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ローランデに見解を聞くオーガスタスと、新書庫整理から解放された四年達

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 悪友達が
「今度は逃げるなよ!!!」
と言い捨てて出て行くのを聞きながら、オーガスタスはローランデを、出て行く生徒の群れから引き剥がし、隅に連れて行くと、再び屈み込んで囁く。
「…で、ギュンターの事だが」

ローランデは、オーガスタスを見上げる。
「はい?」
「…さっきの…セシャルやシャクナッセルの言い分聞いて、お前はどう思う?」
「と、言うと…ギュンター殿を、どう思うか…ですか?」

オーガスタスに、うんうん。と頷かれ、ローランデは少し、首捻る。
「たいそうな美貌で。
私はてっきり…」
言った後、はにかんで頬を染め、俯くローランデを見。
オーガスタスは内心ぎょっ!!!とし、目を見開く。

「(…まさかローランデまで、酒場の女達同様、ギュンターに惚れた…?!)」

オーガスタスの心臓が、ばくつき始めた時。
やっと、ローランデが口開く。
「…その…女性らが押しかける前、ギュンター殿は…噂で。
つまり貴方とディングレー殿と…その…」

オーガスタスはばくつく心臓の鼓動が、一気に平常に戻るのを感じながら呟く。
「3P?」
ローランデは真っ赤になって、頷く。
「…で…つまり、そっちの方面の方だと思ったので…」

オーガスタスは少し首捻り
「…つまり愛玩系列ってコトか?」
と聞く。

ローランデはもう本当に、頬を林檎のように真っ赤に染めて頷く。
「…なので正直、彼を頼りにしてセシャルらがこちらに来たというのは…。
今一、ピンと来ません」

オーガスタスは、ローランデがギュンターに惚れてる訳じゃなく、自分と関係があったのでは。
と勘ぐって赤くなったと分かって、ほっとしたものの。
誤解は全く心外だった。
つい、不機嫌な声が出てしまう。
「だが、誤解は解けたんだろう?」

ローランデはまだ真っ赤なまま俯き、小声で囁く。
「けど…ヤッケルが…」
オーガスタスは少し、憮然として聞き返す。
「ヤッケルが?」
「…例え女性と関係しても。
貴方に遠慮無く、剣を叩き込んで戦ったとしても。
その…ナイとは言えないんじゃ無いかと」

オーガスタスは自制出来てないと自覚しつつ、つい怒り口調で尋ねた。
「ナニが、ナイとは言えないんだ?」

ローランデはもう、額まで真っ赤になると、もっと声を落とし、囁いた。
「ええと…貴方やディングレー殿との、関係?」

オーガスタスは内心、ローランデが気の毒だとは感じた。
が、つい自分の気分そのまま、不機嫌な口調で思いを口に出してしまった。
「…お前ホントに、俺とギュンターが寝てるとかって、思ってるのか?!」

ローランデはもう、茹でダコみたいに赤くなると、顔下げた。

オーガスタスはそれを見て
「(聞くのもヤボだな…。
顔色でハッキリ、返事してるもんな)」
と、追求を諦めた。

が、きっぱり言い放つ。
「…お前の想像してるようなことは、絶対無い!!!
お前がギュンターと寝た。
と噂が出たら、お前どうする?」

ローランデは真顔で顔上げる。
「…絶対、ありえません」
「どうして?」
「だって私は、貴方と違って逞しくもないし。
ギュンター殿を抱ける、経験だって不足してる。
その上、女性でも無いんですから」

この返答を聞いた時。
オーガスタスはギュンターが万一、マジでローランデに惚れてても。
ローランデの恋心に掠りもしないコトをはっきり、思い知った。

内心、振られて真っ青な顔色の、ふらふらなギュンターを思い浮かべ、つい決意していた。
『失恋の痛手が消えるまで、酒場に付き合ってやろう』と。

けれどオーガスタスが、新書庫に向かい始めると。
ぞろぞろと一・二年らが同じ道を新書庫に向かって、歩いてる。

オーガスタスはつい、周囲を同じ方向に歩く、うんと背の低い一・二年らを見回した。
背後からローランデが飛んで来て、腕に触れて隣に駆け込み、息切らして声かける。

「四年は免除されました!
本の分類は、下級がします!
四年は皆、厩に集合してます!」

オーガスタスは今度は、それを知らせてくれたローランデを見つめ、にっこり笑って頷いた。
「いい知らせだ!
感謝する!」
叫ぶなり、一気に身を翻し、来た道を駆け戻る。

ローランデは長い足であっという間に姿が小さくなるオーガスタスの背を、目を見開いて見つめた。
横に、ヤッケルとフィンス、そしてシェイルもが駆け込んで来る。

「レナルアン、大人しくしてると思うか?」
ヤッケルに叫ばれ、ローランデは目を見開く。
後からシュルツも駆け込んで来ると
「一度、見に行こうかと思ってるけど。
補習の前に行く?」
と聞く。

シェイルだけは、浮かない顔で俯いてるのを見て、ローランデが囁く。
「ラナーンが来たら…嫌?」
フィンスが横で、長身の背を少し屈め、シェイルを覗き込んで告げた。
「ラナーンはもう、君に嫌がらせしないと思うけど…」

けれどシェイルは顔を上げ、フィンスに問うた。
「ギュンター目当て、みたいなコト聞いたけど…。
まさか補習、僕らのグループに、来ないよね?」

横でヤッケルが、肩すくめた。
「ラナーンよりレナルアンの心配したら?
あいつギュンターに、迫りまくってるから」

シュルツも顔を下げ
「そっちのが、凄く有りそうだな」
とぼやいた。

シェイルは俯く。
「レナルアンは五月蠅いだけで、意地悪じゃないから、まだマシだ」

シュルツ、フィンス、ヤッケルが顔を見合わす中、ローランデが微笑んだ。
「ディングレー殿がいるから。
私達のグループの方が、可能性が高いと思う。
ラナーン、レナルアン、ミーシャの三人なら、一番狙われて危険なのって多分、ラナーンだと思うから」

シェイルはローランデの言葉を聞いて、ようやく憂いを跳ね退け、ローランデを見上げてにっこり微笑んだ。

ヤッケルは肩すくめると
「シェイルが機嫌悪い時は大抵、ローランデ飴を与えると、直ぐ治る」
と言い、フィンスとシュルツはその軽口に、くすくす笑った。


オーガスタスが厩に行くと、既にローフィスとディングレー、ギュンターまでもが厩の前で、自分の馬を引いて三人つどっていた。
三人はオーガスタスが来ると、迎え入れるように見つめる。

オーガスタスはディングレーとギュンターを見、憮然と告げた。
「…なんで三年は、新書庫作業、免除だ?」

ローフィスはがっくり右肩下げてズッコケる中、ディングレーとギュンターは顔を見合わせる。
ディングレーが
「俺達に言われてもな」
とぼやき、ギュンターも頷く。
「文句は講師に言え」

オーガスタスが無言でスルーして行こうとするので、ローフィスが背後から呟く。
「お前、コルスティンに俺を見習えって言ったって?」

オーガスタスは自分の馬目指し、厩に入っていこうとしたが、振り向き尋ねる。
「リーラス情報か?」

ローフィスは頷く。
オーガスタスは厩に視線戻し、話しながら厩に入って行く。
「今頃になってノコノコ、戻って来いなんてふざけたコトのたまってたんで…」

そこで、厩に消えて後の言葉もモゴモゴと聞こえ、判別不明。

講師がやって来ると
「騎乗しろ!
今日はラナン村(崖上の難所にある村)に出かけ、通行路を塞ぐ大木の除去を手伝う!」
と叫ぶなり、三年はともかく、四年達は一斉に
「マジかよ…」
「力仕事ばかり、駆り出されてないか?」
と、不満げな声を上げる。

講師は馬に跨がった後、再び叫ぶ。

「終わった後、村人らに特産品のギャッゼ酒とチェリーパイを振る舞って貰える!
不満なら、残ってもいいぞ!」

三年は礼儀正しく、とっくに騎乗していたが。
ぶーたれてた四年らは慌てて一斉に、馬に跨がった。
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