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暴れる美少年

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どんっ!

美少年アイリスは酒場の外壁に、背を突き飛ばされて打ち付けられる。

正面に、被さるように見つめる男をその濃紺の瞳で、睨め付けていた。
体格で勝る男は、にやにや笑ってる。

ここで始める気か?
だが奴は酒場の親父さんにも睨まれ、酒場の中の部屋は使えなかった。

男はいやらしい目でその、新入生の真っさらな美少年を笑って真正面から見つめ、口を開く。
「俺で無くとも、上級の奴らが念入りにお前に教えてる筈だぜ…!
男に鳴かされるのは、慣れてんだろう?
それとも尻を振って、くれと可愛くせがむのか?
お綺麗でお上品に見えたって!
中身はそうじゃないと、バレバレなんだよ!」

そう言って、男はもっと被さって行く。

馬鹿…!
そいつは大貴族だ。

教練は確かに体格でねじ伏せる奴が殆どだが、身分重視。
大貴族のそいつには、皆迂闊うかつに手は出せないんだぞ!

駆け寄ろうとした、その時だった。
被さった男がふいに…ぐったり…と力を無くし、美少年に身を倒す。

その大貴族の品のいい美少年は、だが。
きつい濃紺の瞳で被さる男を睨め付け。
真っ赤な唇を噛むと、咄嗟に自分にしなだれかかるその男の体を突き飛ばして浮かせ。

瞬時に下から、拳を叩き込む。

がすっ!
「ぐっ………!」

どうやら男が迫り被さった時、既に一発目を腹に瞬時に、叩き込んでいたようだった。
一発目で完全に気絶しなかった男は、その二発目の痛みに呻き声を上げる。

が腹を押さえて美少年を見つめ、呻く。
「覚えてろよ…!
どんな手を使ってもお前を、頂いてやる!」

が、その美少年は、焦げ茶の艶やかな巻き毛を振って、頷く。
「懲りて、無いようだな…!」

そして、いきなり片足後ろに引くと。

思い切りその男の股間を、膝で蹴り上げる。

がっっっっ!

見ていても解る程、激しい一撃だった。

男があまりの痛みに、声も出せず仰け反る。
がその美少年はいきなり屈むと、その男の股間を手で鷲掴みにし、男の顔を見てうっとりとした美しい微笑をたたえ、ささやく。
「痛むか?」

男は声も出ず、首を縦に振る。
が…美少年の微笑は冷笑に変わる。

「ぎゃあっ!」

男は叫び、必死で股間を掴む美少年を突き飛ばそうと手で払い退け、が退かせる前にまた…。

「んぐぁぁぁぁっ!」

くぐもった声を上げて首を、振る。

男はとうとう、ぜいぜい…と口の端から涎を垂らし、肩で息をして背を丸め、震える。

美少年はまだ股間を掴んだまま、その男の表情を見守り。
優しげにすら見える微笑を湛え、顔を近づけてささやく。

「私を……どうするって?」

俺はその、顔の表情とは裏腹の、徹底した冷静な攻撃に呆れ返り。
言葉も、出なかった。

第一幾ら膝蹴り喰らわせたとはいえ、大人の一物を14才の少年が。
潰すその握力にも、呆れ返っていた。

返事が無いので、その美少年は更に握っているモノに更に、力を入れる。

「ぐ…ぐぁ……!」

男はもう、だらだら口から涎を垂らし、涙まで浮かべている。

この光景を、リアンナ…シャルロッタらが見ていたら、驚乱きょうらんして喜ぶだろう…。
妊娠した。
と男を攻め、そして散々暴力を受け、流産した二人なら。

「…おい…。
随分口数が減ったな?
さっき酒場で、私に何て言ってたっけ?

“男の癖に、色っぽいな。
もうとっくに上級生に抱かれ、可愛がられてるんだろう?
尻の奥がうずいて、たまらないんじゃないのか?
俺が突っ込んで思い切り、慰めてやるぜ”

…確か、そんな事言ってなかったか?」

「ぐ……ぐぁぁぁぁぁおぅぅぅぅ!」

余程痛いんだろう。
涙と涎でその顔は、ぐちゃぐちゃだった。

他の男なら、男として同情もしたが………。

男はがくがくと膝を揺らす。
息をするのも。
…立っているのすら、やっとのようだった。

がしかし、あれ程ガタイのいい男に。
抵抗も出来ない程の痛みを与えるだなんて、どれだけの握力なんだ?

美少年は微笑を浮かべたまま、再び優しい声色でささやく。
「それで?
当然、これ…で!」
「ぎゃああああっ!」
「私の尻の奥を、慰めてくれる気なんだな?
だがこれが、使い物に成るならの話だが!」

そう言い切った美少年の濃紺の瞳が途端、ぎらりと光り、俺はぞくっ。とした。

顔の綺麗な男の、予想外の暴れ振りを見たのは、今日二人目。
が、この新入生は、昼間のギュンターとは、全く逆だった。

どう見ても気品溢れ、優雅で少し弱々しげにさえ見える、可憐な美少年。

が美少年は最早優美な微笑を取っ払い、相手が竦み上がるような冷笑を浮かべ、続ける。
「…残念だな。
これ…が!」
「ぅぐぅぅぅっっっっっっっっっ!」

男は痛みを必死で、堪えようとしていた。

「私を慰めてくれるのを楽しみにしていたのに。
だが次があると、君は言った」

途端、美少年はその手の握りを解いて背を伸ばす。

解放された男は、俯き涎を滴らせたまま、身をがくがくと震わせていた。

が美少年はその綺麗な面を優美に持ち上げると、目前の屈む男の、胸を押す。
押されて男は後ろに倒れ、背を地面に向け、倒れ込む。

どっっっっ…!

色白の美少年は真っ赤な唇の、整いきった優美な顔を。
倒れる男へと向けて下げる。

良く手入れの行き届いた焦げ茶の艶やかな巻き毛が胸元で揺れ、ぎらりと光る濃紺の瞳で男を静かに見つめると…。

片足を…振り上げた。

流石に、俺は飛び出した。
が遅かった。

がんっっっっ!
「ぎゃあっ!」

凄まじい絶叫がし、男は事切れたように、気絶した。
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