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アスランの置かれた境遇
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目が醒めた時…そこは自室で。
ヤネッタが腕組みして、背を向けて立っていて。
…その向こうに、ディングレーの黒髪がぼんやり見えた。
彼の胸の中にずっと、いたい…。
無意識の内にそれが湧き出て…つい、僕はだるい体を持ち上げ…探っていた。
ディングレーが直ぐ…近寄り、僕の腕を掴む。
見上げると…その男らしい顔は、困惑していた。
「…どうした?」
尋ねる声は、掠れていて…。
僕は涙が頬を伝いそのまま…目前にある彼の逞しい胸板に、顔を、投げかけた。
彼の腕にしがみつき…きつく…きつくしがみつき、昇って来る、無理矢理銜えさせられた…彼の兄の一物の感触を、自分から…薙ぎ払おうとした。
ディングレーの大きな手が、そっと背に触れた時…。
僕は顔を上げて、彼を見上げた。
涙がまた、頬を伝った。
ディングレーの気品溢れる男らしい顔のその眉は…同情に寄っていて。
…労るように、しがみつく僕の背を幾度か…なぜた。
言葉は…出なかった。
ぼんやり…解ってた。
僕は…僕とハウリィと…。
そしてマレーは。
…逃れようのない境遇に、叩き込まれたのだと。
けどそれを、振り払いたかった。
知っていた。
ディングレーがずっと…僕らと共に居て、いつ何時襲って来るかも知れない猛禽達に、対峙してくれる訳じゃないって…。
解っていたけど…。
僕は彼の胸に顔を埋め…上げられなかった………。
ディングレーは困ってた。
彼だって…解ってた。
一時しのぎだと………。
だから…必死でしがみつく僕を、抱き寄せたまま…付き合って、くれていた。
「…う…すれば………」
僕の漏らす言葉で、ディングレーが耳を、傾ける。
僕は必死で、ディングレーを見上げた。
「どうすれば…ぼ…僕…は………」
ディングレーは切なげに、眉を寄せた。
「…強く、なれ…。
奴らを蹴散らせるくらい、強く…」
無理だ。
そんな事。
ディングレーにだって。
僕にだって、解ってた。
体格は元より、剣ですら。
最低使える程度の、文官に進むはずだった、ひ弱な僕に。
戦い慣れた、体格いい上級生を打ち倒せる。
…そんな事、出来るはず無かった。
けど僕は、頷いた。
出来なければ……出来なければ今度こそ…。
木の棒なんかじゃなく、間違い無く…彼の兄の物を、挿入れられる…。
有無を言わさず。
強引に。
僕の頬に、涙が立て続けに伝い…ディングレーは優しく…本当に優しく、持っていた凄く高そうな、レースのハンケチで、頬を拭ってくれた。
聞きたかった。
もし…。
多分、この先どこかで必ず掴まる。
けど、もし………。
けど、ディングレーが困ってるのが感じられ、僕は俯いた。
そして、そっ…と彼の腕を掴む手を、放した。
ディングレーはそっと…屈み耳打ちする。
「常に…アイリスの側かもしくは…。
二年のローランデを見つけたら、彼らの元へ駆け込め…!
後は、俺でも四年のオーガスタスでもいい…!
掴まりそうになったら、何時でも…走って逃げろ!
そして、庇護してくれる奴の元へ駆け込め!
解ったか?!」
彼があんまり、一生懸命そう言うから…。
僕は、頷いた。
希望が…あるんだろうか………。
それは…解らなかった。
けど…ローランデ…そしてアイリス。
二人共、僕らに優しかった…。
ディングレーはほっ。としたように僕の顔を見つめ、そして寝台から足を降ろし、戸口へと…歩き去った。
その背はけど、戸を閉める時一瞬振り向き…僕の、瞳を見て頷いた。
扉が閉まると…ヤネッタが言った。
「悪い事は言わない。
今すぐ荷造りしてここを出ろ」
僕は項垂れてそれを、聞いた。
帰れる…筈が無かった。
僕の居場所はもう…。
あの家に、無いのだから…。
寝台の上で動かない僕を見て…ヤネッタが大きな、吐息を吐いた。
ヤネッタが腕組みして、背を向けて立っていて。
…その向こうに、ディングレーの黒髪がぼんやり見えた。
彼の胸の中にずっと、いたい…。
無意識の内にそれが湧き出て…つい、僕はだるい体を持ち上げ…探っていた。
ディングレーが直ぐ…近寄り、僕の腕を掴む。
見上げると…その男らしい顔は、困惑していた。
「…どうした?」
尋ねる声は、掠れていて…。
僕は涙が頬を伝いそのまま…目前にある彼の逞しい胸板に、顔を、投げかけた。
彼の腕にしがみつき…きつく…きつくしがみつき、昇って来る、無理矢理銜えさせられた…彼の兄の一物の感触を、自分から…薙ぎ払おうとした。
ディングレーの大きな手が、そっと背に触れた時…。
僕は顔を上げて、彼を見上げた。
涙がまた、頬を伝った。
ディングレーの気品溢れる男らしい顔のその眉は…同情に寄っていて。
…労るように、しがみつく僕の背を幾度か…なぜた。
言葉は…出なかった。
ぼんやり…解ってた。
僕は…僕とハウリィと…。
そしてマレーは。
…逃れようのない境遇に、叩き込まれたのだと。
けどそれを、振り払いたかった。
知っていた。
ディングレーがずっと…僕らと共に居て、いつ何時襲って来るかも知れない猛禽達に、対峙してくれる訳じゃないって…。
解っていたけど…。
僕は彼の胸に顔を埋め…上げられなかった………。
ディングレーは困ってた。
彼だって…解ってた。
一時しのぎだと………。
だから…必死でしがみつく僕を、抱き寄せたまま…付き合って、くれていた。
「…う…すれば………」
僕の漏らす言葉で、ディングレーが耳を、傾ける。
僕は必死で、ディングレーを見上げた。
「どうすれば…ぼ…僕…は………」
ディングレーは切なげに、眉を寄せた。
「…強く、なれ…。
奴らを蹴散らせるくらい、強く…」
無理だ。
そんな事。
ディングレーにだって。
僕にだって、解ってた。
体格は元より、剣ですら。
最低使える程度の、文官に進むはずだった、ひ弱な僕に。
戦い慣れた、体格いい上級生を打ち倒せる。
…そんな事、出来るはず無かった。
けど僕は、頷いた。
出来なければ……出来なければ今度こそ…。
木の棒なんかじゃなく、間違い無く…彼の兄の物を、挿入れられる…。
有無を言わさず。
強引に。
僕の頬に、涙が立て続けに伝い…ディングレーは優しく…本当に優しく、持っていた凄く高そうな、レースのハンケチで、頬を拭ってくれた。
聞きたかった。
もし…。
多分、この先どこかで必ず掴まる。
けど、もし………。
けど、ディングレーが困ってるのが感じられ、僕は俯いた。
そして、そっ…と彼の腕を掴む手を、放した。
ディングレーはそっと…屈み耳打ちする。
「常に…アイリスの側かもしくは…。
二年のローランデを見つけたら、彼らの元へ駆け込め…!
後は、俺でも四年のオーガスタスでもいい…!
掴まりそうになったら、何時でも…走って逃げろ!
そして、庇護してくれる奴の元へ駆け込め!
解ったか?!」
彼があんまり、一生懸命そう言うから…。
僕は、頷いた。
希望が…あるんだろうか………。
それは…解らなかった。
けど…ローランデ…そしてアイリス。
二人共、僕らに優しかった…。
ディングレーはほっ。としたように僕の顔を見つめ、そして寝台から足を降ろし、戸口へと…歩き去った。
その背はけど、戸を閉める時一瞬振り向き…僕の、瞳を見て頷いた。
扉が閉まると…ヤネッタが言った。
「悪い事は言わない。
今すぐ荷造りしてここを出ろ」
僕は項垂れてそれを、聞いた。
帰れる…筈が無かった。
僕の居場所はもう…。
あの家に、無いのだから…。
寝台の上で動かない僕を見て…ヤネッタが大きな、吐息を吐いた。
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