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やっと騒ぎが収まった鍛錬場

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「失礼!
アレクサンドラ嬢はこちらにおいでですか?!
迎えの者ですが!!!」
鍛錬場に、令嬢アレクサンドラを迎えに来た者らが突入してきて、講師はほっとする。

が、ディングレーは一瞬視線を向けると、さっ!!!と顔を背け、ギュンターの背後に隠れるようにし、背を向けて立つ。

ギュンターは自分の背にディングレーが、触れる程近く、背を向けて立つ様子をチラ見し
「?」
だったが、間もなく一番高価そうな衣服をまとった、髭の紳士がアレクサンドラに駆け寄り
「心配したぞ!」
と叫ぶのを見た。

「…もしかして、令嬢の親父…?」
ギュンターが呟くと、ディングレーは背を向けたまま
「しっ!」
と制す。
そして小声で
「さっき転ぶのを支えたんだ。
今度はお前が俺を助けろ」
と脅す。
ギュンターは小声で言い返す。
「…危険は見当たらないのに、ナニから守る?」

けれどアレクサンドラの親父は、顔を上げて直ぐ、派手な金髪と目立つ美貌のギュンターを見
「…まさか彼目当てで?」
と娘に尋ねる。
するとじゃんけんの結果で、まだ揉めてたレナルアンが振り向き、駆け付けて怒鳴った。
「ギュンターは、俺の!」
直ぐラナーンも追いつくと
「ふざけるな!」
と噛みつく。

講師は慌ててアレクサンドラの父の肩を掴むと、戸口の方へとくるりと振り向かせ
「すみませんが、現在補習中で。
更に取り込んでるので、令嬢を連れて、一刻も早く退出願いたい」
と、かなり強引に、戸口に押した。

供の者らが令嬢アレクサンドラとグリネスを促し、一行は戸口へと進み始める。
が、父親はチラと、ギュンターの背後に背を向けて立つ、黒髪の青年を見つけ
「あの気品…!
もしやあのお方こそ、いずれ私の娘婿となる、「左の王家」のディングレー殿か?!」
と叫んだ。
が、講師は
「人違いですよ!!!」
と叫びながら、まだ父親の肩から手を放さず、ぐいぐい戸口に押し出す。

ディングレーは顔を深く下げながら
「(ナイス講師!)」
と秘かに講師に感謝した。

ギュンターの目前では、まだラナーンがレナルアンの腕を掴もうと左右の手をバラバラに伸ばし、レナルアンは掴まれまいと両方の腕を振り、激しい掴み合いの攻防を繰り広げていた。

ギュンターがふと、振り向いてローランデを見る。
今や講堂中の生徒、全てが剣を下げ、騒ぎを見物してる様子にため息吐き、更にギュンターを取り合うラナーンとレナルアンの攻防に視線を送り、再び顔を下げ、ため息を吐いていた。

ギュンターは二人に、ぼそりと告げる。
「それ以上騒いで補習を台無しにしたら。
俺はどっちとも、付き合わない」

ギュンターの声が聞こえたディングレーが、その言葉に思わず振り向くと。
ラナーンとレナルアンは掴み合いの途中、ピタリ!とそのまま動作を止め、固まっていた。

「ホラ!
やはりディングレー殿ではありませんか?!」
今まさに鍛錬場から押し出されようとしているアレクサンドラの父は、それでも振り向いて叫ぶ。
講師はムリヤリ場内より押し出しながら、叫ぶ。
「人違いだって、言ってるじゃ無いですか!!!」

そして出した後、バタン!
と大きな音立てて扉を閉め、振り向き背で、再び扉が開くのを抑えつつ、一斉に視線を向け、見物してる生徒らに怒鳴る。
「ナニしてる!
剣を振れ!!!」

生徒らは慌てて二人の組に戻って向かい合うと、剣を振り出した。

「レナルアン!!!ラナーン!!!
それ以上剣も振らず騒ぐなら!!!
ここから追い出すからな!!!」

講師に怒鳴られたレナルアンとラナーンは、けれどその時、既に顔を下げてギュンターの目前から去って行き、レナルアンはシュルツに
「ナニすればいい?」
と大人しく尋ね、ラナーンはアイリスに
「俺、お前と同じグループだっけ?」
と尋ね、アイリスに頷かれていた。

ギュンターは背を向けて立つディングレーから、深いため息が漏れるのを聞き、振り向く。
「…で、ナニから守って欲しかったんだ?」

ディングレーは顔を下げたまま、呟く。
「俺との縁談、進めたい気満々の、アレクサンドラの父から」
「…結婚が、嫌だから?」
ギュンターの問いに、ディングレーは振り向く。
「俺はもっと下品で色気たっぷりの女達と、気楽に遊びたい」

言った後、慌ててギュンターに振り向き
「…デルアンダー始め、俺の取り巻き大貴族らには、絶対内緒だ」
と釘刺した。

ギュンターは笑顔で頷く。
「理解した。
下品な俺には言える、本音なんだな?」

ディングレーは正直、呆れた。
それで聞いた。
「“下品”を褒め言葉と思ってないか?
…もしかして」

ギュンターはまだ笑顔で頷く。
「この場合、褒め言葉だろう?
面倒な作法や責任を問われない、下品で気の良い女達と、気軽に楽しく遊びたい気持ちは、俺にも良く分かる」

ディングレーは内心
「(…そうだろうな)」
と吐息を吐きつつも、ギュンターの肩を同志のように、ぽんと叩いた。

間もなくディングレーは、ローランデの横に行くと、監督生代理をねぎらい
「助かった。感謝する」
と言葉をかけ、笑顔のローランデが会釈するのを見た後。
突然振り向き、背後で剣を交えてたグループ生の中に、多数混じるグーデン配下の男達に、凄まじい声で活を入れた。

「たるんでると、俺が叩き潰すからそう思え!!!
俺はストレス、溜まってるからな!!!」

令嬢アレクサンドラの親父とのやり取りを見、侮蔑を込めてディングレーを隠れ見つつ、秘かに笑っていたグーデン配下らは。
その怒声に、一気に青冷めた。

ギュンターは付き添うシェイルと共に、自分のグループ生の元へと進む。
シェイルが無言で顔下げているのを見、ギュンターはシェイルに理由を尋ねようと、顔を向けた。
途端、シェイルが口開く。
「…ギュンターの事、レナルアン凄く気に入ってるみたいだから。
ギュンターが相手してくれたら、ローフィスに手出ししないと思う」
「………………………………」

ギュンターの沈黙が長いので、シェイルは横に並び歩く、背の高いギュンターを見上げた。

「俺にも…都合が一応あるから、約束出来ない」
やっとそう言うギュンターから、顔を背けて下げ、シェイルは落胆気味に呟いた。
「…そう…なんだ…」

シェイルがあんまり深く顔を下げてるので、ギュンターは言うしか、無かった。
「ローフィスは相手にしないから、安心しろ」

シェイルはチラ…とギュンターを見上げ、また顔を下げる。
「…でもローフィスは、あなたやディングレー、それに四年の友達、以外には。
態度が柔らかくて基本、優しい」

それを聞いて、ギュンターはぎょっ!として俯くシェイルを覗き込む。
「ローフィスは、他のヤツには優しいのか?!」
シェイルはチラ、とギュンターを見上げる。
「見た事、無い?
遠慮無くて乱暴な態度の方が、親しい証拠なんだけど…。
でもローフィスに優しくされた相手はみんな、ローフィスの事、好きになるんだ」

「…だから俺、ちょっと苦手なのか」

ギュンターの呟きに、シェイルは顔、上げる。
「ローフィスの事、苦手なの?」

ギュンターは素直に頷いた。
「見透かされてる気がする。
ローフィスのカンと、アタマが良すぎて」

シェイルは顔を下げ、ついディングレーに話す口調で、遠慮無く物を言ってしまった。
「…ギュンターが…ちょっと、バカだから?」

言った後、ギュンターが監督生だったと思い出し、慌てて顔を上げる。

けれどギュンターは、項垂れた様子で頷き
「そうかも」
と肯定した。
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