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風を捕らえた狼

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 …講堂の誰もが皆、これ程の本気を見せるディングレーを初めての当たりにし、そしてその迫力の凄まじさに息を飲む。

だがそんなディングレーに対してでさえ…。
ローランデはいつもの姿勢を、崩さなかった。

相手がどれだけ大きく、強く激しくても諦めない。

その青の瞳は遙か孤高ここうの相手、ディアヴォロスに向かって行った一年の彼を、彷彿ほうふつとさせた。

変わってない。
相手がどれだけ強かろうと、諦めず剣を振り続けるその姿勢は。

去年ディングレーは軽くあしらえる相手だと、本気すら出さなかった。
が、好敵手。いやそれ以上の相手と知った今年。

ディングレーは自分の全てをさらけ出し、野生の狼が牙剥くような凄まじさを見せつけた。

ローランデも早かった。
がディングレーは最早理屈無くただ本能のみでその早さを上回ろうと、更にしなやかに身を移す。

「…あいつ…あんなに素早かったのか?」

悪友の呻きに、オーガスタスが頷く。

「あんなに動かなきゃ成らないほど、手こずる相手に今まで試合で、出会わなかっただけだ」

学校中が、走るローランデ同様俊敏にその場を移る、ディングレーのしなやかさに見惚れた。

どっちも一歩も歩を止めず、打っては身を振り直ぐ次の、攻撃に移っていた。

が、ローフィスが囁く。
「…どこで…どっちの、剣が折れるか。だな」

オーガスタスはすうっ。と息を吐き
「…ああ」
と呟いた。

今や移動し、歩を滑らす“風”に同様身を移し目前に捕らえ、ディングレーは剣を上から振る。

正面に居るローランデは咄嗟に顔を傾け、避ける。
避けた方に二度目。

振り入れた剣に、がしっ!ととどめる剣の手応え。
がディングレーもさっ!と剣を外し、ローランデも同様打ち合う剣を音も無く引き、下げる。

ローランデが移動する方向に直ぐ、ディングレーは身を寄せ“風”を正面に捕らえ、今度は真横。

ディングレーの視界にローランデの流麗な髪が靡き、彼が、腹を引き後ろに上体を屈め避けるのが視界に入る。

続きディングレーは振り切った剣をめ、握りに力を込めると直ぐ、ローランデめがけ戻し振る。

が瞬時に自分の斜め横から顔目がけてローランデの剣が飛び、ディングレーは姿勢を崩し咄嗟に顔を後ろに泳がせそれを避けながら、振った威力の無い剣を、次の攻撃に備え瞬時に手元に、引き戻す。

ローランデはディングレーが正面に移動し続け、真っ直ぐ見据えて剣を振る、その青の瞳を見た。

深い青は激しく自分を見据え、射るように見つめられると、身が熱を帯びる。

更に連続し、速く激しい剣が自分に向かい容赦無く飛ぶ。
持ち上げたかと思うと、振り下ろされるのは一瞬。
目で追えぬ早さで振り切ったと思うと、剣を構え直ぐ、次が飛んで来る。

だがその剣筋は熱を帯び、どこに来るのかローランデにはその気配で、予測が付いた。
習性で、振られた剣の位置でどこに身を傾けどう攻撃するのか、体が勝手に動く。

心の中で繰り返し聞こえる声があった。
“勝つためには…!”

そう。剣をぶつけ続ける。
あっちが、先に折れる。

だがそれは、ディングレーの剣がもっと遅く…これほど激しく無ければの話だ。

ヘタな角度で剣を合わせると、こっちが先に折れる。

ローランデはそれを熟知していたから、ディングレーの熱波を放つ剣に、出来うる限り衝撃が少ない角度で止め続けた。

が、一旦ローランデを捕らえたディングレーは勢い付く。

かん…!
かん!かん!

激しい打ち合い。
ローランデは必死にディングレーの剣に合わせ、止める。
ディングレーは続け様ローランデに打ち込みながら、剣越しに瞬間視界に入るローランデの表情に気づく。

沸き上がる懸念けねん
だが横に押しやって、振る剣を、止めたりはしなかった。
ただ心の中で祈ってた。

ってくれ!
俺の…気が済むまで!!!”

右、直ぐ左。
手首を返し、下から。そして斜め上。

ディングレーはまるで自在に操る剣技を見せつけるように、見事な連続攻撃でローランデのをその場にとどめ、正面にローランデを据えたまま打ち込み続ける。

ローランデが一瞬でも身をひるがえそうものなら、横から薙ぎ払ってローランデの身を屈ませ。
直ぐ次の剣を叩き入れて、ローランデが思わず剣をぶつけ止め、その場に足を据えるよう剣を突き入れる。

ローランデが打ち合う剣を外すと直ぐ。
自分も外し次の剣を、豪速で振り切る。

ローランデが振り下ろされた剣を視界の隅に捕らえる。
攻撃しようと動くと直ぐ、振り切ったはずの剣が戻ってる。

腕力か…。それとも強肩か?
力一杯振っていて、どうして瞬時に引き戻せるのか。

ディングレーが剣を振る度、びゅっ!と凄まじい音が飛ぶ。
一瞬で振り下ろされるその剣を、ローランデはそれでも断固とした瞳で身を振り避け、剣をぶつけ止め続ける。

見ている講堂中が、二人の剣豪が闘牙剥き出しに打ち合う姿に声も出ない。

静まり返りただ、見守る皆を包む講堂内に、剣が打ち合わさる音のみが、激しく響く。

がっ!かんかん!

ローランデはディングレーの剣を止め続けながら、ぶつけ止めるその瞬間にすら、剣の角度を気遣った。

手に響く振動。
このまま続ければ、自分の腕が痺れ切るのが先か、ディングレーの剣が、折れるのが先か。

…が!
まだ保つ。
方法を、知っている。
ぶつかるその一瞬だけを全力で止め、直ぐ力を抜き手元に引き寄せる。

力を込めるのはその、一瞬のみ。
が、オーガスタスを除いてこれほど自分の腕に負担をかける相手は、他には居ない。

「左の王家」の者。
彼の兄グーデンには感じた事もない。
がディアヴォロス同様、まごうことなく王者の風格とはこんなさまだ。
と次々に気まぐれとも思える突拍子も無い場所から自在に繰り出されるディングレーの剣は、物語っていた。

ディアヴォロスは完成されていた。
その存在だけで、そこに立っているだけで威圧を感じた。

が、ディングレーは…若く青く激しく…。
威風の中に、泣き出したく成るような青さを覗かせ…。
そんな自分に断固として立ち向かって行く、厳しい決意を湛えていた。

ディングレーの黒髪が横に靡く。
青の瞳は射るようだ。

自在に振る剣は流れるようで、が時折とんでも無い場所から振り下ろされ意表を付く。

ローランデはそれでも上体の姿勢を保った。
どれだけでも対応してやる。
剣を目で追うな。
剣の熱波を感知しないと打ち崩される。

フィンスはローランデが、不意に飛び出る意表を付く剣を、それでも必死で合わせ、止める姿を見守った。

どれだけいきなり稲妻のような剣が振り下ろされても、ローランデはしなやかに上体を柳のように揺らし、崩れる事が無い。

そしてディングレーのその意表を付く剣は、こなれ、しなやかな腕の動きで少しも不自然さを感じさせる事無く流れるように繰り出され続けた。

それを…!
ここまで避け続けるなんて…!

講堂中が接近戦でありながらディングレーの自在の剣を避け、止め続けるローランデの、断固として戦意を無くさぬ意志の強い青の瞳と。

ける度揺れる、艶やかな明るい栗色の髪が流れ、散る様を見守った。
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