若き騎士達の波乱に満ちた日常

あーす。

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両者を讃える万雷の拍手

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 アスランはもう、呼吸も出来なかった。

ディングレーは草原に解き放たれた獣みたいに自由に、風を感じてるみたいに生き生きと、疲れる様なんてまるで見せず剣を自在に振り続け、ローランデは…。

かん!

かん!

ローランデがディングレーの剣を、止める度に皆が拳を、握りしめた。

また止めた…!
また!

アイリスは背筋がぞくぞくするのを、止められなかった。
ヒヤリともしない。
ローランデが確実に自分を仕留めるディングレーの剣を、止める様は。

確固とした瞳で、どれだけ打ちかかられようと体勢が崩れない。

ローランデが剣を避け身を傾けるとディングレーは素早く正面に回り込み直ぐ、剣を振る。

してるのは、間違いなくディングレー。
傍目はためにはそう、見える。

が講堂中が、知っていた。

止めているローランデは決して崩れない。と。

がちっ!

ローランデに剣を、止められる度ディングレーの剣が危うく見える。
講堂中が、思ってた。

まだ…!
まだ折れるな!

もっと!
もっと見ていたい。
この二人の打ち合いを。

ディングレーもきっと…そう、思っていたろう…。
隣のスフォルツァにも、解っていた。

剣を気遣い、消耗しょうもうを押さえているのは、護っているローランデの方…。
一方ディングレーは折れる事も構わず、自分をつらぬき通す。

けれど…剣を庇うローランデを誰も、勝ちを狙うこすっからい策士さくしだなんて思わないだろう。

あれ程激しい剣を、自らの剣を折る事無く止め続けるローランデが、あまりに見事で。

がっっっっっっ!

ディングレーの、剣がローランデの剣に弾かれ、揺れる。
ディングレーは振り下ろし、心の中で怒鳴った。

『後一振り!』

ローランデは避けようと身を左に傾け、がディングレーの心の叫びに気づいたかのように咄嗟、直ぐ身を戻しその剣を、真正面から受け止めた。

がっっっっっっっっっっっっっ!

二人は時が、止まったように静止した。

打ち合ったまま。そのままの姿勢で。

講堂中が、水を打ったように静まりかえった。

からん……………………。

二人よりうんと離れた床の上に、折れて飛んだ剣先が、跳ねた。

からん…かん………かん…………。
幾度も、跳ねて床に転がる。

ディングレーはゆっくり、前で折った右膝を立てる。
ローランデはまだ、そのままだった。

ふっ。と吐息吐くと、自分の握る剣を見つめる。
先の折れた剣を。

ローランデはまだ…ディングレーに敬意を払うようにそのままの姿勢で居た。

剣を上に止めた、ままの姿勢で。

ディングレーがそっ。と視線をローランデに向ける。
そして…微笑った。

ローランデはようやく氷が溶けるように身を起こすと両足揃え…ディングレーを見た。

ディングレーがその右手を、突き出す。
ローランデは弾かれるように…それでも流れるような仕草でその右手を…自らの右手で、握り込む。

ディングレーは嬉しそうに…自分からしたら小柄に見える、ローランデに笑いかける。

誰もが…見ていた。
最後、ローランデは避けるつもりだった。
既にデルアンダーとの対戦で消耗し、亀裂の入ったディングレーの剣は。
繰り出される激しい振りで、振り下ろされた途端、折れて飛んだろう。

が、ローランデは………。

ディングレーの剣が限界だと知った時、まるでディングレーの振り切った剣が空で折れ。
むなしく宙を飛ぶ無様ぶざまを防ぐように…。

その誇り高き男のプライドを護るように、避けるでなく突っ込んで行き、自らの剣をぶつけそして…誇り高き男に習うように、真正面切って最後まで、相対あいたいした。

ローランデは受け止めた。
逃げる事無くディングレーの全てを、最後の最期まで。

シェイルは涙が出た。
あんまり…ローランデが誇らしくて。

ディングレーが握った手を引き、ローランデを乱雑に抱き寄せ。
その肩を抱く姿を見、初めて。

講堂の皆は息詰まる戦いから解き放たれ、割れんばかりの拍手を叩き出した。

万雷の拍手の中、ディングレーはローランデを抱きしめ。
自分の肩にローランデの顔を、埋めさせて彼の耳元で何か、囁いていた。

講師が、拍手を割って叫ぶ。
「勝者、ローランデ!」

ぅぅぅぉぉぉおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!

講堂中が、どよめいた。
雷が一度に、十回も落ちたような大騒動だった。

ディングレーは途端、すっ…と身を離し、皆にローランデを披露目ひろめするように自分の身を、退ける。

ヤッケルは気違いのように拍手しながら、怒鳴ってた。
「王族だぜ!
ローランデが王族の奴に、場を開けさせた!」

フィンスも心からの微笑を浮かべて拍手に加わっていたけど…シェイルは涙でにじんで、ローランデの姿が見えなかった…………。

ローランデはまだ、ぼうっとしてるように見えた。
拍手を降らす講堂の皆で無く、ディングレーを見上げる。

やはり何か、呟いていた。
ローランデの唇が動き、ディングレーが頷く。

が講堂を埋め尽くす拍手で、まるで聞こえやしなかった。

ローフィスは横の、オーガスタスを見た。
学校一長身の、その男の顔は、引き締まって見えた。

「…相手はローランデだな」
言ってやると、オーガスタスは肩を竦めた。

「やな見本見せやがるぜ。
お前の子飼こがいは。

全力出し切れって?」

が、微笑う悪友にローフィスは思い切り、警戒けいかいした。
「…あれは、ディングレーとローランデだから美しいんだ。
お前、絶対何かたくらんでるだろう?」

オーガスタスはひょい。と肩竦めた。
「…だから、全力出せ。って事だろう?」

ローフィスは呟く。
「……………お前の、全力…………?」

言って、まだ微笑むオーガスタスを見上げ、ローフィスは思い切り眉をひそめる。
「……俺はローランデで無くて、良かったぜ」

言うとオーガスタスは陽気に笑い、そのでかい手でローフィスの背を、揺れるほど叩く。
バン…!

いつもなら文句を言うローフィスだった。
が、流石に今回は言葉無く、身を前後に大きく、揺れるに任せた。
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