃないのか?」
「知らないのか?
マリアンネがデートした時、弟がまとわりついて離れなかったが、ギュンターの奴気さくにその弟と遊んでやったそうだ」

「…マリアンネの弟って、五歳の鼻垂れ小僧だろう?」

突然皆が一様に黙り込む。
がこの隙に、やれやれ。とローフィスもオーガスタスも試合に視線を戻した。


 ディングレーは姿を消そうとする“風”に、瞬時に剣を振り一撃!
それを首を振ってかわし横に歩を滑らすローランデに、『逃がすか!』とばかり二撃!

続けて三撃目でとうとう、がちっ!
とその激しい剣を止める音が響く。

最早もはや完全に解き放たれた野生の狼のようなディングレーを、ローランデはその真っ直ぐ向ける青の瞳に、気迫をたぎらせ断固とし、とどめる。

が直ぐディングレーは剣を外し、更にローランデに撃ちかかった。

かん!
かん!かん!

立て続けに繰り出されるディングレーの剣。
剣を外しざまローランデが身を滑らせようとする先に、剣を振る。

講堂中が、わっ!と叫ぶ。

とうとう“風”を捕らえた、牙剥き出しの狼の攻撃に、講堂中がどよめき渡った。

ぉおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!

シェイルは不安になって、そっ…とフィンスを伺う。
フィンスは気づき、微笑む。
「…ローランデなら、大丈夫だ」

シェイルはローランデを見つめた。
ディングレーの激しい剣を、立て続けに止める。
その瞳は相手を見据え、真っ直ぐ気迫もる青の瞳をらさない。

が、四度目の剣を受け、外し様ローランデは咄嗟にディングレーに先制の剣を。
腹へと横に、素早く振った。

ディングレーが瞬時に背後に泳ぐ。
その一瞬でローランデは、ディングレーの正面から姿を消す。
なめらかにディングレーの背に回る。
がもう、見えない早さで剣が、振り下ろされていた。

ディングレーは一瞬で振り向き、その剣を止める。

がちっ!

お返しとばかり、止めた剣を外しざま、今度はディングレーがローランデの腹を横に、ぎ払う。

ざっっっ!!!

ローランデは走り出そうとした腹に掠る剣を、肩を思い切り後ろに向けて空かす。

が咄嗟身を屈めるローランデに、ディングレーは一瞬迷い、が同様身を、屈めた。

本来は引く。
が一旦引けば二度とこの素早い“風”を、捕らえる事は出来ない。

“受け身なんて、我慢がまん出来ない!”

両者同様身を屈め相手へと、突っ込んで行く。
がディングレーが先に剣を振った途端、ローランデは歩を止め横に滑り外す。

かしを喰らってもディングレーは直ぐ、“風”に向き瞬時に繰り出される鎌鼬かまいたちに剣を、ぶつける。

がっっっ!

どっちの剣も弾かれて手元に。
剣を先に振ったのはディングレー。瞬時に真横に薙ぎ払う。
がローランデは身を思い切り屈めそれを空かし、ディングレーの腹へと突っ込んで行く。

ぅぉおおおおっっ!!!

腹に真っ直ぐ突き入れられる剣を、ディングレーは咄嗟引き戻した剣を上に突き立て、思い切り横に弾く。

がんっっ!!!

ぅおおおおおおおっ!!!

講堂中が、息も出来ぬ攻防に、沸き立った。

シェイルはローランデの姿を必死で、目で追う。
激しいディングレーの攻防にも関わらず、ローランデは不屈の意志をその青の瞳にめて、攻撃の機会あらば繰り出す剣を、惜しまない…。

アスランは、解らなかった。
知り合いにどうして…ああも容赦無く斬りかかれるのか。
握りしめる拳が緩む事無く、息を詰めて両者を見守る。

が、マレーは感動で口元に手を、当てた。
ローランデは本気だ。
だからディングレーも本気で相対あいたいす…。

それが…本当に大切な相手への礼儀だと…ディングレーは言ってるみたいに。

彼は本気で相対す相手には、素を見せてくれる…。
昨夜のように。

不器用で情熱的で…王家の者。などと仰々ぎょうぎょうしいわくを取り払い、愛おしいほど真っ直ぐで、優しい…まだ、未熟な…瑞々しい青年。

そしてローランデは…自分の力を出し切る事しか、念頭に無いように見えた。

自分を全部、出して負ければそれが自分の実力。
出し切らず終われば例え試合に、勝ってもその勝負は負け………。

そんな真っ直ぐの、青の瞳。

マレーは頬に涙が伝うのを、感じた。
いつも…自分に迷ってた。
本当にしたい自分を置き去りにし、言い訳ばかりして…。

“仕方無いんだ…”
“これしか、方法は無いんだ!”

………でも。
でも!

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