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アイリスの約束

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 剣技の授業が始まり、好きな相手と組めと講師に言われ、俺は寄って来る相手をかわし、アイリスの目前に寄って相手を務めようとする奴を押し退け、その正面に立つ。
アイリスは呆れたが、俺は剣を、構えた。

…だが…確かにアイリスは、軽く打ち合うだけで息を切らす。
その剣筋は、決して悪く無いのに……。

つい、剣を下げて伺う。
そして近寄り顔を寄せ、荒い息を吐く彼の耳元でささやく。
「夕べ…俺は君に無茶をさせたか?」

アイリスは首を横に、振った。
「言っただろう?
あまり使えない。と」
「腕はいいじゃないか…。
問題は、体力だ」

アイリスは切れた息を整え、微笑む。
「ありがとう…。
けど、姿勢が悪いから直ぐ疲れるんだと、講師に言われた。
でも直らないんだ」

…つい…彼の背後に立つ。
そして後ろから…抱く様に、その剣を握る手に手を添える。

アイリスは頬が寄る程近づかれ、少し俯く。

「剣を突く時背を無理に、伸ばす必要は無いと思う…。
君の講師は、君に合わない型を教えたんじゃないのか?」

手を添え一緒に剣を振る。

「ここで…回し…突く。
君なら難なく出来る。違うか?」

がアイリスは振り向き、微笑み、礼を言う。
「ありがとう」
その微笑に、つい見惚れる自分がいる。

ずっと…アイリスと頬を寄せていたかったが、そうも行かない。
アイリスの剣に、剣を交え打ち合う。

少しずつ、強さを増して。

やがて…練習場の皆の注目の的となる。
が、俺は夢中だった。

少したどたどしい…が、優雅なアイリスの振り。
こっちが強く弾くと、同様返して来る。

が俺は俺に打ちかかる、濃紺の美しい瞳に見惚れていた。
その視線が俺に注がれると、甘酸っぱい幸福感が俺の心を満たす。

出来れば今すぐ抱き寄せて、口付けしたかった。

…が、いい所に来ると決まってアイリスは姿勢を崩す。

「何度も言うようだが体力だ。問題は。
君の剣技は、優雅で隙無く美しい。
体力が続けば、相手を必ず討ち取れる」

いつの間にか横にいた講師も
『その通りだ』
と首を縦に振る。

アイリスは息切れを整え、頷く。
が講師はアイリスに告げる。

「無茶はするな。
君が突然原因不明の熱を出すと、君の叔父から注告を受けている。
決して無理はさせるなと。
熱が出そうなら、そう言って休め」

アイリスはこくり。と頷き、俺は俯いた。
やはり…体が弱いと言うのは、本当だったのか………。

俺は自分の身を差し出してまでも、一年のボスを俺にさせようとした、アイリスの心情を思いやった。

体力さえあれば……。

熱さえ出さなければ、頭も良く、良く気の回るアイリスは十分、学年筆頭をやれたはずだ。

講師が中止を告げ、皆が剣を下げて彼に注目する中、俺は気づくと、アイリスの横にいた。

「…俺が欲するから…仕方無く抱かれた?」
聞くとアイリスは、驚いたように振り向く。

「自分が魅力的だからだとは、チラとも考えないのか?」

そう言われ…俺は頬が、熱くなった。
「…そうなのか?」

アイリスは肩を竦める。
「君程いい男じゃなけりゃ、適当に逃げるさ」

そう言われ、俺は一瞬足が宙に浮いた。

…そう感じる程嬉しかったからつい、ささやく。
「それでもまだ、考えは変えない気か?」

返事無く、振り向くとアイリスはもう、その場にはいなかった……。

その晩は最悪だった。

アイリスの感じる色っぽい顔が浮かび続け、悶々と夜を過ごし。
結局アイリスをオカズに、五回抜いてようやく…眠りに着く事が、出来たからだった………。

 次の朝はもう、限界。

大貴族子息達が集う、一般宿舎の雑多な雰囲気とは掛け離れた優雅な朝食の席で。
現れたアイリスの、腕を引き自室に連れ込む。

食卓の席に着く皆に振り返り
「悪いが先に、始めてくれ!」
そう…叫んで。

扉を閉めるとアイリスの、困惑した表情が注がれ、その視線が腕に落ちる。
俺は慌てて、今だしっかり掴む、アイリスの腕を放した。

彼は俺の顔を見、一つ大きな吐息を吐く。

「…まさか私の事を思い描いて、眠れなかった。
と朝っぱらから、文句を聞かされるのか?」

その口調は最早、演技の可憐な少年では無く、対等の友のような口調だった。

俺は…彼の冷静さにムキに成っていた。

「君は平気なのか?!
そんなに簡単に、忘れられるのか?!
俺はそれ程………!」

口に手を当てられ、つい黙る。
アイリスがきつい濃紺の瞳で
『食堂に聞こえる』
と、顔を振って扉の向こうを指し示す。

手を降ろす彼に、小声でささやく。
「知られちゃまずい。か?
がもう数人は気づいてるし第一!
俺は皆に、言いふらしたい!」

アイリスの、瞳がきつく、鋭くなった。
「…よしてくれ。
迂闊にそんな噂が流れたりしたら…上級の奴らが
『女の代わりをしろ!』
と、上品に遠回しに、脅して来るじゃないか!」

俺は叫びそうだった。
が、それでも…抑えたつもりだった。

「そんな奴らに、指一本だって触れさせたりしない!」

…結果、叫んでいたが。

アイリスが皮肉に笑う。
「ずっと貞操を護ってくれる君と、一緒に居ろって?」

それは…本望だった。
アイリスの本心を察したんだろう。
口を閉じる。

そして『仕方無い』と言うように顔を下げ、吐息を吐き出す。

いきなり俺の胸ぐらを乱雑に掴むと、引きずるようにして歩き出す。

俺は胸の上着を引っ張られたままアイリスに寄り添って歩き…。
彼が開ける俺の自室の寝室に、連れ込まれた。

一晩中アイリスを思い、痴態を演じた寝乱れた後は、召使いが整えていた。

朝日差すその寝台まで来ると、アイリスは俺を真っ直ぐ見つめ、素早くささやく。
「時間が、あまり無い」

それを聞くなり、俺は彼に飛びついていた。

昨日の剣の試合で我慢したせいか。
アイリスをかき抱くなり、貪るようにその唇に口付け、性急に舌を入れて絡ませる。

どっ!

彼の背を寝台に押し倒すと、上着の前合わせに手を、掛ける。
がアイリスの手が即座にその手首に巻き付き、思い切り、引く。

唇を離すとアイリスが、きつく睨みながら脅すように、低い声音で怒鳴る。
「脱いでる間なんて、あるか!」

叱られて、俺は項垂れる。
「だっていきなり、突っ込む訳に行かないだろう?
第一…俺はただ、入れたいだけじゃない」

アイリスは俺を呆れたように見つめ、口を開く。
「…つまり…私の肌が見たいのか?」

俺は、意志が通じずもどかしくて、怒鳴ってた。
「そうだ!君の全てを見たい!
君を、俺のものにしたいんだ!
君の全部を!!!」

アイリスは暫く…目を見開いて沈黙した。
が、つぶやく。
「…私と一緒に、抜くだけじゃ我慢出来ないのか?」

言って聞かせるより早い。
と、また口付けて、舌を差し入れる。

「ん…ぅ……ん………っ!」

アイリスの声が漏れると、かっ!と体の血が、沸騰した。

手を彼の衣服の、前合わせに掛ける。
引き千切ろう。
と力を込めた瞬間。

手首を握られ、凄い勢いで引き剥がされる。

「冗談だろう!
朝食抜きの上、私に衣服の着替えまでさせたいのか!
入学二日目で二人揃って、遅刻なんて出来るか!

口でしてやるから!
頼むから、いい子で居てくれ!!!」

その叫びは人に命令し慣れてる迫力があって…俺はつい、アイリスの顔を凝視した。

が、驚いてる間も惜しい。
「いい子にしてたら、ご褒美をくれるのか?」
アイリスにのし掛かりながら、そう尋ねる。

アイリスは半分背を倒され顔を背け、ちっ!と舌を鳴らす。

上品な彼の、そんな様子に。
だが俺は、彼を追い詰めた悦びで震えた。

「どうする?
力尽くは、嫌なんだろう?
第一俺だって君さえ…同意してくれたら、うんと優しくするさ!」

アイリスは、それは知ってる。
と言う顔をし、仕方無い。
と視線を俺から外したまま、告げる。

「今夜」

俺は頷く。
そして馬乗りから右足を振り上げて身を起こし、寝台に殆ど背を付く程倒れ込んだアイリスに、手を差し伸べた。

アイリスは呆れた顔をし、手を取り身を起こし、つぶやく。

「今朝はいいのか?」

俺は、笑っていたと思う。

「今ならまだ朝食にも授業にも間に合う。
体の弱い君に朝食を、抜かせる訳には行かないだろう?」

そして、隣に立つアイリスの背を促し、耳元でささやく。

「今夜…。
それまで、取っておくさ」

アイリスは不満そうに俺を見た。

「無茶は……!」
「させない。絶対」

アイリスはその時やっぱり、不満げに俺を睨み、頷いた。

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