上 下
39 / 307

酒場にて

しおりを挟む
 酒場に入ると案の定、ギュンターの容貌は目立ちまくった。
が、肝心の奴は俺を見上げる。

「…あんた、有名人なのか?」
俺は苦笑した。
「注目を、集めてるのはお前だ!」
「俺は慣れてる。だが全部が俺を見てないぞ?」

俺は肩を竦める。
「確かにここで俺に逆らう奴は皆、痛い目見てるからな」
そうだろう。とギュンターが顔を、訳知り顔で揺らす。

つらと…背の割に細い体付きが奴を優美に、見せていた。

「…痩せてるな」
俺が言うと、奴は木目のカウンターで酒のジョッキを受け取り、呻く。

「旅先でロクに食えない日も、あったからな。
だがここじゃお代わりを幾らしてもいいそうだ。
じき腹が出るかもな!」

笑う奴に、俺もジョッキを受け取り、言ってやる。
「机に座る授業はほんの少しだ。
体を使う授業が殆どだから、脂肪をたくわえてるなんか、無いぞ?」
「なら、腹を引っ込める為に、喧嘩相手を探す必要も無いか…」

それを聞いて、俺はあきれた。

「喧嘩が、好きか?」
「言葉で言うより、手っ取り早い」

俺はついまたその…美貌の面を、見た。

「柔な奴だと、舐められるか?」
ギュンターはようやく吐息を一つ吐き、ささやいた。
「殆どの、奴にな!」

俺は、頷いていた。

直ぐ、一人の女が寄って来て尋ねる。
「オーガスタス。貴方の連れ?
見た事無い顔ね?」
「三年の編入の、ギュンターだ」

女が腕を絡ませると、ギュンターは気まずい顔を、した。
つい顔を寄せて耳元でささやく。
「食う気で、来たんだろう?」

ギュンターが顔を向ける。
「…あんたの、女じゃないのか?」

俺は笑った。
「俺の女なら、遠慮するか?」

ギュンターは顔を、俯いたまま揺らす。
「…夕食時に、あんたの話を聞いた。
学校一のボスで、皆あんたを頼りにしてる」
俺は言った。
「それは皆だろう?
お前は自分の判断で、俺に対せばいい」

「…だから…俺もお前はそうだと思う」
「そう?」
ギュンターは真っ直ぐ俺を、見た。

「昼間、俺が奴らに取り囲まれた時。
助っ人に、入る気だった。
そうだろう?
俺が、奴らにやられていたら」

…俺はそういうのが、苦手だったから顔を、背ける。
「…まあ…グーデン一味は俺にとっても敵だ」
ギュンターが即答した。
「だが自分の一味に加われと、あんたは一言も言わない」

「それはお前の自由だ」

ギュンターの、眉が寄った。
「助っ人してたら?
配下になれと、言ったか?」
「どうして言う?」

ギュンターはつぶやく。
「あんたは常識外れで変だ」
「どの辺が?」

「普通、体格と腕力にモノ言わせて、勢力を拡大する」

背後で、笑い声が聞こえた。
「顔の綺麗な新入りに、オーガスタスが絡まれてるぜ!」

ギュンターと俺が振り向く。
同学年の悪友共が、つどってた。

一斉に、杯を上げる。
「その様子じゃ、新入りは早速さっそくグーデンらにからまれてたようだな?」

俺は笑った。
「編入生の身上しんじょう道理、奴一人で全部、蹴散らした!
助っ人は必要無かったぜ!」

「マジかよ?」
「腕が立つって?その面で?」

そして忠告を付け加える。
「自分で確かめようとするなよ!
どうせグーデンの奴らは引っ込んで無いし、こいつも喧嘩っ早いから暴れる姿に直ぐ、お目にかかれる」

どっ!

と皆が沸く。
俺は笑う悪友共に言葉を足す。

「だがこの面だ。女は取られる。
取られたく無い奴は今の内に、女を鎖で繋いどけ!」

全員が、あ~あ!とふて腐れる。

「俺の財布は、からっ欠なのに?」
「贈り物で無く、あっちで満足させりゃ浮気しない」
「こいつにそれは、どだい無理だ!」

どっ!と笑いが一斉に飛ぶ。

ギュンターの顔に、微笑が浮かぶ。
くつろぐような、笑顔だった。

「男の兄弟か?」
つい、そう尋ねると、奴の眉が寄った。

「上に二人、下にもう二人。
野郎だらけだ」

俺は、道理で…。と頷いた。

「お前と違って少しは…お上品か?」

兄弟のはぐれモノで、鬱憤うっぷん晴らしに暴れん坊なのか。
そう思い、尋ねたが…。

ギュンターの、眉がもっと寄った。
「冗談だろう?
俺の上を行く、暴れん坊達だ!」

きっぱり言い切られて、俺は不本意に頷いた。
確かに…俺の女だと思って遠慮するあたりは、兄弟からはみ出る、我がまま男に見えなかった。

女に腕を引かれ、ギュンターは彼女を見つめる。
そして俺に振り向く。

「本当に、いいんだな?」
俺は頷く。
「エリーダを満足させられたら、大した物だ」

背後の連れの一人が叫ぶ。

「奴の後は俺だ!
坊やの口直しを、してやるぜ!」

ギュンターは呆れて皆を見つめる。
が腕を絡ませた女は笑う。

「いいわ…!
楽しみにしてる!」

俺は呆けるギュンターに、そう言う事だ。と頷いてウィンクしてやった。

が、ギュンターが酒場の隅に視線を振る。

「あれ…一年で見た顔だ。
マズいんじゃないのか?」

つい、奴の視線の先を見た。
そこには確かに、一年の壇上で一番最後に名を呼ばれた、大公を叔父に持つ大貴族の美少年が、酒場でタチの悪い男に絡まれていた。

絡んでる男の事は、良く知っていた。
乱暴な扱いをする。と女に毛嫌いされていて、教練で下級生が上級の、ペットにされてるのを良いことに。
その立場の弱い少年達ばかりを狙ってる、最悪な男。

体格良く、なかなか見目も良かったけれど、大抵の相手は傷を作るし、女をはらませても責任も取らない。

かくして女に相手にされない奴は、時に女を捕まえては強姦するので。
男達に袋叩きにされ…それで懲りて、今度は文句の言えない、教練のお上品で弱い、美少年らを相手にし始め…。

今度は俺達に、睨まれ始めた矢先の男。

見ていると、焦げ茶の栗毛を胸に背に垂らす、結構一年にしては背の高い、気品の塊のような。
はっ!とする程色白で美しく整った美少年で、彼は行く手を男に塞がれ、困惑していた。

また一歩、男を避けて先へ行こうとするが、男はその胸で進路を遮り、抱き寄せようとする。

ギュンターが女の腕を振り解き、ずい!と進み出ようとするので。
俺は呆れて奴の肩を掴み、止めてつぶやく。

「初日から目立つ真似する気か?
ここは俺に任せて、女と楽しめ」

ギュンターは暫く、俺を見ていた。
「…いいのか?」

「学校のボスだと言ったのはお前だ。
自覚は無いが、どのみちあの男と俺は、決着付けないとな」

言ってる間に、美少年は男に強引に抱きしめられながら、酒場の外へと、連れ出される。

「エリーダをこれ以上、待たせるな!」

言って奴を押し退け、奴らの後を追って。
俺は酒場の、扉を開けた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

誰かこの暴走を止めてください

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:73

錬金術師の性奴隷 ──不老不死なのでハーレムを作って暇つぶしします──

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:241pt お気に入り:1,372

楽しい幼ちん園

BL / 連載中 24h.ポイント:362pt お気に入り:133

スパイだけが謎解きを知っている

ミステリー / 完結 24h.ポイント:170pt お気に入り:3

【BL】死んだ俺と、吸血鬼の嫌い!

BL / 完結 24h.ポイント:149pt お気に入り:240

進芸の巨人は逆境に勝ちます!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:142pt お気に入り:1

婚約破棄の翌日に謝罪されるも、再び婚約する気はありません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:6,539pt お気に入り:6,434

処理中です...